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【コミックス第1巻発売中!】女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!  作者: TA☆KA
第二章:イロシオの不死兵団

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67話 チームアリアの出撃

これで今回の連投は打ち止めですーー。

 スージィが支度を整え、時間通りに壱の詰所に到着すると、オーガストが森へ同行するチームを引き連れ待っていた。


「スージィお嬢様!」

「お嬢様、またよろしく」

「お待ちしてました、お嬢さん」

「スージィ!待ってたよ!!」


「アリア?!」


 それは、ミリー・バレット、ケティ・フォレスト、イルタ・リンドマン、アリア・ブロウクの『チームアリア』の4人だった。


「スージィさん、この後はチームアリアと行動を共にして下さい。アンナメリーも、頼んだよ」

「お任せ下さい村長」


 オーガストはスージィをチームアリアに引き合わせると、そのままアンナメリーに目線を送り頷いた。


「え?え?アンナメリー?え?なんで?」

「お嬢様のお世話は、私の役目ですので」


 気付けば、いつの間にかアンナメリーも普段のメイド服から探索装備に変わっていた。

 何時の間に着替えたのか?!スージィは目を見張った。

 実際は、アムカムハウス内の通路を進みながら、他のメイド達の手に依り早着替えさせられていたのだが……。


 スージィが気付かなかったのは、そのシルエットがメイド服のままだったからだ。

 それでも、あれ?エプロン外したのかな?くらいには思っていた様だ。


 アンナメリーはいつものメイド服に、ブーツと肘までのグローブ、そしてアンダーコルセットと云う、探索お約束3点セットを身に着けていた。

 更に、腰回りには数本ベルトも巻かれ、そこに幾つものポーチや複数のナイフも取り付けられている。

 紛れも無く『戦うメイドさん』がそこには居た。


 その事に気付いたスージィは、一瞬吐血し掛けるが、気合と精神力で平静を装う。

(アンナメリー??!マ・ジっ・す・かっ?!ヤベー!リアル戦闘メイドさんマジヤベっすーッッ!!)

 だが、その内なる声は叫びを上げている。



「ア、アンナメリー、お久しぶりです。今回はヨロシクお願いしますね……」

「ミリーさん、アンナメリーとお知り合いなんです、か?」


 内面で萌えのたうっていたスージィを、ミリー・バレットの声がリアルに引き戻した。


「あ、は、はい!アンナメリーとは、ミリアキャステルアイ寄宿校で3年間一緒だったのです」

「お久しぶりですねミリー・バレット。また会えて嬉しいですよ」

「ぅひぃっ!?い、いきなり後ろに?!お、驚かさないで下さいアンナメリー!!ほ、本当にコワイんですからっ!!」

「あら?久しぶりのクラスメイトとの再会なのに、ツレないですわねミリー?」

「ひぃぃ!だ、だから!コワイ!コワイぃぃ!!」


 いつの間にかミリーの背中側に回っていたアンナメリーが、ミリーの首筋に指を這わせていた。

 ミリーは顔色を、赤くしたり青くしたりと慌ただしい。


 ほむ、二人の学生時代、どんな関係だったのだろう?

 と、スージィが顎を摩りながら思案する。 も、もしや何やら尊ひ香りが?! と自分の物差しで妄想し、鼻孔をプクリと広げる。



「対人戦闘に特化したバイロス家の秘蔵っ子か……。期待してるよ!」

「宜しくお願い致しますアリア様。ブロウク家の長女様には、過分なご期待頂きまして痛み入ります」

「控えめな所がコワイねぇ。出来りゃ、一度手合せ願いたいトコロだね」

「私で宜しければ、何時でもお相手致しますよ?」


 何故か二人は くっくっく ふふふ と目を細めながら笑い合っていた。


「アリアが『手合せ』とか言っても、既に卑猥なイメージしか浮かばない件」

「ケティ?!どゆことぉ?!!」


 ピリリとした雰囲気を醸し出し、男前な笑みを浮かべていたアリアが、突然MANZAIを始めた事でスージィは目を丸くする。

 そこへパンパンと手を叩き、オーガストが間へ入って来た。


「挨拶は其処までだ。時間は限られている、やる事は分っているな?」


「モチロンさ!」

「心得てございます」


 オーガストの問いに、アリアとアンナメリーが答える。

 他の三人も、その場で黙って頷いていた。


 アンナメリーはそのままスージィの後ろ側へ回り、失礼します と一言述べて髪を結い始めた。


「スージィさん。貴女とアンナメリーのお二人には、今からチームアリアのメンバーとしてイロシオへ入って頂きます」


 そのままで聞いて下さい と前置きし、オーガストがスージィの前に立ち話を始めた。

 スージィは小首を傾げ、何故?と云う表情でオーガストを見上げた。


「アムカムの森と生きる我々にとって、力ある者は敬い貴ばれます。貴女のお力は、村の誰もが知る所です。貴女がこの村に留まり、我々と共に生きて行く事を選んでくれた事に、村の者皆が喜びました」


