55話 クラウド家の侍女
明けましておめでとうございます!
年明け一発目です!
『北の宮殿』とも呼ばれるアムカムハウスには現在、41名のハウスメイドが在籍していた。
その主な仕事は広大な旧辺境伯邸の維持管理だ。
また、収穫祭などの催し物が開かれる時等は、外部から要人がこの城へ訪れる事も決して少なくは無い。訪れたゲストを持て成す事は、彼女達の重要な仕事の一つでもあるのだ。
そんな彼女達には、常に高レベルのメイドとしてのクオリティーが求められている。
ある日、そんな彼女達に衝撃が走った。
つい先日の事だ。クラウド家が娘の侍女を探していると言うのだ。
クラウド家の娘…つまりスージィ・クラウドの事である。
貴族制度が廃止され、既に150年以上が過ぎていた。
貴族と言う在り様は既に社会的には存在していない。
しかしアムカムに住まう者達にとってはクラウド家こそ、護民団を纏め上げアムカムを率いる盟主である事に今も何ら変わる事は無いのだ。
アムカムの民にとって、そのクラウド家の娘とは即ち、彼らにとって主君の『姫』なのである。
更にスージィには、その実力から崇拝者も数多く存在している。
勿論、殆どのメイド達もその中に含まれていた。
侍女の募集には、多くのメイド達が名乗りを上げた。
その選抜は熾烈を極めたと言う…。
だがそんな中から彼女は、アンナメリー・バイロスは、スージィの侍女として、その職に就く権利を勝ち取ったのである。
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「…あ、あの、ひ、1人で、出来ます・・・か、ら」
「大丈夫で御座います、お嬢様。全て私にお任せ下さい」
「い、いえ…、そ、そじゃなく・・・て?え?あ?あれ?・・・え?」
引き摺られる様に浴室に連れて来られたスージィは、脱衣場所で 自分で脱げるから、一人で入浴出来るから と抵抗するが、それも虚しくアンナメリーの流れる様な手付きで、手際よく装備を次々と外されて行った。
「う?うぇぇ?ぇえ?」
美しい装飾を施されたタイルで床や壁を埋め尽くされている浴室の中、細かな刺繍で鮮やかな幾何学模様を描く足敷きとして使われるバスマットの上で、スージィは今、ショーツ一枚の姿になっていた。
葦で造られた衝立の向こう側からは、白い湯気が立ち登り浴室内を霞で覆おうとしていた。
衝立の向こう側の浴槽に、たっぷりと温かい湯が満たされている事が良く分る。
バスマットの横に置かれた大き目の籠には、今の今までスージィが身に付けていた着衣が次々と山となり積まれて行く。
マットの上に立ち、正面に在る鏡に目をやれば、驚いた様に目を見開き、小振りながらも形の良い二つの隆起をあられもなく晒している自分の姿が映っていた。
顔が急速に熱を持つのが分った。
スージィは慌てて両手で胸元を隠し、アンナメリーに向かい抗議をしようとするが…。
「さ、お嬢様。コチラも籠に入れてしまいましょう」
そう言ったが早いかアンナメリーは、スルリとスージィの最後の砦であった薄布をも剥ぎ取った。
プルンと、後ろ側の二つの肉の山が弾ける様に揺れたのが判った。
「…ンにゃっ?!にゃぁぁ!なぁぁっっっ?!!」
咄嗟に右手を前方にも廻すが、最後の一枚を降ろす為にしゃがみ込んだアンナメリーの目線が、自分の脚の付け根と同じ高さである事に気付き、まだ湯に入っても居ないのにも関わらず、茹で上がった様に見る見る顔に赤味が増して行く。
当のアンナメリーはその部分を確かに視界に納めて居る筈だが、何事も無かった様に剥ぎ取ったスージィの小さな布も洗濯用の籠の中へと入れてしまう。
スージィはそのアンナメリーの余りにも平然としたその動きに、プチパニ状態から一瞬正気を取り戻し、目の前に積んであったタオルを一枚急いで手に取り、そのタオルで自分の身体を隠した。
