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121話 ルゥリィ・ディートの誤算

 何でこんな事になっている?

 ルゥリィ・ディートは、現状に理解が追いつかずにいた。



 どうして?

 こいつは魔法が使えなかった筈だ。


 現にコイツが魔法を失敗している姿は、自分もこの目で何度か見ている。

 新入生の中で、魔力が一番大きいとか言って、それなりに話題になっていた様だが、肝心の魔法が使えないなら意味は無い。


 ただデカいだけの木偶の坊だ。



 連日魔法を暴発させて座り込んでいる様は、いい気味だと胸がすくのを見る度に思っていた。

 しっかり魔法が使える自分の方が、間違いなくコイツより立場は上の筈だ。


 それがどうしてこうなった?



 何故コイツは魔法が使えているんだ?

 しかもワンドも持たず、詠唱もしないで魔法障壁を使って見せた。

 それどころか、自分達が放った魔法を綺麗にかき消す程の威力だ。


 自分が使う障壁は、魔法の力を半減させれば上出来だと言われていたのに、こんな事があるのか?

 更にコイツはやはり詠唱もせず、複合属性である木属性魔法まで使って来てる!


 一体どう言う事さっ?!!




 ルゥリィ・ディートは全身を茨で締め付けられながら、声にならない叫びを上げていた。

 そんなルゥリィの目の前に、足を進めたミア・マティスンが静かな笑みを浮かべて立っている。


 コイツは、何かが違う。

 コイツは、自分が知っている常識とは違う所に居る。


 ルゥリィはミアの姿に、その自分の理解の及ばぬ存在に、うすら寒い感覚を覚えずにはいられなかった。



     ◇



 その日、昼を回って直ぐ。

 ルゥリィ・ディートは、取り巻きの2人を引き連れて、選択授業を受ける為、魔導科の教室までやって来た。


 入学試験時に、火の属性で『35』という数値を出していたルゥリィは、魔導科を選択するのが当然だと考えていた。

 魔力量『35』という数値は、一般的な受験者の魔力量が、平均20と言った所からすれば十分に誇れるものだからだ。

 あく迄も『一般的な範囲内』での話だが。



 そして今、その教室の前でルゥリィ・ディートは、自分の中からドス黒い感情が込み上げてくるのを感じていた。



「……カレン!!!」

「…………ルゥリィ」


 有らん限りの力で、目の前にるカレン・マーリンを睨みつけた。


「よくもまあ抜け抜けと、アタシの前に顔出せたもんだね!!」

「そんな!ルゥリィわたしは……」

「うるさい黙れ!!全部お前のせいだ!!!」


 学園に来てからの全ての嫌な出来事は、今目の前にいるカレン・マーリンのせいだ。

 ルゥリィ・ディートは腹の底からそう確信している。

 コイツには、その落とし前をつけて貰わなくてはならない。


「すっかり自分の立場ってもの、忘れちゃったみたいだよね?!」

「……そ、そんな」

「改めて最初から、アンタには教育が必要みたいよね?!ねぇ?!」


 学年クラスでは教室が別の為、接触する事が出来ずにいたが、幸いこの選択クラスでは、同じクラスを選んだ様だ。

 ココで昔の様に、その性根に立場の違いを教え込んでやる!


 ルゥリィ・ディートがそんな考えを巡らせて、仄暗い笑みを浮かべた時、後ろから突然声をかけられた。


「そろそろ教室に入りたいんだけど、いいかな?」

「な?!お、お前!!」


 教室の前で、自分達の事を遠巻きに見ている生徒が殆どの中、その相手は何の気負いもなく声をかけて来た。

 その相手を見て、ルゥリィは目を見開く。

 間違いない!コイツは例の赤毛の取り巻きの1人だ!

 そして、カティアに『魔力オバケ』と言わせたヤツだ!!

 それに気がついた時、ルゥリィはその相手を思い切り睨み付けていた。


「なに?わたしに何かご用かな?」

「お前!カティアに何をした?!!」

「え?誰のことかな?」

「とぼけるなよ!お前がカティアに何かした事は分かってるんだ!!」

「うーーん、何を言ってるのか分からないなぁ……。人違いじゃないかな?」

「この!とぼける気か?!」

「そー言われてもねぇ……。どっちにしても、教室に入らないと周りの迷惑になるかな?」

「……コイツ!」


 コイツがカティアに何かしたのは間違い無い。

 それなのに、言葉を強く問い詰めても飄々としらを切る様は、自分をナメているとしか思えない。

 コイツら赤毛の仲間は、心底自分を苛つかせてくれる!



「フン!どうせお前、あの赤毛の腰巾着なんだろ?!」

「フフン、わたしとスーちゃんはいっつも一緒に居るからね!」


「チッッ!!ちょうど良い!お前らに程度の差ってのを思い知らせてやるよ!」

「……ホントにさ、良く分かんないんだけどさ」

「ああ?」

「どうして、そんな不毛な事を平気で言えちゃうのかな?」

「は?!!」

「普通はそんな頭の悪そうな事、とても口にはできないよね?」


「なっ?!お前ぇぇ!ふざけんなよ!!」

「最初は、そっちがふざけてるのかと思ってたんだよ?」

「思い上がりも大概にしとけよ!!」

「ウ~~ン、わたし達はちょっと、思い上がるとかは出来ないかなぁ」

「意味ワカンねぇ事言ってんじゃねぇよ!!」


 始終、惚けた口調で言葉を紡ぐミアに、カレンは顔色を無くしていく。

 対するルゥリィは、今にもミアに掴みかかりそうな勢いだ。


 結局、その直ぐ後に担当の教師が来た為、その場は解散させらる事になった。

 しかし、オリエンテーションの後、ジョスラン教師にミアと模擬戦をする許可を取り付けた。





 模擬戦でわたしが魔法を使って見せれば、魔法が使えないコイツに、自分の立場という物をその身に刻んでやれる筈だった。


 準備の為に先に入ったロッカールームでは、ヤツのローブを水浸しにしてやったし、ワンドも叩き折ってやった。


 なのに!何事も無かったようにローブを着て来るし、おまけにワンドも無しに魔法を使って来る!


 なんでさ?!!



     ◇



「立場……だっけ?」


 ミアは笑みを深めながら、ルゥリィの耳元で小さく囁く。


「お、お前!いつも魔法を暴発させてたじゃないか!な、なんでこんな事が……」


 ルゥリィが、納得がいかないと言う様に声を荒げて叫ぶ。

 しかし、ミアはそれに取りあおうともせず、目を細め、降ろした右の指先を再び『パチリ』と鳴らす。


 その音に応えるように、足元から茨の蔦がミアの掌へと伸び上がる。

 そして蔦はミアの手の中で、一本の長いロープの様に編み上がった。


 ミアは、手慣れた様に手首を振ると、編み上げられ、長く伸びた蔦が空気を裂き、高い音を立てて地面を打った。

 ルゥリィの身体はその音に反応し、一瞬ビクリと跳ねる。


「その『立場』ってものを、少しだけ……分かって貰おうかな」


 ミアの眼に、無慈悲な光が仄めいた。

お読み頂き、ありがとうございます。


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第1巻発売予告
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[一言] 普段滅多に怒らない子が怒ると怖いのです。
[一言] 調教タイム( ˘ω˘ )
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