78話 エピローグ スージィ・クラウドの届け物
本日2本目の投稿です。
前の最終話を未読の方は、そちらからどうぞ~
2の紅月も上旬を過ぎると、随分と気候も暖かくなる。
後二ヶ月もすると、この世界に来て1年になるのかと思うと、ちょっと感慨深い。
その頃には夏の訪れも感じ始めるのだろうか?
この前コープタウンに来た時は、厚手のコートを着て来たけれど、今日は上着は必要のない暖かさだ。
来週にはもう、コリンとダーナの入学試験もある。
二人にはどうか頑張って挑んで貰いたいと思う。特にダーナにはね!ウン!
時間が経つのがあっという間なのは、何処にいても同じなんだなと、改めて思う。
ハワードパパの体調は、まだまだ当分は戻りそうにない。
エーテル体が元の様に定着するのには、まだ暫くは時間が必要なのだと思う。
それまでパパにはシッカリと休んで、療養をして頂かなくてはならない。
あれだけソニアママを心配をかけさせたんだからね!
お仕事などは当然禁止です!
最低でもひと月は、ソニアママに付きっきりで面倒を見て頂いて下さいね!!
そんなワケで、今わたしはハワードパパに代わってコープタウンまで来ている。
本当は、ご自分の手でお届けしたかったそうだけど、今は動けないのだから仕方が無い。
それでも、一刻も早くお渡ししたいと言う想いもあり、わたしが代りにお届けする事になったのだ。
もう既にマーシュさんの工房へお届を済ませたところだ。
お届けしたのはミスリル製のマジックワンドだ。大きさは手で持つタクト程の長さの物。
学校で魔法の研究会で使うタイプよりも、少し大きい物だ。
彼方此方が傷付いて少し凹んだり、僅かに曲がっているようにも見える。
受け取ったマーシュさんはそれを見て目を見開き。
「……そうか…………、これがあったのか……そうか…………」
そう仰ると、机の上に置いた其れを、いつまでも眺め続けていた。
このワンドは、昔マーシュさんが一人前になったばかりの頃、材料も自分で用意して、作り上げた物なのだそうだ。
黙り込んでしまわれたマーシュさんを、マリーベルさんにお願いして、わたしは静かに工房を後にした。
そう、あの日、黒岩で幾つかアイテムが回収出来ていた。
わたしはそれを、必要な方達にお届けする事を頼まれたのだ。
やはり、想いの篭ったアイテムは、想いを籠めた方にお返しするべきなのだろう……。
アイテムと言えば!
あの呪いのアイテムが、大変な事になっていたらしい。
イルタさんが、あの呪物を神殿へ運び込む前、村に到着してオーガストさんに報告を上げていた僅かな間に、一緒に戻られた事務方のクラークさん……だったかな?その方が1人で持ち出して、村を出てしまったと言うのだ。
なんでも、一刻も早く王都へ届ける事が、自分の義務だと仰っていたとか、なんとか……。
あんな危ない物、素人が触っていい物では無いんだけどねぇ……。
で、結局、コープタウンの先にある、マソムと云う街で……、マソムは嘗て、旧アムカム領に入る為の関所だった場所の宿場町で、今でもアムカム地方へ出入りする際の、税関の様な役割を担っている町だ。
……そこで、とても残念な形で発見されたそうだ。
そこには、恐らく……、恐らくらしいんだけど、あのフーリエ使節団代表も居たらしい。
何故、恐らくかと云うと、……その残骸しか見つかっていないからだ。
……まあ、アレが動き出したらそうなるよねぇ……。
とても残念な結果だけど、不幸中の幸いで、その惨劇はフーリエ代表達が居た部屋だけで済んだらしい。
その後、速やかに回収された呪物は、神殿庁が厳重に封印し、管理に当たっているという話だ。
フーリエ代表やクラークさんにはお気の毒だけど、事態がそれ以上大きくならなくて本当に良かったよ。
そうこうする内に、もう一つの目的地に辿り着いた。
店先から中を窺うと、商品を整理されている姿が直ぐ確認出来た。
するとアチラも直ぐわたしに気付き、笑顔を向けて来る。
「あら?クラウドのお嬢さん!いらっしゃいませ!今日はどうしたの?お1人?」
「はい。今日はお届け物に上がり、ました」
「あら?私に?なにかしら?」
相変わらずの魅力的な笑顔を振りまき、腰まで届く綺麗なブルネットの髪を揺らして、『昼下がり』の店長セシリーさんがコチラへ歩み寄って来た。
そう、お届けするお相手はセシリーさんだ。
わたしが小さな包みを差し出すと、セシリーさんは少し戸惑った様な顔をされたが、直ぐに受け取ってくれた。
そして、包んであった布を開き、顔を出したソレを見て目を見開いた。
「それは、セシリーさんがお持ちになるのが、一番良いと、ハワードパパが仰って、いました」
布の中から出て来たのは、古びたバングルだ。
「…………そう、御頭首は……いえ、ハワードは戻って来たのね?コンラッドもジルベルトも?」
少し声を震わせながら、セシリーさんが手元に視線を落したまま問いかけて来た。
「はい、皆さんご無事、です」
セシリーさんもまた、嘗てハワードパパ達とパーティを組まれていたお1人だ。
「あいつ等……、私にアイツの姿は見せられない、とか言ってたらしいのよ?……バカみたいよね?」
そのバングルは、その昔セシリーさんからロランさんに贈られた物だそうだ。
アムカムで、女の人から男の人にバングルを渡すのはどう云う意味なのかは、わたしも知っている。
セシリーさんは、手の中のバングルをキュッと握り締めると、そのまま上を向いてしまった
「ホント……、男って、ホントに皆んなバカ……」
上を向いたまま、セシリーさんはそう呟いた。
「ありがとう、クラウドのお嬢さん……。届けてくれて……、帰してくれてありがとう…………」
そう仰るセシリーさんに深く頭を下げ、わたしはそのまま静かにお店を後にした。
陽の光は暖かく、風が優しい穏やかさを運び街を吹き抜ける。
もう春本番だ。
いつもお読み頂きありがとうございます!
これにて2章は終了です。
この後幕間をボチボチと投下して、しばらく時間を置いてから3章を始めたいと思います。
3章は学園編です!
もう学園物で、キャッキャウフフさせたいんです!!(>ω<)
今まで、アムカムしか登場していなかった舞台を外に広げて行きます。
色んな種族出します!
ンで3章はバトルは無いです!3章にはね!!
あ、でも学園バトルはセオリーですかね?!
セオリーは神なので!!
ブクマ、ご評価本当にありがとうございます!
間違い無く活力を頂いております!!
まだまだこの後もスージィにお付き合い下さい!!!
この後に『2章登場人物』も投下します~