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132話 金髪ロールの聖女

 コーディリア達が振り返って見れば、自分達の目線より幾分下からコチラを見上げて来る視線とぶつかった。


 その視線の持ち主は、窺うようでいて油断なく彼女達を見つめている。

 自分達と同じデザインの制服に身を包み、ポシェットを肩にかけ、小ぶりの物だが帯剣までしていた。

 そしてその眼は、まだ幼いながらも強い意思を感じさせるものだ。


「あら!わ、私達わたくしたち、ここでお友達を待っていますのよ!」


 自分達の後輩だと理解した途端、直ぐに反応を示したのはコーディリアだ。

 彼女のそのポンコツぶりはかなりの物だが、それだけに人目に反応して取り繕うすべは一級品だ。


「初等舎の方ですかしら?ごきげんよう。わたくしは中等舎一回生のコーディリア・キャスパーですわ」

「あ、わたしは今年より初等舎へ通っておりますアニー・クラウドともうします。なにとぞよしなにお願いいたします」


 咄嗟に上から目線の物言いをするコーディリアに、「流石です」と呟くキャサリン。

 そのコーディリアに対し、シッカリとした受け答えをするアニーを感心して見詰めるルシール。


 その可愛らしいカーテシーを見詰めながら、ルシールはもしや?と思う。


「ごきげんようクラウドさん。わたくしはルシール・ムーアです。貴女はもしかして、スージィ・クラウド様のお身内の方でよろしいのでしょうか?」

「スージィお姉様をご存じなのですか?」

「はい、存じ上げております」

「ホントですの?!それではクラウド様の妹君?確かに似た雰囲気をお持ちになっている様な……」

「い、いえ、わたくしはスージィお姉様の従妹です……。ですが!いつもとても可愛がっていただいております!!」


 双方共通の知り合いの名前が出た事で、互いにあった僅かな緊張がほぐれていく。


 コーディリアは、こんな所で可愛らしい後輩との出会いがあった事で、「もっとクラウド様との距離を縮められるかも」と頬を僅かに上気させてアニーを見詰めている。


 一方アニーは、「スージィお姉様のお友達にしては、ちょっとタイプが違うかも……」と中々に冷静な判断を下しながら問いかけた。


「お待ちになっておられるお友達と言うのは、スージィお姉様の事でしょうか?」

「……あ、いえ、待っているのは他のお友達で……。クラスメイトなのですが……」


 言い澱むコーディリアの顔を、不思議そうにアニーが見上げる。


 だがそこで、建屋の扉が中から勢いよく開けられた大きな音で、その場の全員の意識がそちらに向く。


 建物の方へ目をやれば、開かれた扉の中から小さな影が2つ、飛び出して来る所だった。


「アニーおねえちゃん!」

「おねえちゃん!」


「ダン!ナン!どうしたの?中に入っていなけりゃダメじゃない!」

「アニーおねえちゃんが見えたから」

「あと、ほかの人たちも……」


 双子が揃ってアニーにしがみ付く。

 2人はアニーが外にいる事に気付き、また怪しい人がいるのかと急いで飛び出して来たのだと言う。


「……今、ダンと仰って?ナンと仰った?」


 コーディリアは、その2人の名前を聞いた途端、目を大きく見開き口元に手を当てた。


 本当にあの2人がいた!しかもこんなに大きくなっている!!