手に取ったのはハンドタオルだった為、前部分だけを一枚の布だけで隠す事になり、却って恥ずかしい姿になってるのではないか?とスージィの茹でた様な顔の熱は、収まる事を知らずに上昇し続ける。
「お嬢様、どうぞそのままお湯におつかり下さい」
とアンナメリーが洗濯籠を持ったまま、スージィに話しかけて来た。
どうやら彼女はこのまま籠を、洗濯場まで持って行くつもりの様だ。
スージィは自らの裸体をハンドタオルで隠したまま、衝立の後ろ側へ警戒する様にツツツ…と移動した。
「直ぐ片づけてまいりますので、お嬢様はそのまま湯船にお浸かり下さい」
アンナメリーはそう言うとスージィの着衣が積まれた籠を持ち、一旦浴室から出て行った。
スージィは衝立の陰から覗き込む様に、アンナメリーが浴室を出るまでジト目で睨み付けていたが、彼女が出て行った事を確認すると、一つ大きく息を吐き出し、肩の力を抜いた。
浴室の入り口に向けていた顔を振り返れば、慣れ親しんだクラウド家の白い陶器のバスタブがある。
綺麗な曲線を描くバスタブの中には、たっぷりのお湯が湯気を湛えてスージィを待っていた。
アンナメリーの行動に少し不安は残るが、折角のお風呂だ。入らない選択肢は無い。
何しろ一週間水浴びだけで過ごして来たのだ。 身体がお風呂を欲してる! スージィはその心の声に素直に従い、湯船にその白い脚を差し入れた。
ユックリと身体を湯の中に沈めれば、バスタブから溢れた湯が音を立ててタイルの床へと零れて行く。
零れた湯がタイルを打ち、流れる音が室内に響き渡ると、床に広がる湯から立つ湯煙が視界を更に白く霞ませて行った。
「ンぁぁぁ~~~~~~ん…ぁン」
湯につかり、思わず吐息の様な声が出てしまう。
「きンもちイィ~~~~ンン」
元、日之本の国に住まう者の記憶を持つ身としては、湯に浸かれば声が出るのは致し方ない。
思わず頭の中に 極楽極楽 と言うフレーズが浮かぶ。
「こりは気持ち良過ぎだわぁ~~~~~ぁン♪」
一週間ぶりの風呂だ。湯の心地良さが身の隅々にまで染み入る様だ。
思わず湯船の中で身体を ンン! と伸ばす。
湯が波立ちバスタブから零れるのも構わず、大きく伸びをした。バシャバシャとお湯が跳ねる音がバスルームに響く。
ふと湯船に浸る身体を見下ろすと、自分の頭髪と同じ色をした影が下腹の下でユラリと揺れているのが目に入った。
アンナメリーがまた直ぐに戻ると言っていた事を思い出し、何故か妙にソレが恥ずかしくなった。
取敢えず、持っていたハンドタオルを使い、湯の中で身体を隠す様に覆ってみる。
(あ?あれ?何だか逆に変に、ぇロっぽくなった気がしる?)
「お嬢様!お待たせ致しました!!」
「ぁひゃンっ?!!」
そんなタイミングでアンナメリーが浴室のドアを開けた為、思わず変な声が出てしまった。
バスタブの中で跳ね上がり、バシャリと湯が飛び散った。
「お待たせして申し訳ありませんお嬢様。直ぐにお世話に掛らせて頂きます」
(い…いや、待ってはいないし…。お世話もダイジブだしぃ……)
スージィの心の声を余所に、アンナメリーが自らの袖を捲くりながら浴槽に近付いて来た。
湯船の中に顔を半分沈め泡をブクブクと立てて、半目になりながらスージィは考える。
(最初に此処へ来た時にエルローズさんに体を洗われた時は、こんなに恥ずかしくは無かったんだけどなぁー…。なんでアンナメリーさんに対してはこんなに恥ずかしいんだろ?やっぱ歳が近いからか?お姉さんだからか?兎に角羞恥心が過敏に働いてる気がしるよ…。あ、そうか羞恥心か?!羞恥心が成長してるからか?!最初は羞恥の意識が低かったモノね!パンツ見られても平気だったし!今は羞恥心がちゃんと育ってるモノ!ミアにセクハラでスカート捲られたらその場で動けなくなっちゃう位、羞恥心が育ってるモノね!!これは自分がシッカリ成長してるって事だわよねっ!!ウン!)
