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20話 スージィ・クラウドと学校の昼休み

 教科書は9段階に分けられ、子供達はそれぞれ自分の段位の教科書で学んでいた。


 数を数える事や文字の読み書きを覚える1段位から、この学校で教えられる最上の9段位まで、7歳から15歳の子供達が一つの教室で学んでいる。


 1段位、男子2人、女子2人。

 2段位、男子3人、女子1人。

 3段位、男子2人、女子2人。

 4段位、男子1人、女子2人。

 5段位、男子2人、女子1人。

 6段位、男子3人、女子2人。

 7段位、男子2人、女子2人。

 8段位、男子1人、女子2人。

 9段位、男子2人、女子3人。


 男子18人、女子17人。合計35人が全校生徒だ。


「そこにアンタが入るから、女子18人で合計36人になるんだけどね!」


 とベアトリスに教わった。



 子供達はそれぞれの段位ごとに机を寄せて勉強している。


 カリキュラムによって先生が直接指導するようだが、解らない時などは近くの上級生に教わるなど、基本的には生徒が自主的に学んで行くシステムの様だ。


(ニュースとかでしか知らないけど、日本のフリースクールみたいな感じなのかな?)


 とりあえず、先ずは文字を憶える所から始めなくてはならないスージィは、一段位の7歳の子たちの近くで勉強をする事になる。


 ミセス・ジェイムスンから文字の書き取り指示を受け、教本の書き写しを始めたが、幾らもしないうちに周りの子供達の視線に気が付いた。


 目の前に座っている少女は、チラチラとスージィの髪を見ていて完全に手がお留守になっている。

 その隣に座る子も同じだ。


 どうやらこの子たちは、スージィの事が気になって勉強どころでは無い様だ。


「きに・・・なる?」


 問いかけられた少女はハッとして、見る見る顔を赤くしながら俯いてしまった。


「さわって・・・みる?」


 もう一度問いかけると え?いいの? と顔を上げて聞いてくる。


 いいよ と顔を横にして纏めた髪の先が少女に向く様にする。

 わざと少しだけ距離を取って。


 恐る恐る触ろうと、腰を上げて顔が近付いた所で……頭を揺すり、毛先で少女の鼻先をくすぐってやった。


 きゃーーーん! と声を上げて少女のはしゃぐ声が響いた。

 改めて顔を突合せスージィと少女が笑い合う。


 わたしも!わたしも! ともう一人の少女も言って来たので、顔を近づけさせて毛先でくすぐってやると、肩をすくめながら やあーーーん! と、こそばゆそうに声を上げた。


 男の子二人も羨ましそうに見ていたので、同じようにくすぐってあげた。


 子供たちにすっかり懐かれ、女の子は二人共スージィの両脇に密着して座ってしまった。


「こんなきれいな赤い髪、初めて見たの!」


 キラキラしてる と髪を触る少女たちに


「『あか』・・・どう・・・かくの?」


 とスージィが聞くと、我先にと教えてくれる。

 その後も子供たちの判る字の書き方読み方を教わりながら、数術は問題を子供たちに読んで貰って、解き方はスージィが教えていた。


(なんていうか、昔からガキンチョとケダモノにはよく懐かれたっけなぁ……身体や世界が違っても同じなのか?あれ?でもミセス・ジェイムスンってば、こういう状況になる事読んでた…?)


