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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第4章 『新米農家の帰郷、そして……』
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33/90

4-5.農園のカリスマ経営者


 ある日の朝——


 ドンドンドンドン


「すみませーん!」


 朝からうるさいな。流石にうるさすぎるので、とりあえず小屋のドアを開ける。


「サミュエル新聞社のリーカです。取材させて……」

「あ、新聞は取らない主義なんで」


 そう言って扉を閉める。よーし、二度寝するぞー


 ドンドンドンドン


「すみませーん!すみません!」


 うるさいうえにしつこい! 耳を布団で塞ぎつつ、ベットに丸まる。


 居留守、いや留守は装えてないけど、を決め込んでいると、異変に気付いたハルが外に出てきたようだ。


 リーカはハルを見つけるとそっちにターゲットを変えたようだ。


「あ! あなたは農園の主のカッパさんですね。取材させて下さい」

「ひいいい、どちら様ですか?」

「サミュエル新聞社のリーカです。最近話題のカッパ農園の取材に来ました。農園のカリスマ経営者、サトルさんについて聞かせてください」


 いや、色々おかしい! 流石に我慢できずに外に出る。


「あ、カリスマ経営者のサトルさん!」


 色々とおかしいから。カリスマ経営者という肩書なんて名乗ったことはないぞ。とりあえず、相手にしても仕方ないので、あしらうことにする。


「取材は受ける気は無いので帰って頂けないでしょうか?」

「いや! 記者たるものネタを掴まずに帰るわけにはいきません!」

「は、はあ」

 

 真面目かよ! でも、面倒だな。帰ってくれないかな?


 そこで、ある閃きが頭をよぎった。よしよし、しつこい記者さんにはこのくらいの対応で良いだろう。


 とりあえず、一度小屋の中に案内し、リーカの持つペンとメモを机に置かせて、タオルを渡す。相手にしないで済むうえに労働力にもなるという一石二鳥の作戦だ。

 

 そういうのは、自分で体験すれば良いのだ! ネタは足で稼げ、だ。

 

 鍬を持たせて、新しい区画を耕す作業をやってもらう。本当は重力操作を上手く使って、鍬を持ち上げる時は軽く、下すときは重くするというテクニックがあるのだが、それは教えなかった。決して嫌がらせではありません。これは、部活動で最初に素振りだけをさせるようなものなんです。フォームを正しく習得するための手続きです。


 まあ、小さいミナミちゃんが普通に農作業できていることから気づけるだろうくらいに思っていた。



 午前中の作業が終わったところで、リーカに声を掛ける。彼女は疲れた表情をしていた。あれ? 最初から最後まで力任せに作業していたのかな? すこし悪い気持ちになる。でも、これで二度と取材には来ないだろう。よしよし。


 リーカは作業を通じて色々と気付いたようだ。満足そうな表情をしている。


「ありがとうございました。きっと素敵な記事にしますね」

 

 帰り際に、そう礼儀正しく挨拶する。


「出来れば記事にしないでくださいね。あと、もう取材には来なくていいですからね。次は野菜を買いに来てください」

「はい、必ず購入させていただきます」


 そういうと、リーカは森の小道を抜けて新聞社に帰っていった。



 そんな事件から数日後、たまには市場に行こうという事で、ミナミちゃんと一緒にバーニャの町に向かう。最近は、野菜の販売は専らマルロとミナミちゃんの仕事になっていたのだ。でも、たまには市場に行って、買ってくれる人の姿を見ておかないとね、と思ったのだ。


 久しぶりに市場に行くと色々な人に声を掛けられる。野菜を通じて、かなり知名度が上がってしまったようだ。


「お、サトル、元気か?」


 そんなフレンドリーな挨拶をしてくる人が多い。正直に言えば悪い気はしない。自分が作った野菜が評価されているということの裏返しだからね。


 でも、そんなフレンドリーな挨拶の中に、少し気になることを言ってくる人がいた。


「よっ! カリスマ経営者!」

「野菜のない人生なんて、楽しくないよな!」


 そのフレーズ、どこで広まってるの? 誰も名乗っていないんだけど……あと、野菜の無い人生なんて、って何? 流行語か何か?


