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57話 メリディエスの特使

お待たせしております。

今日から5日連続で毎日投下して行きます。


またお付き合いお願い致します<(_ _)>

 一週間ぶりの学校でのお昼は、修練場の西側にあるガゼボで頂く事にした。

 これは昨年、修練場を修復した際に出た余剰材料で作られた物だ。


 6メートル程の良くある六角形のガゼボで、中央に大きなテーブルとベンチが据えられていている。これには7~8人はゆったり座れるスペースがある。

 周りの壁に置かれているベンチも含めれば、学校の女子全員が収まる事も出来る大きさだ。



 でも今日は高位階の子供達だけだ。


 コリン、ダーナ、ミア、ビビ、わたし。そしてメアリーとヘレナの7人。

 何時ものメンツとも言える。



 そして何故かわたしはミアの膝の上に乗せられていた。

 ミアの膝の上で、堕肉ソファーに背中を包まれての食事と言う、何ともシュール(?)な状態です。


 何故かミアは朝から、妙にわたしから離れようとしない。

 何かあったのか?

 『危険がキケン……』とか言って、今も抱えながらわたしの頭をクンカクンカしているし……。

 ちょっと恥ずかしいから、もう少し控えてくれると嬉しい……。




「それでスーちゃん、高台を均しちゃったの?」

「凄いですわ!スージィお姉様!」

「スー姉様さすが!!」


 野営地を作った時の話をすると、ミアが驚き、両脇に居るヘレナとメアリーが凄い凄いと騒ぎ立てる。


「ヘレナ、メアリー、判ってると思うけど、普通の人は出来ないからね?」


 コリンがわたしが普通の人では無い様な事を言って、ワキャワキャしてる二人を諌めていた。

 なんか失礼じゃないかしら?


「何?!ロックブロックで出した岩を切って、テーブルを作ったですって?!大体!テーブルを作れる程大きい岩の塊なんて!誰も作れないから!!ましてやそれを斬る?!どんな達人よ?!」


 ビビまで、然もわたしが非常識だと言いたげに言葉を連続で撃ちこんで来た。


「分るわね?参考には出来ないのよ?」


 コリンがヘレナとメアリーに更に釘を刺す。


 オカシイ、試練中の話をすればする程に、皆から呆れたような空気が漂って来る気がしる……。

 挙句の果てにはビビに、ダーナやアーヴィンと同じ『脳筋仲間』だというレッテルまで張られた!

 解せん!!