 教室の向こう端から此方をにこやかに見ているミセスを見ていると、そう思えてしまう。 やっぱり出来る上司なOLの人だ……。


 そんな風に思ってしまうスージィだった。


「なんだかあの子、子供の扱いうまいわね!」

「スージィちゃん優しそうだもん」

「小さい子の面倒見てくれるのは助かるわ」

「凄腕美少女は腕っぷしだけじゃない。ってか?はは、ハードル高そうだ……あ?アイツいつの間にあそこに行った?」




 後ろから思いっきり此方を狙っている気配を感じる。

 遠慮も何もなく、両のおさげを両手でガッチリ掴む気満々なのが良く分る。


 狙いすまして思い切りよく伸ばされた手を、スッと躱す。


 空を掴んで一瞬呆けた様だが、直ぐキッと睨んで改めて掴みかかる。

 ふたたび、三度みたび、次々躱され向きになって何度も何度も掴みかかる。

 周りの子たちもその様子に気が付き、驚いて目を見開いている。


「……なっ……なんでっ………!」


 ついには息を切らして肩で息をするステファン。


「・・・なに?」


 小首を傾げて問い返すスージィ。


「な、何で!そ、そんなに!髪の毛………真っ赤なんだよ!?」


 頬を赤くしてスージィに怒鳴った。


 スージィはステファンの顔を……頬を両手でそっと挟み、顔を近づける。

 うぐっ とステファンが呻く。

 鼻と鼻が触りそうな程近づけてからスージィが。


「なんで・・・かなぁ?」


 と小首を傾げながら、零れ落ちそうな笑顔をステファンに向けた。


 ボンッ!と破裂音が聞こえたかと思うくらい真っ赤になったステファンは わあぁぁぁ! と叫んでスージィの手を振り解き、教室から逃げ出してしまった。


 あ、あははは? とスージィは後ろ頭に手を置いて照れ笑いをしている。



「……い、今の見たか!?」

「すごーい!スージィちゃん、ステファンを軽くあしらっちゃった!」

「あらぁ、アレは……落ちちゃった……かしらね?」

「やっぱり子供の扱い慣れてるわよね!…というより男子の扱い??!」

「そーじゃないって!あの動き!!なんだあれ!?」

「ん?動き?そんなに動いてなかったと思うけど?」

「そうね!なんかユラユラってしてた感じよね!」

「それが凄いんだって!あれだけで全部躱すとか普通出来ないからね?!しかも椅子に座った下半身なんか微動だにしてない!ありゃ達人の領域だよ!!」

「ふぅ~ん…流石は武闘派、私達とは見てる所が違うのねぇ」

「え、と……後ろにも目がある…みたいな?感じなの?」

「後ろが見えてたってありゃ出来ないよ!!見てみなよ!アーヴィンだって目見開いて固まってる。あ!ヤバい鳥肌立って来た!」

「ふん!アーヴィンは違う事で固まってると思うわ!」

「あぁー、羨ましかった……のね?」





 お昼は校舎南側の芝生の上で皆で食べた。


 スージィの両脇は、午前中からずっと懐かれた二人の下級生に独占されていた。

 レイラ・カーターとメイベル・ボーモント。

 二人して スーちゃんスーちゃん と纏わり着く。


「わたしもスーちゃんって呼んで良い?」


 とミアが聞いて来たので いいよ と答えると、じゃ私も!あたしも!と全員にスー呼びで固定されてしまった。


 食事中、ふとベアトリスの肩に乗る小動物に気が付いた。


(あれ?ハツカネズミ?にしては大きいか……ハムスターかな?白いハムスター?でも尻尾なっがいなぁ)


