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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第6章 『新米農家 国を救う(後編)』
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6-2.冬の収穫祭

 今週末は更新ができず、すみませんでした。

 明日は予定通り更新しますが、水曜と今週末は更新ができません。気長にお待ちください。


「お師匠様、冬も収穫祭をしましょう」


 そう言い始めたのはハルだった。訓練の合間の休みの日にマルロ、ミナミちゃん、ハルと4人で食事をしているときだった。


「良いですね! 私も賛成です。収穫祭好き~」


 ミナミちゃんは、収穫祭がきっかけでこの農園にやって来たんだもんね。最初は火事を起こすなんて噂を聞いていたから不安だったけど、蓋を開けてみれば全然問題なかった。営業活動では少し問題が目に付くけど、結果として顧客獲得につながっているから文句は言えない。


「えっと。収穫祭って何ですか?」 


 マルロがついていけないという様子で聞いてくる。


「収穫した野菜を皆さんに振舞うお祭りです! バーニャの町の人を誘ってやるんですよ」

「それは楽しそうですね! ぜひやりましょうよ」


 ハルの興奮した様子を見たからか、マルロも乗り気のようだった。農園のメンバーの期待に満ちた表情でこちらを見ている。俺も収穫祭自体は好きなので断る理由もない。


「うん。せっかくだからやろうか」

「やったー。私みんなに宣伝しますね」


 そういって、ミナミちゃんは満面の笑みを浮かべていた。その数日後、町に行ったついでにギルドのメンバーにも声を掛けておいた。ちょうど、適任そうなマナミがいたので声をかけてみる。


「ギルドのメンバーへの連絡は任せてください! ちなみに、200人くらい呼んでも大丈夫でしょうか?」

「え、そんなに人を連れてくるの?」

「はい! どうしてもお願いしたいんです」

「うーん……」

「ちゃんと入場料は取るので安心してください!」


 いや、そういう問題じゃなくて! 農園には4人しかいないからキャパオーバーだわ。


 仮にも経営者としてはこういう時にきっぱり断った方が良いのだろう。しかし、その時はタイミングを完全に逸してしまった。農園に帰ってから、恐る恐るマルロに相談する。


「あのさ。収穫祭に200人来るみたいなんだけど大丈夫かな?」

「200人ですか?」 流石のマルロも驚いた表情をしていた。 「それはすごいですね。そこにミナミさんの営業活動が加わることも考えると、結構な人数を覚悟しておいた方が良いかもしれませんね」

「大ごとになってしまったよ……」

「まあ、任せてください! それにお祭りは人数が多い方が良いですよ」


 俺は、ジャックとの訓練にほとんどの時間を取られるので、残念ながら収穫祭の準備にはほとんど関われない。ただ、この数カ月でマルロへの信頼感は十分に醸成されていた。全く不安なく、マルロに任せることにした。よく考えると、これも酷い丸投げなのかな? ブラック農園と言われないように気を付けよう、と心の中でこっそりと誓う。



 そして、収穫祭当日がやってきた。


 流石に、大規模なイベントになることが分かっていたので、何人かの人に手伝いをお願いしていた。もちろん不動産屋のおやじには来てもらっている。


「悪いね、いつも」

「いや、良いんだ。俺も楽しみにしているからな」

 

 そんなことを言いながら人の良さそうな笑顔を浮かべている。

 

 ちなみに、イトリン夫妻にも声を掛けたところ、オルドが料理の手伝いに来てくれることになった。不動産屋のおやじとオルドはすぐに打ち解けていた。オルドはあまり話さないのだが、不動産屋のおやじの気持ちを汲んだ動きをしているようだ。


「お、気が利くじゃねえか」

「うす」


 そんな二人に加えて、カーミンさん率いるギルドのメンバーが調理を手伝っていた。彼らは自ら率先して料理をすることは出来ないようだが、不動産屋のオヤジの指示に従って、野菜を切ったり、会場の設営をしたりと作業をしているようだ。


