幕間8 馬車ウマ狂騒曲
今年最初の投稿です。
あけましておめでとうございます!
「来たぞい!」
マーシュさんが、シュタッ! と手を上げおっしゃった。
そんな「来ちゃった! テヘ!」みたいな感じで言われてもですね……。
煌揺祭間近で何かと忙しい時期ではあるのだけれど、お迎えくらいはしてあげられる。
でもその「テヘペロ」みたいな顔は、ちょっとイラっとするのでやめて欲しいワケです。
マーシュさんがいらっしゃると知らせを受けたのは1週間前。
アムカムハウスから『ハト』が届いた、とアンナメリーから報告を受けた。
マーシュさんが大学の研究施設を使う為、デケンベルへ向かうという知らせだ。
例の三博士とも、技術協力をするとかなんとか。
なんだろうか、この人達は混ぜちゃいけないんじゃなかろうかと、本能が言っている気がしないでもないのだが……。
それでもハワードパパからは、出来る限り協力して差し上げろとハト伝てで言われているので、三博士のご都合をお伺いして、こうしたお出迎えしているワケです。
「ま、嬢ちゃんにも関係する事だからな!」
「は? どういう事です、か?」
「後のお楽しみだ!」
そう言ってウィンクをかましてくる老ドワーフ!
は? なんですかソレ?! 何やらそこはかとなく怖いんですけど!!
マーシュさんの馬車は正門からではなく、荷物搬入用の西門から入っていただいた。
南側にある正門からでは、先生達が居られる魔導研究棟まで繋がっている道が無いからね。
なので正門前でお出迎えした後、馬車に一緒に乗せて貰って研究棟までご案内したのだ。
乗ってて思ったんだけど、この馬車なんか普通の馬車と違う。
何と言うかゴツイ? まず車輪が普通の馬車の三倍くらいの厚みがある。
その車輪事態も、厚い魔獣の革をグルリと外周に巻いている普通の車輪じゃなくて、薄くて細い鉄板を編み込んでいるみたいな? なんだかメッシュのホースを巻いているみたいに見える。 衝撃の吸収力は高いのか、乗り心地は結構良い。
ウマもなんか軍馬みたいに足が太くてゴツイんだよね。
馬力のあるクレイゴーレムって事なのかな?
「おぅ! モリスちゃん!」
「マーシュちゃん、久しぶりじゃ!」
研究棟に着くと、その前で待っていたらしいモリス先生と、馬車から飛び降りたマーシュさんが手を打ち合い、抱擁して再会を喜び合った。
どうでもいいけど、顔一杯に髭を蓄えた老ドワーフ同士が、お互いを「ちゃん」付けで呼び合う姿が凄まじいよね。
いや、微笑ましいっちゃ微笑ましいんですけどさ。
更にそこには、セイワシ先生とノソリ先生もご一緒にいらっしゃった。当然のように護衛のノーマンさんも居られる。
ジョスリーヌ先生は……居ないな。あ、アーシュラ先生に捕まっていると? また何かやらかしましたか。
「ふむ、モリス君再会を喜び合うのも良いのだがとっとと中に入って貰ってしまった方がもっと良いと思うね」
「そうじゃのぉ、寒風は骨身に染みるからのぉ! はよ棟の中で話した方が良いじゃろのぉ!」
「確かにそうじゃな! ノソリ君みたいな枯れ木な身体には毒じゃろうからな!」
「誰か枯れ木なんだのぉ! わしはお主らに気を遣って言うとるのだからのぉぉ!」
「まあまあ先生方、その辺にしては如何でしょう。取り敢えずカウズバート師、どうぞ中へお入り下さい」
なんだか先生たちのいつものコミュニケーションが始まりそうだった所で、ノーマンさんが間に入りじゃれ合いを止めてくれた。
仲が良いのは良い事だけど、寒空の下でやる事では無いからね。
そのままノーマンさんは、マーシュさんにも「中へお入りください」とお声をかけて下さった。
配慮の出来る良識ある大人が居て下さるのは、実に有難い事だよね。ウム、実に実に……。
……いや、別に誰かをディスってるワケでは無いのですよ? ただジョスリーヌ先生がココに居ない事に、安堵している自分が居る事を否定はしませんがね。
そうこうする内、ノーマンさんは研究棟の扉を開け、中へと皆さんを先導して下さった。
「それじゃマーシュさん、今回は、わざわざ学校の施設を使う為だけにデケンベルまで来られたんですか?」
今日はいつもの先生たちの研究室ではなく、もう少し奥へと行くようだ。
ミリアキャステルアイの魔導研究棟自体かなり大きく、この先は大学の研究施設となっている。
本来なら大学関係者でも無い、一般学生であるわたしが足を踏み入れる事はないので、思わずお上りさんよろしくキョロキョロしてしまう。
それで歩きながら、改めてマーシュさんに今回の訪問の目的を聞いてみた。
「まあな! 何と言っても、倍率100万倍を超える魔道顕微鏡で、ナノマニピュレータが使えるのはココの施設くらいじゃからな!」
「なん……ですと?」
今、倍率100万倍って言った? それってひょっとしてもう電子顕微鏡レベルなのでは?!
