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【コミックス第1巻発売中!】女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!  作者: TA☆KA
第二章:イロシオの不死兵団

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73話 スージィ・クラウドの胸騒ぎ

お待たせしております!

ちゃんと主人公回です!!


でもやっぱり1.4万文字・・・。

やっぱ長いなぁ。次章からは、一話をもっと短くしようと心に誓う今日この頃でしたっ!

 ケティさんの召喚した風の精霊が飛ばした魔法が、前方に集団でいる魔獣達の首元を次々と斬り飛ばす。


 ミリーさんが、腕に装着した連射の出来る小型のボウガンで、魔獣の足元を撃ち、地面に縫い止め動きを封じて行く。

 走る馬の上から撃っているとは思えない、高精度の射撃だ。


 アリアが馬に跨ったまま、両手にトマホークを携え魔獣の群れに突っ込み、やはりその首元を片っ端から斬り落として行った。


「す、凄い……」


 ケイシーさんが、驚いた様に呟いていた。


 今、アリア達が相手にしているのは、『ミツ・マタ』と云う名の植物型の魔獣だ。

 脅威値は30

 1メートル位のでっかい球根みたいな胴体の上に、ウツボカズラの壺みたいな頭……かな?があって、その壺の中から2~3メートルも伸びる蔦で、獲物を捕らえて捕食する肉食植物だ。

 普段は動かないくせに、生き物の呼吸や熱、音に反応して胴体の下部にある、ぶっとい3本の根っこの様な器官を使ってズリズリと動き出す。

 それで人の歩く程の速さが出るらしいから、中々に侮れない。

 表面はヤシの木みたいな硬質の鱗状になっていて、フルプレートの鎧並に硬いらしい。


 ミツ・マタは球根みたいな胴体と、ウツボカズラの壺みたいな頭?を切り離すと……要するにコレが『首元』……、活動を停止する。つまり仕留められるってワケだ。

 まあ、表面がフルプレート並みの強度だそうだから、普通の人が簡単に出来る事じゃ無いんだろうけど……。

 それをサクサク斬って行くんだから、アリアはさすが10th(テンス)ってコトだよね!

 同じ事を出来てしまうケティさんの召喚も、勿論すごい!


「あ、あの蔦の攻撃を、あんなにいとも容易く……」


 聞けばケイシーさんは、昨夜村へ戻る途中、この蔦にしこたま打ち据えられたそうだ。


 森を進むレグルスが、このミツ・マタの群れに気が付いて、直前に迂回しようとしたのだけれど、何体かに阻まれ、蔦の攻撃を受けたそうだ。

 騎士団の『魔導装甲』は十分に役目を果たしたそうだけど、その衝撃はかなり大きく、何度か意識が飛びそうになったそうだ。


 そんな情報が事前にあったから、アリア達は先制が出来たんだけどね。



 アリアは、周りから凄いスピードで何本も飛んで来たミツ・マタの蔦を、目線も上げずブッシュでも切り拓く様に、ドンドン無造作に斬り落として行く。

 蔦の打撃は、ケイシーさんが言っていた様に、かなり重いらしい。

 その一振りで、2nd(セカンド)の人達だったら、5人位は平気で弾き飛ばされるって、アンナメリーが言ってた!

 更にその蔦には鋭い棘が付いていて、そこには強力な毒があり、蔦の一撃で毒なんかを流し込まれたら、人間なんかひとたまりも無いそうだ。


 でもミリーさんは、その動く蔦を片っ端からボウガンで射って、周りの樹木に打ち付け動きを封じている。

 ミリーさんの射撃能力も、いい加減凄いと思う。流石Aクラスチームのハンターだ。



 「敵は殲滅された様でございます。お嬢様、お疲れ様でした」


 アリアが投げたトマホークで、最後のミツ・マタの首元を斬り飛ばした所で、アンナメリーが馬を寄せてそう言って来た。

 『お疲れ様』と言われても、わたしは別に何にもやっていないんだけどね!ウン!

