表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/238

37話 スージィ・クラウド駆ける!

スージィsideです。

 これは毎朝の走り込みが役に立ってるよね。

 この速さでも、すっかり周りに被害を与えずに走ることが出来てる。

 スゲーぜっわたし!


 とりあえず、此処まで神殿に向かう道はクリアにして来た。

 ヘンリー先生が通る道は綺麗にしておかないとね!目に付く端から片付けている。


 今も犬っころ二匹爆ぜさせた。

 コレで21匹目。

 蝙蝠は18。

 かなりの数が村全体に入り込んでる。

 犬だけで総数200超え、蝙蝠に至っては300は居る。



 何か無秩序に暴れ回ってるって言うより、組織立って動いてる感じがハンパ無い。

 まず統率者が居ると思って間違いないかな?

 森の淵に少数でいるコイツらが多分親玉だ。


 でも、それよりもヤッバイのはこの森に潜んでる大群!

 これ何とかしないと絶対ヤバイ!

 まだ動いて無いっぽいけど、早急に潰さないと!


 概ね神殿までの道は綺麗になった。

 もう先生が襲われる事は無い筈。

 後は…神殿に纏わり付いているゴミ共を片付けるだけ!!

 神殿には蝙蝠8!犬15!!

 一か所になんて数!


 ババッと神殿に向け地を蹴って跳び上がった。

 バタバタバタッと、スカートが風で激しく煽られ、音を出している。

 でも、スカートは捲り上がりませんから!

 乙女の嗜みですから!!



 大きく弧を描く様に、上空から神殿に降下接近する。

 かなりのスピードだ。


 上から蝙蝠に剣氣を撃ち放つ。

 1、2、3、4、5発。

 間断無く連続で放った。

 一瞬で5体の蝙蝠が爆ぜ散る。

 そのまま蝙蝠達の中を通る様に降下し、すれ違い様に蝙蝠を3匹、剣を振って乱斬る。

 これで蝙蝠は終わり!


 着地場所に犬が居て邪魔くさいので、着地寸前に1体蹴り飛ばし、着地点を確保する。

 ついでにそのまま身体を捻り回し、周りに居た犬達も剣で乱斬った。

 付いた勢いを、ブーツで地面を穿って殺し、見事に着地!

 10.00は堅いのでは無いだろか?この着地で犬も5体を潰したし、技術点が加算かも?!


 そのまま地を蹴り、低い姿勢で素早く移動する。

 神殿周りに群がる犬を、両手の二刀で片端から切り刻む。

 残りは正面の扉に取り付いていた3体のみ、やっとわたしの存在に気が付き、此方に鼻先を向けたけど…もう遅い。

 その時にはもう、わたしは扉の前に辿り着いていた。

 勿論、3匹は斬り伏せた後だ。


 うん、神殿敷地内に着地して3秒ってとこかな?

 これで神殿周りの魔獣は全部片付いた。


 今、神殿内にはデイジー先生しか居ない。

 先生はご無事?!扉には犬が取り付いていた筈だけど、神殿の分厚いドアは何故か無傷だ。


 二振りの剣をソードベルトの鞘に納め、扉に向かう。

 扉に手を伸ばすと、接触寸前に軽い抵抗を感じた。

 あ、ひょっとしてこれは防護結界?だから扉は無傷?

 とにかくドアを叩いてデイジー先生に呼びかけた。


「ス、スージィさん?スージィさんなのね?!ヘンリーは?!外は?そこは大丈夫なの?!ヘンリーは無事?!!」


 先生はご無事な様だ。

 どうやら神殿の結界装置に魔力を流し続け、耐えられていた様だ。


「ヘンリー先生も、もう直ぐ、到着します。デイジー先生、もう少しだけ、お待ちください」


 デイジー先生に、ヘンリー先生はご無事で、私が先行して帰路を確保した事。

 今急ぎ神殿へ向かっている事をお教えした。

 わたしはこのまま家へ向かうと告げて、神殿を出ようとしたが…、先生に手を握られ引止められてしまった。


「スージィさん!学校は…子供達は…皆は?!皆は無事なの?!…あ、ご、ごめんなさい。つい…。今、村に戻ったばかりの貴女に、分る筈が無いのに…、ごめんなさい」


 突然問われてしまい、戸惑ったけど。

 直ぐ先生は気が付いた様に手を離し、その手を力なく引き戻して胸元を抑え、申し訳なさそうに下を向いてしまった。


「先生、大丈夫です。みんなは大丈夫。わたしが、わたしがちゃんと、みんなを守ります、から!」


 わたしは安心して貰おうと、先生に笑って見せた。

 それで先生の不安が拭えたかは分らないけれど…、今わたしが先生に出来るのはそれだけだから…、情けないけれど、今はそれしか出来ないから。



 だからわたしは急いでお家に向かった。

 少しでも早く学校へ向かう為に!


