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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第5章 『新米農家 国を救う(前編)』
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5-1.秘密のやり取り

 明日の更新は難しいと思います。すみません。


 俺の手の中には手紙がある。リンドールさんからの手紙だ。


 白鯨の館のリンドールさんが野菜の買い付けのために、定期的に商隊を派遣してくるのだが、その商隊のリーダーから必ず分厚い封筒を渡される。


 その封筒には、次回の買付予定という手紙が入っている。


 そこには、おおよその購入数量と時期が書かれているので、その時期に合わせて収穫した野菜の一部を取っておくようにしているのだ。今のところ、こうした取り置きはリンドールさんだけにしている。生産数量が需要に追い付かないからね。


 加えて、植え付けから収穫を見越して、半年後に購入したい野菜なども書いてくれている。それに合わせて野菜の植え付け計画も立てている。この辺りの計画はマルロに一任している。彼は生産予定表などというものを作っていて、誤差まで予想しているのだ。誤差の予想ってどうなのと思って、そのことを聞いてみたことがある。


「いや、誤差の予想って変じゃない? 誤差が出るのが前提だし」

「いいえ! 誤差まで予想しておかないと、予想よりも生産量が少なかった時にお客様への販売が出来なくなります。これは必要なプロセスです!」


 そう怒られてしまった。これだと、どっちが経営者だか分からないわ。まあ、頼りがいがあってよろしい。


 農園については、ハルがしっかりとやってくれていた。相変わらず、ぎゃあぎゃあ言っているが、最近はコツを掴んできた様子だった。植え付けから収穫までのサイクルを全て任せることが出来ている。


 そして、何よりミナミちゃんだ。ミナミちゃんは、あの一件以来著しく成長していた。出来ないことはしっかりと周りに聞いて頑張っていたし、販売関係では相変わらずの商才を発揮していた。もはや、ミナミちゃんに固定客が付いているのではないかと思える時すらある。


 いや、野菜が美味しいんだからね。そこだけは譲れないのだ。


 ミナミちゃんの成長については内面もそうなのだが、実は外見も中学生くらいの見た目になってきていた。急に成長し始めたので正直に言うと戸惑っている。このまま、あっという間に大人になるのかな? 途中反抗期とかあったりしたら嫌だな、と親の心配が募る今日この頃だ。


 そんな農園のメンバーたちの力を借りて、農園の主の俺には暇な時間が出来ていた。その浮いた時間を新しいビジネスを考えることに充てることが出来ている。


 目下の課題は、野菜の生産数量を増やし、他の州への流通させていくことだ。生産数量を増やすには人を雇えば良いのだろうけど、錬成でしか野菜を作ったことが無い人が、昔ながらの農業に耐えられるか分からない。それに、いい加減な仕事をする人が出てきて、野菜の品質が下がるのも避けたいしな。そんな懸念があって、農園の拡大に踏み出せずにいた。


 そんな経営的なことも考えながら、ビール造りに始まり、ワインの調査などもしている。ワインの産地はサミュエル州ではないようで、王都に行かないと情報が手に入れられそうになかった。こっちの調査は、自分が飲みたいだけだけど。


 と、話が脱線してしまったが、実はリンドールさんの手紙には他の秘密がある。そのことに気付いたのは、初回の手紙の最後に意味ありげなメッセージが書いてあったからだ。


<白い皮の果実の中には、しっかりと実が詰まっている。しかし、本当に美味なのは皮のすぐ内側。それを知る者はごく僅かだ>


 正直、リンドールさんに直接会っていなかったら、そこに意味があることにすら気づけなかったと思う。美味しい果物の食べ方かな? と最初は思ったくらいだ。しかし、その人柄に触れたからこそ、その言葉に意味があると直感的に分かった。