しかも『ナノマニピュレータ』? なんじゃそりゃ?!
そんなトンデモ技術、既にこの世界にはあるって事?
前々からこの世界の技術レベルがおかしいって事は気付いていたけど、ちょっと飛び過ぎじゃね?
「魔力反射顕微鏡の理論は、既に100年以上前には確立されていたからな」
とマーシュさんがニヤリと歯を見せながら仰る。
あ、なんか今ピンと来ちゃったかも。
「実用化されたのは、この20年と言ったところだがのぉ」
「おかげで、近年の魔導素材の発達の仕方が著しい事になっとるワケじゃ!」
「ふむ、我々が此処に来る事を決めたのもこの大学の計測機器や工作機械が酷く高度で充実しているからなんだね」
「まあワシは、何時でも好きな時に使って良い事になっとるんだがな!」
三博士の説明の後、そう言ってマーシュさんはガハハと笑った。
やっぱりそうだよ。元のアイデアは絶対『随行者ノート』だ。
そんでマーシュさんがそれを元に開発したんだきっと。
多分、自分は使いたい時に使えればいいとか言って、開発費を学校に出させたんだ。
絶対そうだ。
そんな事を考えてマーシュさんを胡乱な目で見やれば……。このドワーフ、ト〇ロみたいな歯をむき出しにした笑顔をわたしに向けて来た。
とんでもねぇなこの人……。
だけど髭面でそう言う表情すると、紅い飛行艇に撃墜される空賊にしか見えないよね! 怪し気なゴーグルも着けているから尚更ねッ!
◇◇◇◇◇
と言うワケで翌日、マーシュさんと例の馬車で、先生方と一緒にデケンベル郊外までやって来た。
わたしは実験の為の護衛兼協力者という事らしい。わたしとマーシュさんはマーシュさんが乗って来た馬車で。三博士はノーマンさんと学園の馬車で。
場所はデケンベルから街道を10キロ程北上した後、東へやはり10キロ以上移動した所にある広大な荒野だ。
ココはまだ殆ど人の手が入っていない未開発の地なのだとか。
なんでも十数キロにわたり四方には何もない、とても平坦な土地なのだそうだ。もう周り360度見渡す限り地平線が広がっている。
手綱を握っていたマーシュさんが「此処でやるか」と馬車を止めると、後ろから着いて来ていた先生方の馬車も止まり、積んであった荷物をノーマンさんが降ろし始めた。そしてその解いた荷物から取り出した機材を、先生方はマーシュさんの馬車の中に次々運び込んで行く。
「それで? ココで何をするか、わたしまだ何も聞いていないのです、が?」
と、荷解きを手伝いながら、わたしはマーシュさんに今回のこのお出掛けについて改めて訊ねてみた。
ココまでいくら聞いても「今に分かる」「後のお楽しみ」とか言って、ちゃんと教えてくれないんだよね。
「なに、この馬車の性能テストをするだけだ。難しい事じゃない」
「それでわざわざこんな所まで来たんです、か?」
「こんな広域で平坦な土地はそう無いんでな。それに安全管理の面からも、人里から離れている方が……な」
「ちょっと待って、ください。今ナニか不穏な事言いません、でした?」
「おっと! 準備が出来た様だ。行くぞ嬢ちゃん!」
「マーシュさん? ちょっと! マーシュさん?!!」
わたしが呼び止めているにもかかわらず、マーシュさんはスタスタと馬車に向かって歩いて行く。
おのれぇ~~。やっぱり何だか不穏だぞ!
