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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第2章 『新米農家の意外な才能』
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2-2.この世界の成り立ちとスキル鑑定

「それでは、これから3つのことを説明する。通常は時間をかけて少しずつ説明していくのだが、今回は特例だ。1つ目はこの世界の政治機構、2つ目はモンスターの存在、3つ目はスキル鑑定についてだ」


 農業に夢中になって気にしないことにしていたけど、正直この世界について何かを隠されていることには気づいていた。しかし、誰に聞いてもはぐらかされるから、聞いてはいけないものとばかり思って諦めていた。特に、2つ目だよ、あのスライムは何だったのか、ちゃんと説明してほしい。


「まず、この国の政治機構について説明する。この国の最大の政治的リーダーについてだ」


 何となくは中央という言葉を聞いていた。だから、その存在は認識してはいた。しかし、しっかりと説明を受けるのは初めてだ。


「それは中央の官僚機構、12の州を束ねる組織だ。なお、私たちギルドは官僚機構のもとに属し、このエリアの政務を代理している。自治領をイメージすれば概ね正しい。ギルドは中央に上納金を納め、その代わりに中央から援助や保護を受けている。なお、中央の官僚機構は王都エルディアに所在している」


「質問させてもらっても良いかな? 王都ということは王政が敷かれているということだよね? 王様が最大権力者ということかな? 絶対王政って言うんだっけ?」


「結論から言うと王というものは、“今”は存在していない。この世界の政治機構は何度か変革してきたが、今はギルドが12の州をそれぞれ自治し、官僚機構が12の州をコントロールするという仕組みになっている。中央は12州の間の公平性を保つことを目的とし、二界全体の平和を維持するために活動している。例えば、12州のうち1つの州が災害に襲われた場合、他の11州の資金、資源、人材を中央が分配して解決をする。その指揮を執るのだ」 それに続いて、イトウはこのような小話をしてくれた。


「例えば、村人が12人しかいない町があるとする。仮にその村人の全員が農家だとしたら、日照りが続いて作物が取れなかったときに全滅になってしまうだろう。しかし、半分が漁師で半分が農家だったらどうだろうか? 全滅という事態は避けられるはずだ。それでハッピーエンドとなればいいが、現実にはそうはならない。良く考えてほしい。漁師はそんな農家の危機に魚を快く農家に食料を渡すだろうか? 自分の食料を確保するため、あるいは商売のチャンスと捉えて、魚を高く売りつけたりすることが想定できるだろう。当然、良心的な人間も世の中にはいるが、そうではない人間もいる」


 なるほど。確かに一理あるように思える。


「ただ、長期的に見れば逆のことも言える。不漁の年などだ。だから、トータルで見れば両者得もするし、損もする。それゆえに、放っておいた方が公平だ、ということもできる。しかし、日々の生活に精一杯の人が、そんなことを考えることは難しい。そこで、中央が登場して両社の調整を図るのだ。例えば、こうした非常時に高い価格で魚を販売することを禁止することは容易に考え付くだろう。また、あるいは、魚を強制的に漁師から徴収して農家に分配する仕組みを作ることも出来る。こうして、その時々の資産を持つものと持たないものの不公平感を無くすことで、争いを回避するのが中央の役割だ」


「中央は長いスパンで見た時の富の分配を適切に行っている。その仕組みはとても公平で、非常に合理的だ。ただし、各ギルドが納得できる最大の理由は恣意性の入る余地が無い仕組みを築いているからだ。事実、二界の官僚機構では贈賄といった事件は起こっていない」

 

 なるほど。確かに前世では政治家などの権力者が力を行使して得できる仕組みになってしまっていた。それ故に税金を負担する側は損した気分になることもあったはずだ。しかし、公平に徴税した資金を分配していることが分かれば、納税する側も納得できるということか。でも――


「仮に中央の官僚組織が合理的な政治を執り行っているとしても、負担金が生じている以上は反乱が起きるリスクはあるように思うけど……各ギルドに一定の裁量を渡されているなら自由にやりたいと思うのが普通だし、その際に中央への上納金はギルドにとっては負担だよね?」


 税金を納めたことがある人は分かると思うが、無慈悲に引かれていく税金は、それが社会のためだと分かっていても損した気分になるものだ。特に使途が分からないとなおさらだ。


