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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第2章 『新米農家の意外な才能』
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2-7.いや、カッパ農園じゃないよ

今日はもう一話投稿したいと思っています。そこで第2章完結です。

 収穫祭から数日が経過した。バーニャの市場での初めての売り出しはというと――


 いやいや、スキップしたい気分ですな。市場での販売を開始したところ野菜の売れ行きは上々。評判はうなぎ登りだ。野菜のクオリティは俺が、いや王都の師匠が保証するとして、これだけ上手く商売をやっていけているのは、実は2人の弟子の力によるところが大きい。


「いらっしゃいませー! とっても甘いトマト、販売してまーす。試しに一口いかがですかー?」


 大きな声でミナミちゃんが街行く人に声をかける。元気の良いその声は、市場の喧騒の中でも一際目立っているようだ。その証拠にほとんどの人がこちらに目を向けている。そこですかさず、カッパのハルが人混みの中を走って、トマトを配って行く。


「お一つどうぞ。ぎゃぁぁ、ぶつかってしまってすみません!すみません!」

「何この子、可愛いわね。ペットにしたいわ~。連れて帰れないかしら?」


 駄目です。うちの優秀な弟子なので。


「あ、私は品物では無いので…すみません! 代わりにトマトをどうぞ!」


 そう言ってトマトを一切れ渡す。お客様が受け取るとすかさず。


「ありがとうございます!」


 ハルはそう言ってペコリと頭を下げる。確かにハルにはマスコット的な可愛さがある。これがものすごく洗練された動きをしていたら、絶対に売れない。例えば――


「マダム、おひとつトメイトはいかがですか?」


 とかね。絶対に嫌だわ。

 そんな下らないことを考えていると、また一つトマトが売れたようだ。先ほどのマダムがお買い上げの様子だ。


「あら、本当に美味しいわね。1つ買っていこうかしら?」

「ありがとうございます! こちらにどうぞ」


 ハルがお客さんを案内する。


「お姉さん! お目が高いですね~この味の違いが分かるなんて、洗練された味覚の持ち主の証拠ですよ」

「あらま、お上手ね」

「いえいえ、思ったことを言っただけです。それでは、2Gゴールドいただきます。また、ご来店くださいね~」


 この2人のコンビネーションたるや、バーニャの町で最強と言って差し支えないだろう。その証拠に周りの野菜売りが徐々に離れて行っている。商売にならないということなのだろう。


 正直、不安な2人だったけど、とても優秀な弟子を持ったらしい。ちなみに、この市場でのトマトの価格は1ゴールド。普通の2倍の値段を付けたのは、ナオのアドバイスに基づいている。曰く、このトマトなら3倍でも売れるわね、とのこと。

 

 ただ、お金持ちにしか買えない値段で売るのは嫌だったので2ゴールドに設定した。だって、少しでも多くの人に食べて貰いたいしね。それでもかなり割高なんだけど。


「ママー、このカッパ可愛いからトマト買ってー」

「だめよ、もうトマトは買ったから」

「えー、ママのケチ!」


 もちろんみんながみんな買ってくれる訳ではないのだが、カッパのハルが話題のきっかけになっていることは間違いない。こんな感じの会話が何度も繰り広げられていた。


 ところで、この世界に子どもはいないはずでは? と、最初は俺も不思議に思ったのだが、養子の制度があるようで、親子を見かけることはたまにあった。夫婦も結構いて、何だかんだで前世と同じように人々は生活している。よくよく考えると大人しか転生してこないというのは思い込みだった。


 でも、基本的には年を取らない世界らしいので、成長とか独り立ちとか、そういう概念があるのかはよく分からない。そもそも、ナオも子供の姿で転生してきたらしいし……でも、今は美人な大人の女性だしな。逆にみょん婆とか、あの姿で転生してきたのかな? まあ、その辺りのことはそのうち分かるだろ、と思って気にしないことにする。


 話がそれたが、農園の経営についてはなにもかも順風満帆だ。なんせ、作った野菜が市価の2倍で飛ぶように売れるのだから。ただ、1つだけ不満がある。


「さあ、『カッパ農園』の美味しいトマト。今バーニャの食通の間でも話題になっています。あの第12ギルドの頼れるリーダー、ギルド長のナオさんも絶賛しました」


 そう、農園の名前だ。

 いや、ちゃんと考えてはいたんですよ。『サトルの里』にしたかったんだけどなあ。自分の名前と悟るをかけて、しかもサトと里で韻を踏んでるのだ。我ながら良い名前だと思って、こっそり木彫りの看板まで用意していたのにな。


