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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第2章 『新米農家の意外な才能』
13/90

2-5.キュウリ泥棒

マックって無料でwi-fiが使えるようになったんですね~

ということで、仕事終わりにマックからの投稿です。

 翌朝、夜明けとともにギルド支部を出て、農園へと向かうことにした。昨日は畑に構えなかっただけに気になって仕方がなく、いても立ってもいられなくなったのだ。そんな訳で、まだ人の気配のない街道を歩き、森の小道を抜けて農園へと帰ってくる。気づくと早足になっていた。


 朝の日差しが強くなってきたので、農園についてからは森のふちを歩いていく。農園は森に囲まれているので、中央を突っ切らなければ日陰を歩いて家までたどり着けるのだ。農園の方を眺めながら歩いていくと、たわわに実った野菜たちが日差しを受けて燦燦と輝いている。昨日のギルドのメンバーの反応を思い出し、ニヤニヤしながら歩いていると、農園に異変が起きていることに気付く。

 収穫目前のキュウリ畑が荒らされているのだ。4~5本ほどの茎ではあるが、根こそぎ引っこ抜かれている。せっかく手塩をかけた野菜を……誰だ、モンスターか畑泥棒か、いずれにしても絶対に許さん!


 その時、ガサガサと何が動く物音が森の中から聞こえた。咄嗟にその方向に駆け出す。絶対に容赦しない。先の戦闘で自信を付けた俺に怖いものなんてない!


 その音のしたところにつくとーー


「ひいいぃぃ。お許し下さい。」


 そこには想定外の生き物がいた。全身が緑色の身体。亀のような身体で、頭には皿のようなものが乗っている。頭を抱えて丸まっている。その右手にはキュウリの茎が握られている。河童を現行犯逮捕だ、と思ったが違和感を覚える。あれーー


「ちょっと付いて来てくれないかい?」


 そう声をかけてみる。そもそも言葉が通じるかも分からないけど、さっき言っていることが分かったし、通じるだろう。


「え、はい、分かりました。」

「あと、キュウリは返してね!」

「はい、すみません」 


 驚いた様子ではあったが、キュウリを渡したうえで素直に付いてくる。と、そのとき、自分が剣を持っていないことやこの前みたいに火を起こそうにも水もないことに気づき、あまりの浅慮に自分に失望する。こんなことしていると死ぬぞ。これからは気を付けよう。


 そんなことを考えながら森を抜けだし、農園を抜けて、そのまま家に入る。家に入ると、河童を椅子に座らせる。


「まあ、キュウリでも食べて」


 そういって、河童から返してもらったキュウリを一本もぎりとって渡す。表面は深い緑色に染まり、表面に触れるととげが手に当たって少し痛い。新鮮な証だ。


 河童は一瞬だけ不審そうな表情をしたが、この状態で反抗しても仕方ないと思ったのか、渡されたキュウリを手に取る。そして、一口かじる。


 ぱきっ、とキュウリが折れる音がし、その後にポリポリと齧る音が聞こえる。その瞬間、河童がとても幸せそうな表情になる。河童のくちばしでは口角が上がったかこそ分からないが、すっと細まった目から美味しさに自然と笑みが溢れたのが分かる。河童がキュウリ好きなのは本当だったんだな。あと、意外と表情が豊かなことに驚く。さっきから見ていて全然飽きないぞ、この子。


そして、飲み込んだタイミングを見計らって河童に尋ねる。


「なあ、最近この農園を眺めてたのは君か?」


 実は最近、畑を耕しているときに人の視線を感じていたのだ。


「あ、すみません! とても美味しそうな野菜で見惚れてしまって。気付かれていたんですね?」

「いや、確信があった訳では無かったよ。何となく視線を感じていた程度だよ」


 てっきりギルドのメンバーが周辺を監視しているものとばかり思っていた。


「ところで、犯人はどんな奴だった?」

「え?」


 河童は驚いたような表情を浮かべる。


「君がキュウリを盗んだ訳じゃなくて、むしろ取り返そうとしてくれたんだろう? 畑の荒れ具合に対して、君の足に泥が付いていないし、盗まれたキュウリの茎は5本なのに、君は1本しか持ってない」

「すみません……ありがとうございます……」


 河童は目に涙を浮かべている。いや、泣かせるつもりは全然ないのに。表情が多くて楽しいとは言ったけど、泣き顔は含んでないぞ。


「私、この世界に転生してきてから人に優しくされたのが初めてで……」


 それから少しカッパのこれまでの話を聞いた。それは、よくよく考えて見るとこの世界の転生という事象の前提が覆るような話だったが、その時はそのことには気付かなかった。


「私は前世では人間だったはずなんです。記憶は無いのですが、人間の世界の常識もありますし、間違いないはずです」

「そうなのか!」

「でも、私は転生してきた時からカッパの姿でした。それなのに人間の世界に生まれてしまったから気味が悪いと思われてしまって……」

「なるほど」


 その辛さは容易に想像できるな。前世の知識が全くなければ、まだ救いもあるのだろうけど……


「そんなわけで気付くと町を追い出されてしまいました。それからは川の魚を取ったりして飢えを凌ぎました。この身体は泳ぐのには不自由しませんから、慣れれば普通に生活できました。適当な川を見つけて、河童が出たと噂になったら他の川に引っ越しの繰り返しです」

