22話 スージィ・クラウド真夜中の検証
≪インヴィジブル・ムーヴ≫
エンチャントチャネラーのスキル。
一定時間その存在を消し去りMobからの先制攻撃を受けなくなる。
Mobに対する攻撃行為を取る事で状態は解除される。
深夜、スキルで姿を消したスージィは森へと向かった。
室内で一旦D装備に換装しスキルを使い窓から外へ出た。
スキル使用中は自分の存在は誰にも認識されないので、クラウド邸の人々は勿論、深夜に森の警戒に当たっている村人にも気付かれず、森の奥深くまで進んで行った。
家を出て15分ほどで最後に野営をした水場に到着した。
村からおよそ20キロの所にある場所だ。
「あれからまだ一週間と経ってないのに…なんか随分前の事のように感じるなぁ」
最後にテントを張った場所に立ち、河の流れを眺めながら感慨深げに呟く。
「ここで『村娘の普段着』を着たんだよな」
そう言って装備をD装備から『村娘の普段着』へ替える。
先日ウサギに破られ、森を駆けずり回った為にズタボロになった『村娘の普段着』は、その後洗濯され、エルローズの綺麗な針仕事で補修が成されていた。
「こうして改めてお着替えしてみると、チョと感慨深い?」
繕われた跡を撫で付け、確かめながら呟いた。
そして今度は部屋で着ていた寝間着に換装する。
「ンで、この寝間着が『インベントリへ収納出来た』という不思議!」
今まで色々な物をインベントリに収納しようとして悉く失敗している。
屠ったMobや小物や服や靴や道具類、あとチェリーパイ一切れ…とか。
全て何一つ収納できなかった。
寝間着を脱いでショーツ一枚になる。
手に持った寝間着をインベントリに収納しようとするが…出来ない。
もう一度寝間着を着てからD装備に換装する。
今度は寝間着とショーツがセットでインベントリに収納された。
「つまり、収納されている装備と交換なら、新しい物でも収納可能って事…かな?」
もう一度『村娘の普段着』へ着替えた。
「イベントアイテムの壺に水を入れても再収納は出来た。まだ試して無いけど壺に品物を入れれば、コレも収納は可能になるのかな?」
ジャコンッとG0武器を装備してみる。
そのままAからDまで装備を変え続け、最後に武器を収納して無手の状態にした。
「それに収納数とか重量制限とかシカトされてるよね~?ひょっとしてコレ物質として存在して無いんじゃね?まるで只どこかにデータとして在る物の様な……」
もう一度G0二刀を装備する。
「データって言うとゲームのままの気もするけれど、う~~ん…どうなの?やっぱりインベントリ、今のわたしには謎過ぎーーーっ!もういい!わっかんない事は後回し!先送り~~!」
G0装備から寝間着に戻して、バンザーイとお手上げポーズをとってみた。
「でだ!今夜のメインは魔法の検証な訳で……」
インベントリから武器を取り出し装備し直す『初心者のダガー』ゲーム初めに持っている初心者装備の一つだ。
「コレが一番魔法力が弱いからな、でも今日使ったタクトの方がもっとずっと弱い…あれが貰えたら今度はアレを使おう」
ダガーに魔力を籠めて行く。
「んーーー…それでもコッチの方が魔力制御はし易いかな」
対岸にある一本の樹木の中程に、魔法を放つ。
≪エア・ストライク≫
全魔法職の初期攻撃スキル。
圧縮された空気弾を敵に撃つ風属性の攻撃魔法だ。
空気弾の当った樹木は、中間部を1メートル程の円形に抉られ、上部がメキメキと周りの木々を巻き込みながら地上に落ちて行く。
枝に乗り、此方を襲うタイミングを窺っていたMobは、空気弾の直撃で四散した。
「最弱装備の最弱魔法でこれだけの威力…次は出来る限り弱い魔力を籠める様にして撃ってみよう」
今日やった様に、一滴だけ武器に籠めるようなイメージ…で撃つ。二匹目のMobは胴体に大穴を開けられた。Mobの身体は二つに千切れそのまま地面に落ちる。
「弱くしてもこの威力……もっと弱めに出来るか?は要練習だね」
ザワザワと周りの樹木が揺れ、多くのMobが集まって来たのが分る