 そんな作業を眺めながら、オルドと一緒にやってきたイトリンと話をする。


「サトル、久しぶりだね」

「お久しぶりです。野菜は届いていました?」

「ああ、毎度楽しみにしていたよ」

「良かったです。ちなみに、今日は多めの発注に応じてくれてありがとうございました」

「そんなのお安い御用さ」

「ところで、ビールも出るのかい?」

「ええ」


 そんなイトリンさんにも手伝ってもらいながら会場の設営を進めていく。



 開始時間が近づくとどんどん人が増えていく。いや、増えすぎじゃない? 大丈夫か、これ。


 その人数は300人を余裕で超えている。そんな想像以上の事態に、頭に浮かんだ不安をマルロにぶつける。


「マルロ、これ、思ったより多いけど大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ! 事前にマナミさんとミナミさんとはお話していましたから、このくらい来るだろうことは予想できていました」

「さすがだよ。本当に助かる」


 一応、仮にも農園の主なので、開会の挨拶をすることにする。最近は優秀なメンバーたちが農園を運営してくれているので、その感覚は薄れてきてはいるけど、仮にも主なのだ。


「えーと。思ったよりも人が多くて驚いていますが、お集まりいただきましてありがとうございます。カッパ農園の主のサトルです」


 そんな挨拶に様々なリアクションが聞こえてくる。流石に人数が多いので、その反響も大きかった。


「よ! カリスマ農家!」

「カリスマ経営者!」

「挨拶は良いから早く食わせろ!」


 うん、ど直球な要求が混ざっているが、お祭りだから良しとしよう。確かに乾杯の挨拶は短い方が良いかなと思い、さっさと乾杯の発声をすることにした。


「では、面倒な挨拶は抜きにして、乾杯!」


 その挨拶に集まった人たちが口々に乾杯と返してくる。こうして冬の収穫祭がスタートした。今日もハルはペコペコしながら色んな人に料理やお酒を配っていた。相変わらず、生まれ持っての癒し系キャラで場を和ませていた。ミナミちゃんは営業活動に夢中な様子だ。色々な人に感想を聞いている。


 寒い時期ということもあり、今日は煮込み料理を中心に準備した。例えば、白菜・大根と豚バラ肉を使った鍋料理。塩だけのシンプルな味付けで、豚バラの甘みと白菜や大根の甘さが上手くマッチしている。不動産屋のご主人は、そのスープのベースを作るために、朝から大量の鶏がらを煮詰めていた。他にも、カボチャを甘く煮込んだものや、牛スジをトマトベースのスープで煮込んだものなども用意している。


 そんな体が温まる料理にビールという組み合わせに舌鼓を打ちながら、参加者は楽しそうに談笑している。色々なところから 「うまい!」 という言葉が聞こえてくる。そんな感想に耳を傾けながら、マルロと話をする。


「評判は上々みたいだね」

「そうですね。またカリスマの名が浸透するんじゃありませんか?」

「あのさ、カリスマって肩書、そろそろ取れないかな」

「ミナミさんが、記事を配りながら売り文句にしていますからね」

「え、そんなことしてるの?」

「ええ。ですから、当面は残るでしょうね」


 やっぱりミナミちゃんは要注意だ。火事こそ起こしていないけど、色々と問題を持ち込んできてくれる。営業としては良くても、営業活動が過ぎる節がある。結果、肩書が先行していることが多いような気がするのだ。どこかで、足元を掬われそうな怖さがある。


 そんなミナミちゃんは長身の女性と話をしていた。確か、ミスカさんだっただろうか。とても綺麗な人なのだが、冷たさを感じるところがある人で直接話したことはほとんどない。