「そもそも河童はこの世界にたくさんいるのかな? そっちに合流することは出来なかったの?」

「それは試してみました。ただ、この世界では河童は低級生物のようです。つまり、人間のようにコミュニケーションは取らず、他の生物を襲いながら生きているということです。そもそも、コミュニケーションを取ることが出来ませんでした」

「そうなんだね……」


 人間にも河童にもなれず、か。転生してきて河童だったら、しかも、町から追い出されて一人になってしまったら……想像するだけで恐ろしい。まあ、そんなことを考えても仕方が無いんだけどね。ということで、話題を変えることにした。


「ところでカッパは魚とキュウリ以外も食べるのかな?」

「はい、基本的に何でも食べます。河童一般がそうか、までは分かりませんが……」 


 よしよし、これは実験台になってもらおう。自然にニヤリとしていたのだろうか、気づくとカッパは不安そうな表情を浮かべながらこちらを見ていた。



「よし! まずは、新鮮野菜のサラダからだ!」


 葉野菜にトマト、キュウリを程よい大きさにカットしてオリーブオイルと塩をかけたものを出す。


「美味しい! どの野菜も味が際立っていて個性が埋もれていません。シンプルな味付けがとてもマッチしています」


「そうか、そうか。よし、次は新鮮トマトのパスタだ」


 味付けは塩コショウと一緒にいれたベーコンのみのシンプルな一皿。


「わあ、トマトの甘さがベーコンの塩気にマッチして最高です。しかも、丁寧にトマトの皮が向かれているじゃありませんか!」

「君、なかなか料理を見る目があるようだね。よし、次は……」



 料理を作るといった時、河童は最初こそ遠慮していたのだが――


「いや、せっかく作った野菜を色々料理してみたくてさ。はっきり言っちゃえば実験台だよ」


 そういうと納得したように食べ始めた。一度、食べ始めてからは止まる様子が無く、気づくとテーブルいっぱいに空皿が並んでいた。河童は出した料理を律義にすべて食べていたので、とんでもない量を食べているはずだ。こいつ、なかなかに大食いのセンスがあるぞ。


「ふう。久しぶりに、こんなにたくさん、しかも美味しいものを食べました。美味しい食事をありがとうございました! ご迷惑はかけられないので、そろそろ失礼しようと思います。本当にありがとうございました!」


 そういって、立ち上がってペコリと頭を下げる。


「君は行くあてはあるの?」

「ありませんが、また人気のない川か池を探そうと思います。今まで通りです!」

「そっか。これから収穫の時期で忙しくなるし人手が多ければ良いなと思ったんだけど。」

「え?」


 こちらの意図を汲み取れないという表情になっている。


「行くあてが無いなら、うちで働かないかい? 食事と住宅付き。バイト代はまだ出せないけど、そもそも俺無収入だしね。でも、野菜が売れたら出来高制で払うよ。まあ、売れるか分かんないけどね!」

「いや、私カッパですよ。街の人から気味悪がられますし……それにほぼ見ず知らずの人間、いやカッパです。それを分かって言ってますか?」

「あんだけ美味そうに飯食う奴が悪い奴なわけないっしょ」


 さっきの食事の時の表情は、心からの幸せに溢れていた。農家としては自分が作ったものを美味しそうに食べて、感想を言ってくれる人が欲しいしね。しかも、キュウリや魚以外も食べるみたいだし。っていうか、これって偏見かな。


「その代わり、しっかり働いて貰うからそのつもりで!」


 カッパは少し考えている様子だった。色々な葛藤があるのだろう。それは異質なものとしてこの世界に生まれてしまったが故の葛藤で、俺にはその心中は計り知れない。しかし、顔をこちらに向け、意を決したようにこちらに目線を向けた。


「それでは、お世話になります。精一杯、お役に立ち、この農園を守ります。命に代えても。」


 いや、大袈裟だな。


「いや、畑泥棒が強そうなら命優先ね!」


 野菜を守って死なれたら後味悪すぎるでしょ。しかし、この子は責任感が強すぎるな。慣れれば大丈夫か……?


 うーん、このままっぽいな。


「そう言えば名前は? あと、俺のことはサトルと呼んでくれ」

「いえ、お師匠様と呼ばせて下さい!」


 そう決意したようにはっきりと言う。


「私の名前はハルキです。ハルと呼んでください! 弟子として頑張ります!」


 こうして、カッパの同居人、兼弟子が出来た。初めての収穫の時期はもうすぐだ。1人だと不安だったけど、ハルがいれば何とか乗り切れそうな気がする。

「イトウ、そう言えば、この前の泥棒はどうなったかしら?」

「すでに捕捉済みです。盗まれた金品に加えて、キュウリを所持していたため、余罪を追及しています」

「え、キュウリ?」

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