 でも、この町ではとても珍しいカッパの売り子に、ミナミちゃんの掛け声が合わさって、気付いたら『カッパ農園』の名前が浸透してしまっていた。カッパはないでしょ。ハル農園とかミナミ農園とかならいいですよ。これじゃ、どこかの寿司チェーンみたいな名前じゃん。


「その名声は王都にまで轟き、世界の食通を唸らせているとか!」


 あと、ミナミちゃん、過剰宣伝はやめてね。王都には轟いていないはずだよ。あんまり大げさに言って嘘だってバレるとまずいから。


「あのミュートレット州のドラゴンも愛した……」


 いや、ドラゴンはトマト食わんだろ。


「ミナミちゃん! ちょっと向こうで話そうか」 



 ミナミちゃんの過剰宣伝こそ不安の種ではあるが、初日の市場での販売は大成功だった。売り物の野菜はかなり多めに持ってきたのだが、昼前にはすべて完売してしまったのだから。ギルドのメンバーも何人か買いに来てくれて、この前の収穫祭の味が忘れられなくてさ、と常連客になってくれた様子だった。

 

 売れた野菜の数量に単価をかけて売上を計算する。市場ではその日の売上をギルドに報告し、その場で納税することが求められている。そうしないと売上金を使い切ってしまうことがあるから、とのことだった。


 ということで、集計した売上帳の売上総額を所定の売上報告フォームに記入して、市場の入り口にいるギルドの担当者に渡す。報告フォームの下の方には誓約文が記載されていた。


 私はバーニャ市場における売上につき、虚偽なく報告していること誓います。

 虚偽が判明した場合には、厳重な処罰が課されることを承諾致します。


 やっぱり、前世っぽいよね。まあ、嘘の申告をするつもりもないし、問題ないんだけど。


「お、こんなに売上が出たのか。これは他の野菜農家泣かせな記録だな~」

「いや、俺もこんなに売れるとは思ってなかったよ」

「じゃあ、税金を計算するぞ。サミュエル州の税制は累進課税になっているから、売上金額が高くなるほど税率が高くなるが、この売上だと最高税率まで行くだろうな……よし、計算が終わったぞ。この金額を払ってくれ!」


 そういって税額の書かれた申告書を渡してくる。その金額を見て目を疑った。


 はい? 40%くらい引かれてない?

 これ、確かに脱税してしまう人もいるだろうな。あと、累進課税なのにその日の売上金額に課税するってことは、一気にたくさん売るよりも、何日かに分けて売った方が良いということだな。少しでも低い税率で税金を払った方が得だろうし。


「これって、毎日売る量を調整しても大丈夫なの?」

「お、サトル、経営者の顔つきだな。それはもちろん問題ない。ギルドも分かってこの税制にしているからな。こうすれば、一日に大量に販売して他の町に行ってしまう行商人を抑制することができるだろ? そうすれば日用品の安定的な供給が実現できるということさ」

「なるほどね~」


 まあ、ギルドのメンバーにはお世話になっているし、税金を払うことは問題ないんだけどね。それにしてもあまりの高さに驚いた。



「ミナミちゃん! ハル! 税金の納付が終わったから農園に帰ろうか!」

「はい! お疲れさまでした」

「私の才能が全開な一日でしたね! 楽しかったです」 


 ミナミちゃんは満面の笑みを浮かべている。そうだね。商売の才能は間違いなくあったよ。


「今日は美味しいお肉を買って帰ろう!」

「やったー。私、肉大好です!」

「ありがとうございます! 今から楽しみです」





「ええー。嘘から出た誠ですよ。本当にすればいいんです!」

「いや、それって、嘘だって自覚してるからね。ってか、成功したら美談だけど、失敗したときはただの嘘つきだからね」

「いいえ! このトマトは絶対に売れます! ドラゴンも食べます! 私が保証します!」

「そ、そうか~。何だか大丈夫な気がしてきたわ」 いや、だめだろ。

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