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【コミックス第1巻発売中!】女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!  作者: TA☆KA
第一章:アムカムの村

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26話 スージィ・クラウド立ち合いをする

「スー。今日こそは修練場へおいでよ」


 昼食時、唐突にカーラに言われた。


「もうワタシ達、明日で卒業だしね。夏の間はまだコッチに居るけど、学校での手合わせは今日しかできないでしょ?」


 先週は五日間かけて、全属性の契約を済ませた。

 週初めの昨日は神官指導の下、それぞれの属性の試行を行った。


 魔法の勉強の区切りと言えば区切りかな?


 とスージィは分厚いローストビーフを使ったクラブハウスサンドをモキュッモキュと咀嚼しながら考えていた。 あぁビーフとマスタードが合わさって幸せが流れ込んでくりゅ…。


「最後の思い出って訳でもないけど……どう?」


 実の所、ここ数日ステファンを相手にしていた事でスージィの手加減スキルは上がっていた。

 柔らかく『氣』を纏う事で、相手を怪我させない立ち回りに自信が付いて来たのだ。


 名付けて『フレンドリー・フィンガー』

 これなら、間違って相手を怪我をさせる事無いと思うんだ!と、心の内で鼻息を飛ばす。


「はい・・・わかりました・・・きょうは・・・いきます・・・です!」

「ホント!?やったーーー!スー!うれしいよーーー!!」


 と何故がダーナが抱き付いて来た。


「もぎゅみゅっ!」

「え?スーちゃん行くの?ならわたしも行かないと!うん!ちゃんと見ていてあげないと!」

「なんかアンタ、すっかりスーの保護者ね!」

「それなら、せっかくだし私も見に行こうかな」

「え?みんな行くの?それじゃ私も行こーー。ビビ、アンタは来ないの?」

「い、行くわよ!どうせですもの!行くわ!ね?アルジャーノン!」


 キキキュ!と答える齧歯目。

 今日は女子は全員修練場へ行く様だ。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「え?スージィ今日はコッチに来んの?やったぁっ!!」


 アーヴィンが、やたら嬉しそうに修練場に向かうスージィの傍へ寄って来た。


「アーヴィン?ちょっと近すぎると思うんだけど!」

「え?ビビ?なんでビビまでいんの?」

「アタシは行っちゃいけないの!?」

「い、いや!そんな事無いけど!珍しいかな~って…」

「大丈夫だよアーヴィン!案内はあたしがするからさ!」

「うぇ!ダーナ!ちょ、ちょっと!!」


 ダーナ達女子に囲まれて連れて行かれるスージィを、アーヴィンが慌てて追いかける。



 修練場の作りはログハウスの様な丸太作りで、一辺が20メートル程の小さな体育館の様だった。

 床は固められた地面がそのままで 大きな相撲の稽古場みたいだな とはスージィの感想。


「ワタシ達は着替えるけど…スー、あんた着替え持って無いでしょ?」


 とカーラに聞かれた。


(着替え?体育着みたいなもんかな?んーどしよ、持って来てないな…、服は汚したくないけど、地面にお尻着くとかしなきゃいいかな?)


「きがえ・・・ない・・・けど・・・このまま・・・へいき・・・です!」

「ダメダメ!汚れちゃうよ?アタシの貸してあげるから!」


 とアリシアが言って来た。 え?サイズ合わないんじゃないかな? とスージィが言うと。


「ダイジョブ、ダイジョブ!おいで!着替えさせてあげる!」


 と嬉しそうにスージィを更衣室へ引っ張って行った。



 着せられた服は白い袖なしTシャツと、薄黄色のワイドパンツだった。

 Tシャツは少し大きめで肩が出そうだ。

 パンツは幾重にも折り曲げて裾を合わせている。


「ホラ!大丈夫でしょ?見て!中々可愛いわよ!」


 とアリシアが自慢げに他の女子たちの前へ押し出した。


「なるほど!イメージ変わるわねェ…。これはこの夏やる事決まったね!」


 ウフフフフ…と笑うお姉さま方に、幾分戦慄を感じるスージィだった。



 結局アリシアと御揃いの格好になった。


「フフ、姉妹みたいでしょ?ねー!」


 と、肩を抱き頬を摺り寄せてくるアリシア。


「あ!それズッルーーい!」


 とカーラ。そのカーラの装いは…。



(あれ?カーラさんその黒い衣装、忍者装束と違います?短パンだけどソレ忍者にしか見えませんが?額当てまで付けて!忍びの者ですよソレ?人よ名を問うなかれ!な人ですかぁ??!)


