表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第1章 『異世界で農業はじめまして』
4/90

1-3.いや、期待したのが悪いんだけど……

 ロールプレイングゲームの世界への転生ってファンタジー小説、いやライトノベルみたいだな。特別な状況に少しテンションが上がる。いや、ものすごく上がっている。子供のころにテーマパークに連れて行ってもらった、そんな気持ちに近いだろうか。


 建物は岩を積み上げて作ったものか、木でできている。それなりに町の広さもあるようで、小さな農村というよりは、町という表現が正しいだろう。ただ、首都という感じではない。道行く人は、前世の服装ではなく、中世の庶民の装いをしていた。


「この町は王都から少し離れたバーニャという町よ。通称、転生者の町。この町では数十年に一度、転生者が現れることで有名な町なの。ただ、転生者はいろいろな意味で狙われやすいから、いつ、どこで転生するかは、私たちギルドの中でも一部の人間しか知らない。だから、気軽に最近転生してきたことは明かすべきではないわ」


 魔法を使えない初心者が襲われたら、それは大きな問題になるだろう。しかし、新しい転生者を襲うことにどのようなメリットがあるのだろうか。その疑問をナオにぶつける。


「転生したばかりの人間が襲われたらまずいということは理解出るけど、なぜ転生したての人間を襲う必要があるんだい? お金を持っているわけでもないのに」

「その疑問は最もよね。ただ、その説明にはもう少しこの世界のことを説明した方がよいと思う。そのためにも、まずは職業診断所に行きましょう。通称 『占いの館』 よ」


 やっぱりロールプレイングゲームの世界観だ。勇者だとか魔法使いだとか、そういったやつだよね?


「勇者とかそういう適正にあった役職を決めるやつかな?」

「う、うん。そうね。そのイメージであっていると思う」


 あれ、若干引っかかる感じはあったが、まあ気のせいだろう。黙ってナオの後ろをついていくことにする。はぐれないように気を付けながらも周囲の様子をうかがう。どこをみても最初のイメージの通り。中世ヨーロッパという感じだ。待ちゆく人はナオとジャックを知っているようだ。


「お、ナオ! 警備お疲れさん。その人は誰だい?」

「彼は最近引っ越してきたサトルよ。この町を案内しているの。」

「おう、そうか。ここは良い町だから安心しな。あ、ジャックじゃねえか。この前のツケを払えよ。」

「わりぃ、手持ちが無いから今度な」

「お前はいつも手持ちがねえじゃねえか。まあ今日のところは見逃してやるが、踏み倒すのは許さないぜ」


 こんなやり取りが何度かあった。ナオもジャックもこの町では有名人のようだ。しかも、好意的な反応をみるとこの町の住人に慕われているらしいことが分かる。引っ越しって多いのか? と聞くと、それなりに多いわねと言っていた。そういう時はギルドが案内することになっているようで、ナオ達が町を案内していても転生者だとは分からないということのようだ。


 そんなやり取りがありながら街中を進んでいくと、欧州風の建物の中に、ひと際目立つ建物がある。壁一面が紫色で統一されていて、全体的に怪しい雰囲気をまとっている。それに輪をかけるように、なんと、建物のてっぺんには丸い透明な球が鎮座している。全体を見ると、占い師がよく手をかざしている水晶そのもの、といった感じだ。目的地はあれだな。うん。


 さらに近づいていくと、入り口と思われる濃い茶色の扉は金色の金属で縁取られていた。そのドアの上には、予想通り、占いの館と書かれた看板が置かれている。


「まあ気づいたと思うけれど、ここが占いの館よ。外観は怪しさ満点だけど、この館長のみょん婆は、占いの腕だけは確かよ」


 確かに不思議な力をうたう人は変わった格好をしていることが多いと思う。大抵はキャラクターを立てるためにしているはずだけど、ナオの言いぶりだとみょん婆は実力も伴っているらしい。そんな説明を聞きながら “占いの館”のドアに手をかけ、扉を押して開ける。扉の中に入ると、威勢の良い声が聞こえてきた。


「占いの館へようこそいらっしゃいました!!」


 その声の勢いに乗るように、質素な服を着た少女が駆け寄ってくる。異常な外観の建物に似合わない爽やかな挨拶に面を食らう。いや、居酒屋かよ。


「ただいま待ち時間なくご案内できますよ!! 何名様でお越しでしょうか?」

「3名です……」

「3名様ごらいかーん。それでは、占い席の方にご案内いたしまーす」

「ちょっと待って、占うのは1名よ」


 ナオが補足する。いや、その補足いらなくない? そんなに職業診断することないよね。


「なんだ、冷やかしか……おひとり様ごらいかーん、同伴の冷やかし2名です!!」


 あ、この子、素が出たぞ。そして、ナオの補足は本当に必要だったのね。突っ込まなくて正解だった。しかし、占いの館ってもう少し神聖な雰囲気を出さないかね?