 ところで、市場での野菜の売れ行きは今日も好調だった。予定よりもはるかに早く売り切れてしまったので、ギルドに寄ることにした。


 ギルドに入ると、なんだかみんなの視線が生暖かい。何となく、いや、すごく嫌な予感がする。


 ナオのいる部屋に入ると、ジャックとナオがいる。俺の顔を見ると、二人ともそろって笑いを堪えたような表情をした。いや、ジャックは吹き出していた。


「2人ともどうしたの? 俺が何かしたかな?」


 ジャックはそれを聞くと下を向いてしまった。肩を震わせている。相変わらず失礼な奴だな。人の顔を見て笑うとは……


 そんなことを思っているとナオが新聞と思われる紙を無言で突き出してくる。そこには、こんな記事が書かれていた。


<カリスマ経営者の一日>


 何だこのタイトルは? まさかリーカが書いたのか?


<わが紙の特派員であるリーカは、最近話題のカッパ農園に潜入し、その秘密を探って来た。これはその記録である。>


 いや、何この週刊誌感。すごくまずい気がする。


<カリスマ経営者の朝は早い。朝は日の出と共に目覚める。

 取材を申し込んだ私に対して、カリスマ経営者は無言でタオルを渡してきた。実際に体験してみろということだろう。指示に従っていると、これから野菜を植える区画を耕すように指示された。この作業が恐ろしく体力を使う。筆者は絶対に農業をしたくないと思った。>


 おい、リーカ! そんなこと思ってたのか!


<しかし、これだけ野菜が売れているにも関わらず、サトル氏は自分で農作業をしていた。野菜の収穫から種植えまで、すべてをこなしている。この農園の主であるカッパのハル氏に作業を任せて、自分は経営に集中すればいいはずなのだが、サトル氏はこのようなことはしない。


 この現場主義こそ、サトル殿をカリスマたらしめているのだろう。私に農作業を経験させたのも、そうした現場主義の考えを無言で教えてくれたということのようだ。>


 いや、違うよ。割と嫌がらせに近い気持ちだったからね。


<カリスマ経営者は、最後にこう述べた。


 Life without vegetables is not my life!

 野菜の無い人生は、我が人生とは呼べない。


 カリスマ経営者は農作業を終えると満足げに農園を眺め、そして無言で頷いた。>


 おいいい、なんだこれは?


「おい、サトル。何だこのセリフは。ヤベー、面白すぎる」

「サトル、これは、ウケ狙いよね。最高のジョークよ」

「ちょっと待って! こんなこと言ってないぞ!」


 さては、あの記者勝手に作ったな。そう思っていると予想外のところから犯人が現れた。


「はーい。私が記者さんにステキなセリフを教えておきました! カリスマっぽいセリフじゃありませんか?」

「え?」


 えっへんとミナミちゃんは腰に手を当てている。


 いや。ミナミちゃん、自分のしたことの重さに気付いて。でも、そういう真っ直ぐなやつは怒りづらいんだよね。語彙だけは大人、中身は子どもだからタチが悪い。


 しかし、何てことを吹き込んでくれたんだ。農園の経営者には変わりないんだけど、カリスマといういらない肩書までついて来てしまった。


 てか、このフレーズ、すごく痛いやつじゃん。


「現場主義は大切よね。私もそう思うわ」


 ナオがフォローするようなことを言ってくれているが、俺は、今まで一度も現場主義を意識したことなんてない。好きで野菜を作っているだけなのだ。こうやって、印象操作がされていくんだなあと他人ごとのように思う。


 しかし、二界がSNSのない世界で良かったわ。絶対炎上するやつだわ。


 この恥ずかしさをどう紛らわせるか……よし!


「ジャックには、今後一切野菜を売らない!」

「おい! 何でだ?」


 もう、これは決定事項なのだ。これは、決して腹いせではない。腹いせなどではないのだ。


 しかし、俺はその時、この記事の影響を舐めていた。このフレーズが、俺のほのぼの農園ライフを崩していくことを、この時は予想していなかった。いずれ、噂も風化していくだろうくらいに思っていたのだ。



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