 コーディリアが最後に2人に会ったのは3年前だ。

 確かその時はまだ三つだったと思う。

 自分の事を覚えているか不安はあるが、コーディリアは2人が赤ん坊の頃から知っている。


 生まれたばかりの双子の赤ちゃんはとても可愛らしく、カレンと二人でベビーベッドにしがみ付き、眠っている赤ん坊が少し動くだけで二人で燥いでいた事を思い出す。


「ダン!ナン!覚えていませんか?コーディリアです!わたくし!コーディですわよ!」


 コーディリアが感極まった様に双子に向けて声を上げるが、2人はキョトンとした顔でアニーに掴まったまま彼女を見上げるばかりだ。


「知っている人?」

「んーー?」

「こーでぃ??」


 アニーの問いかけにも、双子はやはり不思議そうにコーディリアを見詰める。


「……覚えていませんか?お屋敷に遊びに行くと、いつも二人はわたくしをお迎えをして下さいましたよ?」


 コーディリアは、双子と目線を合わせる為に、その場で膝を付き両手を広げる。

 そのコーディリアを見て、双子はゆっくりとアニーから離れ、コーディリアへと向けて近付いて行く。

 そして、コーディリアの顔の両脇に垂れる綺麗に巻き上がったブロンドの髪を、小さな目を一生懸命に見開き、ジッと見つめ始めた。


 アニー達が見守る中、双子達は今度はその小さな手で、コーディリアの髪にそっと触れ、撫でる様に、確かめる様にその巻かれたブロンドの髪に指を絡めた。そして……。


「あ痛ぁっ!!」


 2人は揃ってコーディリアの金髪ロールを、無慈悲にも幼児の力で思い切り引っ張っりはじめたのだ。


「こーちゃ?」

「こーちゃ!」

「はい、はい!コーちゃんですよ!わたくしがコーちゃんですわよ!痛っ、イタタ!痛いですわよ!」


 双子はコーディリアにしがみ付き、其々左右から髪を引っ張っては楽し気な笑顔を見せる。


「いたたたっ!も、もう!あなた方は!会うたびにそうやって(わたくし)の髪を引っ張るのは止めてって……いたっ!あ痛ぁっ!もうっ!またカレンに言い付けますわよ!!」


コーディリアの言葉は怒っている風だが、その顔は嬉し気だ。腕を「こーちゃ!こーちゃ」と呼んで顔を寄せる双子に回し、そのまま抱きしめる。


「……よかった。ホントこんなに大きくなって……。ちゃんと食事は食べていますか?ベッドは硬くは無いですか?寒い思いはしていませんか?」

「……だいじょうぶなの、こーちゃ」

「みんなはやさしいからへいきなの」


 コーディリアが双子を抱きしめ、自分の頬を二人の顔に優しくすり合わせて静かに言葉をかけて行く。


「…………そうですか。大変な事があったらちゃんと言うんですよ?」

「だいじょうぶなの。カレンおおねえちゃん、まいしゅうきてくれてるの」

「アニーおねえちゃんも、まいにちいっしょなの」


 コーディリアに向け、2人が一生懸命今の状況を説明する。コーディリアは2人の言葉に始終「はい、はい、そうなのですね?はい」と相槌を打ちながら、その拙い言葉を懸命に聞いていた。



 膝を付いて目を潤ませながら幼児二人と抱き合い、優しい笑顔で語り合うコーディリア。


 キャサリンはその様子を、まるでそこだけ天上からの光が差しているかの如く、眩しげに顔を両手で覆いながら覗っていた。

 そして身体をプルプルと小さく震えさせて「ゴフッ!尊っ!尊ぉすぐる!コーディリア様マジ聖女?!我等は今!奇跡を目の当たりに?!」等と、吐血でもしたような咳き込みをしながら呟いている。


 いや、これは実際に吐血しているな。とルシールが冷めた目で己の従妹を横目で見やる。そして「尊ぶなら尊ぶで普段からもう少し言動を控えてくれれば良いのに」と考えるが、「ああ、そう言えば弄り倒してから尊ぶのがこの子の愉しみだった」と、改めてその奇行を見て見ぬふりをする事に決め込んだ。

お読み頂き、ありがとうございます。



誤字脱字のご指摘、ありがとうございます!


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第1巻発売予告
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― 新着の感想 ―
[一言] キャサリンが今死んだら死因はきっと尊死(とうとし)だな
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