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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第7章 『新米農家 世界に名が轟く』
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7-3.二界巡りⅠ(ジャメナ州編)

 俺はドビーを引き連れてある場所に向かっていた。行き先はオークたちの支配するジャメナ州だった。フード連合会の活動の足掛かりとして、ドビーと一緒に各州を回ることにしたのだ。元々、ダボリス州のギルドで副官をやっていたドビーは、顔も広いうえに地理にも強いので、対外的な活動をしていく上ではとても頼りになる存在だ。


「今、地図のこの辺りです。ようやく、マリクロ鉱脈のお膝元、ダンドランに到着ですね。ああ、長旅だった。帰りたい」

「いやいや、まだ最初だからね」

 

 砂漠地帯を途中で乗り換えたラクダに乗って移動しながら、そんな会話をする。照り付ける日差しと暑さと戦いながら、目的地のジャメナ州のダンドランに向かっているのだ。春からの農業支援に向けて、事前に各地の状況を確認しておきたい、ということで、協定先のダボリス州に向かっているのだ。


 ちなみに、ドビーから見せて貰って、初めてタイラー島の全体像が分かった。州内の地図はバーニャの町でも見ることが出来るのだが、島全体の地図となるとサミュエル州にいる限りは入手することが難しかった。ギルドのメンバーの中でも、他の州に移動する機会の多い者だけが地図を持っているそうだ。王都で購入することが出来るのだが、かなり高価なものらしい。


 協定の締結先であるジャメナ州はタイラー島の西側に位置する州で、ヴェリトス州を抜けてジャメナ州に向かうルートになる。サミュエル州からここまで、かなりの日数が通過している。馬に乗れないためラクダで移動していることもあって、途中から旅のスピードが明らかに落ちたのだ。


■■


「師匠! きょう出発でしたっけ?」

「ミナミちゃん、そうだよ。ドビーと言ってくる」

「お師匠様、どのくらいかかるんでしたっけ?」

「長いと一か月半くらいになるかもしれない。その間、よろしくね」

「そうですか……」 そういって寂しそうな表情をしている。でも、気持ちを切り替えたのか前向きな表情でつづけた。 「でも、植え付けまでには帰ってこられそうですね!」

「そうだね! 今年はカッパ農園で夏の収穫まで過ごせそうだ」


 そう。今年は各州への農業支援はあるものの、ダボリス州の10人衆が各州への支援では上手く動いてくれるようなので、常駐している必要はないのだ。ということで、久々に農園で過ごすことが出来そうで、正直に言えば嬉しい。


 とは言え、その下準備はしておかないといけない。そこで、ドビーと一緒に事前に回ることにしたのだ。ハルも連れて行こうかと思っていたのだが、マルロが一か月くらい農園を離れると言っていたので、ミナミちゃんとメルだけになってしまうことになる。そこで、今回はハルに残ってもらうことにしたのだ。


「じゃあ、いってくるね!」


 そう言って、マルロと馬に跨ってシャルルの町に向かった。シャルルを抜けて、ジャメナ州に向かって進んでいく。


 ところで、ドビーは最近サミュエル州のギルドに移動してきたこともあって、ヴェリトス州の検問では、かなり厳しいチェックを受けることになった。ナオが書いてくれた身元保証書を提示して何とか納得して貰えた。


 しかし、ヴェリトス州を通過する間に宿泊する場所については全て指定をされた。指定された宿が酷いところということも無かったが、ギルドのメンバーであっても行動に制約を受けることがあるのか、と驚いた。


「ドビー、普通はこんなものなの?」

「自州にメリットが無ければ、こんなものです。問題を起こされて自州の州民が損害を負ったら責められるのはギルドですからね」

「そうかのか。今までは普通に通過できていたんだけどね」

「それは、ナオさんとヴェリトス州のギルドの関係が良好だからでしょう」


 その言葉に、仲が良さそうには見えなかったけどな、ととっさに思う。ただ、そこで言っているのは、個人的な仲の良し悪しでは無くて、ビジネスの相手として良好な関係を築いているということなのだろう。


「ネジャルタル州のように多額の通行税を取ってこないだけましです。あそこは宿もぼったくりですからね」

「ひどいな」

「まあ、合理的っすよね。利が無いのは事実ですから」


 旅路は規制こそあるものの順調に進んでいった。サミュエル州に比べるとモンスターの出現も多かったが、それでも、ドビーと俺は戦闘能力には問題ないので、トラブル無く進むことが出来た。


 ヴェリトス州は街道の整備が十分ではなく、進むのに手間取った。それに加えて、ヴェリトス州からジャメナ州の州境に近づいていくにつれて、土が乾燥し始め、徐々に自生する植物も様子を変えていった。ジャメナ州に入る直前には、ほとんど植物の生えない砂漠地帯になっていた。進む速度も自ずとゆっくりになってしまう。


 そんな砂漠地帯を少し行くとジャメナ州の州境に着く。ヴェリトス州とは違い、ジャメナ州の州境はスムーズに通過することが出来た。協定を結んでいる支援先だけあって、事前に連絡が届いていたようだ。顔を見ると門番がすぐに通すように指示をしてくれている様子が見える。門兵がジャメナ州の中の案内を簡単にしてくれる。それにお礼を言うと、ラクダに乗り換えて移動を始める。