 なんか異文化がおかしな具合に入り込んでね?と若干引き気味になるスージィだった。


 着替えを終え更衣室から出てくると、既に子供達も集まり終え、指導に当たる村の大人も修練場に入って来ていた。


 修練場では村の大人が交代で指導に当たっている。


 今日来ているのはライダー・ハッガード。

 アーヴィンの一つ上の兄だ。


 ライダーは今年で24歳、去年まで王都の騎士団で軍役を4年間務めた実力派だ。


 修練場に居る子供たちを見渡し、その中に初めて見るスージィを確認したライダーは……。


「……え?ラヴィ?…ラヴィ!……な」


 大きく目を見開き、息を飲んだ。

 ライダーの眼に快活な少女の姿がスージィと重なる。


「アニキ!スージィだよ、クラウドさんの所の!今日はこっちで修練するんだって!」


 アーヴィンの言葉で我に返る。


「そ、そうか!…そうだよな…、君が、君がスージィか!話は聞いてる。君が皆に刺激を与えてくれる事を期待しているよ!」


 ライダーに握手を求められ、それに応えるスージィ。


「は、はい・・・がんばる・・・です!」

「それで、君は何が得意なのかな?一応剣が扱えるとは聞いているが…」

「あ・・・はい・・・にとう・・・つかう・・・いちばん・・・なれて・・・ます」

「にとう?」

「あ・・・いっぽん・・・づつ・・・もつ・・・です!」

「ああ!二刀使いか!それなら、そこの剣立てから使いやすい物を選ぶと良いよ」


 ライダーが指差した方を見ると、壁際に幾つかの箱が置かれ、その中に無造作に剣が突き立てられていた。


(なんか傘立てみたいだ。あ、昔見た剣道部の部室で竹刀がこんな風に刺さってたな)


 右の方には木刀が、左の方には刃引きした鉄製の物が差し立てられていた。


(木刀は年少用かな?刃引きした物使わせるとか、やっぱ実践的?)


