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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第6章 『新米農家 国を救う(後編)』
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6-4.分かりやすい部下たち

 次の更新は月曜日の予定です。早く続きを書きたい! のですが時間が取れそうになく。お待ちください。


「おーい。腕相撲しよう!」


 その言葉に、明らかに顔が輝く5人の鬼人達。そして、やれやれという表情をするドビュロネが声を掛けてくる。


「あんまり無茶しない方が良いですよ。この5人だって強いです。撤回するなら早めに」

「まあ、見てなって」


 そういって腕まくりをすると、 「知りませんよ」 といって、ドビュロネは少し離れたところに行ってしまった。


 そんなことはつゆ知らずの様子の5人は興奮した様子だ。その中のゴと呼ばれている鬼人が前に出てきて宣言する。


「よし、俺がやってやろう! 楽勝で勝って、こんな仕事からお前らを解放してやる!」


 その言葉に、腕っぷしが強くない奴は、勝った者の言うことを聞かなければならない、という不文律があるのだろうことが分かった。ドビュロネの言葉の真意がそこで分かった。ハルもそのことに気付いたようで、心配そうに声を掛けてきた。


「お師匠様、思ったより根深そうですね。大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫、でしょ」


 そして、不安ながらもゴと腕を組む。ゴは、身長が低いもののがっちりした体形をしていた。というより、少し太っている。いや、すごく太っている。その分、腕を組んだ時のプレッシャーはかなり感じた。それでも、さっきの鬼人に比べれば大したことが無さそうに思えた。


 結果は——


 さっきと同じく俺の圧勝だった。その結果に5人衆の間に衝撃が走り、ざわめきが起こる。


「は? お前手を抜いたのかよ。ふざけやがって」

「いや、手を抜いたようには見えなかったぞ」

「だけど、ゴが一番腕っぷしは強いじゃねーか」

「さてはお前、最近彼女が出来て気が緩んでるんだろ」


 口々にイチからヨンはゴに声を掛けている。呆然としていたゴだったが、結果を受け入れたのだろうか。そんな言葉に返答をしている。


「悪い、俺は本気でやった。この方はマジで強いぞ」


 そんな言葉に4人は衝撃を受けたような表情をしていた。気づくとドビュロネもこちらに近づいて来ていた。


「ちょっと、サトルさん。俺とやってもらっていいですか?」


 そういって、腕を組む。腕を組んだ感じは今日戦った二人と比べると圧倒的に弱そうに感じた。しかし、ドビュロネはその細い体からは想像が出来ないほどの力だった。ここまで楽勝で勝ちぬいてきたのだが、力をかけてもドビュロネの腕は動く様子が無かった。


「あ、これは純粋な力では負けかも。重力操作してないですよね?」


 そう涼しい顔でドビュロネが訪ねてくる。その表情に驚きながらも、何とか声を絞り出すことができた。


「ああ」


 しかし、ドビュロネは思わぬことを言ってくる。


「参りました。私の負けですね」


 その言葉に続いて、あっさりと手を解いていた。


「いや、ドビュロネの方が強かったよね?」

「私は重力操作を掛けてキープしていましたからね」


 そうあっさりと答える。いや、腕相撲で重力操作をするのは反則じゃないんかい、と内心で思う。ドビュロネは、不思議そうな表情で尋ねてくる。


「サトルさん、本当に農家なんですよね?」

「そうだよ。農家だ」

「そうですか。人は見かけによらないと言いますが、職業にもよらないということですね」


 そういって、すっと立ち上がると丁寧に頭を下げた。その後頭を上げたドビュロネは、これまでの気の抜けた態度からは想像できないほど背筋がまっすぐに伸びていた。元々高い背が余計に高く見えた。残念ながら全身が纏う気怠そうな雰囲気は消えていないが……


「まずは、今までの態度をお詫びします。我ら鬼人は力を信じる種族。力があるものには喜んで従います。まあ、戦闘は別としても純粋な腕力には感服しました」

「え? ああ。そう」 あまりの態度の変わりように、思わず気の抜けた返事が出てしまう。 

「俺のことはドビーと読んで下さい。私のニックネームです。私は先生と呼ばせて頂きます」


 5人衆もその言葉に続いて、非礼を詫びるようなことをしている。いや、いくら腕相撲が強いからってそこまで変わるかね? そう思ってハルの方に目をやると、ハルも困惑した表情を浮かべていた。


 5人衆はアイドリエンに住んでいるということで、夕方になると町へと帰っていった。ドビーは住み込みということだったので、一緒に晩御飯を食べる。料理はハルがしてくれた。残念ながら農園で作った食材では無いので、食材の味は薄いが、それでもほどよい味付けに調整してくれたようだ。美味しく食べることができた。