 とりあえず、フードの奥で頷いておく。


「この辺で、一度休憩を入れよう」


 アリアが馬に乗ったまま此方に来て、そう提案をして来た。

 わたし的には、このまま突き進んじゃっても何の問題も無い。

 寧ろ早く進みたい!と云うのが本心だ。


 森に入ってから、数日前からあった胸元のシコリの様な物が、ドンドン大きくなっている。

 ハワードパパ達が襲われていると云うのだから、尚の事心配するのは当たり前なのだ。

 本当なら、自分の身一つで、かっ飛んで行きたいトコロなのだけれど……。


「馬にも休憩が必要でございます。このペースでは馬が持ちません」


 そんなわたしの心情を見て取ったのか、アンナメリーが言葉をかけて来た。

 確かにレグルスも、随分息が上がっている。

 少し休ませて上げないとイケナイのは間違い無い。


 嘆きの丘を出て凡そ2時間、もう20キロ位は走っている筈。

 あと少進めば、わたしの探索圏内に入って捉えられるかも、と思い、少し焦れているのかもしれない……。


「この少し先に、前日夜営した場所があります!」


 ケイシーさんがそう教えてくれた。

 なんでもそこは、中継基地の予定地だったので、ある程度切り拓いてあるのだそうだ。


 ケイシーさんに先導されて着いた場所は、確かに広く拓かれた場所だった。

 ちょっとした体育館が立てられる位に拓かれたその場所は、テントを立てた跡や、石を積んだ竈もあり、確かにそこには人の居た温もりが残っていた。


 間違い無く昨日の晩、ここにハワードパパがいらっしゃったのだ。

 そう思ったら、胸がキュッと締まる様な気がして、思わず胸元に手を持って来ていた。


 そんなわたしに気が付いたのか、馬から降りたアンナメリーが傍に来て、レグルスから降りる様に促し、そのままわたしの手を取って降ろしてくれた。


 皆も其々の馬から降りていた。

 ミリーさんが荷物から折り畳みの飼い葉桶を取り出し、広げたその中に、ケティさんがウォーターの魔法で水を一杯に満たした。

 子供用プールほどの大きさの桶に、馬達は顔を突っ込んで、貪る用に渇きを満たしている。


 その姿を見て、馬達にどれだけ無理をさせていたのかを自覚した。

 ごめんレグルス、ごめんね……。

 夢中で水を飲むレグルスの身体を、ソッと撫でた。


「アタシ達も少し休憩を取る。ついでに、現地での段取りを決めておこう」


 アリアがそう言って全員を集めた。

 アンナメリーはその頃にはもう既に、竈でヤカンを火にかけ、お湯を沸かし始めていた。……サスガだ。

 まあこの辺りなら、そう強力な魔獣が居るわけでもないし、少し休憩を入れた方が効率が良くなるのは間違いない。

 わたしが警戒意識を緩めずに、周りを気にしていれば良いんだからね。

 そんな事を考えながらアンナメリーに連れられて、火の側に置かれた丸太に腰を下ろした。


「アンデッドの対処の仕方は、分っているわよね?」


 イルタさんが、全員が座った所で確認する様に聞いて来た。

 それに対して、皆がそれぞれに頷く。


 アンデッドとは、情念やら怨念と言った()()()()感情……、つまり澱んだアストラルがエーテルを巻き取り、物質(マテリアル)化した物。

 謂わば、残留思念が実体化した存在だ。


 そして、その実体化した身体を維持、活動させる為にその体内には、元になったアストラルで出来た霊的なコアがある。

 それは大抵、頭部や胸部に在る物で、それを魔力を籠めた攻撃で潰せば、アンデッドは現世に存在する事が出来なくなるのだ。


「唯一の救いが、今回の相手がアンデッドの集団である事よ」


 イルタさんが、全員を見渡しながら続けて行く。


「騎士団の神官のリーダーは、リサ・タトルだったわね?」

「リサを知っているのか?そうだ。彼女は我が騎士団の優秀なハイプリーストだ」

「王都で何度か顔を合わせた事があるの……。そうね、彼女は優秀な神官長だわ。知っての通り王都神殿の主祭神は、陽のソエルよ。七柱の世界神の一柱であるソエルは、太陽を司る女神。影の中に身を置く者は、その前に姿を現せない。その女神に仕える神官である彼女達が結界を張れば、アンデッドはそう容易くは近づけない筈……」

「おお!では皆はまだ無事なのだな?!」

「焦るなルーク!イルタは可能性の話をしてるんだ」

「……そうね、あくまで推測の域は出ないけれど……、未だに溢れたアンデッド達と行き会っていない以上、彼女達が結界で抑え込んでいる可能性は高いと思うの」


 マグカップに淹れたお茶を、アンナメリーが手渡してくれた。

 アンナメリーはその後も、順番に全員にお茶を配って行く。

 

「そして、わたし達が仕えるアムカム神殿の主祭神は地のテリル。同じく七柱の一柱であるテリルは、大地の全てを司る」


 イルタさんが、ザックの中から結界装置のコアを取出し、ご自分の膝の上に置きながら話を続けた。


「アムカムの地母神『大地のイエンナ』と、その姉神『冥界のキシュルナ』の母神でもあるテリルは、生と死と再生を司る大いなる女神よ。テリルの神気を帯びた結界は、死者を否応なく冥界へと引き戻すわ」


 コアを膝上に置く時に、はだけた外套から零れる様に、イルタさんの白い胸元が圧倒的な存在感を示しながら我々の前に突き出された。

 大人だ……。大人の物品だ!!

 この時、ルークさんとケイシーさんの目線が、同時にそこを捉えた事をわたしは視認している!

 まったく!真面目な話をしている最中だと云うのに、男どもと来たらコレだから!!

 ま、当然わたしもフードの奥から、その圧倒的な大人の持ち物から目は離していませんけど!なにか?


「だから、皆には敵を出来るだけ引き付け纏め上げて欲しいの。このコアを、シッカリと地脈とシンクロさせて起動が出来れば、半径1キロでは済まない広範囲で結界が展開出来るわ」


 イルタさんは膝上に乗せたコアに手を置き、魔力をゆっくり籠めて行く。

 起動に必要な魔力を、今の内に充填しておくのだそうだ。

 コアの中心に据えられたクリスタルが、淡い光を帯び始めた。


「そうなれば、結界内の敵はわたしが必ず全て鎮めて見せる」


 盤面周りのクリスタルも、一つずつ順番に光が灯るのを確認しながら、イルタさんは力強くそう言った。


「今回の敵は統率されている。そうだな?」

「は、はい!明らかに統率された動きで、波状攻撃を繰り返しておりました!」


 アリアの唐突な問いかけに、ケイシーさんが慌てた様に答えた。


「実際、これだけの数のアンデッドが、イロシオのこんな場所で湧く事自体が不自然なんだ。ましてやその大軍が移動するなんて……」

「本来アンデッドは、発生した土地から大きく移動できないのよ。確かに、時を経たモノなら違う土地へ渡る事もあるけれど……、それでも、1年や2年で動ける物では無いわ」


 そういえば前に、アンデッドの集団が居た場所があったのを思い出した。

 確か、結構雪が積もっていたから、今年になってからだったかな?