 などと考えながら、一番左端の箱から使い易そうな長さの物を見繕ってみた。


「あ、そこは素振りよ……」


 それを見ていたライダーが そこは素振り用の重さを増した物しかないから と言おうとしたが…。


 スージィは軽々と指先で、二本の剣をスッスッと箱から抜き取っていた。


 そのままジャグリングでもする様に、左右の剣を数回クルクルと回しては受け止め、重さを確かめていた。


 その後、振り具合を確かめる様に数回、両手の剣を上下に振り動かした。


 ゴウッ!と風を切る音が響く。


「うわ!はや!」

「すっごいねぇスーちゃん」

「ホント、あんなに速く振れるなんて、スーってやっぱり凄いのね」

「いや!アレは速いとか凄いとか言う次元じゃないだろ!アーヴィン!見たか?」

「ああ!3…いや4回か!4回振り下ろしてる!」

「4回!?うそ!一回上げ下ろししただけじゃないの!?」

「それだけじゃないよ、太刀筋が全部一緒だ。全くブレて無い。ワタシもあんなの初めて見た」

「チックショ!な?オレ最初に行かせてもらっていいか?最初に会った順って事でさ?」

「えぇ!それじゃアタシが最後じゃない!……ま、良いけどさ。アーヴィン、アンタやれんの?」

「やれるも何も!……やりてぇじゃねぇかよ!!」

「そりゃそうだ!行っといでアーヴィン!んで次はあたしの番だ!」

「おう!アニキ!オレからだ!」


 ライダーにそう告げ、アーヴィンは中央に進む。


「…なんだか、アーヴィンてば男の顔になっちゃったわね!」

「ビビちゃん、惚れ直しちゃった?」

「ち!ちが!そんなんじゃないし!!」


 修練場の中央ではライダーがスージィに向かい…。


「すまないスージィ。それは素振り用で他の物よりウェイトがあるんだ。それが当たるとシャレに成らなくなる。その隣の箱から選び直してもらえるか?」


 はぅぅ!とスージィが慌てて刃引き剣を選び直し始める。



「アーヴィン防具は?」

「いらない」

「あれは話に聞いていた以上だ。骨の1~2本はいかれるぞ」

「あ!骨なら私が直ぐに継いであげる!安心してやられなさい!」


 とジェシカが手を挙げて嬉しそうに告げた。


「だそうだ」

「へ!上等だよ!」

「だいじょぶ!・・・おらない・・・です!・・・おまかせ・・・です!!」


 ふんぬ!と手を握り鼻息を飛ばすスージィ。


「な、なんかあの子!変な張り切り方してない!?」

「なんか自信満々の顔ねぇ」


 中央でスージィとアーヴィンが向かい合う。


「あれ?片手剣1本でいいのか?」

「うん・・・てあわせなら・・・これが・・・いいかな・・・て」

「そか、よろしく頼むな」

「うん!・・・よろしくね!・・・アーヴィン!」


 と満面の笑みでアーヴィンに答える。


「だ!だから…、その笑顔は…まずいって……」


 ン?と小首を傾げるスージィ。

 それを見てアーヴィンは見る見る赤くなっていく。



「また!アーヴィン直ぐ鼻の下伸ばす!!」

「ビビちゃん、妬いちゃダメよ?」

「だ!だから!そうじゃないってばっ!!」



 ライダーがアーヴィンに近づく。


「アーヴィン。やめておくか?」


 冷めた声でアーヴィンに問いかけた。

 そんな浮かれた状態では端から無駄だ。その声はそう言っている。


「やる!やるさ!!」


 アーヴィンは自らの頬を何度も叩き気合を入れた。


「よっしゃ!!いいぜアニキ!!」

「やれるんだな?」

「ハッガードの男は、相手を前にしたら絶対引かねェ!そうだろ!」

「その通りだ!よし!胸を借りて来い!!」

「おう!!」


 ライダーが中央に立ち、二人に目で確認を取り高く上げた手を降ろす。

 始め!の合図だ。



 アーヴィンの武器はロングソードだ。

 それを右肩に担ぐ様にして飛びだし、一足飛びに間を詰める。

 相手の出方を覗う様な事はしない。

 自分が格下だと自覚し、一太刀でも入れるという覚悟での飛び出しだ。


 対するスージィは左手で剣を持ち、両手をだらりと垂らしてユラリと立っている。

 その視線は真っ直ぐ正面を向き、表情はとても穏やかだ。


「スーの雰囲気が変わったな」

「うん、ありゃコワイね、アタシだったら手を出せないな」


 カーラとアリシアがそんな会話を交わす。


「え?そうなの?私にはただ立ってる様にしか見えないけど?」

「隙が無いんだよ。ただ立ってるだけなのに、どこに打っても返されそうで捉え所が無い。それでも!あたしも突っ込むけどね!」


 コリンの問いかけに、カーラが屈託なく答えていた。



 アーヴィンがやろうとしている事はたった一つだ。

 最速で自分の持つ最高の一撃を放つだけだ。

 右側から体重をかけた一撃を袈裟形に剣を振り下ろす。

 受けられたなら勢いを殺さず巻いて下から斬り上げる!


 自らの突進力と捻った身体を開放する勢いから放つ一撃は、スージィの目前に迫る。


しかしスージィは僅かに身体を揺らし、剣のブレードで受ける事無く、その柄頭でアーヴィンの剣の左側面を叩いた。


 剣を横から叩かれた衝撃は存外に大きく、アーヴィンはそのまま体幹まで揺らされ、前のめりに踏鞴を踏んでしまう。


 半身(はんみ)を開いたスージィは、アーヴィンの進行方向から外れ、アーヴィンの顔の横に立った。


 その位置からアーヴィンのこめかみに右の指を当て、トンッと弾くと、アーヴィンは顔を仰け反らせ、物凄い勢いで壁まで飛ばされた。


「がぁっはっっ!!?」


 背中から壁に激突し、肺の中の空気が絞り出される。


(頭がメッチャ痛ェ!なんだコレ?何が起きた!?何でオレは吹っ飛んだんだ!? )


 やっとの思いで体を起こし、状況を確認しようとするアーヴィン。


「アーヴィン、もう終わるか?」


(何言ってんだ?アニキは!終わりなワケ無ェだろが!!)