「それでは改めまして。本日、皆様をご案内させていただきます、見習い占い師のミナミです。よろしくお願いします。これから、バーニャ一の占い師、みょんみょん様のもとにご案内いたします。それでは、ついてきてください。足元、階段になっていますのでご注意ください」


 今度はガイドみたいになった……!


 少女、もといミナミちゃんは、僕たちを館の奥へと先導する。広いホールのようになっている館の奥には地下に向かう螺旋階段があった。ミナミちゃんの先導のもと螺旋階段を下りていく。大きく円形に曲がっている階段を2階分くらい下っただろうか。突如視界が開け、広い空間が現れる。ここまでくると地上の光が届かず、代わりにロウソクのや松明の光が室内を照らしている。いよいよ、占い感が出てきたな。その広い円形の空間の中央にはテーブルが置かれ、そのすぐそばには、100歳は超えていそうなお婆さんが座っていた。顔には皺が深く刻まれ、白くなった髪が頭から垂れている。みなみちゃんがそのそばに歩み寄り、声をかける。


「お師匠様、お客様がいらっしゃっています。お師匠様、起きてください」


 しかし、お婆さんは寝てしまっているようだ。反応がない。そんなお婆さんを起こすために、ミナミちゃんがお婆さんの体を大きくゆする。いや、そんなに揺すったらまずいんじゃないかな。そんな不安をよそに、ミナミちゃんは容赦なくゆする。


 ねえ、やりすぎると死んじゃいそうだよ。


「師匠、お客さんだって! もう!  起きろ、ばばあ!」 

「誰がばばあじゃ、わしはまだまだ現役じゃ!」


 思った以上にはっきりした声で驚いた。顔を見ると老婆は目をかっと開いていた。


「お師匠様、お客様ですよ。職業占いをお願いします。」

「おお、そうかそうか。久々のお客様じゃのう。10年ぶりくらいかのう」


 いや、10年って久々ってレベルじゃないでしょ。


「いいえ、20年ぶりですよ。久々の占いですから、しっかりお願いしますね。」


 え、そっちの間違い? 20年に一度って生活成り立つのかな。


「占うのはそちらの男性じゃな。こちらの椅子に掛けてくれるか?」


 見透かしたようにこちらを見る。ナオの方を見ると頷いていたので、みょん婆の指示に従って椅子に座わることにした。近くによると見習いのミナミちゃんと違い、占い師としての風格がしっかり出ている。みょん婆、占いができるのに弟子の資質は占い損ねたのかな。


 俺が椅子にしっかりと座ると、みょん婆は呪文を詠唱し始める。特別な発音をしているようで、呪文は聞き取ることができない。呪文の詠唱は徐々に音を上げていき、そして、徐々に落ち着きを取り戻していく。5分くらいたっただろうか――


「どうか、この者に与えられし務めをお示しくだされ。」


 唐突に普通に聞き取れた。突然理解できる言葉が聞こえたことに驚き、みょん婆を見る。みょん婆は穏やかに笑い、下を見ろと目で合図する。すると、目の前にはカードが現れる。いつのまに現れたのだろう。


「さあ、カードをめくるのじゃ。そこにおぬしの職業が書いてある。じゃあ、ドラムロール、スタート」


 ドルルルルル……という音が流れ始める。音のする方をみると、ミナミちゃんがドラムを叩いている。


 いや、それって必要か? それとも儀式の一環なのかな?


 20年ぶりの仕事に張り切っているのか、ミナミちゃんは真剣な顔をしている。そんなことを考えていると、その叩く間隔が徐々に短くなっていく。さすがに緊張してきたな。そして、その間隔が最大限まで短くなった瞬間、シンバルの音が鳴り響く。ここで捲れということだろう。後ろで見ている2人も黙ってその様子を見つめている。俺は意を決してカードをめくる。


 長方形のカードには、中央の四角い枠内にイラストが描かれている。そこに描かれた男は、麦わら帽子を被り、健康的な日焼けをしている。質素な服に片手にバケツ、もう片方の手には鍬が握られている。イラストの四角い枠の下には文字が書かれている。


「結果が出たのう、おぬしの務めは農民じゃ」


 そう、そこに掛かれた文字は「農家」の2文字だった。


「ねえ、ミナミちゃん前よりひどくなっていると思わない?」

「そうだな。夜な夜な接客練習する声が聞こえてくるって聞いたことがあるし、孤独なシミュレーションが暴走しているんだろうな」

「それは、可哀そうね……今度、何かイベントに誘ってあげましょう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