機材を積み込まれた馬車内は、空間拡張を施している筈なのに並べられた機械で狭っ苦しくなっていた。
わたし達五人が座る為の五つの椅子が、辛うじて機材の隙間に顔を出している様な感じだ。
それでも、馬車の窓の鎧戸を外すと外が良く見えて開放感はある。なんでも中から走行中の計測をする為に、魔力強化ガラスを嵌め込んでいるらしい。
先生達は次々とご自分の席に座り込み、機材の起動を確認しておられる。
ノーマンさんは、1人外にある御者席に座った。彼は馬車の操車が今日のお役目だそうだ。
馬車の前側は太い金属フレームだけでガラス張りなので、御者やウマの様子も良く見える。馬車内の私達が座る座席は一段高くなっているんだね。
ノーマンさんは革の丸帽子をかぶり、デカいゴーグルを目元にかけ、やはり大きなマフラーで鼻口を覆っていた。
なんか昔のプロペラ戦闘機のパイロットみたいな様相だ。
そんでわたしは、馬車内の一番後ろの席に座らされている。
「嬢ちゃんは其処に座ったまま、此れに魔力を流し込んでくれれば良い」
マーシュさんが「これ」と言って叩いたのは、わたしが座る椅子のひじ掛けの前にある金属製の球体だ。
まるでステンレスで出来たようなツルツルの金属球だ。それが左右のひじ掛けの前に一つずつある。
マーシュさんは、その二つの球体にそれぞれ左右の手を乗せ、そこに魔力を流し込めばいいと言う。
「前にムナノトスで籠めただろうが? あれの要領でいい」
「ちょ、ちょっと待ってください! それヤバいフラグじゃないです、か?! やっぱコレ爆発とかするんでしょ?!!」
「だーいじょうぶだ! ちゃんと過去の反省を踏まえておる! 溜めた魔力を無秩序に開放したりせんわ! その為の新型の魔力変圧器の検証も兼ねているんだからな! ワシを信じなさい!!」
とマーシュさんは仰るが、そうそう信じられるワケが無い。
「先ずはこっちの特製魔力タンクにある程度溜めてくれりゃいい。本来それだけで稼働出来るようにするのが目的だからな! まあ足りなくなったらその都度魔力を充填してくれりゃいいだけだ!」
そして「頼りにしているぞ!」と言って、ガハハと笑うマーシュさんと先生方。
ええ、ええ! 分かっていますとも! この人達がわたしの事を、便利な魔力チャージャーだと思っているって事はね!
今回も結局そう言う事なんでしょうけどね!
それでもわたしが胡乱な目をする事は、やはり止められるハズも無いのだ。
「ふむ、計器は全て異常なしだね」
「準備は完了じゃぞマーシュちゃん!」
「よし! それでは実験スタートだ!」
「護衛君、出発だのぉ!」
「了解です! では出発します!」
マーシュさんの号令で馬車が動き出した。
ノーマンさんが手綱を握り、馬車を走らせ走行をコントロールする。
その走り出しはとても静かで快適だった。コイツってば、普通に馬車としての出来もかなり良いんじゃないのかな?
元の世界の高級セダンにでも乗っている様な乗り心地だよ。
始めは普通の速度で走っていたけど、段々とその速度が上がって行く。
だけどこれ、並の馬車の速さじゃ無いよね? やっぱり元の世界の車くらいのスピード出てないか?!
「通常モードでの速度、時速80キロを確認した」
マーシュさんが計器を見ながら仰った。
やっぱ時速80キロって凄くない?! 普通に馬車の出せる速度じゃ無いよね?!
あ、でも前にアルマさんと乗った馬車は、そのくらいの速度は出たのか。
だけどあの時と比べると、スピードの割に車体の揺れを感じない。
あの時は振動が半端なくて、モリス先生は車体にしがみついてたもんね。
今はやっぱり振動も殆ど無く、安定感のある静かな走りだ。ウ~~ン高級車!