 だって今お家には、車椅子に乗ったソニアママがいるんだもの!

 朝は大丈夫って言っていたけど辛そうだったもの!

 今お家が囲まれてるのが分る!

 早く!早く戻らないと!!


 まだお家の丘陵にも差し掛かってない。

 けど分る!犬が7、蝙蝠も5も居る!

 ソニアママがテラスの前に居るのが分る!

 なんで?!なんで外に出ているの?!

 エルローズさんがソニアママの前に居る?

 ママを庇ってるの?

 ジルベルトさんが犬に向かって行った?!


 ダメ!早く!急げ!!早くしないと間に合わない!!

 犬が1匹ママに向かって飛び掛ってる!!

 ダメだ!ダメぇ!!やめて!!だめぇぇぇっっっ!!!!





 自分では自分のスピードは速いと思ってた。


 この世界に来て、信じられない身体能力で動き回れて、どんな物よりも素早く、強く立ち回れると感じていた。

 ひょっとしたら出来ない事なんて無いとさえ思い始めてた。


 でも違う!違う!!わたしは何でこんなに遅いの?!

 お願いだから間に合わせてよ!!


 調子に乗って奢っていれば、絶対に想像もしてない所から足元を掬われる。


 そんな事、30年生きた人生の経験を知ってる癖に!

 何度も繰り返して思い知ってる筈なのに!

 なんで経験を生かせないかな?

 なんでまた繰り返すかな?!

 しかも取り返しがつかない形で来るなんて酷いよ!!

 お願い!お願いだからわたしからママを奪わないで!!お願い!お願いです!!!!




 その時、お家の丘陵を登り切り、私の目に入って来た物は、今まさに犬の牙がソニアママに迫る寸前の光景だった。


 まるでスローモーションの様だ。

 牙がママに迫る。

 わたしは握った剣の剣氣を飛ばそうと前へ突き出す。

 それは本当は瞬間的な動きの筈なのに、酷く体の動きが遅く感じる。

 身体に何かが粘り付く様に、もっと早く動ける筈なのに、思う様に腕が前へ出て行かない。


 そして、剣が前に出るよりも一瞬早く……。




 犬の頭蓋が粉砕された。


「・・・え?」


 エルローズさんが、手に持ったトンファーの様な鈍器で犬の頭を殴り付けたのだ。


 犬の身体は、頭を殴りつけられた勢いで地面で大きくバウンドし、破裂させられた頭から脳漿を撒き散らせた。

 首を在らぬ方向に捻じれさせ、そのままソニアママから離れる様にバウンドし、転がり地面に落ちた。


「ぅえ?えぇ?ええーーー??」


 ソニアママはと云えば…、車椅子に座ったまま、何事もなかったかの様に落ち着いた表情で庭の先を静かに見つめ…。


 弓を引き絞っていた!

 えーーーーっ??!なんでーーーーっ?!


 左手で弓を持ち、右手で矢を引き絞っているのだけれど…、右手には弓につがいでいる矢とは別に、後2本矢を持っている。


 それを、スッスッスッと流れる様な動作で、3本の矢を間髪入れずに連続で射ってしまった。


 放たれた矢は、吸い込まれる様に空中にいた蝙蝠3体を貫き射落とした。


 ソニアママはそのまま、車椅子の裏側から次の矢を引き出し、また3連続で矢を射放ち、蝙蝠2体、犬1体を立て続けに撃ち倒した。

 どうやらソニアママは矢を放つ時に、弓を持つ左手の指から矢へ魔力を纏わせ、矢の威力を大幅に上げている様だ。


 そうだ!ジルベルトさんは!?

 と思い出し向かって行った方を見ると…。

 ジルベルトさんは、地に着く様な低い姿勢で犬達の間を走り抜き、右手に長剣、左手にはダガーを持ち、それを凄い速さで往なし打ち回して、忽ち犬2体を屠ってしまった。


 うわ!なにそれ?その動き!