 オーガストの言葉に、アリアが、イルタが、ケティ、ミリーが、そしてアンナメリーも嬉しそうに頷いている。


「我々は、貴女も、貴女のその力も受け入れます。だが外の者は?彼らにとって貴女の力は脅威にしか映りません。貴女の力を知れば、彼らは貴女を排除するか、自らの管理下に置こうとするでしょう」


 穏やかだったオーガストの表情が、一転して厳しい物に変わった。

 それを受けスージィも、真剣な眼差しをオーガストへ向ける。


「しかし、貴女がアムカムの者である以上、我々は貴女をどんな者からも守ります!」


 オーガストがスージィの肩に左手を置き、右で握った拳を自らの胸に当て、力強く宣言した。


「貴女は今、『アムカムの姫』として、その役割を担い始めて下さいました。この事は、村の者全ての歓びです」



 アムカムと云う辺境にとって、家名を継ぐ事に重要なのは血筋では無い。

 力無い者が家督を継げば、簡単に家は失われ、村そのものも無くなりかねない。

 古来より、最も重要視されたのは『強さ』だった。

 その為に、より強い人材に家を継がせる事を、常に繰り返していた。

 アムカムにとって血筋は重要では無い。

 『家』と云う民を護るための入れ物が重要なのだ。

 まつりごとは、周りの優秀で経験豊かな者に任せれば良い。

 アムカムの旗頭は常に強く、人々の先頭に立たねばならない。

 でなければこの村は、簡単にイロシオに飲み込まれてしまうのだから。


 そんなアムカムの歴史的背景があるからこそ、スージィは『アムカムの姫』として、村人達に歓迎され崇拝もされていたのだ。


 しかし、当の本人は ぇえーー……、姫って……それはぁ……、ぁうーーー と微妙な表情を作っている。

 そんなスージィの表情を知ってか知らずか、オーガストは話を続ける。


「その『姫』としての表の顔は、これから我々が守って行きます。そして貴女のその『力』も」


 オーガストの眼に力が籠る。

 その事に気が付いたスージィも、改めてその目を正面から見詰めた。


「騎士団は王都直轄の組織です。貴女のお力が騎士団に知れれば、それは同時に王都評議会に知れるものとなります。それは何としても避けねばなりません。それは御頭首も望まれてはいない。貴女の戦力としての存在は、アムカム『秘中の秘』なのです!」


 オーガストがそう言うのと同時に、スージィの髪を纏め上げたアンナメリーが、スージィの身体に外套マントを纏わせ、そのフードを深く被せた。


「お嬢様、少し暑苦しいかもしれませんが失礼します。髪は解けて外から見えない様に纏めました。髪色が分らぬ様、深くフードをお被り置き下さい」


 アンナメリーがフードを被せながら、そう言って来た。スージィがフードの奥からアンナメリーを見上げると、彼女はニコリと微笑み頷いた。


「スージィ、アンタはこの前、試練の後『占者(ウァテス)』のクラスを取った筈だ。今からアンタはチームアリアのウァテスだ。良いね?」


 アリアの言葉にスージィが頷く。


「ああ!そうだ!そうやって成るべく、言葉を使わない様にしておくれ!」


「申し訳ありませんスージィさん、ご不便をおかしてしまいます。ですが、貴女のお力なら必ず、御頭首を無事に連れ戻して頂けると信じています。そして、くれぐれも、全力で戦われる姿を、騎士団に晒さない様にお願いします」


 それは、この村で嘗てあった悲しい出来事を、再現させない為だとオーガストは言った。

 勇者伝説の事かな?やっぱり、昔、村と勇者と国との間で、何かがあったんだなー と、それを聞いたスージィは思う。


 それでも、ま、全力は出せないんだけどねー と、抉れた山脈を思い出し、強張る表情を見せない様に、フードを深くかぶり直すスージィだった。


「馬を用意してあります。トレバー班長は既に『嘆きの丘』向かい、丘に残る騎士団に撤退指示を出している筈です。チームアリアはそこで班長と合流し、『黒岩』へ向かって貰います」