「さ、お嬢様、御髪を洗わせて頂きますね」
「ふょぎゅにゅっ?!」
スージィが色々と自分の羞恥心に対する考察をしてる間に、アンナメリーは袖を捲くり上げ、浴室作業の準備を終え、スージィの頭を湯船から浴槽の淵へとソッと引き上げた。
突然頭を掴まれて、またも可笑しな声を出すスージィ。
「ぁ、あ!ちょ!ひ、ひとりで…」
「お静かにお嬢様。目を閉じていて下さいまし、お目が沁みてしまいます」
アンナメリーが有無を言わさず抗おうとするスージィの頭部にシャワーを当て、シャンプーを泡立てる。
「お力を抜いて、そのまま楽にしていて下さい」
そう言いながらアンナメリーは、優しく労わる様にスージィの髪を洗って行った。
「一週間も御髪を野山に晒しておいでだったのでしょう?ちゃんとお手入れして差し上げますから、少々お待ちくださいね?」
(そう言えば一週間も髪のお手入れして無かったんだよね…アンナメリーさんの手、気持ちいいなぁ…。このままお任せしちゃおうかな…)
「ん…、よろしく・・・お願い・・・しま、す…ぅ」
「ハイ、お任せください」
仰向けに横たわる湯船から、バスタブの淵に乗せた髪と頭部をマッサージするアンナメリーの手は思った以上に心地良く、スージィは知らず知らずのうちにその身を委ねていた。
「はあぁ……ぅん…ン」
気持ち良さの余り、吐息の様な声まで漏れてしまった。
「あ、あのアンナメリーさん!」
思わず出してしまった声色が恥ずかしかったのか、それを誤魔化す様にスージィはアンナメリーに話しかけていた。
「お嬢様、アンナメリーです。敬称は必要御座いません。ただ『アンナメリー』とお呼び捨て下さい」
「え…で、でも、ずっと年上の方を呼び捨てにするのは、ちょっと抵抗が…」
「お嬢様はお優しいですね…。ですが奥様もエルローズ様を呼び捨てて御出ででしょう?主が従者を呼び捨てるのは当然なのです。私はお嬢様の従者で御座います!」
「…でも、やっぱり抵抗が…ありますよ。それに従者って…、わたしそんな偉そうな身分の者では無いです」
「お嬢様…、お嬢様はご自分のお立場をご理解していらっしゃいません…。分りました、ではこれは私からのお願いです。どうかこれからお嬢様のお世話をする限りは…、私を『アンナメリー』と呼び捨てにして頂けませんか?」
「え?お、お願い…ですか?」
「そうです、お願いです。スージィお嬢様に呼び捨てにして頂く事で、私はお嬢様にお仕えしているのだと言う手応えと、その確かな証を感じる事が出来るのです。お嬢様にお願いなど厚かましいかと存じますが…、聞き届けては頂けませんか?」
「そんな…厚かましいなんて……。え、えっと……ア、アンナメリー…?やっぱりちょっと違和感が…」
「フフ…ありがとう御座います、お嬢様。少しずつ慣れて行って下さいませ」
そんな会話をする内に、スージィは少しずつアンナメリーに対する警戒心が解れて行くのを感じていた。
まぁ、元はイキナリ衣服を剥かれた事から来た警戒心なのだが…、アンナメリーのマッサージが心地良すぎた。スージィにとって気持ちいは正義!なのだ。
(やっぱり裸の付き合いって、人同士の結びつきには大切だわよねぇ…)
等と考えていた。もっとも裸なのは一方的にスージィだけなのだが…。
やがて頭部の施行から、洗顔され、クリームを使った顔や首回りのマッサージを受けて行く事で、スージィの快楽指数がうなぎ登りに上がって行った。
既に肩や腕もマッサージされ洗われる事にも抵抗感が無くなり、いつの間にやら身体やデリケートな部分までアンナメリーの手により洗われていた。
それにより、おかしな声が上がったとしても、それはそれで仕方の無い事なのだ。
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スージィはバスタオルに包れたまま鏡の前に座り、アンナメリーにヘアブローをされていた。
その鏡に映るスージィの頬は、風呂上りと言うには余りにも赤味が強い。
(へ、変な声出ちゃったよ、出しちゃったよ…どうしよう……。変なヤツだと…危ないヤツだと思われたかな?でも…あんなトコ…あんな風に……ぅぅ!アンナメリーさんは表情変わってないし、スルーしてくれてるのかな?……大人だなぁ…。ぅぅうぁうぅぅぁぁ)
スージィが先程上げてしまった、つやのある声に対してモンモンとしている間も、アンナメリーのブラッシングは続いていた。