 普段の飄々とした雰囲気からは想像も着かない、鋭くて切れのある立ち回りなんですけど?!


 犬は残り3体。

 それもソニアママの矢で2体は瞬殺され、残った1体も トンッ っという感じで前へ出た、エルローズさんのトンファーの連打でアッサリ沈んでしまった。


 エ、エルローズさんの動きも凄い華麗で力強い!

 此方も普段楚々とした、上品な立ち居振る舞いされている方とは思えない動き!



 何コレ?何なのコレ?

 ちょっと余りの事に、呆けて仕舞いそうになりながらも周りを見回し、前へ進んだ。


 どうやらわたしが最初に確認したよりも、多くの魔獣がいた様だ。

 犬は全部で14。

 蝙蝠も12体転がっている。

 これがアムカムか……。

 これが戦闘民族アムカムの村人のポテンシャルか!



 混乱と安心と呆れが入り混じり、ちょっと微妙な心理状態になってはいるんだけれども…、それでも、ソニアママの無事な姿を改めて見ると、やっぱり安心して嬉しくなって、つい駆け寄ってしまう。


「ソニアママ!!」

「スージィ?!まぁ!スージィ!どうしたの!?今到着したの?」

「ママ!ソニアママ!!良かった、良かった無事で!ソニアママ!!」


 車椅子まで駆け寄って、そのままソニアママに抱き付いてしまった。

 車椅子に座っているのに、そのまま抱き付いたりしたらソニアママには窮屈かな?苦しいかな?


 でも嬉しいんだもの。安心したんだもの。もうダメだと思ってたから…もうソニアママに会えないと思ってしまったから…。

 あ、駄目だ、泣きそう……。


 ソニアママの匂いと体温が、凄くわたしをホッとさせる。

 ゴメンなさい、もう少しだけこのままでいさせて下さい。



「スージィ…、私の事を心配してくれたの?」


 ソニアママが、わたしの頭を撫でながら聞いてくる。

 わたしはソニアママの膝に顔を埋めたまま ウン と頷いた。

 ホントに、ホントに心配したんだから!


「ありがとうスージィ。ゴメンなさいね心配させて…」


 ううん と首を振る。

 そんな事無いの!無事でいてくれるからいいの!

 やっぱり顔を埋めたまま、首の動きで返事をする。

 だってお顔を見たら絶対泣く!


「…スージィ、…ねぇ?スージィ?」


 ソニアママはわたしの髪を優しく撫で付けながら、嬉しそうな声で聞いてくる。

 わたしは うん?なあに? としがみ付く手に力を籠め、更に少し甘える様に顔を押し付けて答える。


「今、私の事を…ママって呼んでくれたでしょ?ソニアママって」


 思わず固まってしまった!

 はうううう!イケナイ!つい咄嗟に口から出てしまっていた!!

 普段心の中では呼んでいるけど、口に出してお呼びした事など無かったのにぃ~~…。

 ヤバいぃぃ~~!これは超恥ずかしいぃ!

 厚かましいとか思われちゃってないかな?

 ダイジョブよね?うひぃ~~ん!顔が上げられないぃぃーー!


