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58話 マグリット・ゴーチェの安堵

 騎士団が到着したのは、それから三日後の2の蒼月25日の午後の事だった。




 あの日、ハワードパパ達にお会いする為アムカムハウスへ行った時。

 パパは勿論、ソニアママも忙しくて家へは戻れないと告げられた。

 それにソニアママだけでは無い、エルローズさんもだ。

 緊急事態故、嘗てのハウスキーパーとしての手腕が求められていたのだ。


 結果、暫くは家にわたし一人でお留守番!と云う事になったのだ。

 ま、アンナメリーも居るのだけれど…。

 だがしかし!彼女の家事能力では今現在、二人だけの留守番には不安が残る!との見解をエルローズさんが下した。


 取敢えず、アムカムハウスの寝室は今日中には使える様に整えさせるから、明日から此方で寝泊まりしなさい とソニアママ。


 で、今夜一晩だけ、わたしはアンナメリーと二人だけで過ごす事になる。

 それを聞いたアンナメリーが、何となく嬉しそうだった気がしるな?

 

 しかしそこで、今夜は我が家で面倒を見させて下さい!とミアが元気に手を挙げて来た。

 ソニアママはミアの提案に そうして貰えると安心だわ! と胸元でポンと手を叩き承諾した。


 そんなワケで、その日の夜はミアのベッドに沈み込んでしまう事になったワケで……ぅにゃぁ。

 でも、ミアのお家で泊まると聞いた時のアンナメリー、何か軽く絶望した様な顔をしていたけれど、気のせいだった…か?にゃ?



 翌日からはアムカムハウスでの生活になったのだけれど、わたしに宛がわられるお部屋は、何時も兎に角大きくて落ち着かなくなる。


 ベッドもキングサイズで天蓋まで付いている。

 まぁ、薄いピンクのレースで可愛いから良いんだけど…さ。


 大体にして、お姫様仕様がハンパ無いのよ此処ってば!

 まるで自分が良いトコのお嬢様だと勘違いしてしまいそうになっちゃうのよね!!





 で、アムカムハウスに寝泊まりする間、結局わたしも皆さんのお手伝いをさせて貰う事にした。


 アムカムハウス内のお支度は、ソニアママを始めとするメイドさん達が、総出で取り掛かっている。

 わたしに出来るのは、工事をされている人達のお世話をする事位だ。


 具体的には食事を出したり片づけたりと、そんな食事事情のお世話になる。

 なんつったってアムカムには、おっきな食堂なんて無いものね!

 今居るだけの職人さん達の胃袋を、速やかに満足させるだけの施設が此処には無いのだ!


 アムカムハウス内の大広間に、全員を入れてあげる事は出来ないからねぇ…。

 でも厨房で作る食事で賄う事は何とか出来る…。

 てことで、簡易な食堂が作られた。

 そこで工事の皆様には食事をして貰う事になったのだ。


 しかし、メイドさん達はアムカムハウス内の雑事に取られて、此方に廻す手が殆ど無い。

 そう云う訳で、わたしがコチラの食堂で走り回っておる訳なのですよ!



 も、ね、オーダー聞いて、料理運んで、終わった食器を片づける。普通に給仕のお仕事だ!やった事無いけど…、でもナンカやれてるしぃ!!


 でも、おっきいエプロン身に付けて、三角頭巾も頭に被り、袖を捲くってトレーを持って走り回る!

 コレってもう立派に『大衆食堂のおねぇちゃん』だよね?!


 時々お尻撫でて来ようとするおっちゃんもいるけどさ!

 そう言う人は速やかに蹴り飛ばすので問題無いけどね!問題ありませんよ?!



 この三日の間で、マグリットさん達とも随分仲良くなれた。

 食事時は必ずコッチでとってくれるからね。自然とお話ししてしまう。

 手が空いている時や休憩している時も良くお話した。


 マグリットさんはやっぱり、シッカリ者のお姉さんだった。

 段取り良い打ち合わせをして作業を効率よく進め、職人さん一人一人の名前まで憶えているとか、細かな所まで目の届く部隊の責任者だと言うのが良く分った。


 ジモンさんはもう見たまんま、冷静で優秀な副官って感じ。

 マグリットさんの指示を的確に周りに伝え、足りない部分を補っている。

 こういう方が居るから、マグリットさんは安心して仕事が出来るんだろうなぁ。


 ライサさんは……兎に角慌ただしい。

 言われる前に次にやる事が判っていて、既に進めているとか…、仕事は出来るんだろうけどナンカ常にワタワタしてる感じ…。

 マグリットさんやジモンさんに『まず落ち着け』としょっちゅう言われてるけど…、やっぱり慌ただしい。

 だけど、笑顔が可愛いからねぇ…、あのカアイイ笑顔には癒されてしまう。もう彼女は現場のアイドルですヨ?!