 拠点にしている水場から、北西に30キロくらい進んだトコにあった荒地だったから、今居る場所からは100キロ近く離れてるよね。

 そこは、500メートル四方に草木の生えていない荒れ地で、そこに100体ちょっとのアンデッドがたむろってたんだ、確か!


 なんだっけ……、確か『アンガー・リッチ』だったかな?それが頭で、ワラワラとゴースト系やら大小の骸骨やらが集まってて、『冬の怪談かよっっ?!!』って1人でツッコミ入れたんだっけ……。まぁ、それは今はどうでも良いんだけど!


 あの時の奴等も、確か荒地から外へは出て来なかったなー。

 結局、『ジャッジメント・ヘヴン』(アンデッド特攻の範囲攻撃)で、一掃しちゃったし。

 あれは派手だったんだよねー。

 1体1体が光の柱に包まれて、それが一度に100本以上でメッチャ派手だった……。


『クリスマスツリーみたい♪』

 なんてあの時は寝ぼけた事言っちゃったけど、今回はそう云う訳にもいかないし……。

 とりあえず、あんな派手になる魔法は、もしもの時の保険としては考えておくけど、目立つ事はしない様に言われているから、成るべく使わない方向で行かないとね。



「つまり『敵集団を率いる者達が居る』。それがアムカムの下した判断よ」

「アタシ達チームアリアは、結界を起動するイルタの護衛をしつつ、該当戦力を発見次第それを殲滅に向かう。アンタ達二人には、負傷者を含めた非戦闘員をイルタの周りに集め、戦闘可能な者には共に護衛に当る様、騎士団本隊に伝えて欲しい」


 わたしがマグカップに口を付けながら考え事をしている内に、アリアが騎士団のお二人に、現地での作戦を伝えていた。

 

「本隊と連携を取るのは当然だ、任せて欲しい。だが、待ってくれ。いきなり君達だけで正体の分らぬ敵に挑むのは無謀では無いのか?」

「だからこそ、だ!ルーク!敵の正体を見極めるのもアタシ達の仕事だ。尤も、騎士団が既に、敵の正体を掴んでいてくれれば面倒は無いんだがな……」


 アリアが騎士団の二人にそんな事を言いながらも、わたしに視線を送って来ていた。

 わかっています。要するに、その正体不明の敵を叩くのが、わたしの役目って事だよね。

 マグカップに口を付けたままアリアに頷くと、アリアも頷き返してくれた。


「アンデッドについて、もう一つだけ言っておくわ……」


 イルタさんが静かに話しを続けた。


「魔獣ならまだ良いわ。でも、『不浄な者共』の犠牲者もまた、魂が汚される……。それは、分っているわね?」


 イルタさんが、静かだけれど、厳しい面持ちで尋ねてくる。


 イルタさんが言う『不浄な者』とは、ゾンビ等の汚れた死体の事を指している。

 つまり、ゾンビの犠牲者はゾンビになると云う事だ。

 うん、まさにゾンビ映画!

『イロシオ オブ ザ リビングデッド』だね!



 まあ、真面目な話をすれば……。


 人が死ぬと、霊体や魂がその肉体から離れる。

 物質の情報体である霊体(エーテル体)は、時間の経過と共にエーテル流に還るが、魂は、その外殻たるマナスからコアが離れ、次のステージの準備に入る。


 ……この辺の事は、学校で魔法の勉強の一環として教わっているんだけど、詳しい事はわたし自身よく分ってない!

 大体、魂の領域とか未知の世界の話だものね!

 こう云うのは、イルタさんや、ヘンリー先生の様な神官さんの専門だからね!

 わたし達は、概略さえ知っていれば良いと言われてるワケです。


 で、この『不浄な者共』の犠牲者は、コアが離れた魂の外殻たるマナスを、汚れたアストラルで捕らえられてしまうのだそうだ。

 ヴァンパイアの犠牲者もそうなのだけど、マナスが捕らえられた魂のコアは、次のステージにも、来世にも進む事も出来ずに、その場に留まる事になる。

 魂の時計の針が、止まってしまうのだ。


 その針を進める為には、マナスを捕らえる仮初の肉体と、汚れたアストラルを破壊して、マナスを解放するしか無い。



「あなた方の仲間や友人が、たとえ犠牲者として目の前に現れても躊躇っては駄目よ。それを滅ぼす事が、その人の魂を救う事になるのだから……」


 悲しみを湛えながらも強い意志を籠めた眼で、イルタさんは騎士団のお二人に告げられた。

 その後、イルタさんはゆっくりと、わたしにも同じ視線を向けて来た。

 それは、もしもハワードパパが……と、仰りたいのでしょうか……?