「スージィ、もう一度、もう一度呼んではくれないかしら?ね?お願いスージィ」


 うう…恥ずぃ…。

 恥ずいけど、ソニアママが何度も お願いよ と言って髪を撫でて来る。

 とりあえず、厚かましいとは思われてはいない様だけど…、やっぱり恥ずいので、恐る恐る顔を上げながら…。


「・・・ソニアママ」


 と頑張って呼んでみた。

 きっと今、わたしの顔は真っ赤だ。



 するとソニアママは、わたしをギュッと抱き締めてくれて。


「ありがとう、スージィ!ありがとう!私嬉しいわスージィ…本当に嬉しい!」


 抱き締め頬をすり寄せ、そう何度も嬉しいと言ってくれる。

 やがてソニアママはにこやかな表情で、傍に来たエルローズさんとジルベルトさんに…。


「見て!エルローズ、ジルベルト!私の娘よ!私の娘のスージィよ!」


 そう嬉しそうにお二人に告げられた。


 お二人は 存じておりますよ、奥様…。  よございましたな、お嬢…。 と其々目を細めながら言ってくれた。

 あ、ソニアママの目元が潤んでる…。

 そんなママの肩に、コテンと頭を預けて抱き締められていると、とっても幸せな気持ちが溢れて来る。


 でも今はまだ、この幸せの余韻に浸っている時間が無い。

 後ろ髪を引かれる思いでソニアママから身を離す。

 ママも名残惜しい様に、わたしの頬に添えた手を届かなくなるまで伸ばして来る。


「ソニアママ、わたし、行かない、と」


 わたしはそう言ってソードベルトから剣を引き抜き、庭の茂みの先に剣を向け剣氣を撃ち放つ。


 放たれた剣氣は、そこに居た犬を一瞬で爆ぜさせた。


 それを見ていた大人たちは おお! と目を見開き驚いていたが、わたしはそのまま爆ぜさせた犬の手前まで行き、屈み、そこで荒い息で動けなくなっている小さな生き物を拾い上げた。



 両手で掬う様に掌に載せ、ママ達の元へ戻る。

 エルローズさんが傍へ来て、その子を覗き込み。


「お嬢様、これは?」


 と尋ねて来た。


「アルジャーノン。ビビの・・・従魔」


 そう、これはビビのアルジャーノンだ。

 体中に傷がついている。

 あちこち皮膚が裂け、牙で抉られた様な跡が幾つもある。

 綺麗だった白い毛皮が真っ赤に染まっていた。


 お前、わたしを迎えに来たの?こんなになりながらも助けを呼びに来たの?


 エルローズさんが これはもう持ちませんね…。 と悲しそうに呟いた。


 うん、これはもうダメだ。もう手当では間に合わない。


 そう『手当て』では駄目だ。


 だから持ち前の『ヒール』を使う。


 思えばこっちに来て、『ヒール』を使うのは初めてなのよね。

 喜びなさいアルジャーノン。アンタこの世界で、わたしがヒールする初めての相手になるんだからね?


 わたしは左手にアルジャーノンを載せ、右手を翳して『ヒール』を唱えた。


 光の柱がアルジャーノンを囲む様に現れ、回り包んで行く。

 キラキラと光の粒子が舞い踊り、アルジャーノンへと集まる。



 その光景を大人達は息を飲み見詰めていた。

 やがて全ての光がアルジャーノンに集まる様に収束し、そして消える。

 直ぐに意識を戻したアルジャーノンが、ヒクヒクと鼻を鳴らし、自分の身体をあちこち確認する様に、わたしの掌の上で動き回っている。

 無事、傷も完全に癒え全回復したようだ。


「お、お嬢様!こ、これは!…これが?!!」


 普段、ポーカーフェイスで余り表情を表に出さないエルローズさんが、半ば取り乱す様に驚いてアルジャーノンを見詰めている。

 ジルベルトさんは さすがお嬢!うむ!さすが!! と何故か『さすが』を連発してた。

 ソニアママも目を見開いて驚いていた様だけど、何故か納得した様に頷いていた。


 と、アルジャーノンが頻りと、キキュッキキキュッとわたしに話しかけるように鳴いて来た。


「え?なにお前・・・?え?一緒に?連れて行く、って言って・・・る?え?」


 何故だかアルジャーノンが、わたしを連れて行くと言っている様な気がした。


「そう、その子は従魔なのね?そう云う事ね」


 ソニアママは何か分っているみたいだけど…、わたしは小首を傾げてしまう。


「大丈夫よスージィ。その子に着いて行ってらっしゃい。そして…、クラウド家の娘として、ちゃんと皆をお護りなさい」


 ソニアママが姿勢を正してわたしにそう告げた。

 それを受けてわたしもソニアママに向き直り。


「はい、必ず皆を、助けて、参ります」

「ええ、貴女を心配するまでもない事は重々承知していますが…それでも、気を付けて」

「はい」

「きっとお腹を空かせて帰って来るでしょう?だからハーブ鳥の仕込みをしておきますからね。なるべく早くお戻りなさい」

「はいっ!!」


 わたしが嬉しさを堪えきれずに笑顔で一際大きく返事をす。

 アルジャーノンもわたしに合わせ、一声大きく鳴き声を上げた。


 それと同時にわたしの身体は、アルジャーノンを中心とした光に包まれた。

 そしてそのまま、視界がホワイトアウトして行ったのだ。

・・・ふっっざけんなっっっ!!

次回「アムカムの子供たち その2」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=66226071&si ツギクルバナー
第1巻発売予告
9bgni59mfv0m95un1xfxmcl17acd_bbw_io_io_8mw0.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