     ****************************************





「で?アンタは何か聞いてる?!」


 食後のお茶を頂いていると、ビビが徐に聞いて来た。


「今朝方、先駆けの方が到着したとしか……、聞いて無い、よ」


 恐らく騎士団の動向が気になっているのだろう。

 生憎わたしも今朝早くにハワードパパが、アムカムハウスから知らせを受けた事しか知らない。


「そうか……そりゃそうよね!今朝あったばかりの事だものね!」


 ビビが力を抜く様に息を吐き出した。


「父様も!朝早くにアムカムハウスに向かったし……!何か慌ただしくなりそうね!」

「うちのパパも昨日、ママを連れてワンド村に行っちゃったし……、一月は戻れないって言ってたよ」

「父さんも、もう3ヶ月戻って無いよ。パーン兄なんて半年だ」

「ホントね……、今、12班の家長達が誰も居ないタイミングですものね……」

「『溢れ』が深刻って事よ!何処もかしこも人手が足りないのよ!」

「でも10thのチームは十分居るから、騎士団の事は気にしないで良いとパパは言ってた、よ?」

「あぁ!何かジッとしてらんない!なぁ!明後日の週末!皆で狩り行かないか?!」


 皆しっかりと、アムカムが今大変な状況にあると理解してる。

 ダーナも判っているんだろうけど、やっぱり身体が先に動こうとするんだろうね。


「子供達の申請が!一日二日で通る訳無いじゃない!ましてや『溢れ』が出てる危険なときに!」

「そうね、申請は受け付けてくれないと思うわ、それにセーフゾーンから出られ無いんだから、『溢れ』に対抗とか端から無理よ」

「そうだよねー、せめてスーちゃん位強くないとねー」

「くっ……、そうか、そうだよな。レッドポンゴの群れとかに出会ったら、あたしらじゃどうしようも無いもんな!」

「やっぱり、お姉様が凄いのですわ!」

「あ!スー姉様!今度ナイフの投げ方を教えて下さい!」


 肩を落とすダーナを横目に、ヘレナが自分の胸元で手を叩き、光の加減ではピンクにも見える緩いウェーヴのかかったストロベリーブロンドの髪を揺らしながら、嬉しそうに無垢な瞳をマカライトグリーンに煌めかせ、わたしの所業に賛辞を送って来た!

 何?その無垢な瞳の輝きはっ?!

 眩しい!眩しいよヘレナ!!


 かと思えばメアリーが、兄のヴィクターそっくりのミディアムカットにした柔らかなプラチナブロンドを振り撒き、コチラも瞳をキラキラさせ、おねだりをして来た!


 ヤメテーッ!

 眩しい!眩しいの!!

 その素直な瞳のキラキラが、とってもとっても眩しいから!ヤメテーーーッ!二人ともぉぉ!!


「ぇ?え?メアリー……ナ、ナイフ投げ覚えたい、の?」

「ウン!遠距離の敵を一撃で粉砕するそのナイフの技!絶対覚えたい!」

「あぁ!ズルいメアリー!わたくしも、わたくしにも教えて欲しいですわ!スージィお姉様!!」

「え?あ、あぁ、うん……そう、ね」


「ねえ、スー!槍でも、スーがやってるみたいに、剣先から何か飛ばして敵に当てるって技あるのか?」

「え、あ、ある……かな?」


 『インパクト系』のスキルは確か、ナイフや杖以外なら使えたと思ったけど……。

 でも困ったな……、皆わたしが『インパクト系』使うの見てるんだよね、チョイと切れてたとはいえヤリ過ぎだったかしらん?

 ま、今更言ってもしょうが無いんだけどね!

 教えることは出来ても、使える様になるかは別の話だしね。


「ホント?やぁった!へへーこりゃ頑張っ撃てる様にならないと!」

「でもアレは、武器にちゃんと『剣氣』が籠ってないと出来ないから……。だからダーナはまず、安定した『氣』の扱いを練習した方が良い、よ?」

「そっかー、やっぱソコだよねー。じゃあ、あれ、槍を振り回して周りの敵を薙ぎ払うーー!ってやつ?アレも今イチ上手く行かないんだよねー」


『ウインド・ブロゥ』の事かな?ダーナってば力任せに振り回しちゃうから、『氣』を放つ意識とかがお留守になっちゃうんだよね。


「それも『剣気』をシッカリ把握していないと出来ない、よ?」

「やっぱり『剣氣』かぁー、これも魔力並に扱いが難しいよね」

「でも魔力の時と違って、ダーナはもう『氣』を掴んでるから、後は鍛えて扱いに慣れる事だと思う、よ?」


「確かに!よし!じゃぁ今日は付き合ってよ、スー!」

「あ!ダーナお姉様ズルいですわ!わたくしもナイフ投げを教わるんですもの!」

「そうだよダーナ、ズルいー!わたし達の方が先だったモン!」


「え?あ、あ、そか、そりゃゴメン」

「いいよ、じゃ一緒にやろう。三人を見てアドバイスする、よ?」

「よっしゃー!じゃ!午後は皆で修練場で修業だな!!」


 ダーナが午後の予定を決めてしまった。


「どうせだから、今日はコリンたちもコッチでやろうよ!」

「え?私達も?」

「そうね!暫くソッチには行って無かったし……!たまには行かないと鈍っちゃうものね!今から試練の為の体力も整えておきたいし!」

「わたしはスーちゃんが行くなら行くから!」

「そうね、じゃぁ久しぶりに立ち合いに付き合って貰おうかしら」


 結局その日の午後は、女子全員で修練場での鍛練になってしまった。

 何だかんだ言っても、やっぱりみんなジッとしてられないみたいだ。


 因みに~、魔法組の子達も、肉体の鍛練は定期的に行っているのだ。

 魔法を使う者は身体は使わない、と言う一般常識は此処アムカムには無い!