 荷物を持たない村の馬ならば、4時間もあれば黒岩へ辿り着ける筈だ、とオーガストは言う。


「スージィさん、どうか……どうか御頭首を……。お願いします!」


 オーガストがひざまずき、両手でスージィの手を取り、自分の額に当てた。

 そのまま、祈る様に願う様に、オーガストの口元から言葉が零れる。

 スージィは静かに口を結び、黙ってそれに頷いた。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「『チームアリア』のアリア・ブロウクだ」

「第十二機動重騎士団第7班班長ルーク・トレバーだ。ルークと呼んでくれて結構だ」

「アタシもアリアで良い。よろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼む!その若さでもう『グレード持ち』だそうだな?頼もしいよ!」

「来月からだけどね、で?もう準備は出来たのかい?」


 アリアとトレバーが、空が白む丘のキャンプ地で、握手と共に挨拶を交わしていた。


 周りでは、騎士団がキャンプを畳み、撤退準備が進んでいた。

 代りに、アムカム護民団の者が、防柵を運び込み、防護柵を作る準備を始めていた。

 護民団員は、ここに十数人居る。これはトレバーの護衛を兼ねて、共に『嘆きの丘』まで先行して来た者達だ。

 それと入れ替わりに、騎士団は村へ戻る手はずなのだ。


「ああ、もう30分もしないで撤退できる筈だ。……だがスマン、そこのテントに少し来てもらえるか?借りられる物なら、手を借りたい」


 トレバーがそう言ってアリアを連れて、正面の、まだ設営したままのテントへと向かって行った。


 それを見送る馬から降りて一塊になっている、『チームアリア』のメンバー達。

 皆一様に外套マントを身に着け、フードを目深に被っている。


「ねえ?お嬢さん……」


 と小声で、イルタがスージィに話しかけて来た。

 スージィは ん? とフードの奥からイルタを見上げる。


「お嬢さん、初期クラスは『ウァテス』を選んだんでしょ?」


 ん とスージィがフードの奥で頷く。


「その先は?進学して霊印エーテルシールを刻んだ後は、何の『クラス』を選ぶの?」


 もう決めていたりするの? と更にイルタが訊ねて来る。

 スージィは少し考えた風に、小首を傾げながら人差し指を顎の前に当て……。


「んーー、バード?」

「さすが!お嬢様!」


 スージィの言葉に、ケティ・フォレストが小さくガッツポーズを作る。


「……はぁ、やっぱり、そうなのね……」


 と、イルタが何故か溜め息を吐いた。

 スージィはそれを見て ん?なんで? と更に小首を傾げる。


「イルタ!!ちょっと来てくれ!!」


 そこへ、テントからアリアの声が響く。

 何事か?と全員でテントまで進み、招き入れられるまま、中へと入って行った。


 テントは思いの外大きく、ランプで照らし出された中には、先に入ったトレバーとアリア、そして兵站部隊の者が一人、簡易ベッドに横になって居る者の面倒を見ている様だった。


 そして更にスージィは、簡易ベッドの先で間仕切られている先のスペースに気が付いた。

 外に面しているそちら側にも、何かが居るのが分る。

 スージィは覚えのある気配を感じ、間仕切りの先を覗き込んだ。


「レグルス?!」


 スージィは思わず叫んでいた。

 そこに居たのは紛れも無くクラウド家の……、ハワードの愛馬レグルスだった。


 レグルスは、地面に重ねられた毛布の上に横になり、全身いたる所を包帯や大きなガーゼを宛がわれていたが、出血が酷いらしくどこも血が滲んでいた。息もとても荒く、見るからに苦しそうだ。