「なかなか鋭い指摘だな。その点に関して中央は先端技術を集約することで権力を高めるという戦略を取っている。例えば、この回覧板。遠距離であっても簡単にコミュニケーションが取れる。こんな技術は各州では確立できないから、各ギルドは反抗してこのような先端技術を失うことは避けたい。それゆえに中央に従うのだ。他にも色々な技術を有している」


 回覧板……ああ、スマホのことね。この世界にはなぜかスマホのチャット機能だけ残したような通信端末が存在している。俺は農作業に夢中になって町に行くのを忘れるので、一台持たされていた。しかし、普通は師団長以上しか持てない高級品なのだそうだ。


「厳密にはそんな単純な話ではないのだが、とりあえずはこれで十分だ。何か質問はあるか?」


「いいえ」 いや、気になることは色々とあるけど、とりあえずは良いかな。


「次にモンスターの存在についてだ。君はスライムに2回遭遇したと報告を受けている。しかし、二界には本当はもっと多数のモンスターが存在する。より強力なのもの含めてだ。それはオークであったり、ゴブリンであったり、あるいはドラゴンであったり」


 それそれ! それが聞きたかったのよ。っていうか、ドラゴン?


「君がそうした危険を感じずに生活してきたのは、ギルドが周辺のモンスターを掃討していたからに他ならない。君が遭遇したスライムは人間の居住区以外に多数存在する低級生物だが、本来は頻繁に遭遇するものだ。だが、新しく転生してきた君の周りは重点的に警備し、スライムも出現しないようにしていた。なお、バーニャの町の周辺では、スライムとゴブリンが多く生息している」


 なるほど、ギルドのお陰で平穏な生活が遅れていたのか。まあ、この点については薄々気付いてはいた。だって、街中で、このような会話を聞いていたから――


「このまえ、ケイのところの隊商がゴブリンに襲われたらしいぞ」

「なんてこった。うちも気をつけなきゃな」


 そりゃあ、おかしいと思いますよ。ゴブリンなんてファンタジーの世界でしか聞いたことが無いのだから。でも、正直ドラゴンまでいるとは思っていなかった。本当にロールプレイングゲームの世界なんだな。ドラゴン、見てみたいな。


「こうしたモンスターを倒すと経験値が蓄積され、レベルが上がる。レベルが上がるとその人間の能力が高まっていく。その説明をするために、最後にスキル鑑定について説明する。君の転生時のステータスが手元にある。これを見ながら説明しよう」


 そういって、一枚の紙を渡してくる。いつか見たマニュアルと同じ紙質だった。さらに、手書きの文字もいつか見たような几帳面なものだった。


スキル鑑定評価


サトル(Lv:1)


HP :20

MP : 1

腕力: 2

知性: 1


称号


 スキルについて聞いてみると、HPが体力のことでMPが魔法量とのこと。また、腕力は攻撃力に相当し、知性は魔法力に影響するとのことだ。能力がハッキリ定量化される仕組みのようだ。称号は一定の活動をすると得られるらしい。防御力に当たるステータスが無いのが気になるが、それより次のセリフが聞き捨てならなかった。


「ちなみに君のステータスは下の下だった。農民という職業が選ばれたのは妥当だろう。そもそも、この程度のステータスでは魔法の行使も難しいはずだ。さっきの話もどこまで信憑性があるのか。」

「なるほど」


 いや、農家舐めるなよ! 食料供給止めるぞ。


「なお、鑑定にはこの鑑定板を使う。このように対象者にかざすと……お、レベルが上がったようだな。スライムのおかげか。どれどれ、ステータスは――あれ、故障か? カーミン、別の鑑定板を持ってきてくれ」


 そういうとカーミンが慌てて部屋を出ていき、すぐに同じような板を持ってやってくる。


「よし、改めて鑑定しよう。やはりレベルが上がったようだな。ん……何故だ。ステータスの上がり方がおかしい。こんなことはあり得ない。なぜだ?」


 よく分からないが、イトウが混乱している姿を初めて見たよ。それだけで何となく得した気分になる。でも、何が起こっているのだろうか。

~1か月前~


「団長、どうしましょう。サトルさんがスライムに襲われたそうです」

「やべーな。ナオからは絶対モンスターに接触させるなと指示されているしな。いや、待てよ。黙ってれば、バレないんじゃね? 俺はやっぱり天才だわ。これは俺たちの秘密――」

「楽しそうな話をしているわね。詳しく聞かせてもらえるかしら?」

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