「まだやれる!もう一本だ!」

「よし!構えろ!」





 結局その後4度、アーヴィンは地に背を打ち付ける事になった。

 斬り上げ、払い、刺突。悉く躱され、往なされた。


「アーヴィン、そこまでだ」

「ま、まだ!…でき……」

「交代だ、休んでろ」


 立ち上がろうとしたが、手足が言う事を聞かず、そのまま大の字に倒れ込んでしまう。


「はっ!……はっ!……はっ!……はっ!……」

「アーヴィン大丈夫?」


 呼吸が荒いまま、仰向けで体力の回復を図っていると、ベアトリスが心配そうに声をかけてきた。


「くそっ!たった…、たった数合、打ち合っただけで……打ち合っても…ないか、……このざまだ!」

「……アーヴィン」

「まったく……とんでもねぇなっ…、ありゃ反則だろ」

「そうね、あの子魔力もデタラメだもの!」

「ちくしょうめ!……こんだけ力の差を見せつけられたんじゃ……」

「「「燃えない訳にはいかない」っての!」わよね!」


 顔を見合わせ思わず笑ってしまう。


「なんだよビビもか?」

「そりゃね!あんだけの魔力見せつけられたら呆れるしか無いじゃない!……でも!」

「力の差見せつけられて、それで気概無くす様な奴ぁ、この村には居ねェ!」

「むしろ挑まずには居られなくなるのがアムカムの村ってものよね!」

「その通りだ!」


 ハハハ フフフ と二人が笑いあう。

 向こうでミアが ビビちゃん仲直りしたのね と呟いている。



「やっとやれるね!スー!」

「ン!・・・ダーナ・・・それ・・・やり?」


(わたしの身長位しか無いな。棍かと思ったけど槍?短槍ってヤツ?短いから棍術みたいな使い方するのかな?ダーナの格好もチャイナ服っぽいし…いやズボンあるしアオザイか)


「そ!槍!あたしも器用な方じゃ無いからね。一気に行くよ!」


 始め!の合図とともにダーナが飛び出した。

 背中から槍を回転させ更に自身も回る勢いで、より遠心力とスピードを乗せた槍頭を、右から薙ぎ払う様に振り切って来る。


 しかしそれを、スージィは下からショートソードで跳ね上げた。

 遠心力の乗った勢いそのまま上に跳ね上げられ、槍と一緒に腕も持って行かれ、ダーナの脇が上がる。


 ダーナが気付いた時には、既にスージィの指先がダーナの脇腹に触れていた。


「ぎゃんっ!!」


 壁際まで吹き飛ばされ転がるダーナ。



「くぁっ……これは…確かにきっついな……でも!」


 ダーナが脇を抑え、苦悶の表情を浮かべながら身体を起こし、キッと中央を見据えた。


「まだまだぁっ!行けるよっ!!」


 槍の中程を持ち、身体の正面で八の字を描く様に回しながらスージィに突っ込んで行く。

 しかし、左右から高速回転で迫る槍先でもスージィを捉えられない。


 ダーナはそのままスージィの周りを回り、連続で突きと払いランダムに繰り出して行く。


 だが、やはり悉く躱され捌かれてしまう。

 時折、払われた重さで槍が持って行かれそうになるが、やっとの思いでその重さを殺さず引き戻し次の攻撃に上乗せして行く。


 顔面に向け、槍先が突き込まれた。

 その一撃をスージィは頭を右に傾けて躱し、剣の柄頭で引き戻される槍頭を叩いた。

 思わぬ勢いで戻って来た槍を抑えきれず、ダーナは身体を仰け反らせてしまう。


 スージィはその懐に入り、ダーナの胸元に指先をソッと添える。


「ぎゃぶ!」


 吹き飛んだダーナが、再び壁に叩き付けられた。


「あっ!……かっ…かはぁっ!……はっぐ!」


 肺から空気を搾り取られ、詰まった息をやっとの事で整えた。

 槍を支えにして再び立ち上がり……。


「もう一本ーーーー!!」


 ダーナは三度スージィに向かい突進して行く。



 結局ダーナも都合5回打ち倒された。


「…お疲れ様」

「はぁっ!…はぁっ!……、はぁっ…」


 壁に身体を預け、槍に縋り付く様にして地面に座り込むダーナに、コリンが静かに声をかけた。


「どう?期待通りだった?」

「はぁっ…はぁ…、あぁ!……期待以上…だよ!……はぁっ…はぁ…、とんでもない…子だよ」

「ダーナがこんなに手も足も出ないなんて、初めて見た」

「はぁ…次元が…違うモノ、…はぁ…言ったろ?…はぁ……達人だ…って!」

「ふふ、何だか嬉しそう」

「へへ…ウンそりゃ…嬉しいよ!…こんな……こんな凄い子がこんな近くに居る!も…毎日がワクワクだよ!しかも…、メチャメチャ可愛くてさ!…あたしは、スーにゾッコンなんだから!!」

