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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第5章 『新米農家 国を救う(前編)』
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5-3.レセプション

 明日・明後日は更新が出来ないかもしれません。気長にお待ちください。


 ジャックが戻ってきてすぐに、マナミもヤマネコのロビーに現れた。


 マナミは黄色いドレスを着ていた。日に焼けた肌に黄色いドレスがとても似合っている。マナミはどちらかというと可愛らしい顔立ちをしているので、そんなビビッドな色のドレスがとても似合っていた。


「うーん、ドレスはやっぱり慣れませんね。変じゃありませんか?」

「大丈夫! 似合ってる」 いや、似合いすぎてる。可愛いわ。

「それなら良かったです! じゃあ行きましょうか」


 マナミが合流したところで、レセプションの会場に移動した。会場はギルド本部の集まるギルド会館とのことだった。


 ギルド長会議は、各ギルドのギルド長で構成される会議らしい。基本的には、ギルド長と2人の補佐が参加できる。第12ギルドは、ナオとエリーとジャックの3人が参加するらしい。俺やマナミは、観覧席で見るだけで、会議の最中は口を挟むことは許されないそうだ。


 レセプションはその前夜祭のようなもので、こちらは当日の議論の当事者以外も参加できるとのことだった。


 レセプションの会場には、驚くほど多くの種族が入り混じっていた。俺は、マナミと一緒に会場を回ることになった。ナオ、エリー、ジャックの3人は明日のギルド長会議に向けて事前の打ち合わせがあるとのことで、すぐに俺とマナミから離れて、その人込みに紛れ込んでいってしまった。


 しかし、マナミはマナミで人脈が広いようで、レセプション会場を歩き回りながら多くの人とコミュニケーションを取っていた。


「お久しぶりです! ケビルソさん」

「おお、マナミ殿。ご無沙汰しております」


 ケビルソと呼ばれた人は魚人と言えばいいのだろうか。人の体の形はしているが、全身がうろこに覆われていて、肌の色が青い。全体的に湿っている。よく見ると顔立ちはかなりイケメンだ。顔色が青いことを除けば。


「サトルさん、この方はコノスル州の副長、ケビルソさんです。ケビルソさん、こちらはカッパ農園のサトルさんです」

「おお、サトル殿の噂は聞いておりますよ。農園のカリスマ経営者だとか」

「いやいや、普通の農家ですよ」


 あらら、その評判は他の州まで広まっていたのか……。


「またまた、ご謙遜を」

「サトルさん、コノスル州は漁業と狩猟が盛んな土地なんですよ!」

「私たちコノスル州は漁業・狩猟関係、それからワインの作り方については、他の州に勝っているという自負があります。ぜひ情報交換させてください」

「もちろんです!」


 マナミがつないでくれたおかげで、そんな人脈を作ることも出来た。これでワインの秘密も解明できそうだ。


 そんな調子で他愛のない話をしながら立食パーティを楽しむ。その途中で、マナミが用事があるというので、一時的に彼女と離れた。


 1人で立って待っていると小柄な男が声を掛けてきた。これはドワーフと呼ばれる種族のはずだ。


「初めましてですな。サトル殿」

「えーと、どちら様でしょうか?」


 ドワーフの知り合いはいないはずですが。


「これは、失礼を。私、ネジャルタル州のコールスと申します」

「どうも。カッパ農園のサトルです」

「しかし、カッパ農園の野菜は素晴らしい評判ですな。あまりの美味しさに、不法な材料を混ぜているなんて噂も聞くくらいです」


 は? そんな悪評が立っているの? 