 イルタさんの目が語る意味に気付き、わたしは身体の芯に、冷たい物が降りて来るのを感じていた。

 その事に気付いたのだろうか?アンナメリーがわたしの肩に、そっと柔らかく手を置いてくれた。



「……アリア」


 それまで瞑想をする様に瞼を閉じていたケティさんが、徐にアリアに向かって声をかけて来た。


「巣を見つけた。ココから南東に凡そ1キロ弱。少し大き目、恐らくオークの物。この子(精霊)が『豚臭い』と言っている」


 ケティさんの報告で、その場が色めき立った。


 ケティさんは召喚魔法で、この付近を哨戒していたのだ。

 それは『グリーン・ウィング』と呼ばれる風の精霊で、上空から周りを見渡すことが出来るのだそうだ。

 ちょうどドローンを使って、周りを俯瞰で見るのと同じような感覚らしい。


 でも、上空から見るだけなので、相手の詳しい数とかまでは分らないと言っていた。

 そこでミリーさんが斥候に向かい、正確な敵の情報を把握するのが、チームアリアの何時ものやり方なのだそうだ。


「どうしますアリア。確認しますか?」

「1キロ弱?そんな!昨晩野営した時には、そんな気配も報告もありませんでした!!」

(オーク)の巣なら確実に潰しておきたいが……、今は時間が無い。だが、数の把握はしておきたい」

「オークの巣程度なら何時でも潰せるだろう?今は放置で良いのではないか?」


 珍しく悩むアリアに対し、ルークさんがかけた言葉に女性陣が反応した。

 思わず突き刺さった冷たい視線に、ルークさんは一歩後ずさる。

 (オーク)に対する女の嫌悪感が、男には判んないのかしらね?!全く!


「ルーク。アンタは外のオークと同じに思っているかもしれないが、イロシオのオークは少し違う」

「外と?何が違うと云うんだ?」

「普通のオークの脅威値は『1』だ。これはヒヨッコの1st(ファースト)が、サシでやっても楽に倒せる相手だ」


 アリアが改めてルークさんに向き直り、強い眼差しを向けながら話し始めた。


「だがイロシオのオークの巣には、間違いなくキングが居る」

「なんだと?!」

「キングの存在で、オーク単体の強さも跳ね上がる。統率力も高く、必ずチームを組んで行動する。1チームの総合脅威値は20~30と見て間違いない。侮れば、痛い目を見る事になる」

「キ、キングがいるとなれば、いずれ群れは3桁を超すぞ!」

「そうだ。そうなったら討伐隊を組むしかない。放置すればロードも何体も生まれて来る。豚の巣を確認したら、速やかに駆逐するのも我々護民団の仕事なんだ」


 それになにより奴等は女の敵だからな! というアリアの強い言葉に、騎士団の二人を除く全員が大きく頷いた。


 前に学校でしっかり教えて貰ったけど、奴等(オーク)は本当に女の天敵なのだ!

 (オーク)は女性を苗床に仲間を増やす。

 あいつらは、女性が生きている間に留まらず、肉体がある限り凌辱し、苗床にし続けるそうだ……。

 死して尚女を辱め続けると云う、この世に於いて最っっ低の存在なのだ!

 あの時、巣ごと綺麗に焼き払って置いて、本当に良かったよ!!やっぱり『豚即斬』は間違いない!!!


「待って……。おかしい、動く物の気配が無い。……巣が……空?」

「カラ?動きが無いだと?確かにアタシ達がこの距離に居るのに、奴等が嗅ぎ付けて来ないのは可笑しいな」


 確かに、わたしもオークの気配は感じていない。他の魔獣の気配はあるけどね。


 なんでもオークの嗅覚ってのは凄くて、2キロも先の女性の匂いを嗅ぎ付けるそうだ。

 ヤダな、あの時木々の間からアイツらが現れた時の事、思い出しちゃったよ。思わずゾワッと来たヨ!ゾワワッと!!


 そんなわたしの様子に気が付いて、アンナメリーが心配げにフードの中を覗き込んで来た。

 ウン、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。

 そうアンナメリーに微笑むと、アンナメリーも安心した様に微笑みを返してくれた。


「今、巣まで降りてみたけど、やはり空。巣の中も荒らされている」

「他の魔獣に襲われたのではないのか?」

「……確かにそう云う事も珍しくは無いけどな……。よし!ミリー!豚は居ないかもしれないが、一応虫除けは使っておいてくれ!」

「お任せ下さい!既に焚いています!!」


 ミリーさんが、焚いた香木の入った小さな籠を、一人ひとりに配って行った。

 それを受け取ったチームアリアの皆は、外套で身体を覆い、フードをかぶり直す。

 イルタさんも胸元をシッカリ隠してしまった……チッ!

 そこの二人!!残念そうな顔をするな!!!


「アンタ達もそれを受け取ったら、マントで身体を覆い、そのキラキラした鎧をしっかり隠すんだ」

「なに?どう云う事だアリア?」


 アリアにそう言われたルークさんとケイシーさんは、良く分らないと言った顔で、アリアに問い直した。


「そのキラキラした格好は此処では危険だと言ってるんだ!昨日ここに泊まったなら、ウチの爺さんに何か言われなかったか?!」

「い、いえ!何も?で、でも……、この香木……ですか?この香りはジルベルト様がいつも、虫除けと言って焚いておいでだった物と似ているかと……」

「なるほど!さすがジルベルトの爺さんだ!『転ばぬ先の杖』ってヤツだな。相変わらず抜かりが無い!!」


 確かにルークさん、ケイシーさんの装備している騎士団の鎧『重機動魔導装甲ドグ・ラ・マッグ』は、森の中で改めて見るとキラキラしていて結構目立つ。全身磨き上げられている鎧だから、しょうがないって言えばしょうがないんだけどね!