それに身を委ねていれば、やはり 気持ち良いなぁ… と意識が溶けそうになる。
(ヤバいなぁ…、アンナメリーさんのマッサージ…癖になりそうだよ…。ブラッシングも気持ち良いしぃ…、これじゃホントに何処かのお嬢様みたいじゃないですか…。困るよぉ…)
やがて濡れ髪も乾き、身支度を整えさせる為下着を身に付けさせようとするアンナメリーに対し、自分で出来る、と断固とした拒否を示そうとしたスージィだったが、結局ここでも彼女の手際の前にその抵抗は無駄に終わり、アンナメリーの手による下着の着用を許してしまう。
何か大事な物を失った様な気がしたスージィだったが、鏡に映る自分の姿に目を見開かずには居られなかった。
「こっ…、これはっ!!」
当社比1.5倍増し。
スージィは胸に目を落とし、鏡に視線を向け、アンナメリーを見る。それを数度繰り返し…。
「ふをぉぉぉぉぉぉ!た、谷間がっ!…い、いや谷間は前からあったけど…、こんな突き出たお山は…!」
寄せて上げての成果である。
「ひ…、人はわたしを勝ち組と呼ぶっっ!!」
これで勝つる! と思うスージィだった。
何に勝つのかは不明だ。
しかし本来の勝者はアンナメリーなのだが…、スージィは鏡に映る自分の姿に夢中だ。
色々とポーズを変えては、嘗て無く自己主張する胸部の白丘にご満悦である。
その姿を温かく見守るアンナメリーも満足げだった。
「これから毎日、私が整えて差し上げますよ」
その言葉に ハッ!としてアンナメリーに目を向けるスージィ。
そして、手を差し出しながら一歩踏み出し…。
「ア、アンナメリーさ…」
「アンナメリーですお嬢様」
「あ、アンナ…メリー…」
スージィがアンナメリーの手を取り…。
「よろしく・・・お願い、します・・・、アンナメリー」
「よろしくお願い致します、お嬢様」
スージィの手を握り返しながら、実に良い笑顔でアンナメリーが答えた。
こうしてスージィは籠絡されてしまったのである。
結構なチョロインだ。
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「ハワードパパ、ソニアママ、おやすみなさい」
スージィが習慣となっている、頬を合わせる『おやすみのキス』を二人に順に行い、一歩下って微笑んだ。
これはスージィが養女になってから、ハワードとソニアに求められて行う様になった事だが…。
当初、日本人のオサンの記憶を持つ身としては、ひどく抵抗を感じていたものだ。
だが実際にやって見ると、若干の気恥ずかしさはあったものの、意外とスルリと出来るようになってしまった。
やっぱりこの身体の影響かなぁ? 等と考えていたが今ではスッカリ習慣となり、するのが当たり前になっている。
むしろ、しない方が落ち着かない。
この一週間、『おやすみのキス』が無かった事はスージィにとっても、クラウド夫妻にとっても、心寂しい想いを抱かせていた。
今、一週間ぶりのおやすみの挨拶に、三人は仄かな暖か味を感じていた。
昼間、スージィは昼食時から午後の一時。
ソニアにベッタリと引っ付き、あれやこれやと試練中の話をし続けた。
帰りの馬車の上で話した事など、何の足しにもならないとでも言いたげに延々と。
それをソニアは始終嬉しげに聞いていた。
時折、質問や相槌をはさむが、スージィと言葉を交わす事が心底楽しいと言う様に幸せそうに。
ハワードが帰って来てからは彼にも纏わり着いた。
夕食時も話は止まず、ハワードは ウムウム と楽しそうに頷き聞いていた。
食事の後もリビングのロングソファーで、夫妻に挟まる様に腰を落ち着け話を続ける。
少しでもハワード、ソニアから離れたくないと言いたげなスージィの様子に、夫妻の猫可愛がりな子煩悩な想いは天元突破しかけていた。
「今日一日…いや、この一週間お疲れ様だった。改めて言わせて貰うよスージィ。一週間ぶりの我が家だ。良く休みなさい」
「おやすみなさいスージィ。ベッドはね皆でフカフカにしておきましたからね。良く休むのですよ。アンナメリー、貴女も上がって良いわ。貴女も初日で疲れたでしょ?スージィを一緒に部屋まで連れて行ってね?」
「畏まりました。ありがとう御座います奥様。それではお先に失礼致します、旦那様」
廊下はランプを持つアンナメリーが先行して、スージィを部屋まで連れて行った。