「ねえ、ミスカお姉ちゃん。どうやったらそんなにきれいになれるの?」

「ふふふ。そうね。そうなりたいと思っていればいつかなれるわ。必ずね」


 2人からは、そんな女子な会話が聞こえてくる。その様子を少し遠いところから眺めていると、久しぶりに聞く声が聞こえてきた。


「あの二人は姉妹みたいね」

「そうですね。あ、姉さん、久しぶり」


 そこにはサマリネ姉さんがいた。そして、隣にはいかにも宣教師といった格好をした角の生えた女性が立っていた。鬼人と呼ばれる種族だろう。背が低く、かわいらしい顔をしている。どちらかというと幼く見える人だった。


「こちらは、正教会の宣教師のヴェリトナよ。正教会は二界で最大の宗教団体だけれど、中央の官僚が公認している指定の宗教団体ね。サトルのことはカリスマ農家として紹介したわ」

「いや、カリスマを自称したことはないんだけど」


 その言葉にヴェリトナは、思わぬほど豪快な笑いで返す。がっはっは、という笑い声だった。いや、大工の棟梁かよ、と心の中で思う。


「噂通りの謙虚な奴だな。サマリネとは長い付き合いだから前から聞いていたよ」


 ヴェリトナの想像していなかった男らしい話し方に驚いていると、サマリネ姉さんがフォローしてくれる。


「この話し方、最初は驚くわよね。ヴェリトナは見た目に反して荒い話し方をするわ。ダボリス州出身だけあって武闘派なのよ」

「なるほど」

「我ら正教会はラニストル州を拠点にして、各地の救いを求める人々を助ける活動をしている。正教会自体がギルドなんだ。これから、君に故郷のダボリス州の支援をして貰うと聞いてな。ぜひ挨拶をと思ったんだ。よろしく頼むぞ」

「了解」

「奴らは粗暴に見えるだろうが、意外とまっすぐな奴らだ。真っ向からぶつかってみてくれ!」


 そんなアドバイスを貰いながらも、ヴェリトナと話をする。ヴェリトナは上級宣教師という役職のようで、ギルドに置き換えると師団長クラスの人とのことだった。めちゃくちゃ偉い人のようだ。ジャックと同じというと急に格が下がるけど。


 そんなヴェリトナは元々、ダボリス州に転生してきて、正教会の教義に惹かれて移籍したそうだ。


 ちなみに、正教会の教義は 『強者による弱者の救済』 というものとのことだ。変に平等を謳うよりは、ある意味分かりやすい気がする。


 ところで、その日の収穫祭は冬の寒さもあって早めに解散になった。しかし、寒い中にも関わらず人が集まった農園は不思議と温かい雰囲気に包まれていて、実際の気温が高くなったかのような暖かさに包まれていた。その場にいる誰もが笑顔に包まれていて、やっぱりこの仕事をしていて良かったと再確認することができた。



 人々が帰っていった後の農園のログハウスで、農園のメンバーとイトリン夫妻、何人か残ったギルドのメンバーでお疲れ様会を開く。


「お疲れさま! カンパイ」


 会を始めると農園のメンバーが集まってくる。口々に今日の収穫祭の感想を言っていた。


「私は、やっぱり、お師匠様の農園で働けて良かったです。みんな幸せそうな顔をしていましたね」

「ハルさんに賛成です。僕もこの農園に来ることが出来て良かったです」

「わたしもー! しあわせ~」


 そんな嬉しい言葉に少し照れていると、サマリネさんがそっと耳打ちしてくる。


「やっぱり、あなたは良い仲間に恵まれているわね」


 確かにその通りだ。この世界に来て1年も経っていないのに、ずっと一緒にいる家族のような気分になっている自分がいた。前世の記憶が無いからなおさらなのだろう。こうして同じ思いを持って一緒に働いてくれている人に恵まれているというのは、よくよく考えるととても幸運なことなのだ。そんなことを思いながら、ねぎらいの言葉を掛ける。


「みんな、お疲れさま! 今日はありがとう」


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