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163話 レディクリムゾン

「オイ!聞いてんのかよ?!」


 痺れを切らしたように、先ほど声をかけてきた男がわたしに向けて、大声を上げて来た。

 おっと、ついつい回想に思いを馳せて、コイツの存在を忘れていたよ。

 ここはやはり、多少は相手をして差し上げないと礼儀に反するか?


「スカしてんじゃねェぞメスガキが!俺が呼んでんだ!無視してんじゃ無え!」


 ソイツがテーブルに拳を叩き付けて声を荒げる。

 顔を真っ赤にしちゃって、随分沸点低いな。

 それにしても、初対面の女の子を「メス」呼ばわりとは随分じゃないか?


 ガタイは良いよね。

 身長はロンバートより少し低いくらい?

 伸ばし放題の無精髭が何かキチャない。

 見るからに臭いそう。あんま近付いてほしく無いタイプだ。


 ふと、視界の端に居るビビとミアの表情を窺えば……。

 イカンな、2人の表情に温度が無い。


「イイから来やがれ!!」


 ンで、ソイツが喚きながらコチラに手を伸ばして来た。

 わたしの腕を掴もうってつもりなのかも知れないが……。案の定、その手は虚しくスカッと空を掴む。

 一瞬ソイツは、何故自分の手が空振ったか理解できず、呆けた様な顔になる。

 更にはその場で前のめりに倒れ、受け身も取れずに床に顔面を打ち付けていた。

 

 あ、なんか「ぶぎゅる!」とか酷い声が漏れたな。鼻でも潰れちゃったか?


 まあ、大した事はしてないんだけどね。やったのは、コイツの行動意識をちょこっと()()()てやった程度。

 自分では足を前へ踏み出したつもりだったんだろうけど、実際に足は動いていなかったから、そのまま重心を前へ動かせば転がってしまうのは必然だ。


 アムカムの立ち合いの時、初っ端の牽制でよくやるんだけど、ウチの子たちならこの程度の()()()ではビクともしないんだけどな。

 ちょいとばかりコイツは鍛え方が足りないんじゃなかろか。

 

 しかし、顔から床に突っ込むのはちょっと悲惨?


「クソ!誰だっ?!足引っ掛けやがったのは?!」


 いやアンタ自分で転がったんだって。

 だけど、厳つい男が涙目で鼻血ダラダラ零しながら喚いてる様は、申し訳ないけどチョッと笑えてしまうかな。


「て、てめ!今笑いやがったな?!このメスガキがぁ!!」


 だから初対面の女子をメス呼ばわりするのは止めなさいって。

 そうやって更に立ち上がろうとするソイツに、唐突に床から伸びてきた蔦が絡みつく。


 うん、ミアの仕業だね。

 ミアが今、指をパチリと鳴らして魔法を発動させたのだ。


 忽ちのうちに男は、全身蔦でグルグルの簀巻き状態にされてしまう。

 男は簀巻きにされても何やらモガモガと言葉を発しようとしているが、蔦は顔面にも隈なく巻き付いているので、くぐもった音しか漏れてこない。


「しゃべらないで欲しいかな?」


 ミアが冷ややかな……、絶対零度に冷え込んだ声を上から落とす。

 うん、これはゾクリとする。

 見下ろす目も、実に冷え冷えとした物だ。見えていなくて良かったね。


 見えなくとも男は、そのミアの気配を察したのか、一度ビクリと体を動かした後は静かになってしまった。


「その辺にしておいて貰えるかい?」


 そこへ店の奥の方から声がかかった。ハスキーだけど多分女性の声。

 直ぐに声の主が立ち上がった。

 随分大きな人だと分かる。


「そっちのお嬢さんも、こんな狭い所でそんな物騒な魔法は止めておくれよ?」


 ビビがいつの間にか転がっている男の上に、幾つもの礫を展開させていた。

 直径5センチ程の小石が全部で十数個、キュルキュルと高速で自転しながら男の周りで今にも撃ち出さんと待機をしている。

 これは『礫弾(ペブル・ショット)』いう地属性小級位の魔法だ。

 確かにココでこんな魔法を撃ち出したら、この床板なんてボコボコになるよね。


 苦笑しながら近付くその方に敵意は皆無だ。

 それが分るとビビは小さく肩をすくめ、そのまま魔法を散らして消した。


「ありがとよ。コイツは最近この街に来た田舎者でね。物を知らない自分を勘違いしたバカなんだが、ちったぁ良い薬になったろうよ」


 近付いて来たその女性は、やはりかなり大きい。

 ハワードパパより身長あるんじゃないかな?