「各所異常は出ておらんかな?」
更にマーシュさんは先生方を見渡し、それぞれに確認を求めた。
「秘術回路群への魔流値に乱れは無いね。このまま霊律弁を開放してくれて霊血の流量を増やしても大丈夫だと思うね」
「霊粘動筋の動作にも問題は無いのぉ! 思導索の魔導損失率も200以下じゃから此方も問題無しじゃのぉ!」
「車体機構の強度にも問題は無いようじゃ! ゴーレムの霊塑骨格にも歪は計測出来ん! オールグリーンじゃマーシュちゃん! 行っちまえぃ!!」
「よーーしッ! 行くぞ! チェーンジ、モード・スレイプニル! スイッチオンッッ!!」
「なっ?! 何なんですか――――――ッッッ?!!」
マーシュさんが叫びながらオーバーアクションで何かのスイッチを押した。
その言動に思いっ切り不穏な気配を感じたわたしは、思わず大きな声を上げたのだけど、その瞬間馬車が大きく揺れた。
そしてガクンッ! と車体が突き上げられるような衝撃が、間を置かずやって来た!
でも硬い衝撃ではない。何か軟らかい強いバネで持ち上げられたみたいな感じ?
ふと外に目をやると、巨大化した車輪が見えた! 元の車輪の大きさとまるで違う! これって大型トラックのタイヤみたいな大きさじゃね?!
でも車輪がゴムで出来ているワケじゃ無い。何と言うか、薄い金属で編み込まれた目の粗い大きな籠に見える。
あれか! メッシュのホースみたいだった車輪の網目を広げて、大きく展開したのか?! まるで月面走行車のタイヤみたいじゃないか!
もしやこれも『随行者ノート』が元ネタか?!
「うおおおおぉぉ――――!!」
その時、御者席に座るノーマンさんの叫びが聞こえた。
御者台の先に目を向ければ、ノーマンさんが握る手綱の先の『ウマ』が、ガションガション! と変形を始めている!
ノーマンさんは御者席で手綱を握り締め、その変形の振動衝撃に耐える為、振り落とされないように力の限り踏ん張っていたのだ。
ウマのボディは肩や腰回りに切れ目が入り、そこが開いてどんどん形を変えている?! その切れ目から光が溢れて、メカメカしい事この上ないよ!
ガショーン! ガショーン! と音を立てて次々とパーツが接合して行く。うお! 脚が割れて一本ずつ増えた! 気持ち、身体も一回り以上大きくなったよね?!
やがてボディの切れ目から洩れていた光も消え、変形は完了した様だ。
最終的にソイツは、脚が八本ある巨大なウマになっていた!
「これぞ、爆走モードのスレイブニル形態だ! よーーし全速前進! 常識の壁をぶち破れぃ!! ガハハハハハ!」
「ガハハぢゃ無ェェ――――!!!」
爆走とか湘南の道路でもかっ飛ばす気ですかッ?!!
高笑いをするマーシュさんにツッコミを入れる間もなく、馬車は恐ろしい勢いで加速をし始めた。
急激な加速によるGが身体にかかる!
「うひょひょひょひょひょ! 来おった! 来おったのぉ――ッ!」
「流石じゃマーシュちゃん! こりゃキクぞい!」
「ふむ! これは中々のモノだね!」
「ガハハハハハ! そぉーれっ! かっ飛ばせ――――いッ!!」
「ぅをおぉぉぉおおぉぉぉ――――――ッッ!!!」
なんなの?! 何でこのお年寄り達こんなに嬉しそうなの? 元気なの?!
対して御者席に座るノーマンさんは、手綱を握り吹き飛ばされないように踏ん張りながら、必死にウマを制御しておられる。
ノーマンさんのパイロットみたいな格好も納得だよね。このスピードに直に晒されるのは、かなりヤバい。
あ、でも自力で『エアカーテン』をご自分の前面に展開して、自身にかかる風圧に抵抗している? 流石だな。
「ぃよっしゃー! 160を突破したぞい!!」
マーシュさんが嬉しそうに拳を振り上げ叫び出した。
「ひゃ、ひゃくろくじゅう?! 時速160キロって事です、か?!」
「そうだ! 最低目標クリアだ! これで実用の目処が立ったぞ! ガハハハ!」
「こ、こんな馬鹿げた速度を出す馬車! 一体何に使うと言うんです、か――――?!!」
「そりゃ、嬢ちゃん専用じゃないか」
「は、はいぃ?」
「やっとバウンサー活動も始まって、これから段々と本格的に『チーム・スージィ』が活躍して行くワケだろ?」
「え? そ、そうなのか、な?」
確かにバウンサーとして仕事は受け始めて、ビビやミアとチームは組んでいく事にはなってるよ。
でも、チーム名なんてまだ全然決めていないよね? あれ?