 魔法を主に使う者にとって、魔力を上げる事は最重要事項だ。

 魔力を上げる為には、精神力を鍛え上げる必要がある。

 精神を鍛える為に、最も確実で手っ取り早いのは肉体を鍛える事だ!


 という実に脳筋な発想の元、此処アムカムでは魔法職の人間は体を鍛える事も怠ってはいない。

 まぁヘンリー先生のお話では、これは『アムカム特有』のやり方らしいんだけど、ね……。


 それでもやはり、アムカム出身者の魔力値は総じて高い値を出すらしいので、間違っている訳では無いそうだ。でも、やっぱり、この辺の発想は流石アムカム!って感じなのか……な?


 そんな訳でビビ達は、素手でもその辺のゴロツキ程度では相手にならない程の実力を持っているのだ。





     ****************************************





 そんなこんなで皆で気持ち良く汗を流した後、いつもより少し早い時間に学校を出た。

 みんな早く帰って騎士団の動向を知りたいらしい。


 でもわたしは何故か学校を出たらミアに拉致られ、そのまま自宅のマティスン家まで連れて行かれてしまった。

 何でもミアが言うには 一週間分の『スーちゃん成分』の補給 をする為なのだとか……。


 ……どんな風に補給されたかなんて、言えませんけど……ね。

 ええ!そりゃ言えませんともさっ!!





 マティスン家から帰宅すると、今日もアンナメリーが家の前で待っていてくれた。


「あの……もしかして、ずっと外で待ってた、の?」

「お嬢様にお仕えする事が、私の務めで御座いますから」


 聞いてみると、やっぱりわたしが帰るまでずっと外で待っていたらしい。

 ひょっとして随分此処で待たせちゃったのかな?


「あ、あの、ごめんなさい……遅くなってしまって」

「いえ、お待ちする事も仕える内ですので」


 そう言って うふふ と微笑むアンナメリーの眼は、何故か少しコワかった。



 その日の夜、次は二週間後と言っていた筈のマッサージを……。


「今の内に、もう少し整えておいた方が良いかもしれません」


 と言うアンナメリーに促されるまま、やって貰う事になった。


 その施術の程は昨日を上回り、声を抑える事が出来なかった……と思う。

 何故『思う』なのかと言えば……、途中から意識がハッキリしていないから……だ!


 結構大変なトコロまで凄い事されていた気もするが、定かではないのだ!

 あぁ!わたしがタレタレになりゅっ!


 コレ、マジパないっスよ?!

 なにがパないとか、ちょっと言えやしないンですけどぉー!


 ……まさか一日の内に何度もこんな声をあg……ゲフンゲフン!


 と……兎に角!この日もアッサリと深い眠りに落ち、夢も見ずに健やかなる目覚めを翌朝迎える事になったのだ!





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 その日の朝、走り込みから帰って来ると、中庭ではハワードパパが剣の鍛練をされていた。