 その身体はとても筋肉質で、肌は薄らと緑がかっていた。

 ニヤリと笑う口元には、八重歯と言うには少し長い牙が白く光る。

 その見た目は間違いなくシーハ〇ク!


 この方はあれだ、『ハーフジャイアント』と呼ばれる種族の方だ。

 街中では時たま見かけてたけど、直接お話しするのはこれが初めてだな。

 

「悪いね。バウンサーと言ってもピンキリだ。今アンタらに絡んだ様な奴は、精々田舎町のゴロツキの用心棒が関の山だ。要人警護には到底付けられやしない」


 その方は「情報収集もまともに出来ない奴は尚更な……」と呟きながら、床に転がっている男を運ぶ様、周りに指示を出した。

 この男共に対して、影響力を持たれている人物だと分る。


「アンタら協会に用があるんだろ?受け付けはこっちだ。案内してやるよ」


 その方は肩越しに此方を見てそう仰った。


「おっと、申し遅れたね。あたしゃルドリってんだ。よろしくな!」

「あ、わたし達、は……」

「って言うかさ、何でアンタら態々裏口のパブから入って来たんだい?」


 ん?


「正面の入口から入りゃ、そのまま階段昇って直ぐ受付だったろうに」


 はい?


 なんでもこの酒場は、仕事終わりの慰労や、打ち合わせなどで協会員が使い易いようにと併設しているパブだとの事。「まさか酒の匂いに釣られたとかじゃないよね?」と言ってカラカラと笑い声を上げる。


 そ、そうなん?とビビとミアに目を向ければ……。


「だってスーちゃん自信満々に進んで行くんだもん。コッチから入りたいのかな?って」

「まあ!狙ってた訳じゃ無いのは分かってだけどね!」


 そういえばクゥ・エメルさん、地図で場所を教えてくれた時、二か所くらい指して……いた……ような?

 くぁあぁ!又しても弄ばれていた?!

 



「…………あれが『深紅の淑女(レディクリムゾン)』」

 

 ン?何だって?誰か何か言ったか?


「ほら!スー行くわよ!」

「……あ、うん」


 後ろを振り向いたけど誰もこちらを見ていない。

 まあいいか。

 取りあえず案内してくれるルドリさんの後に付き、わたし達はパブの奥にある分厚い扉を抜けたのだ。




    ◇




「アレが……そうか?」

「ああ、間違いない。あの髪は見間違いようが無い。俺は彼女が一瞬で魔獣を屠るのを確かに見た」

 

「旧市民街にあった、アナトリスの組織を壊滅させたとも聞いたが」

「そうだ彼女だ。それはオレも見た。今思い出してもゾッとする。何が恐ろしいって、周りを血の海にしているって言うのに、本人は返り血ひとつ浴びちゃいない。それでいて、冷ややかに辺りを見回すあの眼が……!」

 

「去年伝わって来た、グロールスカの1000人規模の盗賊団を討伐したとか、オセアノス沖で海賊船団を壊滅させたとか言う話、眉唾だと誰もが思っていたがな……」

「見たろうが、一瞬だけ放たれたあの濃厚な殺気。アイツ、瞬間的に自分が萎縮した事すら気付いちゃいない」


「アレが、アムカムの……」

「そうだ間違いない。あれがレディクリムゾン『血塗れの淑女』。アムカムの姫だ」

お読み頂き、ありがとうございます。


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第1巻発売予告
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― 新着の感想 ―
[一言] (ざわざわ…)レディクリムゾンだ… この街の裏組織をたったひとりで一夜にして全部潰したヤバい女だ… 絡みに行ったあいつ、よく命が助かったな…(ざわざわ…) スージィ「ん? レディクリムゾン…
[一言] なんかすごい呼ばれ方してる
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