 そう、この封筒、分厚い紙でできているのだが、実は厚紙ではなく2重になっているのだ。その隙間に別の手紙が入っている。


 そこに隠された手紙は、シュンスケからの手紙だった。


 いつも用件だけを書きなぐっている。きっと白鯨亭で時間の無い中で書いているのだろう。簡単な近況のみが記されている。


・もうすぐ昇進できるかもしれない。順当にいけば室長だ。

・誰かが出世すると、上席が誰かしら解任される。その行く末は誰も知らない。

・読んだら処分すること。


 とは言え、こちらから返事をすることは無い。そもそも用件が無いし、危ない橋を渡って、また中央に呼び出されるのはごめんだ。


 あくまでも俺は農家。拠点は農園なのだ。


 ということで、読み終わった手紙はすぐに暖炉で燃やした。何となく、小屋は俺の専用のスペースになっていたので、用事がある人以外は入ってこなくない。ログハウスの方はまだ部屋がたくさんあるので、狭い小屋に何人も住む必要がないのだ。

 

ピコン


 そんな時、突然回覧板が鳴った。画面を見るとメッセージが来ている。


ナオ  「ギルドに来て」

サトル 「何で?」


 でも、なんの用事だろう? 試飲会でマルロとの戦闘を見せたから、また勧誘でもされるのだろうか。絶対にギルドには入らないと言ってるんだけどな。


 しかし、残念ながら、そのコメントにリアクションは無かった。最近購入した馬に乗ってバーニャの町へと向かう。



 バーニャの町に到着すると、真っすぐに俺を呼び出した張本人のナオの部屋に向かう。


「よく来たわ、サトル」

「なんの用事?」

「王都に行ってもらうわよ。ギルド長会議があるの」

「ギルド長会議?」

「ギルド長会議は12の州のギルド長たちが一堂に会するイベントよ。年に2回開催されている。そこで、各州間の決め事を議論する。平たく言えば外交の場ね」

「はあ」


 でも、俺が行く意味がないような気がする。


「私はエリーと一緒に先に行っているわ。サトルは明後日出発ね」

「ちょ、まだ行くって言ってな……」


 言い切る前に部屋を出て行ってしまった。バタンと扉が閉じた。と思ったら、再びドアが開く。開いたドアの隙間から、ナオが顔を出して声を掛けてくる。


「そうだ。あなたの移動にはジャックとマナミが同伴するから安心してちょうだい。農園で準備して待っていてね!」


 いや、強引すぎるでしょ。こっちの意見も聞いてほしい。


 しかし、まあ、行かないわけにも行かないか。王都でワインについて調べるいい機会かもしれないし。


 そのまま馬に乗って農園に引き返す。農園に到着すると、ハル、ミナミちゃん、マルロに王都にいくことを伝える。すると、思わぬところから意外なリアクションがあった。


「お師匠様、また、農園からいなくなってしまうのですか?」


 そんな寂しそうな声を出すなんて珍しいな。何かあったのかな?


「ごめんね、ハル。農園をよろしくね」


 ハルは寂しそうな顔をしていたが、気持ちを切り替えたのか、明るい表情で答えた。


「はい。しっかり農園はお守りします。この命に代えても……」

「いや、だから命はかけなくて良いから。あと、出発は明後日ね」

「師匠! また2週間くらいですか? 私がばっちり農園を拡大しときますね!」

「うん、頑張ってね。よろしく!」


 いや、だから拡大計画はないから! 


「良いワイン農家さん、見つかると良いですね」

「ありがとう」


 さすが、マルロは良く分かってくれている。それだけが、今回の旅の楽しみかもね。



 もしかしたら迎えが来ないんじゃないか、と淡い期待をしていたのだが、残念ながら迎えの馬車は来てしまった。


「よう。迎えにきたぞ」

「うん、ありがと」


 いや、ありがとうじゃないわ。ナオに強制的に招集されている立場だった。


「サトルさん、大丈夫ですか?」


 よほどひどい表情だったのだろうか、マナミが声を掛けてくる。


「うん、大丈夫だよ。気遣いありがとう。じゃあ、行こうか!」


 そういって、迎えに来た馬車に乗り込む。今回の旅はきっと順調にいくだろう。なんせ、俺も強くなったしね! 農園のメンバーは姿が見えなくなるまで、手を振ってくれていた。

 

 そんな感傷をよそに、馬車はあっさりと森の小道を抜けて、街道へと出る。二回目の王都への旅が始まった。

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