■■


 日が落ちてきたころようやくダンドランに到着する。かなりの長旅だったので、正直ハルを連れてこなくてよかったと思った。


 ダンドランは石を積んで作った一軒家が立ち並ぶ町だった。全体的に造りが雑で、あまり住環境に興味が無さそうな雰囲気を感じた。そんな粗野な町に住んでいる男のオークたちは、一様に筋肉ががっしりとついていて迫力があった。それに対して、女のオークたちはどちらかというとふくよかで、おかんという雰囲気が漂っている。何となく、仕事一筋の男たちと家を支える妻たちという構図が見える。失礼ながら、クレアはこの中では飛びぬけて美しい娘なんだろうな、ということを思ってしまった。


「ちなみに、ジャメナ州の標語スローガンは何なの?」

「えーと、何とかこそ、我らが資産、だったかな」

「全然覚えてないじゃん」

「12州にそれぞれあるから面倒くさいんすよ。まあ、ギルドのメンバーに聞けばすぐに分かります」


 ドビーにそんな形で軽く受け流されながらも、真っすぐにギルド支部に向かうことにする。ギルド支部は流石にしっかりとした造りで、周りとは威厳が違った。それでも、岩を積み上げて作ったと思われる建物には粗さが感じられた。


 ギルド支部の門に向かうと、門兵がこちらに気付いて近づいてくる。さすがに、ギルド支部の門兵は洗練された格好をしていた。警備兵の制服なのだろう。革製のジャケットに金属製の兜をかぶっていた。そして、言葉遣いも丁寧だった。


「お待ちしておりました。サトル様とドビュロネ様。ギルド長が夕食の準備をして待っております」

「ありがとうございます」 しかし、タイミングが良すぎやしないかな? そんなことが気になり、門兵のオークに尋ねてみる。 

「ところで、なんで今日到着することが分かってたんですか?」

「州境の検問でお二人が通過されたという報告を受けて、おおよその到着時間を予想しておりました。途中も警備兵から報告を受けていたんですよ。さあ、中へどうぞ」


 そんな門兵のオークについていきながらも、ドビーがぼそっと呟く。


「結構しっかり警備してるんだな。しかし、気づかなかったぞ」


 確かに、警備兵が監視している気配は感じなかった。遠くから見ていたのか、密かに尾行されていたのか、その真相は分からない。


「さあさあ、こちらにどうぞ」


 そういって、案内された部屋に入るとギルド長のバーナー、クレア、そして細身の眼鏡を掛けたオークが座っていた。


「長旅、ご苦労。ギルド長会議以来だな。そちらの鬼人は、ドビュロネ殿か?」

「はい。ドビュロネでございます」


 いつになく、しっかりした態度で対応している。この辺りは、さすがの立ち回りだ。身内に対してはやる気を見せる気もないけどね。


「ご無沙汰しております」 そう無難な挨拶をする。そんな挨拶に細身の眼鏡のオークが立ち上がって、こちらにやってきて握手を求めてくる。


「お初にご挨拶させて頂きます。小生はトリンドと申します。ジャメナ州で参謀長をしております」


「初めまして。よろしくお願いします」


 細身のオークは参謀長だったようだ。この筋骨隆々の男たちとふくよかな女たちの世界ではかなり異質に見えた。まあ、参謀長はギルド長のブレーンのような役割なのだし、はまっていると言えばはまっている。


「さあ、食事が冷める前に会食と行こう。この州の名物、テキーラも用意した」


 その言葉にナオの言葉が思い出される。今度こそ本当だったわけだな。


■■


「あ、ダボリス州は蒸留酒で有名な土地よ」


「あれ? ジャメナ州だったかしら?」


■■


 テキーラについては、ぜひ情報を仕入れておこう。そう思いながらもテーブルについて、食事を始める。ジャメナ州の料理は肉と芋が中心のカロリー重視というものだった。ギルドが客人向けということで出しているのだから、普段はもっとジャンキーな食事が多いだろうことが推測できた。


「明日は、君たちに農場の候補地を見て貰う予定だ」

「ここまでで分かったと思いますが、この地は水が少ない土地です」 トリンドが補足をする。 「農園の候補地も残念ながら、皆様の州と違って痩せています」


 それを受けてクレアが顔を落としている。それはクレアの責任ではないように思うんだけどな。


「まあ、対策は考えて来ましたから安心して下さい。絶対に上手く行くわけではありませんが」


 そこで、考えてきた腹案を伝える。点滴灌漑という農業の在り方の一つで、パイプを通して植物の苗の根元に水を垂らし、乾燥地に置いて節水しながら農業を行うという手法である。まあ、どこかで仕入れた知識の受け売りなんだけど。


「なるほど。確かにそういう方法であれば少ない水で農業が可能ですね」 トリンドは感心したような表情で言う。そして、なぜかバーナーの方に目配せをしている。なぜバーナーの方を見たのか不思議に思っていると、バーナーがその話に入ってきた。


「君は噂通りお人好しなようだな。ウェズリーがそう言っていたよ」


 え、ウェズリーが? 意外な名前が飛び出したことに驚く。


「トリンド!」

「はい、いかがなさいましたか?」

「これを読んでみろ」


 トリンドは渡された手紙にさっと目を通す。そして、再びバーナーの方に頭を向けると、ほほえみながらもバーナーの気持ちを汲むように答えた。


「それでは、お二人を丁重に迎え入れる用意をしましょう。手配は小生にお任せください」


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