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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第8章 『新米農家 王と呼ばれる』
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8-4.ギルド長会議Ⅰ

 俺は過去に一度だけギルド長会議に参加したことがある。その時は、12ある州のうち、4つの州のギルド長が不在だったはずだ。しかし、今回は円卓がほとんど埋まっているようだ。ブランドン州の1席を除いて。


 アサギリ州の席には獣人が座っている。狼の獣人は鋭い目線をこちらに向ける様子も無く、ただ前を見据えていた。その体つきは獣そのものだ。その大きく膨らんだ上半身の筋肉は無理に人型という方にはめられて、はち切れんとしているように見えた。


 そして、ミュートレット州の席には、トカゲのような魔族が座っていた。全身が緑のうろこに覆われたその男は、どこかに洗練さを感じさせた。彼は一度こちらを一瞥したが、再び正面に目線を戻した。


 でも、仮に11人のギルド長が集まったとしても、ブランドン州のギルド長が不在となる場合は全会一致にはならない。状況的には非常に厳しい。そんな絶望が胸に広がるが、ナオやウェズリーが諦めた表情をしていないのを見て、気持ちを切り替える。俺のために必死に動いてくれた彼らが諦めていないのだから、俺も諦めてはダメだ。


 獣たちは両腕を掴みながら俺を誘導し、そんな円卓から少し離れたところの椅子に座らされる。その両側には、ここまで連れてきた獣人が立ち、俺を絶対に逃がさないように警戒している。俺が席に座ったところで、中央の席から声が上がる。前回の局長とは違う人間がそこにはいるようだった。声が違うようだ。


「それでは、当事者が来たところで特別決議に移る。特別決議の議題はサミュエル州が起案した、そこにいるサトルをギルド長とした新たな州の確立である。本決議の可決には12州のすべてのギルド長の賛成が絶対の条件である。可決の立場を表明する場合は、我々中央が判断するに資する理由を述べること。それでは、起案者であるサミュエル州ギルド長、進行せよ」


 その言葉にナオがすっと立ち上がる。堂々とした立ち振る舞いや表情には迷いなどないように見えた。


「はい。サミュエル州は、食料供給の安定性への貢献を鑑み、フード連合会の活動に価値があると認識しております。したがって、その活動を中心になって実施してきたサトル殿が、新たな州を立ち上げ、州間の移動という制約なく、その活動を実施できるようになることには、二界全体に対してメリットのあることだと捉えています。したがって、特別決議を起案致しました」


 ナオは手短に州の設立の意義を説明した。そして、各州や中央が気にするであろうことについて対処法を述べた。


「まず、サミュエル州は土地の貸与協定を締結します。その上で、現在締結している農業支援の協定を全て移譲することを約束致します。上納金を始めとした収入や他州からの支援については心配無用です」


 それを官僚たちの座る席に向かっていった後、ギルド長達に向き直って続けた。


「各ギルド長殿! 今発言したことについて、この場で各州に誓約書を書いても構わない。その上で検討されたい」


 それが破格の申し出であることは、交渉の世界を知らない自分でも理解できた。はっきり言って、サミュエル州にとって農業支援による収入は大きいはずだ。それを無条件で譲与するというのだ。


「それでは、新州の立ち上げに賛成するギルド長殿は、可決の札を挙げられたい」


 その言葉に、真っ先に札を挙げたのはジャメナ州のバーナーだった。周りと被っていないことを確認すると、ゆったりと立ち上がる。その姿は、本人の迫力も相まって実際よりも大きく見える。


「ジャメナ州のバーナーだ。我らジャメナ州はサトル殿の農業支援により、食料生産が安定した。飢える州民の人数は減り、採掘に関する効率が向上した。故に、二界全体に対する貢献度が高いと判断する。サトル殿が新州のギルド長となることで、他州間を跨いだ活動の範囲が広がることで、その効率を更に上げることが出来ると確信している。以上だ」