「知ってるーー。私だってスーにゾッコンだもん!フフ」


 アハハ、ウフフとダーナとコリンが笑い合っている。

 それを見ているミアが わたしの方がゾッコンだもん! と頬を膨らませた。





「流石だねスー。想像以上だよ!」


 カーラの武器は、刃渡り30センチ程の鍔の無い片刃剣だ。


 それを腰の鞘に収めたまま腕を後ろに隠す様に廻して、右に左に不規則に軌道を変え、地を這う様に滑り込んで来る。


(それ短刀じゃないですか?!やっぱり忍びの者の人だったぁーー!もしや変移ばっ刀Kスみ斬りでつかぁ!?)


 カーラは、スージィの脇を抜ける様に走り抜き刃を滑り込ませるが、その刃をスージィの剣で弾かれてしまった。

 弾かれた瞬間、その強烈な衝撃を緩和しようと、そのまま後方へ飛び退き、空中で数回後方回転し手足を着いて着地する。


「凄いよ、受けた手がジンジンしてる…」


 短刀を握っていた手をブラブラと揺らしながら姿勢を戻し、トントンとその場で軽く跳躍しながら…。


「本気で行くよ!スーになら通じそうだ!」


 そう言って再びスージィに向かい走り出した。

 もう一度左右に揺れる。

 だが今度は更に大きく、より立体的に、そして…。


幻影四重奏ファントムカルテット


 カーラの姿が分裂する。


「ふぉ!・・・ぶんしん・・・のじゅつ!?」


(なるほど行動意識を複数に分けてこちらに向かわせてるか。これは気配が読める相手であればあるほど効果が出るかな…。やっぱりカーラも『氣』の操作ができるのか。アーヴィンやダーナと比べても剣に纏う『氣』が随分しっかりしてるし。けど!まだまだハワードパパには及ばないけどね!)


 4体のカーラがスージィに迫る。


 ファントムがスージィに接触するのとほゞ同時に、スージィの後方からカーラの刃が迫る。


 だが刃が当たる寸前、下から背中へ回されたスージィの剣のエッジが、それを受け止めた。


 死角から打ち込んだ切っ先を、此方を見もせず止められた事に目を開き、カーラは一瞬動きを止めてしまう。

 その一瞬の動揺で、ファントムも消失する。


 スージィは後ろを向いたままカーラの刀を払う様に剣でなぞり滑らせ、カーラが短刀を握っている手に剣先の腹を押し当てた。


 その手の位置を支点にし、そのままスージィが剣を回すとカーラの脚が地から離れ回るように上がって行く。


「…し、しまっ!」


 そのままカーラの身体は、スージィの身体に密着する様に回る。

 そして丁度、スージィの左ひじがカーラの水月に触れた所で。


「かはぁっっ!!」


 カーラは後方へ吹き飛ばされ、そのまま壁に激突し床へ崩れ落ちた。






 アリシアは武器を持たず防具を着けていた。

 グローブに、肘、足の甲、脛に膝、肉厚のサポーターを装着し、その場でトントンッと小さく跳ねている。


(格闘かな?グローブが空手やってる人が付けてる感じの物だしな…。あ?でも腰にナイフっぽいのつけてる。もしかして殴る蹴るした後ナイフで止め刺してくるナントカコマンドー的な?ひょっとして一番凶悪な人??)


「さて!アタシが最後ね。お揃いの格好だから姉妹対決みたいね?」


 とにこやかに言うアリシアだが、格闘の人だと分かるとナントカ仙人の道着に見えてきた。


「じゃ!行っくね!」


 始めの合図と共にアリシアは攻撃を開始した。


 左の裏回し蹴りから始まり右の回し蹴りへと繋ぎ、次々と連続でダンスをする様に華麗に蹴りを繰り出して行く。


 しかしスージィはそれを全て難なく躱して行く。


 やがてアリシアは体を反転させ、逆立ち状態で身体を手で支えながら回転し、その動きと脚の遠心力で蹴りを高速回転させてスージィに迫る。 うお!スピニング〇ードキック!?