「先生は、州の標語スローガンをご存知ですか?」

標語スローガン?」


 ハルの方を見てみると分からないという表情で首を振っていた。


「各州が掲げる指針のようなものです。標語スローガンはその州が目指すべき方向性を表現しています。我らがダボリス州の場合は 『強者たれ、さもなくば死のみ』 です。我々は強くなるために生きることが義務付けられています。これで、我々が農業にやる気を出さなかった理由はお分かり頂けたでしょうか」

「なるほど。分かった気がする」


 彼らにとっては、強くあることこそが存在の証なのだ。それを州が掲げるメッセージにしているほどに。


 それにも関わらず、他州から来たどこの馬の骨とも分からない人間の下で、鍛錬する時間を失うことは許せないことだったのだろう。確かに、傭兵部隊として生計を立てていくには仕方の無いことなのかもしれない。


「てっきり、力の無い人間にこき使われるのかと」


 ぼそっとドビーが言う。いや、最後の一言は言い過ぎな気はするが、まあ、許すとしよう。


「ちなみに、サミュエル州のスローガンは?」

「『平穏こそあらゆる文化の源』 だったはずです。確かに、サミュエル州は争いが少なく、平和な州だと聞いています。確か、音楽・芸術活動も盛んですよね。正直、我々鬼人には興味の無いものですが」


 サミュエル州との違いに色々と驚くことも多かった一日だったが、そんな思わぬ形で、ダボリス州のメンバーと打ち解けることが出来た。ハルも同じように少し不安が解消したのだろう。リラックスをした表情で話しかけてくる。


「お師匠様、私何とかやっていける気がしてきました」

「そうだね。頑張ろっか!」


 ところで、後日になって分かったことなのだが、あの時に町で倒した鬼人は町で一番の腕相撲チャンピョンだったようで、次の日からアイドリエンに行くと俺は英雄扱いになっていた。そういう噂はあっと言う間に広がるようで、口々に敬意の籠った言葉を掛けてきてくれる。


「ちわっす! チャンピョン」

「今度稽古を付けてください」

「きゃあ、あれが噂の人間ね。素敵だわ」


 何だか急に有名人になってしまったようで落ち着かない。正直、腕相撲ごときで? と思うのだが、街中で殴り合いをすることは禁じられているので、合法的に出来る力を競う遊びということで、アイドリエンでは広く浸透しているようだ。


「何だか、お師匠様は人気者になってしまったみたいですね。嫌なら買い出しは私だけで来ますよ」

「え? 別に問題ないけど」

「いや、私だけで来ますよ! 町中が大騒ぎになりますし」

「なるほど、確かに」


 思ったより強い口調に驚いたが、確かに周りを見回すと大騒ぎになってしまっている。そこで、次の日からはハルに買い物に行ってもらうことにした。農園での作業に集中できるので助かると言えば助かることは間違いない。


 とは言え、ハルを一人で町に出して絡まれたりしないか心配していたのだが、チャンピョンの弟子という肩書が付いたので大丈夫だと言っていた。旧チャンピョンになってしまったタイソンがやり返そうとしたりしないか、最初は不安だったのだが——


「特に問題ありません。絡まれそうになるとタイソンさんが守ってくれます。タイソンさんはお師匠様に敬意を払っているみたいですね」


 普通は負けたら悔しさで報復したりするような気もするが、鬼人はその点はあっさりしているようだ。ヴェリトナの言葉が思い出される。


■■


「奴らは粗暴に見えるだろうが、意外とまっすぐな奴らだ。真っ向からぶつかってみてくれ!」


■■


 確かに分かりやすい種族なのかもしれない。力の強さで人の評価を決める考え方は、清々しさすら感じさせた。もちろんそれが正しいかどうかは別だ。力があるものにとっては過ごしやすいだろうが、力が無いものは行き場所を失うということなのだ。


 ところで、ハルに止められてアイドリエンに出ない間に、俺の肩書が変わっていた。そのことに気付いたのは久しぶりに町に出たタイミングだった。町を歩いていると、腕相撲チャンピョンの肩書が達人の師匠になっていたからだ。いや、達人って誰だよと思っていたのだが、すぐに答えが分かった。


「おす、達人!」

「きゃあ、達人のカッパ様よ。カッコいい!」

「ちわっす、達人!」


 そう、隣を歩くハルがそう呼ばれているのだ。声を掛けてくる鬼人たちはそろって羨望の眼差しを向けていた。チャンピョンの弟子から達人になるまでのつながりが全く見えず、混乱しながらハルに尋ねる。

 

「え? ハル、何で達人って呼ばれてるの?」

「いえ、まあ、色々ありまして」

「あ、そうなんだ」


 いや、すごい気になるんだけど。しかし、聞いてもハルは教えてくれなかった。まあ、きっと何かしらの形で力を見せたのだろう。ハルも意外と肉体派なのかもしれない。


 そんな妙な騒ぎに巻き込まれながらも、農業支援は順調な滑り出しだった。


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