 スージィは思わずレグルスの脇に座り込み、その身体に手を当てる。

 レグルスもスージィに気が付いた様で、彼女に向け、僅かに顔を動かした。


「この馬を知っているのかい?」


 スージィの様子を見て、トレバーが声を掛けて来た。


「……はい、この子が、良く面倒を見ていた馬なのです……」


 スージィとトレバーの間に入り、アンナメリーがフードで顔を隠したまま答えた。


「そうか、御領主様の馬と聞いていたが……?」

「……ええ、動物好きの子ですので……」

「……そうか、何れにしても、この馬を知っている人が居てくれて良かったよ。見ての通りこの馬は長くない……、最後に知っている人間に会わせてやれて良かった……」


 トレバーが、それ以上スージィとレグルスとの関係を追及して来ない事に、その場に居た者達が肩の力を抜いた。


「……このに治癒は?」


 イルタがトレバーに問いかけた。

 その問いに、トレバーは静かに首を振った。


「残念ながら今ここに、これだけ大形の動物を治癒できるだけの術者がいないんだ。隣に寝ているケイシーも、大きな傷を塞ぐ事は出来たが、完全回復には至っていない……」


 トレバーが無念と言いたげに、レグルスとベッドで横になるケイシー・ギネスに、交互に目線を送った。


「ケイシーは、このままでは村へ連れ戻るのも難しい。そこでチームアリアの治癒者に、回復を頼めないかと思ったんだが……」


 イルタがアリアと目配せをし、頷き合った。


「分ったわ、任せて。でも集中したいから、メンバー以外は席を外し居て欲しいの」

「そうか!やってくれるか!有難い!!外に出ていれば良いんだな?分った!我々は外で待っている、ケイシーをよろしく頼む!!」


 そう言うとトレバーは、兵站部隊の者を連れ、イルタに一礼してテントから出て行った。

 しゃがんだまま、レグルスを撫でながら横目で見ていたスージィが、イルタに向かい言葉を発する。


「……イルタさん、わたしに、やらせて貰っても、良いです、か?」

「分っているわ、お嬢さん。そう言うと思ったから、あの人達に席を外して貰ったの……。このを治して上げたいんでしょ?」


 スージィはイルタを見上げたまま頷いた。


「ありがとう、イルタさん」


 イルタにニコリと微笑んだ後、スージィはレグルスとケイシー・ギネスに向け、徐にスキルを使用する。



≪ヴァイタリティ・リリース≫

 スージィの神化ランクの回復職『グレートワイズマン』のスキル。

 自分の周りの味方のHP・MPを全回復させる。

 HP回復の余剰分はスタミナも回復させ、数分間HPが自動回復し続けるスキルだ。


 スージィを中心に光の波紋が広がった。

 同時に、ケイシー・ギネスとレグルスから光の柱が立ち昇り、身体の損傷した部位と、体力が回復されて行く。


 光の柱が消えると、たちまちレグルスが立ち上がり、いななき始めた。自分がスージィにより回復した事を理解している様だ。

 そのまま鼻先をスージィの顔に擦り付け、顔を舐め始めた。


「レ、レグルス!わ!分った……から!く、くすぐった……ふにゃぁあ!」


 激しく舐め回すレグルスの舌で、スージィの被っていたフードまで捲り上がりそうになる。

 それを、慌てて後ろからアンナメリーが被せ直した。


「い、今の光は一体?!!」


 テントの幕が勢い良く上げられ、トレバーがテントの中へ入って来た。


「ルーク!突然入るのはマナー違反だ!!」


 アリアが咄嗟に、スージィ達とトレバーの間に身体を滑り込ませ、トレバーに向かい声を上げた。


「あ……、すまない……。しかし!今の光は……、な、こ、これは?まさか!」


 トレバーが、元気よくスージィに顔を擦り付けるレグルスを見て、目を見開いた。

 つい先程まで、死にかけていた筈の馬が立ち上がっている事に、信じられぬ物を見た思いだ。


「……まさか、あ!ケイシー!大丈夫なのか?!身体を起こせるのか?!!」


 そのままケイシー・ギネスに目を向ければ、彼も身体を起こし、自分の手を見て、自らの身体が回復している事に驚いている様だった。


「は、はい……全く……。い、いえ!かえって前より調子が良い位な……」


 ケイシー・ギネスがベッドから降り、その場に立ちながら、自分の身体を確かめる様に四肢を動かした。


「……凄いな……、流石アムカムの……、Aクラスチームの教司官(ハイプリースト)だ!素晴らしい!!」


 トレバーがイルタに向け、目を輝かし、称賛の声を上げている。


