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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第5章 『新米農家 国を救う(前編)』
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5-2.ギルド本部


 ヴェリトス州のシャルルに向けて、ジャックとマナミと俺の3人で馬車に揺られる。今回の旅では、マナミが御者をしていた。前回王都に行った時と同じように、ヴェリトス州のシャルルを抜けて王都エルディアに向かうルートのようだ。


「ギルド長会議って外交の場なんだよね。ジャックを連れているのはなんで?」

「交渉だけで結論が出なかったときのためだな」

「えーと、決闘決議のこと?」


 イトウが以前話していたことを思い出す。


「サトルさん、その通りです。ほとんど無いのですが、万が一の場合のために参加してもらっています!」


 ところで、王都への旅はものすごく順調だった。俺が強くなったからだと思うじゃないですか? 


 いいえ、違います。マナミが恐ろしく強かったからです。


 ほとんどのモンスターを一撃で切り倒していましたからね。自分が強くなったというのが錯覚だと思ったよ。


 最初は俺も馬車から出て補助しようとしていたのだが、ジャックに止められた。


「この辺じゃ、サトルが出る幕は無いと思うぞ。」

「え?」


 そんなことを言われて、ジャックの方を振り返り、そしてマナミの方に目線を戻すとモンスターはすでに消滅していた。いや、いったい何が起こったの?


 その疑問はすぐに解決することになった。そのすぐ後にキメラが現れたからだ。


 え? これやばいんじゃないの? ナオとイトウも苦戦していたけど。


 しかし、マナミはナオとイトウが2人かかりで対応していたキメラも一人で倒してしまった。サポートする時間もなかった。一瞬で距離を詰め、連続攻撃であっという間に倒していた。


 上には上がいるってことね。調子に乗ってすみませんでした。


「まあ、モンスターとの戦闘では、戦闘タイプの人間の方が有利だ。短期決戦で勝負が決まるからよ」


 なるほどね。確かに戦略が無いモンスターには、直球勝負の方が良いのかもしれない。マルロもきっと冒険の中でそういう風に洗練されていった結果、直線的な戦闘スタイルになったんだろうな。


 王都エルディアに到着すると、てっきりヤマネコに向かうかと思ったのだが、別の場所に向かっているようだった。


「あれ? ヤマネコに行くんじゃないの?」

「まずはギルド本部に向かっています」

「ギルド本部? 王都にあるの?」


 確かに、サミュエル州もヴェリトス州もギルドの拠点をギルド支部と呼んでいた。ギルド本部は王都にあったのか。


「そうです! 王都にギルド本部を置くのが一般的です! 他のギルドと共有の大きな館があるんですよ」


 各州のギルドには、必ず外交部隊があり、彼らは王都に常駐している。話を聞いていると、そういうことのようだった。エリーやマナミがバーニャにあまりいない理由に合点がいく。


 ギルド本部は、王都の西側に存在していた。城壁と中央区のちょうど中間くらいの位置だ。灰色の石造りの建物は、所々が雨風に晒されていて歴史を感じさせる。かなり大きな建物だった。