 デモね!ホント『姫様』呼びは勘弁して欲しいと思うのですよ?!

 姫チガウカラ!

 といくら言ってもマグリットさんもライサさんも止めてくれない。

 おかげで、いつの間にやら現場のおっちゃん達も、わたしの事を『ヒメサマ』とか呼ぶ様に成ってた!

 食堂でお給仕やっていると。


「ヒメサマー!こっちランチ3つ頼む!」

「こっちは大盛りなー!ヒメサマ!」


 てな感じで呼ばれまくる!

 も、ヤメテ!って顔を火照らせながら何度言っても、皆ニヨニヨしながら止めてくれない…。コレなんて責めヨ?

 どしてコウナッタ?!!



 まぁ、そんなこんなで騎士団のお三人とは仲良くさせて貰っている。

 ライサさんの話では、これからやって来る騎士団本隊の皆さんは、気さくで良い人ばかりだし、それを率いる大隊長さんは、厳しくてカッコイイ渋いおじ様だと言うお話だ。

 本格的な騎士団が揃っているのを拝見するのは勿論初めてだから、皆さんに御会いするのが今から楽しみだ。



 そう言えばマグリットさんは、ライダーさんとは同期だと言っていた。

 なんでも騎士団に入って最初に配属されたのが西の辺境で、そこで同じ部隊で2年共に過ごしていたのだそうだ。

 ライダーさんが異例の出世で王都へ配属されてから一度も会って居なかったので、今回久しぶりに顔が見れると楽しみにしていたそうだ。


「そうですか…、ライダーは西へ向かったのですね?そうですか…。良かった…、彼もやっと進める様になったのですね……」


 ライダーさんが年の初めに西方へ向かったとお教えすると、マグリットさんは目を伏せ、安心した様に少し微笑んで、静かに呟く様にそう仰った。


 …ぬぅ、ライダーさんめぇ、こんな美人さんにこんな顔させるなんて…。



 お給仕を始めて三日目、お昼時の慌ただしさも一段落したので、マグリットさん達三人と遅い昼食をご一緒する事になった。

 お昼を頂きながら、マグリットさんがライダーさんの昔の話をしてくれた。


 本来正騎士に成る為には高等校の騎士クラスを卒業後、2年の養成期間が必要なのだそうだ。けど、ライダーさんはそれを免除され、飛び級の様にして騎士団に入ったそうだ。

 なので同期とはいえ一人だけ年下だったライダーさんは、皆の注目を集めていたらしい。

 でも、兎に角生意気だったそうだ。


「最初は、1人だけ歳が離れているから気に掛けようとしてたんですが…妙に近寄りがたくて…。おまけに無愛想だし!目付きは悪いし、人の話は聞かないし!!やがて同期の間で反感も買う様になったんですけど、とにかく剣の腕は一番で、矢鱈強くて…。私も一度も勝てた事が無いんですよ。もう手も足も出ないとはあの事で…」


 ライダーさんキツイ目をしてるモノなぁ…。眉間が皺寄ってた頃なら、目付き悪い奴と思われちゃってたかもね…。でも無愛想?ちょっと今からだと想像できないなぁ。


ぶゅふぁびびょば(部隊長が)べぼぉばぁびぃぼ(手も足も)べびゃい(出ない)びんびばべぇばべん(信じられません)!!」


 ライサさんが口一杯に食事詰め込んでナンカ言ってる。何言ってるかワカンナイよっ?!

 ジモンさんに 口に物を入れて話をするな! と後ろ頭にペチンとツッコミを入れられていた。

 両のホッペを丸々と膨らませるライサさん…。

 リスかっ?!可愛いじゃにゃいかっ!