「嬢ちゃんたちのチームは、いずれ広域で依頼を受ける事になるからな。その為にも特製の馬車が必要になるだろうと、評議会でも話が出とる」
「は? 広域での依頼? イヤ知りませんけど?」
「なのでこの前から試作品を作っておってな!」
あ、もしかしてこの前セドリックさんの依頼を受けた時のウマとか、アルマさんと一緒した時の馬車とか、マーシュさんの試作品とか言ってたよな。まさかあれって、これの為の……?
「それに此れが完成すれば、アムカム、デケンベル間が2時間チョイで行き来出来るようになる! そうすりゃ嬢ちゃん達も毎週末にはアムカムに戻れるぞ! と言ったらハワードが乗り気になって、開発資金も私財から出すと申し出てくれてな! ガハハハハ!」
「ハワードパパぁ……」
思わず両手で顔を覆ってしまった。
資金提供には、サイレンスさんも率先して手を上げたとか……。ああ、親馬鹿たちの姿よ……。
「む?! こりゃイカンのぉ!」
「?!!」
と、そこに突然ノソリ先生の声と共に、ビービーというビープ音のような警戒音が車内に鳴り響いた。
「どうなっとる?!」
「脚部の霊粘動筋に断裂が生じておるのぉ! 霊血管もそこかしこで亀裂が生じ、霊血が漏れ出ておるのぉ!」
「ふむ、そのおかげで胴体内の魔力流に乱流が発生しているようだね。秘術回路群に魔力が過剰供給されて焼き付く寸前だね」
「霊塑骨格にもクラックが生じとるようじゃ! コリャあまり持ちそうに無いぞマーシュちゃん!」
「イカン! 制動をかけろ!」
「と、止まりません……! 寧ろ速度が増して……ぐぉぉおぉ!」
そこで更に加速がかかった。車内は赤い警告灯が回転して真っ赤になっている。
「霊血循環器がオーバーブーストを起こしておるのぉ!!」
「ふむ、魔力流の制御が出来なくなっているね。これは暴発寸前だね」
「こりゃ時期に爆発するぞマーシュちゃん!」
「やむを得ん! 緊急脱出だ!!」
マーシュさんが拳を計器盤に叩きつけ、何かのスイッチを力強く押した。脱出装置のスイッチを押したのか?
でも馬車内では何も起きない。赤い警告灯が回り、警告音も鳴り続けている。
「ありゃ、しもうた」
「ど、どうしたんです、か?」
「間違って自爆スイッチを押しちまったい。てへぺろー」
「あ、あ、アホですか――――ッ?!! 大体何で馬車に自爆スイッチなんて付けてるんです、か?!!」
「ふむ、それは必然だね」
「そうだのぉ。自爆スイッチは必要だのぉ」
「それがロマンと言うモノじゃからな!」
「お? 脱出装置が起動せんな」
「ぅああぁぁあぁぁぁ」
ダメだこの人達、同じ穴の狢だ! 揃ってマッドなサイエンティスト枠だ!
きっとオートフォーカス機能備えようとして、謎の怪光線を発射する木製カメラとか作っちゃう人達なんだ!
『自爆シーケンスに入りました。爆発まで10秒前。搭乗員は速やかに退避して下さい』
なんか自動音声が流れ始めた!
てか、自爆まで10秒って短すぎ!
「ノーマンさん!!」
「承知!!」
『8・7・6……』
非情な秒読みが始まる中、ノーマンさんに合図して先生達を連れて馬車から脱出する!