 中央の門からエントランスホールに入ると、ナオとエリーはソファに座っていた。俺たちのことを見つけると立ち上がってこちらにやって来た。


「来たわね! 3人ともお疲れ様」

「よ! サトル、お疲れちゃーん!」

「お疲れ様です」

「やあやあ、ジャック。げんきー?」

「元気っすよ」

「うーん、最高ね。マナミ! また一人でモンスターの処理をしていたの~? マジであんた強いよね。あたし、いつも助かってる~」

「ありがとうございます! お役に立てて何よりです」


 エリーさんはとてもフレンドリーな人だ。すごい勢いでみんなに話かけている。話し方が軽いのと語尾を伸ばすのが気になるが、中身はしっかりしている。


 そのマシンガントークの嵐を縫うように、ナオが紙の束をこちらに渡してくる。


「これが明後日の会議のアジェンダよ。今夜はレセプションがあって、明日は事前準備の時間ね。それから明後日がギルド長会議の本番というスケジュールね」


 受け取ったアジェンダは、こんな構成になっていた。


<アジェンダ>


1.上申事項

2.協定事項

3.支援要請


 その後に、今回の会議での議題が連なっていた。例えば、上申事項であればこんな感じだ。


表題:州境地域における共同警備について

起案:コノスル州

内容:境界地域における犯罪が頻繁している。

   原因は地方自治法における完全分離主義によるもの。

   法令改正により、境界地域の共同警備を可能にして頂きたい。


 なお、上申事項は中央に対する依頼事項のことだ。これは、同席した中央の局長がその場でOKを出すか、保留として後日回答とするか、否決するかの3パターンとのこと。


 次に、協定は州間の取り決めのこと。その詳細は事前準備の段階で話をするとのことだった。基本的には当日議論になることは無く、事前の交渉で結論が出ているケースが多いとのことだった。


 そして、最後に支援依頼が最も揉めるセクションとのことだった。


「基本的には、各州で責任を持って政治を運営すべきところ、他州に支援を依頼するのだから揉めて当然よ」

「それねー。簡単に言っちゃえば助けてー、っていうね。マジ無茶振りの時も多いから」


 そのままの流れで、第12ギルドの本部の部屋に向かう。3階の一画が割り当てられているとのことだ。その部屋に向かって階段を上っているときに、ドワーフと思われる毛深く、少し背の低い男たちが立ち話をしているのが聞こえる。


「あの野蛮人ども。知恵の無き者が政治をするなど、言語道断だ」

「全くだ。奴らとは全く議論にならない。外交というものを理解していない」

「今回もダボリス州の奴らとは関わらぬようにしよう」

「ああ。奴らは戦闘だけには優れているからな。余計な摩擦は避けよう」


 そんな会話から州間の関係性が必ずしも良好という訳ではないことが伝わってくる。


 さて、3階の一画には第12ギルド/サミュエル州という看板のかかったドアがあった。ドアを抜けると何人かのギルドのメンバーが机に座っていた。エリーとナオを見ると立ち上がって挨拶する。


「お疲れ様です!」


 一斉に立ち上がって挨拶をしてくる。


「うーん。やっぱりギルド本部の空気は苦手ね」

「仕方ないっしょ~。他の州に規律と威厳を見せるためだし~」

「あ、そうだ。アジェンダはギルド会館からは持ち出せないから、ここに置いていってね」

「ナオとあたしは話があるから~、3人はヤマネコに行っときな~。超疲れたっしょ」 

「そうね。レセプションは19時からだから、半日くらいはあるはずよ」

「分かりました! ジャックさんとサトルさんを連れてヤマネコに行きますね」


 そういって、ギルド本部を後にしてヤマネコに向かう。


 ヤマネコは相変わらずリラックスの出来る落ち着いた雰囲気だった。王都で唯一心を落ち付けられる場所かもしれない。


「いらっしゃいませ。ジャックさん、マナミさん、サトルさん。お待ちしておりました」

「よ! ご主人」

「お久しぶりです。お元気にされていましたか?」

「ええ、お陰様で」


 ヤマネコのご主人は笑顔で答える。この好感の持てる笑顔に、落ち着いた宿の雰囲気は王都でありながら、バーニャにいるような錯覚を覚えさせる。


「いつも通り、レセプション用の正装をご用意しております。皆様の部屋のクローゼットに掛けてありますので」


 さすがに正式な外交の場ということで、正装する必要があるとのことだった。レセプションの30分前に集合することになった。



 時間になったのでヤマネコのロビーに向かう。ジャックが先に出てきていたようだ。


 正装をしたジャックはとても様になっていた。長身にひげを蓄えて日に焼けた肌。がっちりした肩幅は迫力がある。交渉でも引かないタフなネゴシエーターという感じだろうか。


 俺の服装は貴族がきるような装飾の多いものだったが、ジャックの正装は装飾が少なく、黒い外装に白の肌着というスタイルだった。いつもは斧を背負っているが、今日は剣を腰に差していた。いつもよりシュッとして見える。


「ジャック、カッコいいじゃん」

「だろ。あ、ちょっと小便してくる」


 いや、訂正。


 中身が伴わないとだめだ。部屋を出てくる前に行ってこいや。ジャックにカッコいいなんて二度と言わないようにしよう。俺の人を見る目が疑われるわ。


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