「一旦戦闘になれば誰よりも前に出て、誰よりも多く倒して…。特に、ある種の魔物が出た時はその戦いぶりは壮絶の一言で…、鬼気迫るとはああ云う事を言うのでしょうね……」

「でも、味方が危機になれば必ず駆けつけて、絶対に引かなくて、自分がどんなに傷付いていようと必ず助け出して…、私も救われた事は一度や二度ではありませんでした」

「やがて隊の皆も彼を認めて行くようになったのですが…、それでも彼の笑った所は一度も見た事が無くて……」


 マグリットさんが寂しげに語っていた。


 …ライダーさんめ、返す返すもマグリットさんにこんな顔を…。


「でも、今は良く笑うそうですね?良かった…本当に。でもやはり一目会いたかったですね…」


 ホント、何やってんのよライダーさんってば!全く!!

 でもアレよね、女性にこんな顔させるって事は、やっぱりちゃんとそれなりの事をやってたってコトかしらね?

 何だかんだ言ってハッガード家の男だものね?

 成る程ね…。


 そうか、そう云う事ですかライダーさん。ふーーん、そうなんだ、へぇーーー……。


 マグリットさんがそう呟いた所で、食堂に役所の職員の方が息を切らせて現れた。

 今、本隊へ残して来たマグリットさんの部下の方がお二人、到着したそうだ。


 それは、昼過ぎに騎士団本隊がコープタウンを出発したとの知らせだった。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「スージィ大丈夫よ、良く似合っているから」

「ウム、何処へ出しても誇れる我が家の姫だ」


 にゅぅぅ…ハワードパパまで姫呼びをしるぅぅうう…。


 今わたし達は調査使節団を迎える為に、アムカムハウスの正面玄関前でハワードパパ、ソニアママと揃って正装でその到着を待っていた。

 ソニアママは白の、わたしはアイスグリーンのアフタヌーンドレスを身に付けていた。

 髪は後ろで小さく纏め上げ、アンナメリーに薄く紅までさされていて少し恥ずかしい。


 隣のソニアママを見上げれば、綺麗に髪を結い上げてやっぱりお綺麗だ。

 つい、ほぉぉ っと溜め息が漏れてしまう。


 その溜め息に気が付かれたソニアママが、わたしを見下ろしてニコリと微笑み 可愛いわよスージィ と褒めて下さる。

 やっぱり恥ずかしくなって ありがとうございます と小さく答えて下を向いてしまった。



 コープタウンからアムカムへと続く道は、アムカムハウスの東側を通り、壱の詰所まで繋がっている。

 これは、収穫祭でも使われるアムカムのメインストリートだ。


 既に使節団は村の境界を越え、此方へ向かって来ている。後1キロと言った所かな?

 探索で探ってみれば使節団は100人位は居る。これは宿泊施設が必要になるよね。


 やがて丘陵の上を超えて、此方へ来る一団が見えて来た。

 十数の騎馬に先導される様に、一際目を引く豪華な馬車が現れる。

 それに続き、騎馬や馬車が次々と小山の向こうから姿を見せる。


 先頭の騎馬が南の正門を抜け、敷地内へ入って来た。もう此処に居ても、馬や馬車が地を蹴る響きが伝わってくる様だ。


 前を進んでいた馬の列が左右に別れ、馬車が先頭へと進み出て来た。馬車はそのまま此方の正面へと進み、入り口前に寄せ止めた。


 止まった馬車は黒檀で作られた箱型のキャリッジで、そこ彼処に金の装飾が施されていて、鬱陶しい位にキラキラしている。

 その他の馬車は皆質素で実用的な物だと分るんだけど、これだけ矢鱈に派手だよね。


 その派手な馬車の前に、ダレス村長を始め御三家の方達が、普段見ない礼服を身に付けて待機していた。

 馬車は停車した後、まるで此方を焦らす様にタップリ時間を取ってから、その派手な扉が横に開いて行った。


 やがて中から此処からでも分る程鼻が大きくて、お腹をポテッとさせた見るからに居丈高な態度の人が降りて来た。


 ン?この人が団長さん?聞いていたイメージと全然違うんですけどぉ?