 スージィが迫る脚を右手の甲で弾いた。

 アリシアは弾き飛ばされた勢いを受け流す様にそのまま後ろに下り、逆方向に回転しながら体勢を整え、再び地を蹴り間を詰めて行く。


 アリシアは腰のナイフを引き抜き、蹴りや肘、膝のコンビネーションを組み合わせ間断無く高速で連続攻撃を仕掛けて行った。


 と、スージィが右の爪先を残したまま踵を上げ軽くトンと床に降ろすと、衝撃が床に広がりアリシアが波に飲まれバランスを崩しかけた。

 すかさずそこへスージィが迫る。

 アリシアは咄嗟に腕でガードを構えた。


 その腕のガードの上にスージィは右の掌をそっと当てる…と、アリシアの身体が衝撃に包まれ、そのまま飛ばされた。


「ぐぅっ『(とお)し』か!?がはっ!!」


 アリシアは壁に激突し、カーラと同じ様に崩れ落ちてしまう。



「どうやらアンタ達卒業生は、下の二人と違ってあまり手加減して貰えなかったみたいね?」


 とカーラの治療を終えたジェシカが面白そうに言った。


「ハハ、嬉しいんだか悔しいんだか…」


 と壁際で床に座りながらカーラが苦笑する。


「あーー、でもやっぱり悔しいかな!折角スーと遊べたのにもう卒業なんてさー」

「まだ夏の間は一緒に居られるんだから良いじゃない」

「そうなんだけどさーー。あーーもう!もっと早く会いたかったなー!」

「フフ、駄々っ子みたい。さて、アリシアも診てあげないと!肋骨の一つも逝ってないかなぁ♪」

「なんでアンタは嬉しそうなの?コワイよ!!」





 上級生たちとの立ち合いが済んだ後は、下級生たちの相手もした。


 1対集団での立ち合いで、子供達はなんとかスージィに喰らい付こうと頑張っていた。


 中でもステファンと、6位階のヘレナ・スレイターは中々の奮闘を見せた。


 スージィの『フレンドリー・フィンガー』で大体の子は一度で戦意を失うのだが、ステファンは毎日何度も頂いている物なので、今更と言わんばかりに何度も挑んでくる。

 動きもここ一週間の仕込みの成果か、幾分良くなっている様だ。


 ヘレナはスージィの入校当初、唯一彼女に否定的な態度を取った相手だ。


「ワタシ、貴女の事は認めませんから!!」


 入校二日目の事だ。

 突然の否定の言葉に少し傷心になったスージィだった。



 結局彼女のそれは、憧れのダーナがスージィに夢中になる事で生まれた嫉妬心だったのだが…。


 今、その憧れたダーナが手も足も出ず、挑んでいる自分も触れる事すらできない。

 弾かれる度に体の芯に響く痛みに、涙目になりながらも何度も立ち上がる。


 今ならダーナが何故この人に夢中になっているのか分かる気がする…。

 ヘレナもまたアムカムの娘だった。




「お疲れ様、ありがとう。皆にはいい刺激に成った様だ」

「こちらこそ・・・ありがと・・・でした!・・・たのしかた・・・です!」

「それは良かった!出来れば俺も一手お願いしたい所だが…今日は無理そうだな。近い内に是非お願いするよ!」

「はい!・・・ぜひ!・・・こちらこそ・・・よろしく・・・です!」


 スージィとライダーが握手をしながら手合せの約束を交わした。


「あの・・・ひとつ・・・きいても・・・いいです・・・か?」

「なんだい?俺に判る事なら何でも聞いてくれ」

「あの・・・ラヴィ・・・って・・・どなた・・・です・・・か?」


 ライダーの顔が途端に強張った。


「あ……そうだ、俺は…そう……」


 ライダーの脳裏に、嘗て良く知っていた少女の姿と声が甦る。


「……済まない、…俺には、…俺には答えられない…。許して……くれ」


 ライダーが自らの胸元を掴み、痛みを耐える様に表情を歪めて行く。

 スージィには、そんなライダーの姿を静かに見つめる事しか出来なかった。

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