 パパは、わたしが夢も見ずに眠っていた昨夜の遅い時間、静かにお戻りになっていたそうだ。


 わたしは自分の汗を流した後、いつものようにタオルを持ってハワードパパの鍛練を見学する。


 ハワードパパの剣技はやっぱり格好良い。

 一つ一つの動きが流水の様にしなやかで力強い。

 もう、一年近く毎日の様に見ているので、型は覚えてしまった。


 そこで引き、次に踏み込む。重心を脛骨の直下から流れる様に前に落して、そのまま突きを入れる。肩に剣を回しながら息を吸い、吐きながら正面に撃ち下ろす。


 もう息吹きのタイミングも覚えてしまったので、パパに合わせて呼吸も一緒に行ってしまう。


 でも、何でだろう……。今日のパパは何時もと少し違う。


 普段から泰然自若とした佇まいを持つ剣筋なのだが、今日はいつも以上にその落ち着きが深い。

 パパの振るう剣の様相が、いつにも増して深く重いのだ。


 その重い落ち着きが、わたしに中で何かを疼かせる。

 トクリと胸の奥が小さく鳴った。


 わたしはハワードパパが鍛練を終えた所へ、何時もの様にタオルを運ぶ。

 そして一呼吸開けてから思い切って聞いてみた。


「あの、ハワードパパ。何か……、ありました、か?」


 わたしがそう言うと、受け取ったタオルで顔を拭いていたハワードパパの手が一瞬止まった。


「何か?…かね?ワシの剣に何かを感じたのかね?」

「え…、はい、剣筋がいつもより重厚に感じました……。まるで……まるで、何かの、何かにお気持ちを据えた様な……、そんな感じを受けました」


 それをお聞きになったハワードパパは、一瞬目を見開いたけど、直ぐに目を細め嬉しそうな笑顔をお見せになった。


「そうか……そうか。剣筋と云う物はつくづく誤魔化しが効かぬ物だな」


 そう言ってカラカラとお笑いになる。


「我が心の在り様が、こうも容易くスージィの眼には捉えられてしまうか!ハッハッハッ!コレは昨日の趣旨返しだね?」

「え?い、いえ!そんな事は……!」


 わたしが言葉を続ける前に、ハワードパパの手がわたしの頭を優しく撫でた。


「ありがとうスージィ、ワシを心配してくれているのだね?だがね……大丈夫だ、心配する事など何も無い」


 そう言うとハワードパパは、わたしの頭の上に置いた手をそのままユックリと下ろし、わたしの頬を包むように手を添えてくれた。


「確かに今アムカムは大変な時だ。しかし、この程度でどうにかなる程アムカムは軟では無いよ?」

「……はい」

「ふむ……、そうだね。昨日は余り出歩いてはくれるな、と言ったが……。もし、我々の手が足りない様であれば、キミの手も貸してもらえるかな?」

「ハ、ハイ!も、勿論です!わたしに出来る事なら、幾らでも、お手伝い致します!」


 わたしが透かさずお答えすると、ハワードパパはわたしの頬に手を添えたまま嬉しそうに微笑まれた。


「そうか、それを聞いて安心したよ。村を……村の事をよろしく頼むスージィ。皆を守ってやってくれ……」

「……はい、お任せ……くだ、さい」

「約束だ……頼んだよ」


 わたしは、わたしの頬に添えられた大きく硬い手の上に、自分の小さな手も添え、ハワードパパの眼を見ながらユックリと頷いた。


 それでもやはり、胸の奥に生まれた小さな憂いは消える事無く、いつまでもユラユラと燻り続けていた。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 朝食を済ませた後、そのままハワードパパはアムカムハウスへと向かって行かれた。

 騎士団が到着されるまでは、もう戻られないと云う事だ。


 昼前にはソニアママも行かれると云う事なので、わたしもお昼を学校で頂いたら、そのままアムカムハウスへ向かわせて貰う事にした。


 その事を学校に着いてから話したら、ビビとミアも一緒に行くと言い出した。


 ビビは、まだ帰宅されていないお父様の顔を見に行きたいと言い、ミアは……わたしの付添だそうだ。


 午前の座学が終わった後、先生にお断りを入れ、食事を急いで済ませてアムカムハウスへ向かった。

 学校からアムカムハウスまでは、西へ1キロちょい進んだ所にある。わたし達の帰宅路から途中南へ少し逸れて在る感じだ。


 到着したアムカムハウスは正に喧騒の最中にあった。


 多くの大型の馬車が行き交い道を塞ぎ、建屋に取り付き荷卸しの順番を待っていた。

 その下ろした荷が積み上げられ、その荷を分類している者、分類された荷を運ぶ者。

 運ばれた荷を開き中身を確認し資材を取り出す者。そしてその資材を使い、作業を始める職人さん達。


 アムカムハウスの周りが、突如、騒々しい工事現場にでもなった様だった。


「な!なんなのよー!これーー!!」


 ビビが両手の掌で耳を塞いで怒鳴っている。


 全くだ、これは長閑なアムカムには似つかわしくない雑然たる喧騒だ。



「姫様?!アムカムのスージィ姫様じゃないですか?!」


 そんな喧騒の中でも良く通る綺麗な声が、後ろから赤面させるような単語を投げかけて来た。


「なぁっ?!なっ!にゃにをっ?!!」


 作業をしてる周りの人が、皆コッチ見てるんですけどぉ?!