 オーガストさんがその人と挨拶をし、言葉を交わしているのが分る。

 相手の方は尊大な態度でオーガストさんの挨拶を聞いている様だった。ナンか感じが悪い。


 その人の後から神経質そうな目をした浅黒い男の人が降りて来て、オーガストさん達と挨拶を交わしている。


 更にその後から、なんか派手なドレスを着た女の人達が降りて来たよ?!ぅえぇ?まさかの同伴出勤?!

 い、いや、お二人の奥様かな?そ、そうだよね?いくらなんでも女性同伴は無いよ…、ねぇ?



 そうこうする内に、鼻の大きな人がハワードパパの前までオーガストさんに案内されてやって来た。


「当デイパーラ調査使節団を預からせて頂いています『国家災害対策委員会北部方面デイパーラ対策室副室長代理補調査使節団団長』キャメロン・フーリエと申します。ハワード・クラウド卿。此度は無理なお願いをお聞き入れ頂き、誠にありがとう御座います」 


「うむ、アムカムのハワード・クラウドである。遠路遥々良く参られたフーリエ殿。まずは長旅の疲れを落し、ゆるりと英気を養われよ。我々も出来るだけの援助はさせて貰う心づもりだ。安心して過ごされるが良かろう」


「ありがとう御座います。お心遣い痛み入ります」


 ハワードパパとフーリエと云う人との挨拶が済んだ後、ソニアママとわたしも紹介され挨拶をさせて貰った。

 エルローズさんとアンナメリーにココの所シッカリ仕込まれているので、綺麗に御挨拶は出来たと思う。


 ……でも、何か身体の隅々まで纏わり着く様な眼で見られた気がする。

 こんな眼で見られたのは初めてで、何だかとても気持ちが悪くなった。


 他にもその後、何人かの方とご挨拶を交わしたと思う、確か何かの学者さん達だったと思うけど…、気分が悪くて良く覚えていない。


 調査団の方達をハワードパパ達がアムカムハウスの中に案内して、入って行くのを見送ってから、わたしはソニアママのスカートに縋り付いてしまった。


 ソニアママは暫くの間、わたしの背中を優しく摩ってくれていた。

「…ねえ、アーヴィン!聞いて良い?!」

「なんだビビ?改まって?」

「この前から…!そのショルダーバッグのベルトに付けてるのって…、ひょっとしてバングル?!」

「うん?ああ、そうだよ」

「へぇーー…!何でつけているか…!聞いて良い?!」

「ん?なんか練習で作ったから上げるって言われて…、せっかく作ったのを仕舞われるのも何だから、着けといてっ…て」

「へぇーー…!…時に、アタシが上げたバングルは?!」

「え?ホラ、こうやって左手に着けてるぜ?へへ」

「……バングルの意味は…!分ってる?!」

「わ、わかってるよ!そんなの!!そ、その…2の蒼月の感謝祭の時に、…お、女の子が、す、好きな相手に…、お、送るんだろ?…で、それを、その思いを…、う、受け入れる男は、こうやって…ひ、左腕に…付け……るんだ…。あ!改めて言うと、スゲー恥ずかしくなるなっ!!」

「……ま…、そ!そうなんだけどね!わ!分ってるなら良いのよ!ウン!分ってるなら!!」

「……う、うん…」

「…そ、それで!それは…!だ、誰から…、も!貰った……の?」

「ん?メアリーがくれたんだ。練習用だー、って」

「へぇーー…!でも!全部で4つあるわよ?!」

「あぁ!後は、グローリアとイルマにジャーニスだよ。三人共『アーヴィンにあげるー』ってキャッキャ言いながら持って来たよ。可愛いもんだろ?」

「へぇーー…!アーヴィンは、それ…!素直に受け取ったの?!」

「え?だって子供だぞ?年上の女子の真似して、誰かに上げたかっただけだろ?」

「………はぁぁぁ~~~!」

「な、何だよ?!その盛大な溜め息はっ?!!」

「ううん?!いいの!そうよね!アーヴィンはハッガードの男だものね!」

「え?そ、そうだぞ!オレはハッガードの男だ!!」

「そうよね…!ハッガードだものね…!しょうがないのよね……!はぁぁ~~~……!」

「な、なんだってんだよ?一体?!!」

「はぁぁぁ~~~~………!」


次回「ハワード・クラウドの決断」


お読みいただき、ありがとうございます。

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