幕間3 収穫祭へ行こうよ!
誘い誘われ収穫祭!ヒャッフー!!
【アムカム収穫祭】
その年の収穫物を地母神に奉じ、一年の感謝を捧げ、翌年の豊穣と無事を願う祭り。
収穫祭は、毎年5の紅月に一週間に渡って行われる、村の一大イベントなのだ。
初めてのわたしとしては、もうワックワクでその日を待ち侘びていた。
メイン会場は『壱の詰所』南側にある大広場。
この大広場とアムカム・ハウスは直線の一本道で繋がっている。
言ってみればアムカムのメインストリートだ。
収穫祭の間は、この数百メートルに渡る道が飾り立てられ、露店が建ち並び、パレードが往復する。
祭りの最終日は、大広場に立てられた巨大な藁人形に火を灯し、これを焚き上げて終わるのだと言う。
本来の収穫祭は、その最終日の一日だけだったんだけど、いつの間にか準備期間の筈の一週間も、祭りの内になってしまったそうな。
その一週間の間は、旅芸人や楽団が村に集まり、広場で演目を演じ、メインストリートを練り歩く。
村人達もそれに乗っかり、仮面を付けたり仮装したりして通りを踊り進む。
それはまるでハロウィンや阿波踊り、よさこいなんかを一緒くたにした様な賑わいだ。
この収穫祭はアムカムの村だけではなく、近隣の村々やコープタウンからも人が集まる。
要するに旧アムカム伯領でのお祭りなのだ。
だから、この時の賑わいは実に大変な物なのだ!
この時ばかりはクラウド家は、村のメインホストになるそうで、一週間の殆どを家族皆でアムカム・ハウスで過ごす事になるのだと言われた。
まさかあの居城に、クラウド家専用のお部屋があるとは知りませんでしたわよ!!
ハワードパパは、普段は見せないフォーマルなタキシードでビシッとダンディーに決めていた。
まるで本物の伯爵さまとか貴族の様で素敵です!
ソニアママも綺麗に髪を結い上げ、品のある素敵なドレスを日替りで召され、お客様のお相手をされていた。
ソニアママのお姿、立ち居振る舞いも正しくお貴族の奥方様そのもの!素敵です!素敵過ぎますぅ!!
先月、正式に養女として籍を入れたわたしも、ハワードパパ、ソニアママとご一緒にご挨拶をする事になった。
着せられたドレスは純白で夜会用の肩が出るタイプ。
幾重にも重なって広がるティアードのスカートは、フリルも多くてまるでどこかのプリンセス?みたいだ。
髪を纏め上げ、小さなティアラまで付けられたらソニアママに「ほら、私のお姫様の完成よ」とか言われて、恥ずか死んでしまいそうになった!!
着付けを手伝って下さったアムカムハウスのメイドの方達や、エルローズさんまでニコニコとして何度も頷いてらっしゃるぅ!
夜会の挨拶では 自己紹介をしてニコニコして居れば良い とお二人には言われたけど…。
そんなパパとママに挟まれてしまうと、緊張感がハンパ無いのですよ?!
わたしは庶民なんですから!こう云うの向いて無いんですってば!!
でも、ビビが何時も近くに居てくれてフォローしてくれたのはとても心強かった。
「アンタも、そろそろクラウド家の息女としての振る舞いを覚えないとね!」
とかビビに言われたのだけど…。
は?何言ってんのコノ子?
まるでわたしが、どっかイイトコのお嬢様みたいな言い草ですよ?
こんな特別な恰好は、祭りの今だけなんですからね?何だか可笑しな事を言い出したよコノ子はっ!
てな事をビビに言うと、呆れられた様な顔で肩を竦めて溜息を吐かれた。
ナニソレ!?解せにゅっ!!
それでも、毎日あるパレードの時は抜け出して、皆と一緒に屋台で買い食いしながら見学したり、時にはパレードにも参加して楽しく一週間を過ごした。
収穫祭最終日は、人型の焚き上げでファイナルを迎える。
それを手を繋ぎ合って眺めると、絆が何時までも絶えずに続くと言う古い言い伝えがあるそうだ。
それで仲の良い者達で誘い合って、お焚き上げを眺めるのがこの村の風習だと云う事だ。
その日はミアが迎えに来てくれて、二人で連れだって広場まで向かう事になった。
ミアが来たらソニアママとエルローズさんは微妙な顔で、ハワードパパはホッとした様な嬉しそうな様子で私達を送り出してくれた。
……なんだろ?なんかチョト変だったな?
広場に着くとコリンとダーナが、ヘレナとメアリーも居て合流した。
「あれ?ビビは?来てない?迎えに、行かないの?」
とミアに聞いたら。
「…ビビちゃんはね、……攫われちゃったのよ」
などと良く分らない事を言って来た。
なんだろ?要するに誰かと一緒に来てるって事なのかな?
焚き上げが始まるまでは、広場に出ている屋台を皆で巡って色んなものを買い食いした。
普段の村では見られない市場みたいな光景は、当たり前の様にテンションが上がってしまう。
串焼き肉とか、焼き菓子や、果物の蜜付けなど、必要以上に買ってしまってもしょうがないよね?