「この一瞬で、此処まで回復させるとは!ここまでの実力者は、騎士団衛生部隊の精鋭でもほとんどいない!素晴らしい!素晴らしいよ!!」

「あ、いえ、……どう……、いたしまして?」


 イルタが微妙に目線をずらしながら、トレバーに答えていた。


『あぁ、やっぱり。これだけの治癒力を既に持っているのに、……回復職を選ばないなんて……勿体ない』

『バードから派生するクラスは、回復も攻撃も熟す万能職。勿体なくない』

『はぁ……、そうね、まぁ確かにそうよね……。お嬢さんなら何でもこなせるものね』

『ん!』


 イルタとケティが、トレバーに聞こえぬ様、そんな事を小声で話していた。


「……あの、…………トレバー班長。宜しいですか?」


 ベッドに座ったケイシー・ギネスが、おずおずとトレバーに問いかけた。


「どうしたケイシー、まだ体力に不安があるか?もう少し休んでから、村に向かうか?」

「いえ、そうでは無くて班長。その……、この方達と班長だけで、……イロシオへ向かわれるのですか?」


 ケイシー・ギネスは、ベッドに横になったまま、トレバーとアリアの会話から彼等だけがイロシオへの増援だと聞き知っていた。


「僭越ながら、それは余りに無謀です。たった1チームの増援で、それを覆せるほど敵の戦力は甘くはありません!」

「ケイシー。お前は我々が、無駄死にをしに行くと思っているんだな?」


 ケイシーは黙って頷いた。彼が目の当たりにした敵は、5人や10人増えたからと言って、どうにかなる様な相手では無い。

 彼らが向かっても、それは焼け石に水だ。不必要に戦力を失うべきでは無い。そんな事をさせる為に、彼は仲間を置いて来た訳では無いのだ。


 ギリッと口を噛み締めるケイシーを見て、アリアが口を開いた。


「安心してくれ、アタシらも別に考えも無しに、ただ突っ込もうとしてる訳じゃ無い。ちゃんと『秘密兵器』も用意してあるんだぜ?」


 アリアがそう言ってイルタに視線を送り、彼女のザックから魔道具を取り出させた。

 それを見たケイシーが、怪訝な顔をアリアに向ける。


「これは神殿長からお借りしてきた、『大規模結界装置』の予備のコアだ」


 それは直径40センチ程の円盤状で、厚みも5センチ程ある魔道具だ。

 その中心には半球体のクリスタルが埋め込まれ、盤面の周りにも中心の物より小ぶりなクリスタルが、時計の文字盤の様に埋め込まれていた。


「これの起動は神官にしか出来ない。そしてその効果範囲も術者の力量に依る。ウチのイルタなら、半径1キロの結界が展開可能だと神殿長は仰っていた。一度結界が張られれば、24時間は不浄の者はその中へ立ち入れない。どうだい?これを持ってアタシ達がイロシオへ向かうのは、意味のある事だとは思わないかい?」


 アリアがウインクをしながら、ケイシーに結界装置の説明をした。


「で、では!それを使えば班長や大隊長も?!」

「敵の層の厚い所で結界を展開すれば、千や二千は浄化できると神殿長は仰っていた。敵がアンデッドなのが幸いしたな」


「おおぉぉ!!み、みんなを……!班長を!!」


 ケイシー顔を上げ嗚咽を漏らす。その瞳に希望を照らす光が灯された様だった。


「アタシが、この『鉄壁のアリア』が敵の大隊を抑え込んでやる!敵を引き付るだけ引き付けた所で、結界を張り出来うる限りの敵戦力を巻き込む!その後、生存者と共にイロシオからの撤退だ!」


 本来これは、重要な村の防衛機密なんだ と続けながら、アリアが作戦をケイシーに説明をしてやった。

 大ざっぱにだが、これが……、この結界装置が作戦の軸となる。


 もっとも、ホントの秘密兵器は別にあるんだけどね と騎士団の二人には聞こえぬ様、小声でアリアが呟き、スージィに目線を送る。



 こんな装置、何時の間に用意したのだろう?

 スージィが、小声で小首を傾げながらアンナメリーに聞いていた。


『村長が詰所にわたし達を集合させる前に、神殿にも協力を申請して、お預かりして来たものなのよ』


 と、イルタが小声でスージィに教えてくれた。

 作戦立案はオーガスト・ダレス村長だった。


 正直、オーガストとしてもスージィ1人で全敵戦力を、殲滅できるとは思っていなかった。

 だが、敵集団に大打撃を与える事は間違いないだろう。

 そこに、この大規模結界装置を使えば、ハワードやコンラッドを、前線から撤退させる為の防壁になると考えたのだ。


(そうか!これがあれば、わたしはハワードパパをお助けする事にだけ専念すれば良い!必要以上に、自然破壊をしない様、気を配る必要は無いかもしれない!)