ドアの開け閉めまでアンナメリーにして貰う事に、所在なさ気にしてしまうスージィだったが、結局ベッドにまで導かれ、布団まで掛けて貰う。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「おやすみなさい、アンナメリー…。その、今日はありがとう…あ、明日からもよろしくお願いします…」
「はい、コチラこそ宜しくお願い致します、お嬢様。良い夢を」
そう言ってアンナメリーはドアをソッと締め部屋を出て行った。
「ぁあ…、自分のベッド、お布団、枕…。ンぅん…!やっぱこれよねぇ」
布団をかぶり、枕を抱きしめながらグリグリと顔を押し付け、幸せそうに呟いた。
「アンナメリーさん…か…。意識してないと、また『さん』付けで呼んじゃいそう…、暫くは気を付けよう。…でも、ホントに修行中なんだなぁ、あんなに何でも出来そうなのに…」
スージィは昼食、夕食の支度の時に、キッチンから響く食器の割れる音、その後に続く スパーーン と云う、まるでハリセンで頭を張り倒されている様な音、そして、くぐもったアンナメリーの呻き声を聞いていた。
(エルローズさんスパルタだものなぁ…。アンナメリーさんお茶は美味しく淹れてくれてると思うけど、台所仕事は苦手なのかな…)
そんな事を考えながら、アンナメリーの淹れたお茶を、満足げに頂くクラウド夫妻の姿を思い出す。
「ハウスメイドはお料理とか担当しないモノね…。でも侍女さんだと全部出来ないとダメなのかな?エルローズさん見てるとそんな気もするし…、やっぱり修行に来たんだねぇ…。大変そうだけど、頑張ってほしいな」
モゾモゾとベッドの中で姿勢を変え、身に付けているコットンの寝間着の肌触りも改めて確かめた。
「…ン、やっぱ気持ちイイ…。自分のお家で、自分のベッドで枕で、自分の寝間着で休むのって何でこんなに安心感あるんだろ…ン」
更に、ゴソもぞと動きが続く。
「あ、アンナメリーさんの……マサージ……、き、気持ち……良過ぎよ…ね。あれは……ヤバいわ……。く、癖に……なったら……ン」
かかった羽根布団が蠢き、揺れ始めた。 隣はアンナメリーの部屋なのだから気を付けなければ ……。 と思いつつも、掛けた布団の動きが大きくなる。
スージィのベッドが置かれた壁の向こうは、アンナメリーの部屋として使われていた。
先程、スージィの部屋を出て直ぐ、彼女も部屋に戻り、着替えてからベッドに付いたのは気配で判っている。
壁一枚とはいえ薄壁では無い、シッカリとした造りで厚みのある壁だ。余程大きな音でもなければ音は漏れない。
その事を理解しているスージィは、極力音を出さぬ様にと枕に顔を埋め、漏れ出る声を押し込める。
布団の蠢きは尚も激しく早くなり、ベッドのマットも軋んで揺れる。
意識せぬまま漏れ出る息遣いが室内に静かに響いた。
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ベッドの上から壁に向け耳を澄ます姿がある。
本来であれば、魔法でも使用しなければ聞こえない様な僅かな音だ。
魔法でも使用したのなら、スージィには直ぐに気が付かれていただろう。
だがこれは純粋に彼女の身体能力だ。
スカウトの高ランクのクラスを持つ彼女にとって、この程度の障害は紙も同然だった。
「お…お嬢様…!な、なんと…なんと愛らしい…お、お声…を!は、はかど…捗ります!!い、いつの日か…わ、私が…、私が…直にぃ…!お嬢様!!」
壁を挟んで激しく動く影がもう一つ…。
この時、スージィにとっての危険物が一つ屋根の下、壁の向こう側に収まってしまった事に、クラウド家の人々は誰一人として気付いて居なかったのだった!
「お…ぉ、お嬢様ぁ!!!」
「…!敵?敵が居るよ!」
「え?何?!どうしたのミア?!近くに魔獣が居るの?!」
「違うよビビちゃん。敵なの!敵なのよ!!」
「何?魔獣じゃないの?!何よ?一体何が居るの?!!」
「だから敵なんだってば!!とぉっても危険なの!!もう!」
「何よ?!何なのよ?ミア!?何が居るの?!」
「むむむぅー。危険よ…危険なの!」
「何よぉーーっ?!何が居るって言うのよーーーっっ?!!!」
次回「デケンベルからの先触れ」
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今年最初、正月からこんなぇろィ話で大丈夫なんだろか?
と思わなくもないですが…。
後悔は全くしていない!!