 顔が熱を帯びるのを感じながら振り向くと、そこには可愛げなお姉さんがいらっしゃった。


 コロコロとした笑顔を浮かべて小走りで此方へ向かって来るその人は、先日我が家へ訪れた騎士団のお1人、ライサさんだった。


「やっぱりスージィ姫様だ!よかったぁ!またお逢いできましたぁ」

「えっ?!……ラ、ライサ、さん?」

「はい、ライサ・ウルノヴァです、姫様!憶えてて下さったんですね!ありがとう御座います!」


 騒音を抑えようと、耳に手を当てながら訝しげな顔をしているビビとミアに、ライサさんの事を紹介した。

 てか普通に挨拶してるんだけど、わたしが『姫』呼ばわりされた事はスルーしてないかぃ?!


「騒がしくて申し訳ありませんね……」


 ライサさんが頭の後ろに手を置いて、周りを見ながら申し訳無さ気に苦笑して見せた。


「もう、突貫工事でもしなけりゃ間に合わないんですよぉ」


 やっぱり工事現場だった。


 ライサさんのお話では、この後から来る騎士団本隊と、そのサポート関係の方達の仮設宿舎を用意しているのだそうだ。


「もうですね!ウチの使節代表、人使いが酷過ぎなんです!!休み無しのとんぼ返りなんですよ?!アムカムに着けば休めると思ってたら宿舎建設の監督をしろとウチの部隊長がっ!あぁ!きっとアタシは彼氏も出来ずに過労死してしまうに違いありませんっっ!!」

「そ、それは……、大変です……ね」


 図らずも、騎士団のブラックな労働環境を知る事になってしまった様だ。

 ビビもミアも天を見上げて嘆くライサさんに、同情の視線を送っている。


「あ!申し訳ありません、お引止めしてしまって!お父様に……、御頭首様に御会いに来られたのでしょう?」


 ライサさんが ハタ と、今気が付いたと言う様に手を叩きわたしに言った。

 わたしが そうだ と告げると、ハワードパパ達は遅い昼食を摂る為、少し前に執務室を出たから、今頃は大広間に居られる筈だと教えてくれた。


「ああ!アタシももう戻らないと、マグリット部隊長に大目玉貰ってしまいますぅー!姫様!またお会いしてくださいねー!!」


 教えてくれた後、そう叫びながら大慌てでライサさんは走り去ってしまった。意外と慌ただしい人だったんだなぁ……。

 ビビもミアも呆れたような顔をして見送っているよ。


 そうしてわたし達は、ハワードパパ達のいらっしゃる大広間へと喧騒の中を向かって行ったのだ。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 デケンベルからコープタウンへの距離は凡そ300キロ、それを繋ぐのは舗装され整備された街道である。