「『イエロー・エイプ』か、前にこの辺には居なかった連中だな、数は……20。群れってトコか。ここよりも奥から来てるっぽいね。なら!」
ココへ来た理由のもう一つ。ハワードさん言う所の中層より深い所から来る魔獣。そいつらが侵食して来たら殲滅する。
元々村近くのMobは自分のヘマで粗方殲滅し尽くしてしまった。
その隙間に余所から必要以上に強い魔獣が侵食して来たら、村に深刻な被害が出るかもしれない。
それを何とかするのは自分の責任だと思っている。
今度は少し多めの魔力を籠めて、群れの中心を狙って撃つ。
広範囲で森の樹木がなぎ倒された。
直径10メートルに及ぶ、巨大な空気弾が抉り取った跡だ。
群れの殆どが巻き込まれ消し飛んだ。
直撃を受けなかった個体も無事な者は居ない。
風圧で薙ぎ払われ、樹木共々吹き飛ばされた。
「ちょ!ちょっと多めに籠めただけで数倍の破壊力!?『エア・ストライク』って単体攻撃の筈だよねっ!?これ倍の魔力を籠めれば威力が倍。とかって次元じゃないゾ!不味い!ホントに威力の調整覚えないと村を潰しちゃう!」
自分の不注意で、村を廃墟にする事を想像して泣きそうになる。
「あ、もしかして山頂で使った魔法も、力入り過ぎて威力がバカみたいに上がってた?魔力効率の悪い剣使ってあの威力だったって事は、杖使ってたらどうなってたの??ヤバイ!アレより上位のエレメンタルバースト系とか絶対に使えない!下手したら星が抉れる!フ〇ーザ様に成っちゃうよ!!封印だ封印!絶対封印!!」
思わず取り乱してしまったが、胸に手を置いて呼吸を整え落ち着きを取り戻した。
「取敢えず自前の上位攻撃魔法は使わない。使うなら学校で教わる精霊魔法で基本ナントカしよう。制御はココで弱い魔法を使って少しずつ調整を覚えよう」
精霊魔法と云うのは精霊にオーダーする事で、少ない魔法値でも大きな効果が期待できる方法だ。
対して自分の元から使っている魔法はダイレクトにエーテルにオーダーを通している。
消費魔力は多くなるが、効果は精霊魔法と比べるとかなり大きい。使用魔力の増減で変わる効果は今見た通りだ。
この世界の人たちが、この直接エーテルに訴える方法を取るには、使用出来る魔法量からも大変難しいのだろう。
この世界で、魔力やMPとかを数字変換するのは余り意味が無い気がするが、敢えてするなら。
ココの人たちの持っているMPは多くても恐らく『20』は無い。
ヘンリーさんで恐らく『15』位だろうか?ベアトリスやミア達で『5』か『6』だと思う。
精霊魔法は消費MP1で使用可能だ。
ベアトリス達は一日に魔法が5回か6回使えると云う事なのだと思う。
対して自分の使う魔法は消費MPが多い。
先ほど使った『エア・ストライク』。これは威力も最弱で消費MPも最小の15だ。
だがその消費量ではこの世界の人たちのMPで使う事は難しい。
ミアやベアトリスでは使う事も出来ない。
更に言えば自分のMP量は恐らく、魔法職のパッシブが効いているので5桁は行っている筈だ。
「こりゃ間違いなく底無しだわよね……」
軽い眩暈を覚え、額に指を添えた。
根本的な設定理念の違う世界に来た感がハンパ無い。
「まぁ自分が合わせて調整して行くしか無いんだけどねぇー。大変そうだけど何とか物にしないとネ!」
この世界で生きて行く以上、この世界の常識に合わせて行くしかない。
だって自分が目指すのは目立たぬ庶民なんだから!
少しでも悪目立ちしないように自重する術を模索して行かなきゃね!!
「さて!あんまり遅くなってもいけないから軽く見回りして来ようかしらね!…ンで、終わったら自分へのご褒美あっても良いよね?折角人気の無い、開放的なトコに居るんだし……ネ?エヘ!」
えへへと内股になり、少し頬も染めてモゾモゾしはじめる。
「よし!サクッと終わらせてさっさとしよう!!うん!しよ!!」
待ち切れないと言う様に飛び出して行った。
サッサと何かをする気満々だ。
本当に自重する気があるのか?甚だ疑問である。
甚だ疑問である!!w