ノーマンさんにはセイワシ先生とノソリ先生をお願いして、わたしはモリス先生とマーシュさんドワーフ2人を抱え、馬車の壁をぶち抜いた。
『5・4・3……』
無機質な女性の声でカウントダウンする声を置き去りに、わたし達は馬車から飛び出す。
時速160キロを超える速度の中、真面に地面と激突したら只では済まない。
ノーマンさんは『エアライド』を使用して、地面を滑る等に移動しながら、やはり『エアカーテン』で空気の壁を作りその抵抗で制動をかけて行ったようだ。
わたしはチョット前に修得したシールド走法の応用で、足元に作り出した柔軟性のあるシールドに乗り、地面を削ってスピードを殺して行った。
自分一人なら身体で地面を削って止まれるけど、お2人を抱えているからね。衝撃を抑える工夫は必要なのだ。
無事着地するとモリス先生が地面に両手を押し当てた。
『大地掘り』
忽ちその場所に、直径5メートル、深さ1.5メートル程の穴を作り上げた。
これは地面に穴をあける地属性の基本魔法で、初心者では地面に爪先で突いた程度の穴しか作れないんだけど、流石はモリス先生だ。一瞬でこれだけ大きな穴を作ってしまった。
「全員この中へ退避じゃ!」
皆が一斉にモリス先生が作った穴に飛び込んだ。
と同時に後方で閃光が走った。
だがそこにセイワシ先生がスッと前に進み出て、両手を前に突き出した。
「ふむ、シールドを展開しようかね。属性は対物理の耐衝撃で特性は反射100%だね」
忽ち目の前にマジックシールドが展開された。それがわたし達の入っている穴の前面を守る壁のように広がって行く。
その直後に衝撃波が襲って来た。
砂埃が物凄い勢いで迫り、地響きが辺りを揺らす。
だけど砂塵と衝撃波はシールドに阻まれ、わたし達を避けるようにして後方に流れて行く。
皆さん耳を抑えてしゃがみ込んでいるけど、シールドと穴が無かったら、普通の人なら吹き飛ばされて鼓膜くらい破れていたと思う。
うわ、きのこ雲が立ち昇ってるよ。
でも気のせいかあの雲の先端、ドクロに見えなくないか?
「いやー危なかったのぉ!」
「全くじゃ! だが姫さんと護衛君のおかげで助かった!」
「ふむ、実に迅速な対応で称賛に値するね」
「だが想定していた以上に崩壊が早かったな」
「やはり強度の問題だのぉ」
「フレームが脆過ぎじゃ! じゃからミスリル原子を内包したフラーレン構造にせいと言うたんじゃ!」
「ふむ、しかしそれを安定して行う為の魔力場を形成するのにも課題はあるからね」
先生たちが反省会に入ってしまわれた。
たった今、命からがら脱出した直後だと言うのに……生命の危機だったとか意識してないのか? 研究者ってこういう生き物なの?
いや、この人達がマッドなサイエンティストだからだ、きっと!
ついついノーマンさんと顔を見合わせ、苦笑してしまいましたよ。
「やはり素材選定からだな! と言うワケで嬢ちゃん!」
「わっビックリした」
「素材収集の依頼を出すぞい!」
「いや、ココで急に言われまして、も。組合の方にお願いします、ね?」
「まあ嬢ちゃんならブラックドラゴンの肋骨、取って来てくれと言や直ぐ取って来れるだろ?」
「そんなのどこにいるか知りませんから、ね!? でもまあ、その程度なら、ば……?」
マーシュさんが『ドラゴン』とか言い出した時、三博士はギョッとした顔してたけど、その後わたしが『その程度』と言った瞬間、3人揃ってこちらにグルリと顔を向けて来た!
コワ! そのタイミングの合い方コワ! 3人の見開いた眼もコワッ!!
「ドラゴンを狩れるなら、生きたまま持って来る事も可能かのぉ?! 是非生きたドラゴンの生体組織のサンプルが欲しいんだがのぉぉ!!」
「『色彩竜』や『金属竜』の鱗には鉱物が含まれているそうじゃ! 生体組織と融合した鉱物の組織成分! 一体どういう構造なんじゃろか?!」
「ふむ! 上位ドラゴンが扱う魔法術式に興味はないかね? ふむ! あるね? あると言う顔だね? 是非とも生きたまま実験体を持って来て欲しい所だね!」
「な、な、なな何なんですか――――――ッッ?!!」
三博士が一斉に近付き圧をかけて来た!
これ、昔アムカムでやられた覚えあるんですが!
ノーマンさんが間に入って必死に止めようとしてるけど、まるでゾンビみたいに先生たちは腕を伸ばして来る!
マーシュさんはマーシュさんで地面にメモ書きしながら、腕を組んで自分の世界に入り込んで独り言ブツブツ言ってるし!
何なの? このカオス?!
もう頭のイカれた先生達のお相手、ホントにシンドイんですけど――――――っっっ!!!
お読み頂き、ありがとうございます。
ブクマ、ご評価もありがとうございます!いつも励みになっております!!
うま年だけに『馬車ウマ』ネタです。
もはや『随行者ノート』が『奇天〇大百科』になりつつある件…。
そういえば、どうやらコミック2巻の予約が始まっているようです、よ?