 まぁ、森の奥まで進んで来たので、多少の汚れや、くすみは出て来てるけど、それでも白い。

 今はマントから肩を出して、鎧の全身が殆ど外に見えているので尚更目立つ。


「とにかく早くフードを被れ……!」


 そうアリアが二人を急かしていた。するとその時前方に、何かが炸裂する様な気配をわたしは捉えた。


 それは一直線にケイシーさんに向かい、大気を突き破りながら飛来した。

 しかし、ケイシーさんに届く前に、わたしは瞬間的に右手だけ伸ばし、それを空中で指先で掴み獲る。位置取りもバッチリなので、右手だけで身体は全く動いていない。

 でもその瞬間、タオルを振り切った時に鳴る様な派手な破裂音を、その場に盛大に響き渡らせてしまった。


 ほぼ目の前で起きた衝撃に、ケイシーさんと、その後ろに居たルークさんが目を見開いた。

 ケイシーさんは、広がる衝撃のあおりを受け、その顔の皮膚が揺れ波打つ。

 一拍遅れて、どこかで聞いた覚えのある乾いた破裂音が響いて来た。


 やがて、音速で飛来した物体が押しのけた空気の層が、わたし達の居る場所まで遅れて届き、小さな風を巻き上げる。

 わたしは、風でフードが捲れぬ様に注意しながら、右手で掴んだ物を確認した。


 指先に摘まれ、そこから逃れようとモゾモゾ蠢いているのは、やっぱりコイツだ『ブレッドビートル』。

 久しぶりに、見たくも無い懐かしい相手を見て、思い出したくも無い過去が甦って来たので、このまま潰してやろうかと指先に力を入れようとしたら……。


「待て!潰すな!!」


 と、アリアが止めに入って来た。


 なして? と怪訝にフードの中で小首を傾げると、アリアに呼ばれたミリーさんが、慌てた様に走って来てガラスの小瓶を差し出した。

 その中にブレッドビートルを入れろと言うので、中に押し込めると、ミリーさんが火の付いた香木の欠片も一緒に入れて、そのままコルクでシッカリと栓をしてしまった。


「これで良し!」


 そう言ってミリーさんは、安心した様に肩から力を抜いて、息を吐いた。


「この『ブレッドビートル』ってのは厄介な奴でね」


 怪訝な顔のわたしと、呆気にとられている騎士団のお二人に説明する様に、アリアが話しをし始めた。


「コイツは音より早く飛来して、そのスチール並に硬い殻で目標をブチ抜く。アンタらの装甲ぐらい訳無く貫くから、当たる場所次第では、取り返しがつかなくなる所だったぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!そ、そんなとんでもない魔獣を……、今、この子は……それを、素手で捕まえたというのか?!」


 ルークさんが見開いた目で、驚きを隠そうともせずにわたしを指差して来た!

 ケティさんも、そんな やっちゃったよコノ子は…… みたいな顔で見るのは止めてーー!


 知らなーーい。聞こえなーーーい。分んなーーい。

 それにぃー、そんな風にぃー、女の子の事指差しちゃー、失礼なんですよぉーー!


 するとアンナメリーが この子の目は特別性なんです と言いながら、わたしを身体の後ろに庇う様にして、ルークさんの視線から遮ってくれた。


「此奴等は豚を餌にしているから、奴等(オーク)の巣の近くには大抵いるんだ。何時までもそんな風に、白とかキラキラした格好を晒して巣の近くをウロウロして居ると、豚と認識した此奴等に襲われる事になるからな!」


 アリアが、ルークさんの気を逸らす様に脅し文句を口にすると、お二人は慌てた様に、背中側に払っていたマントを引っ張り、中に(くるま)った。

 そうそう!コッチ(わたし)の事なんて気にしてないで、ちゃんとご自身の身の安全を図って下さいな!


 ……あれ?でもナンカ引っかかるな?……ぅん?白い格好で?巣の近くをウロウロ?……ン?


「それに此奴等は、フェロモン?……っていうか匂いを出して仲間を呼び集めるんだ。もし一匹でも潰したら匂いが辺りに溢れ、たちまち大群が押し寄せる。もし上手く逃げ切ったとしても、匂いは水で洗ったくらいでは簡単に落ちないから、2~3日は追い回される事になる」 



 今焚いている香木の煙はブレッドビートルが嫌うので、オークの巣を見つけた時は、これを虫除けとして使うのだそうだ。

 この香木は更に、ブレッドビートルが出すフェロモンも消す効果があるから、こうやって捕まえた時は一緒に瓶に詰めれば匂いも消して、燻し殺す事も出来るから問題無い。……と、アリアが続けて教えてくれた……けど。


 なんっっっっっっっってこった!!!!!

 衝撃を受けました!

 危ないトコだった!!

 悪夢再び!になってしまう!!

 ……ってか、皆も危険に巻き込むトコロだったよっっ?!!


 それに!あの時わたしが身に着けていたD装備が、白いハーフプレートアーマーだった事を思い出ひた!!

 あれはドレスアーマーみたいな作りだから、森の中ではとにかく白くて浮いてた筈!


 ブレッドビートルは、白い姿のわたしを狙って襲って来てたんだ。

 しかもその時に潰しまくったから、匂いが体に染みついて、翌日のあの悲劇へと…………はぅうっ!!