 それを聞いたスージィも、そんな事を考え、外套マントの下で小さくガッツポーズを作っていた。


「後は時間との勝負だ!一刻も早くアタシ達は前線へ向かう!!」


 アリアがマントを翻し、出発の宣言をした。その場の皆が小さく おう と応えた。


「あ、あのトレバー班長!自分は……、自分も、再度深淵へ進む御許可を、頂けませんでしょうか?!!」


 そこへ、意を決した眼差しでトレバーを見る、ケイシー・ギネスが言葉を挟んだ。


「あそこにはまだ仲間がいます!今この時も、戦い続けているに違いありません!!自分は!自分一人だけ、安全な場所でのうのうとしているつもりは、ありません!!我侭を言っているのは理解しています!しかし!可能であるなら……!!お願いですトレバー班長!自分を……、自分をもう一度あの場所へ!!」

「ケイシー……、お前……」

「アタシらは、アンタを守ってやれる余裕はないかもしれないよ?」

「構いません!コレでも機動重騎士団の一員です!それに、自分は前線の場所を知っています!自分には、自分の辿った道を……最も近い道をお教えする事が可能です!どうか……、どうかお願いします!自分に案内をさせて下さい!!」


 ケイシーは立ったまま、拳を握り締めながらアリアとトレバーに頭を下げ懇願していた。


「だが、お前……、今重傷の傷が回復したばかりなんだぞ……本当に大丈夫なのか?」


 ケイシーの想いを理解しながらも、トレバーがその身体を思い、アリアとイルタに訊ねる様に視線を向けた。

 二人はトレバーに判らぬ様にスージィを盗み見ると、スージィは小さく首肯した。


「わかった!……アンタみたいな奴は嫌いじゃない。アタシらは構わないよ!シッカリ案内を頼む!」

「あ!ありがとうございます!!」


 アリアの言葉に、ケイシーが再び大きく頭を下げる。


 それと同時にレグルスが、いななき始めた。


「え?な?レ、レグルス?……え?自分も行くって、言ってる、の?」


 レグルスがいななきながら、スージィに身体を摺り寄せていた。

 そのレグルスの言葉が分ったかのように、スージィが戸惑った様に呟いた。


「どうやらこの馬も、この子と一緒に、主の元へ戻りたがっている様です」

「へぇ……、さすが御頭首の馬なだけはあるね」


 アンナメリーがトレバーとケイシーにそう伝えると、アリアが嬉しそうにレグルスの頬を撫でた。


「アンタはこの子が乗って来た馬を使ってくれ!さあ!直ぐに出発するよ!」


 アリアはケイシーにそう伝えると、チームの皆を引き連れそのままテントを出た。


 テントから出るとそのまま全員馬へと跨った。

 トレバーとケイシーも其々の馬にまたがると、兵站部隊の者が二人の馬に荷物を括り付けた。

 アリアが、それは?と云う顔でトレバーを見ると。


「機動鎧用、予備の『蓄魔力装置マナバッテリー』だ。実際の所、これだけ小型化された此れは、こう見えて起動重騎士団(ウチ)の機密扱いなんだがな……」


 そう言ってトレバーが、結界装置の入ったイルタの背負ったザックを見やる。

 それを見たアリアも お互い様か と肩を竦めて見せた。



 本来であれば『黒岩』の地で補給基地を設置した後、このバッテリーを届ける手はずだった。

 当初、十分それでバッテリーは持つだけの余裕はあった。


 だが、全軍で最大戦闘をしたとなれば、バッテリーの消耗は激しい。前線では恐らく充填が間に合わない。

 全力で撤退する為には、フル充填されたバッテリーはどうしても必要になる。


「正直、ケイシーが来てくれて助かった。騎士団以外に持たせられない品だけに、一人ではこれだけ持ち切れんからな」

「……トレバー班長」


 トレバーがケイシーを見て頷いた。

 それを見ていたアリアがニヤリと口角を上げ、馬上から声を上げた。


「目指すは『黒岩』!いいか!遮る奴は容赦なく薙ぎ払え!!総員出撃だ!!」


 アリアが高らかに吠え上げ、それに続けと全員が喊声を上げた。


 今、夜明けの光が差し込もうとする中、アムカムの戦馬がいななき、地を轟かせ、イロシオの深淵へと進撃を開始した。

お読みいただき、ありがとうございます

ブクマ、ご評価、励みになっております!ありがとうございます!!


今回は、ココまでにございますー。

また書き溜めて連投します。


おそらく次の連投で2章は終わるかと……多分。

いあ、プロットでは後5話なんですよ?

でも既に、もう2~3話は増えそうだし……うはは(大汗

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