 いずれも食料供給の安定への貢献を考慮した言葉であるが、二界全体への貢献が大きいことを説明してくれている。つまり、中央に対するアピールでもあるということだろう。


「我らヴェリトス州についても同様だ。ただし——」


 来た、と思った。この場で何らかの条件を付けようというのだろう。


「この場では、その男と協定は結べないのだろう。であれば、サミュエル州のナオ殿。食料の最低供給協定の期限を5年に延ばしてもらおう。我らとしては、サミュエル州からの食料調達量が減少することは避けたい」

「分かったわ。協定の変更に関する内容ですが、局長殿、よろしいでしょうか?」

「特殊な状況だ。協定の審議は終わっているが、期限の延長程度であれば、この場で締結した誓約書の効力は中央が保証しよう」


 その言葉を聞くと、ヴェリトス州のギルド長のパイロンが可決の札を挙げる。俺と協定が結べないことを踏まえて、サミュエル州に条件を出したということか。


 元々、積極的に賛成する理由は無いものの、自分に害が無い以上は少しでも利が取れるなら賛成しようというスタンスなのだろう。関わりが無い州については、このように、各州が得られるメリットで賛同を得ることしか出来ない。それが、サミュエル州に向かうと考えていなかった俺は申し訳ない気持ちになる。


 しかし、ナオの表情を見るとこうしたことが起こることは想定通りだったようだ。


 ここまでで、可決の札を挙げている州は3州。残りは9州だが、そのうちコノスル州とダボリス州については、賛成の札を挙げてくれるはずだ。ダボリス州のウェズリーは援護射撃をするために発言を控えてくれているように見えた。隙の無いウェズリーの目線は、円卓を囲むギルド長たちの表情をしっかりと見つめているのだ。


 そんな中、次に声を上げたのは意外な州だった。


「ミュートレット州のマルローレク=レゼルベックだ。ギルド長は都合がつかず、ここに代理権限証書を持って参上した。ミュートレット州は、独自の調査により、サトル殿がギルド長たる人柄だと判断する。また、カッパ農園のトマトは非常に美味である、とギルド長が申している」


 その言葉を発した全身がうろこに覆われたその男は龍人と呼ばれる種族だろう。ミュートレット州にドラゴンが住んでいるという話を以前聞いていたのでそう推測した。


 そして理由を聞いて、あれ? ドラゴンってトマト食べるんだ、と危機的な状況にも関わらず、そんなことが頭をよぎった。


「以上、2点の理由により新たな州の立ち上げに賛成する」


 しかし、彼のことはどこかで見たことがあるような気がするけれど、龍人には知り合いはいない。何であっさりと賛成してくれたのかは分からないが助かった。


「貴殿がレゼルベック殿か。話は聞いている」


 中央の官僚席から発せられたその言葉に、竜人は腰を丁寧に折って応じる。この2名には繋がりがあるということなのだろう。


「奇遇ながら同じ理由だ。サトル殿はギルド長たる人物だと部下から情報が上がっている。彼の活動は正教会の教義に通ずる部分がある。故に、吾輩は正教会の法王として、本提案に賛成する」


 そう答えたのはラニストル州のギルド長だった。ラニストル州のギルド長は、肌の色の少し黒いエルフの男だった。長い銀色の髪が垂れ下がっている。端麗な顔立ちの中性的な表情ではあるが、表情には変化が無く、考えていることは伺いしれなかった。


「ただし、貴殿には正教会の活動に短期間で構わないから関わっていただきたい。強制はしないが、吾輩がここで賛成したことを心に留めておいてくれ」


 そんなギルド長のエルフの後ろにはヴェリトナが控えていた。明らかにヴェリトナから耳打ちがあったのであろうことが分かった。


 その言葉にお礼を伝えるように頭を下げる。


 思わぬ賛成を得られたもののこれからが本番だ。全会一致まで、あとは7州。


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