 衝撃の事実を知り、わたしが ズどドォーーーーーーーーーーンッッ!!と、地に沈み込むくらい落ち込んでいると、ミリーさんとアリア、そしてアンナメリーが慌てた様に慰めてくれた。


 大丈夫ですから!潰していないんですから匂いは漏れておりません!!

 ちゃんと処理をしたんだから何の問題も無い!お前が気にする所はどこにも無い!ウン!全く全然どこにも無い!!

 あの時虫を捕えなければ、彼が大変な事になっていたのですから、お嬢様の判断は正しい。むしろお嬢様だからこそ出来た神業なのです!

 お嬢様は誇るべき事をされただけなのです!むしろ、お嬢様の神業を間近で拝見出来た衝撃に、私は感動すら覚えております!あぁ!お嬢様!お嬢様!!お嬢様ぁあぁぁ!!!


 3人が、しきりに慰めてくれたり、励ましてくれたりしてくれた……。

 てか、アンナメリーがおかしいんですけど?……こんなテンションな人だったかしらん?


 とにかく、こんな所で落ち込んでいる場合では無い!今は気を取り直して先に進まないと!

 わたしは過去は振り返らない女なのだ!!

 わたしはパンパンと両頬を叩き、顔を上げた。


「お?」

「お嬢様……、大丈夫で御座いますか?」

「……お嬢様」


 心配してくれたアリアとアンナメリー、それにミリーさんに うん! と、フードの奥で短く頷く。


 ちょうどその時、イルタさんが魔力のチャージが終わったと立ち上がった。

 それを見たアリアが頷き 出発するぞ! と号令をかける。

 アンナメリーが竈を片付け、ミリーさんが飼葉桶を仕舞い、皆がそれぞれの馬に跨って行く。

 わたしもレグルスに跨り もう少しだよ とその鬣を撫でた。



 その時、胸元にチクリとした痛みに似た感覚が走った。

 それがジワリと広がる。


 なんだコレ?


 今までに感じた事の無い感覚に戸惑いを覚えながらも、動き出した隊列に並び、レグルスを走らせた。

 進む程に、その痛みが広く重くなる。


 更に自分の中から、何かがポロポロと零れ落ちて行く様な気がして、胸が息苦しくなってくる。

 堪らず胸元を押えると、アンナメリーがそれに気が付き馬を寄せて来た。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


 心配してくれたアンナメリーに、大丈夫だとフード奥から微笑んだつもりだった。

 でも、覗き込んだアンナメリーが息を飲むのが分った。

 わたしは今、どんな顔をしているのだろう?


「この調子なら、後1時間ほどで到着出来るかも知れません!」


 そんなわたしを他所に、ケイシーさんが嬉しそうに声を上げていた。

 ココから先は崖などの障害物も無く、緩やかな昇り下りが続くので、比較的馬を走らせ易いのだそうだ。

 途中に居る魔獣にさえ注意すれば、楽に進める筈だとケイシーさんは言う。

 それにルークさんが張りのある声で答えていた。


 士気が上がるお二人とは対照的に、わたしは足首まで埋まる泥沼の様な不安感に呑まれていく。

 胸の内からポロポロ零れ落ちて行く喪失感が、わたしの中でどんどん大きくなる。

 わたしは今この瞬間、取り返しの付かない何かを失おうとしているのではないのか?そんな不安がわたしの中で溢れていた。

 レグルスも何かを感じ取っているのか、さっきから落ち着き無さげに呼吸が荒い。



 その時、唐突にわたしの探索範囲に引っかかる物が現れた。

 それが無数の生者成らざる物だと分かる。

 そして、それに囲まれた生きた人々の反応も認識出来た。

 でも、村を出発した調査団の総数よりも、感知している人達の数が少ない。それに、その多くの人が生命力を減らしていた。

 中には、今にも命の雫が溢れ切ってしまいそうな人も何人かいる。


 その中の一つの命の灯火が、見る見る喪失して行くのが分かる。それは……、わたしがよく知るその灯火は……。


「ハワードパパ!!!」


 わたしは森の奥に視線を向け、思わず大きく声を上げていた。

 そう、これはハワードパパだ!間違い無くハワードパパがそこに居る!!

 あの力強く燃え盛っていたパパの命の息吹が、あんなに細くなっている!


「お嬢様?!」

「どうした?!何があった?!!」


 半ば腰を上げ叫んだわたしに、アンナメリーとアリアが馬を寄せ、何事かと声をかけて来たけれど、わたしはそれに答える事も出来ず、ただハワードパパの名を何度も口にしていた。


「御頭首を見つけたのか?!」

「わかりません!……わかりませんが、お嬢様なら……」


 レグルスも、何か分っているのかその脚に力が籠り、走るスピードが上がった。

 先行するケイシーさんとルークさんを追い越し、集団の先頭に出て、レグルスは尚も速度を上げる。

 でもダメだ!こんなペースではどんなに急いでも、あそこまでは1時間近くはかかる!