 体長は12~3センチ程、尻尾を入れると30センチにもなりそうだ。

 その白いネズミが、ベアトリスの肩の上で彼女から餌を貰い一緒に食事をしてる。

 それは何なのかベアトリスに聞いてみた。


「ん?この子?この子はアルジャーノンって言うの!アタシの従魔よ!とーーっても賢いの!」

「賢過ぎて試験の時は教室から出されちゃうけどな!」

「ビビよりお利口さんだから代りに解答しちゃうものね」

「ンもう!そんな事無いもの!」


 そんな会話を理解しているのか、アルジャーノンはスージィを見て鼻をヒクヒクさせている。

 まるで アンタの事は知ってるよ とでも言ってる様だ。

 突然アルジャーノンはスルリとベアトリスの肩から降りると、真っ直ぐスージィへと向かって来た。

 そのまま、何のためらいも無く彼女の肩口まで登って来ると、クンカクンカと耳元の匂いを嗅いで来る。


「ぅひゃぅっ」


 思わずこそばゆさで身を縮めてしまった。

 アルジャーノンは肩周りを何度かクルクルと周った後、肩の上からスージィに向けて キキュッ と鳴いてそのままベアトリスの所へ戻って行った。


「あら!挨拶して来たの?アンタこの子に気に入られたみたいね!」


 やはりケダモノにも懐かれるようだ。


「午後からは、剣とか槍とかの実践修練と、魔法の研究会に分かれるんだけど、アンタはどうする?」


 皆の食事が済んだところでベアトリスに聞かれた。


「どっちでもいいのよ?みんな自分の得意な方やってるから!日によって替えてる子もいるしね!何をどうするかは自分の自由だから!」


(ほほぅ、部活やクラブ活動に近い感じかな?自主的な参加が基本か。きっとサボる子とか居ないんだろうな。この村の人たちは子供も含めて強さを貴ぶと言ってたから。まぁ物騒な森の脇で生活してるから、弱さイコール生命の危機で、身を護って行く為には当然と言えば当然なのかな……。

自分はどうしよう?剣の修行もみんな元気だから楽しそうだけど、取敢えず魔法かな?ここでの魔法の在り方とか知り得るのはありがたい)


「まほう・・・しり・・・たい・・・です!」

「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!?」


 それまで、キラキラとした目でスージィを見つめていたダーナが不満の声を上げる。


「なんで!?あれだけの動き出来る人が魔法!?そりゃ無いよ勿体無いよ!一緒に手合せしようよスー!」


 うぁ! っと身体が引けてしまう。手を付いて迫って来るダーナに少し圧倒されてしまった。


「ダーナ。残念なのは分るけど、スーを困らせるのは駄目よ?」


 コリンが上目で、メガネを指でクイッと上げながらダーナに注意を促す。


「うっ!こ、困らせるつもりは無いけど……さ」

「スーちゃん剣とかも扱えるの?」

「つかう・・・ます・・・よ?」

「でも、剣の修練はしないの?」

「まほう・・・ならう・・・ようす・・・おちつき・・・たら・・・けん・・・しゅうれん・・・も・・・したい・・・です!」

「ホントっ!?なんだぁー魔法クラス一択かと思ったよー。じゃ魔法の勉強の区切りが出来たら修練に来るって事でいい?」


 う、うん とダーナの勢いに押されつつ頷く。


「よかったよーーっ今日手合せ出来ないのは残念だけど、近いうちに一緒に出来るんだろ!?」

「ん・・・がんばり・・・ます!」


 魔法の勉強頑張って剣の修練に行くね! とダーナを見ながら両の拳をグッと握って見せた。


「ありがとーーーっ!嬉しいよ!スーっ!!」


 ガバァっとダーナに抱き付かれた。その胸元に顔が埋まり一瞬息が出来なくなる。


「あーーーっ!もう!やっぱスーは可愛いなぁ!このーーーっ!!」


 ダーナが更にワシャワシャと抱き締めてくる。


「あびゃぶっ!!」

「あぁ!もうダーナ!独り占めはズルいってば!!」


 コリンがダーナからスージィの奪還に入ると わたしも!わたしもー! と年少の二人もスージィにしがみ付いてくる。


 ダーナからスージィを奪えたものの、オマケの二人も一緒に付いて来て、三人の重さに潰されるコリン。


 再びスージィを奪い返し三人そろって振り回すダーナ。

 レイラとメイベルの二人はキャッキャと喜び、スージィの目はグルグルと渦巻いている。


 それを見ながら わたしは後で一杯抱っこしよー と呟くミアと アタシがしっかりしないとダメねこれは! と気合を入れるベアトリス。


 長閑にお昼の一時が過ぎて行く。

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