やがて時間になり人型に火が灯された。
高さ15メートルに及ぶ人の形に組まれた櫓に藁を詰め、そこに火を着けて焚き上げる。
元々は、その年に得た収穫物や獲物を、地母神に感謝を捧げる為に焚き上げていた…と云う話だ。
「綺麗だろ?スー」
「うん、凄い・・・ね」
「ずっと一緒に居ようね、スーちゃん」
ミアやダーナ達と手を繋ぎ、お焚き上げを見上げていた。
「・・・ビビも、一緒なら、よかった・・・のに」
そんな呟きがわたしの口から漏れた。するとダーナが…。
「多分、ビビはあそこだと思うな……」
それは、この広場の南西にある、少しだけ丘になっている場所に立つ古木。
そこからお焚き上げが良く見下ろせるのだそうだ。
その古木の事は知っていた。
ケヤキに似た巨木で、樹齢1,000年と言われているそうだ。
村の大抵の場所から見ることが出来るので、村での方向の目安にもなっていた。
で、なんだかんだで皆でゾロゾロと、古木のある丘まで行って見る事になった。
「収穫祭の夜、この古木の袂で思いを寄せる二人が、炎に照らされながら口づけを交わせば…、永遠に幸せになれると言う伝説があるのよ」
丘を登りながら、そんな話をコリンがしてくれた。
ナニ?そのきらめきな伝説はっ?!
伝説の古木でつか?!
好きとか嫌いとか言い出したのは誰なのかしら?なのかしら?!!
らぶみぃぷりずなのかしら?!!!
「残念だったね!ウィルが帰っちゃってさ!」
ダーナがニマニマしながらコリンを突いた。
「もう!で、でも来年は…来年は一緒に見てくれるって言ったもの……」
コリンが頬を染めながらダーナに言い返していたが、最後の方はモゴモゴっとしながら下を向いてしまった。
あ~~なんでしょねコレ?
無性に堕肉をニギニギしたくなってくるわね!
ま、今したら反撃受けそうな気配があるからしにゃいけどね……。
やがて丘の上まで来ると、ダーナが シッ と人差し指を口に当て、静かにする様に指示を出す。
そのまま静かに、古木の見える所まで皆で気配を殺しながら進むと、…確かに二つの人影が古木の袂にあった!
丘の上は古木を中心に、直径20メートル程のちょっとした公園の様になっていた。
その周りは植え込みが生い茂り、わたし達はそこで身を隠し様子を窺う。
此方から見て、右手の方向は植え込みが途切れ、お焚き上げの炎の明かりが良く見えた。
古木は此処から見て左斜め前だ。
その古木の前に二人が居た。
此処から顔は分らないが、見えている男の子の背中、あれってアーヴィン?
その背に少し隠れている小さな人影、そこには僅かな炎の明るさに照らされたビビの顔が覗いていた。
ゴクリ と生唾を飲む音が聞こえた。
わたしの右の袖を思い切り掴んでいるヘレナからだ。
その隣に居るメアリーが オトナ?オトナ?オトナ? とずっと呟いてる。
アーヴィンが何か言ったのか、ビビがハッとした様にアーヴィンを見上げた。
暗い中、幽かな炎の明かりのみだけど、その頬に赤味が差しているのが判る。
「スーちゃん、スーちゃん。スーちゃん!スーちゃん!!」
とミアがわたしの肩を揺すって来た。
胸元もタップンタップンと一緒に揺れて、わたしの背中に当たってましゅわよ!
心持、二人の顔の距離が縮まった気がする。
ビビが顔を上に向けたまま目を瞑った。
ダーナとコリンもグイィィッ!っと身を乗り出して来た!
全員が固唾を飲んで前のめりになって行く。
お、お願いだから転がり出ないでよ?!
二人の間が少しずつ狭まり、やがてゼロになる……、と思われたその時!!!
対面の茂みの中から ガサドタバターーッ! と転がり出てくる複数の人影!
アラン、ベルナップ、ロンバートの三人だ!!
ビビもアーヴィンも三人を見て固まってプルプルしてる。
ナンってお馬鹿な男子達!!!
折角、皆で静かに暖かく見守っていたと言うのに!台無しぢゃないのさっ!
あまりの事に、コッチ側もみんなして固まっちゃってますわよ!!
アランってば、二人に向かって頭を掻きながら テヘペロー 的なKYな事をしてくれちゃってるし!
ダメだ……これは、このままにしておく訳にはイカナイ!!
兎に角!可及的速やかにこの場を何とか納めなくてはならない!!!
わたしは直ぐ様茂みを飛び出し、電光の速度で三人の所まで移動した。
間を置かず、一番大きなロンバートを担ぎ上げ、アランとベルナップを両脇に抱え、瞬足で元の場所まで戻る。
そんで、そのまま勢い余って茂みから飛び出してるミアとダーナ達の後ろへ ポポイ とベルナップ、ロンバートの二人を放り投げた。
アランだけは抱えた時に 何コノ頬に触れる幸せ感触ぅー?! とかセクハラ発言放って来たので、二人よりも、もっとずっと遠くへ投げ捨てた!
一仕事終え、両手を パパン と叩いて埃を払っていると、後ろで固まったアーヴィンとビビが、目を見開いたまま此方を凝視してる事に気が付いた。
あ、あれ?コレってやらかしちゃったかしらん?
一筋汗を垂らせながら ギギギ と軋む様に首を廻らせると、バッチリ二人と目が合った。
あ、二人とも真っ赤な顔で口元がヒクヒクしてゆ。
そのまま、わたしも気まずさで自分の頬が染まって行くのが分った。
口元もやっぱりヒクついた。
もう!どうとでもなれ!と思い、二人に ビシィッ! とサムズアップを送って。
「頑張って・・・ね?!」
と激励をかけ、素早く転がっているミアとダーナの首根っこ掴んで、その場から撤退した!
「「が、頑張れるかぁあぁぁ~~~~っっ!!!」」
仲良くハモる二人の叫びが夜空に響いて消えて行く。
焚き上げの炎が秋の夜空を焦がす、思い出深い初めての収穫祭の夜だった。
次回『episode零』
来週9月7日20時に投下します。