「レグルス、悪いけれど……」


 先に行くよ と言おうとしたらレグルスは、ペース配分などお構い無しの競走馬の様な走りで、更に一気に速度を上げた。

 その気迫を乗せた走りに、わたしは思わず目を見開いた。


 ……そう、レグルス。お前もパパの元に戻りたいんだったよね?そうか、……うん、わかったよ。


 追い越された事に驚き、何があったのだとルークさんが声を上げるが、それに答える代わりに、わたしは腰のソードホルスターから二本の白銀剣を抜き、頭上に掲げ、レグルスに騎乗したまま、ゆっくりと踊る様に揺らす。

 そして、囁く様に『唱』を口にした。


精霊の戯曲(プレイ・オブ・ジニー)

 わたし本来の職『エンチャントチャネラー』の支援魔法だ。

 ハープやドラム、ギターなど、思い思いの楽器を持った小妖精達が演奏を奏で、パーティーメンバーの基本ステータスを、5~6割上昇させる。


 更に、『3つのコンチェルト』を奏でる。


《バトル・コンチェルト》は、物理攻撃力を50%、魔法攻撃力を80%上乗せし、クリティカルの発生率と、発生時のダメージを40%上昇させる。

《ムーブ・コンチェルト》は、魔法・物理の攻撃速度を80%、回避率を70%上昇させ、移動速度を倍にする。

《リラックシング・コンチェルト》は、生命力(HP)を70%、魔法力(MP)を60%増やし、その回復速度を60%早め、精神や身体の異常状態に対する抵抗力を大幅に上昇させ、低位の物は完全無効化する。


 久方ぶりのフルエンチャだ!



 レグルスが、自分の走る速度が上がり、体力も跳ね上がった感覚に驚いているのが伝わって来た。

 だけど、こんな事で満足して貰っては困る。


「ま、待ってください!この先にはまだ強力な魔獣が!!」


 ケイシーさんが後ろから、この先が危険だと叫んでいるけど、そんな事は最初からわたしには見えている。


 わたしは、インベントリの中で長い間眠っていたアイテムを使用してみた。

 すると、レグルスの身体が瞬間的に青銅色の装備で包まれる。

 顔には、前方に突き出した牙の様な装飾まである。

 まあ、これは見たまんまの武器なんだけどね。


 本来これは、ゲーム内での騎乗竜専用の装備だったんだけど……。

 もしかしてコレ使える? と思ってインベントリの中から引っ張り出してみたら、ホントに使えてしまった!

 やっぱりこの世界の『馬』は、竜の仲間?って事なのかしらん?



 そして、わたし達の行く手を塞ぐ様に、木々の間から魔獣が姿を現した。

『フォレストジャイアント』

 5メートルを超える樹木の様な巨人が、レグルスに向け太い丸太の様な腕を振り降ろして来た。


 フォレストジャイアントの脅威値は44だ。

 本来なら上団位者でもなければ相手に出来ない。

 昨夜、ケイシーさんとレグルスは、村へ戻る途中に此奴等に襲われ、大きなダメージを受けたまま夜の森を抜けて来たのだそうだ。

 レグルスにとっても、痛い目に合されたばかりの相手だけれど、今は怯んで居る時では無いよ!レグルス!


「ぶち破れ、レグルス!」


 レグルスは勢いを殺さず、そのスピードのまま突っ込み、丸太の様な腕を砕き、巨大な胴体へ牙を突き立てた。

 フォレストジャイアントはレグルスにその身体を突き抜かれ、辺りを揺らす爆発音と共にその巨体を爆散させて飛び散った。


 そう、今のレグルスなら鎧袖一触!

 この装備の攻撃力は、これでも騎士団が使っている武器よりは強い。

 エンチャも、フルでかかっているのだ!

 この程度の相手に後れなど、取り様が在る筈が無い!!


 その、今の自分の力を理解したレグルスに、わたしは言葉をかける。


「レグルス、後5分で到着、なさい。出来なければ……、置いて、行きます」


 レグルスは、わたしのその言葉に対し、任せろとでも言いたげに、力強くブルルと一度鼻を鳴らした。


「そう?……上等」


 わたしは スッ と、鞍の上に足を揃えて立ち上がる。

 そのまま外套マントを勢い良く捲り上げ、さっき鞘に戻したばかりの白銀剣シルバーソードを再び抜き放った。

 逆手で抜いた白銀剣シルバーソードを手の中でクルリと回しながら、腕を伸ばし、剣を水平に上下で合わせる様にして、切っ先を正面に向けた。

 そしてそのままスキルを放つ。

 

《インパルス・バースト》

 『デュエルバーバリアン』の近接範囲攻撃スキルだ。

 本来は、自分に近接している敵に使用して、その周りの敵を巻き込むスキルなんだけど、スキルコントロールの修行のおかげで、スキルの効果範囲や、威力も、自分の意志で、かなり好きな様に調整出来るようになった。


 前方で ガッ! と、空間を切り裂く様に開いた剣先から、スキルが放たれる。

 正面に生まれた衝撃波が、一直線に音の速度で突き進む。

 その衝撃波は、空気を引き裂く轟音を響かせ、樹木に紛れ隠れていた数十体のフォレストジャイアントごと、わたし達の前方の森を斬り刻む。

 一瞬でスキルにより森が切り拓かれ、100メートル以上の一本の路が、わたし達の前に出来上がった。


 わたしは再び剣を腰の鞘に放り込み、レグルスの手綱を握り直した。そして、もう一つスキルを使う。


騎乗加速ライディング・スターウォーカー

 短時間、自分の乗る搭乗物の速度を200%上昇させるスキルだ。


「行けレグルス!」


 レグルスが風を巻き、森の中を一直線に疾走する。


 ハワードパパ、後少しの間だけお待ちください。

 今、すぐに参ります!