「いや! まっとうに育てていますよ。昔ながらの手法で」

「ほうほう。でも、種はどこで手に入れられたのですかな? なかなか入手が難しいと思いましたが……」


 そこではっとする。会場に入る前にマナミに釘を刺されていたのだ。


■■


「サトルさん、私たちはあくまでも交渉の場には立ちません。絶対に、明日の交渉に影響が起こるようなことはしないようにしてください」

「分かった、余計なことは言わないよ」

「ありがとうございます。彼らは挑発、揺さぶり、色々な手を使って明日の交渉を有利に運ぼうとします。特にヴェリトス州のゴブリン、ネジャルタル州のドワーフには気を付けてください。彼らは情報を引き出すためなら平気で嘘もつきますし、演技もします」

「何だかドロドロした世界だね」

「残念ながら、サミュエル州ほどクリーンに政治を進めている州は多くありません。怪しいと思ったら余計なことは話さない方が得策です」


■■


 うん、これは、きっと揺さぶりに違いない。情報を引き出して、それを交渉に活かそうとしているのだろう。油断も隙もないな。


「それは、企業秘密ということで」

「ほう。それはそれは。かえって気になってしまいますなあ」


 そこで、マナミが間に入ってくる。


「こんにちは。コールス殿。ギルド長ともあろうお方がギルドメンバーでもないサトルさんに声を掛けるなんて、珍しいですね!」

「ちっ、マナミ殿か」 おい、こいつ明らかに舌打ちしたぞ。 「それでは、お二方、ごきげんよう」


 そう言うとコールスは、そそくさとその場を後にした。


「サトルさん、大丈夫でしたか?」

「うん、助かったよ、ありがとう」


 正直、さっきのにはものすごく腹が立った。でも、あんまり失礼な態度を取って、ナオやエリーの足を引っ張りたくないからね。


 しかし、ただの農家には立ち回りが難しいな。なんでこんなところに俺を連れて来たのだろう? かえって、ギルドに入りたくなくなったわ。


 気付くと、ナオとエリーとジャックの三人組の近くに近づいていた。その様子を聞き耳を立てて伺ってみる。ヴェリトス州のギルドのメンバーと話をしているようだ。パイロンと他に2人の男のゴブリンが立っていた。


「え~。それは、無いんじゃないですか~」

「む? エリー殿。何がお気に召しませんでしたかな?」 男のゴブリンの1人が眉を顰めながらそう言っている。

「いや~、だって、食糧という資源を舐めてますよね。じゃなきゃ、こんな条件は提示しないっしょ」

「エリー。ちょっと言いすぎよ。でも、私もこの条件は無いと思うわ。鉄の供給量をもう少し増やしていただけないかしら? ねえ、パイロン」

「そうね、ナオ。では、お互いに供給量を増やすという条件でどうかしら。増加割合はヴェリトス州の方が大きくなるようにするわ」


 これが事前準備ということか。頭の悪そうな話し方という皮を被っているが、エリーも相当にタフな交渉者のようだ。それに対して、ナオが上手くフォローして、話をまとめるという立ち回りのようだった。


 そんなやり取りの中、ジャックはどうしているのかというと……


 ただただ黙ってナオの後ろに立っていた。体格の良い男が真顔で黙って立っていると、それはそれで迫力がある。強力な用心棒という雰囲気が出ていた。


 そんな様子を見ていると、マナミが小さな声で耳打ちしてくる。


「サトルさん。師団長は黙っていると迫力がありますよね。あれは、決闘決議に持ち込ませない戦略なんですよ」

「あ、そうなんだ」


 なるほど。ジャックが力の部分を見せつけながら、ナオ&エリーのコンビで交渉を進めていくのか。ナオのギルド長としての外交手腕を肌で感じた瞬間だった。


「以前、レセプションで一度だけお酒を飲みすぎて話始めてしまったことがあったのですが、ナオさんがものすごい制裁を加えて黙らせていました」


 そこで、マナミが身震いする。


「それは恐ろしい光景でした。それからというもの、師団長はこの場では一言も発しなくなりました」


 うーん。何だか、ジャックが可哀そうになって来たよ。


 今度、戦闘訓練だとか言って農園に来た時は、ビールを振舞ってあげよう。


 レセプションの会場の裏で、コールスと他のドワーフが話をしている。


「さすがに情報は簡単には聞き出せなかった」 コールスがそう報告する。

「それはそうだろう。鑑定版の結果はどうだった?」

「称号は、上級農家、中級農家、新米農家だ。スキルは、レベルを考えると普通だな。農家にしては高いが、特筆すべきものはない」


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