 道は50センチ程の亀甲型の玄武岩が敷き詰められ、頑丈な造りをしていた。

 道幅は5メートルを超え、馬車のすれ違いも容易に行う事が出来る物だ。

 それはこの大陸の中央を跨ぎ、果てから果てを繋ぐ国の動脈の一つでもある。


 その街道に今、数十の騎馬と、馬車数台から成る集団が北へと向かい道を進んでいた。


 馬上の者達は背嚢を背負い、手足に装甲を纏わせ、胸元にはシアンブルーに輝く魔珠を身に着けていた。

 時折光を煌めかせるその集団が、一般の旅団では無い事は明らかだ。


 その中で十数頭の整然と並んだ騎馬に先導され、一際目を引く他よりも大きな黒檀作りの馬車が、周りの騎馬に護衛をされる様に進んでいた。


 その馬車に、一騎だけで近付く騎馬が居た。

 それは馬車に並走し、自らのフードを外し馬車の窓を数回軽くノックする。


 フードから現れた顔は、30代後半程の厳つく鋭い目を持つ男のものだった。

 短く揃えた黒髪を撫で付け、口髭を乗せた口元はきつく結ばれている。頬に走る幾筋もの傷跡が、男が数多くの戦場を知る者だと知らしめていた。


 暫しの間を置き、馬車の窓がユックリと横へ開き始めた。

 豪華な装飾が施された窓から顔を覗かせた男は、不遜な表情で馬上の者に視線を向ける。


 窓の中では、顔を覗かせた男がシャンパングラスを手に持っているのが見えた。

 更に奥には、グラスに注いだシャンパンのボトルを持つ女性の姿も見て取れる。

 顔までは見えないが、胸元を大きく開けたドレスを着ているのが判る。恐らくは、酒と会話の相手をする事を生業とする者達なのであろう。


 しかし馬上の者はその様な存在は視界内から省き、顔を覗かせた馬車の主へと言葉を掛けた。


「フーリエ代表。コープタウンまでは予定通り、2の蒼月25日に到着出来そうです」

「ふむ……思うのだがね?デケンベルからアムカムまで7日の行程と言うのは、少し時間を掛け過ぎなのでは無いかね?」


 馬上の男が旅の予定が恙ない事を告げれば、馬車の中のフーリエと呼ばれた男は、大きく特徴的な鼻から溜め息の様に息を出し、その予定に不満を表した。


「本来であれば10日以上かかる距離を、最低限の兵糧だけでの進行です。これは相当に強行軍である事は、ご理解頂いている筈ですが?」

「む…、しかしな!王都メリディエスを発ちどれだけ経っていると思っている?既に2ヶ月だ!それが未だ現地にすら到着をしていない!何という不甲斐なさであろうか!貴公は国民が一刻も早い成果を求めているのが判らぬか?!」

「お言葉ですが、僅か2ヶ月です。僅か2ヶ月でこの隊を此処まで到達させた事こそ偉業とは思われませんか?」


 馬上の男が旅程の強行さと、それを十分に熟している事を説明するが、フーリエと呼ばれた人物はそれでもまだ納得がいかないとでも言いたげだ。

 そこへ馬車の奥から、神経質そうな目をした男が馬上の男に苛立たしげに言葉を投げかけて来た。


「マイヤー隊長!いくら騎士団とはいえ、代表に対して意見が過ぎてはおりませんか?!フーリエ様は仮にもこの使節団の代表なのですぞ!」

「……ふん、構わんよクラーク君。それよりも、コープタウンだったか?大丈夫なのかね?高々人口2,000人程度の小さな田舎町なのであろう?満足の行く資材調達は可能なのかね?デケンベルで済ませるべきでは無かったのかね?」


 男は浅黒い顔を歪めながら馬上の男に苦言をぶつけるが、それをフーリエが諌め、更なる不満をマイヤーと呼ばれた馬上の男に投げかけた。


「コープタウンは我が国最北端、最後の商業地ですが、一日の来街者は一万を超えています。その規模は決して小さな物ではありません。ましてや足を落さぬ為に荷を少なくし、先を急がれる事は使節代表の御判断であった筈」