     ◇◇◇◇◇





「……くっそ!やっぱりやらかしやがった!」

「アリア様、こうなる事は初めから分っていた事でございます。その為のわたくし達で御座いましょう?今は、一刻も早くお嬢様を追う事をお考え下さい」

「……ああ、そうだな!全くその通りだ!!イルタ!ケイティ!急ぐぞ!!ミリー!はしゃいで無いで早く来い!!」


 騎士団のお二人の前で、お嬢様が一瞬で森と魔獣を斬り飛ばしてしまい、アリア様は頭を抱えてしまわれました。

 しかし、お嬢様が何か仕出かすのは、はなから分っていた事でございます。

 そのフォローをする為に、わたくし共が付いて来ている訳ですから、頭を抱えるのは今更と言うモノです。


 それでも皆様、お嬢様の支援魔法で力が上がっている事に、かなり驚かれているご様子。

 勿論(わたくし)も!

 あぁ!お嬢様のお力が、こんなにも身体の内に溢れている……。何という至福!!!


 ミリー・バレットなど、魔獣をボウガンの一撃で粉砕した事に キャッキャ と喜んでいます。

 あのはしゃぎっぷりは可愛らしいのですが、今はとにかく先を急がなければなりません!


「な、何という事だ……。これをあのがやったと云うのか?それにこの溢れる力!とても初期クラスの者が使えるレベルの魔法では無いぞ!!」


 ふむ、ルーク様がお嬢様のお力に気付かれたご様子。至極当然と言えば当然の事なのですが……。ここは処理をさせて頂くのが順当な所で御座いましょうか……?


「おいルーク!何をしている?急ぐぞ!!」


 アリア様が 待て と言いたげに此方を手で制し、ルーク様に近付いて行かれました。


「アリア!あの娘は本当に初期クラスの『占者ウァテス』なのか?これではまるで『叙情詩人ミンネゼンガー』……いや、『上位詩人オラウ』クラスを越える支援魔法ではないか!」

「当然だ!あの子は間違いなくウチの『占者ウァテス』さ!」

「バカな!どう見ても普通の『占者ウァテス』ではありえない!」

「当たり前だ!並の『占者ウァテス』がアタシ達のチームに入れるモノか!!」

「なにっ!?」

「ミリーを見て見ろ!コイツの索敵能力と攻撃力の高さはアンタも見て来た筈だ!まだ4th(フォース)になりたてのヒヨっ子ハンターとは言え、実力がAクラスチームのメンバーとして不十分だとアンタは思うのか?!」

「い、いや、確かに彼女の実力は、在野のハンターと比べると格段に高い……」


 引き合いに出されて あたし? と自分の事を指差して、キョトンとした顔をするのも愛らしいのですが、今はもう少し、引き締めた顔をなさるのが宜しいと思いますよ?ミリー・バレット……。


「イルタだってそうだ!ハイプリーストで、コイツ程の『癒し』の使い手が騎士団には居るのか?!」

「い、いや……、居ない。彼女ほどの実力者は、王都本隊でもそうは居ない筈だ……」

「並の実力ではAクラスチームになど入れない!『占者ウァテス』と云うクラスだけを見て、あの子を侮るのは止めて貰おう!!」

「い、いや!私は彼女を侮ってなどいない!!只、彼女の使った魔法の効果が、余りにも……」

「あの子は元から……、昔から高い魔力値を出していたからな。同い年の子供達と比べてもダントツだった」

「そうなのか?!」

「ああ!外の連中とアムカムの人間を比べられても困るけどな。あの子は端から規格外だったよ。……それにな、女ってのは、一時的に魔力が上がる日ってのがある訳だしね……、おっと、この話にこれ以上首を突っ込むのは、騎士として、男としてどうかと思うぜ?ルーク・トレバー!」

「……ぁ、いや、うむ、こ、これは……、大変に失礼をした……ぅ、うむ、許してくれ……」


 男前に口角を上げてアリア様が見つめると、ルーク様はお顔を赤くされ、視線を泳がせてシドロモドロになっておられます。


 サスガです!アリア様!!ルーク様の疑念を、強引に、力でねじ伏せておしまいになられました!完全な力技です!!

 良かったですね。ルーク様がチョr……ゲフんゲフン!実直なお方で……。


 さて、急ぎませんと、お嬢様に距離をドンドンと引き離されてしまいます!

 きっとお嬢様は、旦那様のご様子にお気付きになり、全力で向かうと云う選択肢を選ばれたのだと思います。

 ならば私達(わたくしたち)ががグズグズしている場合では御座いません!


「さあ!行くぞ!!あの子が拓いてくれた路だ!!1分1秒たりとも無駄にするな!!突き進め!!!」


 アリア様が号令をかけ、馬に鞭を入れてスピードを一気に上げました。

 馬がとんでもないスピードを出しております!

 馬に、こんな速さを出させる事が出来ると云うのが驚きです!お嬢様ぁ!素敵です!!素敵過ぎますぅぅぅ!!!

 さあ、一刻も早く騎士団本陣に辿り着き、お嬢様が後方に気兼ねなく、お力を存分に御使い出来るよう、支援して差し上げなくては!!

 あぁ!お嬢様!今、直ぐに追い付きます!!!

お読み頂きありがとうございます!

ブクマ、ご評価、本当にうれしいです!!


次回「ハワード・クラウドの覚悟」


2章は後、3話の筈!……多分3話。。。エピローグ入れれば4話?5話?・・・かな?


・・・・・多分。



イルタさんによる『不浄な者共』の話を追加しました。

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