「……ふん。そうだったかな?ならば現地での資材調達は問題は無いのだな?」

「先行したマグリットが、アムカムとの接触を済ませています。彼女が今、我々の受け入れ準備を進めております」

「ふむ、ハトの報せか……。宜しい、君に任せる。第十二機動重騎士団千人隊長セドリック・マイヤー。急いでくれたまえ」

「お任せ下さい、キャメロン・フーリエ調査使節団代表」


 もう話す事は無いと言いたげに手を振り、キャメロン・フーリエが馬車の窓を閉めて行く。

 その奥で、クラークと呼ばれた男は窓が締め切られる最後まで、セドリック・マイヤーを睨み続けていた。


「相変わらず勝手な事ばかり言って来ますね……」

「そう言うなカイル。ああやって我々に発破をかけているのだと思えば、悪い気もするまい?」


 セドリックが馬車から離れるのに合わせ、カイルと呼ばれた男が馬を寄せた。

 カイルは、纏う風に柔らかなブロンドの髪をなびかせ、眉根を寄せながら言葉を掛ける。


「まあ、大隊長がそう言うなら良いですけど」

「事実、この隊をこの期間で此処まで引っ張って来たのはあの御仁だ」

「実際に動いているのは我々や、あそこで隈を作ってるアチラの部下の方達ですけどね?」


 そう言ってカイルは後方に位置する馬車と、その前を進む馬上の人物に目をやった。

 馬車は、先程フーリエが乗っていた豪華な物とは違い、10人以上が乗り込める様に座席を括り付けた最低限の作りをされた幌馬車だ。


 その幌馬車の中では、多くの者が目の下に隈を作り書類の確認、制作に追われていた。また馬車に揺られたまま、意識を失っている者も半数以上居る。

 全てこの使節団の資金とスケジュールを管理する事務官達だ。

 そんな中、彼らの上司にあたる馬上の人物は馬車から差し出された書類の確認作業を次々と行っていた。一人馬上に居る為に意識を落とす事も出来ない。彼の隈は誰よりも深く刻まれていた。


 カイルはその様を見て、黙ってソッと目を伏せた。


「それでも代表は代表だ」

「細かな休憩を要求して来るのも、その代表ですよ?宿場街では二日三日の停泊は当たり前ですしね……」

「英気を養う為には必要な事だ。それも考えてのスケジュールなのだからな」

「優秀な人材達ですよね、勿体無い。いっそウチの事務方に引き抜きませんか?」


 改めてカイルが後ろの者達に目をやる。馬上の人物の眼が、先程よりも血走っている様な気がするのは気のせいか?

 彼らの上司で有るが故、差別化で馬車に乗れずに単騎の馬で進まねばならない彼は、移動中に眠る事など許されないのだ。

 カイルは再び目を伏せ、ゆっくりと首を振った。


「我が隊の事務方も優秀な者が揃っているぞ?何れにしても、全て終わってからだ……。先ずはアムカムへの到着が先決だ」


 マイヤーの言葉にカイルも そうですね と応え、口を閉じる。


 アムカムまでは後3日で到着だ。

 道中何事も無く、あの事務官達がこれ以上神経と睡眠時間が削らる事なければ良いのだが……。

 カイル・アーバインはそんな事を考えながら、セドリック・マイヤーと並んで馬を進ませた。

「スー!!何だコレはぁーーっっ?!!」

「にゃぎゃっ!ダーナ?!!い、いきなり・・・にゃっにゃにをっ?!!」

「これはどう云う事だと言ってるんだぁ!いつの間にこんな立派に!!」

「…ぅ、うにゅ…だ、だから揉んじゃ…ンにゃ…。ダーナ、自分で、立派なの持って…るんだから…、自分の揉んでれば…ん!」

「自分の揉んでたって面白くないじゃん!人のだから良いんだよ!!あたしはオッ〇イ星人だからな!!」」

「ぅにゃ?!自分で言ったよ?!」

「ん?ン…んん?うん?これは……」

「だ、だから・・・も、揉んじゃ・・・ぃにゃっ、ぁ!」

「…何だ、寄せ上げか」

「なっ!ば、バラすなぁぁ!!」

「そうか、スーは大きくなりたかったのか!…なら、あたしが毎日揉んであげるよ!うひひ!」

「ぅえ?な、なんでそうなるにょぉ?」

「あたしがニギニギすれば大きく育つぞぉ。ホラ!そこに成果もある!うひ!」

「えっ?!」

「「………」」

「え?コリン?…え?ミア?!ぇ?え?」

「確かな実績だろ?ホレ?」

「ぁにゅっ!ほ、ホントに…?ぁ…、で、でも…それじゃ…」

「ん?!ナニ?!どうかした?!」

「ぅえ?!ビビ?!」

「……スー、あたしにも出来る事と出来ない事があるんだよ」

「……ぁ」

「な、何よアンタら!?なんで目を逸らすのよ?!」

「ビビ…にゃ、にゃんでも・・・にゃい、よ?」

「「「………」」」

「何よ?!どう云う事よ?!」

「・・・ン、な、なんか・・・ゴメン、ね?」

「コッチを向けーーーーーーっっっ!!!!」


次回「マグリット・ゴーチェの安堵」


お読みいただき、ありがとうございます。

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