表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/98

クソ映画

「ちょっとつき合ってよ」

 突然、映見さんが僕たちに言った。

「えっ」

 そこは映画館だった。祝い町に唯一ある映画館、銀河座。二本立てで五百円と、通常の映画館ではありえない料金設定だった。

「どうやって経営が成り立っているんだ・・」

 祝い町は謎が多い。

「あたし今なんだか鬱なの」

「えっ」

 僕は驚いて映見さんを見る。僕には鬱とは真反対の人にしか見えなかった。

「鬱って、鬱ですか?」

「そうよ。他にどんな鬱があるっていうのよ」

「まあ、そうなんですが・・」

「鬱の時は思いっきり低級なアメリカのコメディ映画を見ると治るのよ」

「どんな治し方ですか」

 僕は、思わずツッコミを入れる。

 映画館前の立て看板を見ると、丁度それらしい映画がやっている。銀河座はいつも誰が見るんだっていうレベルの古いB級マイナー映画ばかりをやっている。

「愛のカサブランカゾンビて・・」

 タイトルだけで絶対に見たいと思わない映画だった。というか訳が分からない。

「どんなタイトルだよ」

 僕は映画館の前の立て看板にもツッコミを入れる。しかも、同時上映は、男はつらいよのパクリ映画、男はつらいよね、だった。

「どんだけ酷いんだ・・」

 僕は思わず呟く。男はつらいよねの立て看板の絵を見ただけで、かなりずさんな作りの、滅茶苦茶低級な映画だということが分かる。

「誰が見るんだこんなの・・」

 しかし、映見さんとももちゃんは、映画館に入って行ってしまう。僕はしばらく躊躇した後、ここまで来たのだし、それに僕は有り余るほどの暇がある。僕も映見さんたちに続いて映画館に入った。

「ポップコーンとビールね」

 チケットを買った後、映見さんは、映画館入り口の売店でまたビールを買っている。

「あんたたちも飲む」

「は、はい」

 僕とももちゃんが答える。酒なしでは絶対に見れない映画だった。

「じゃあ、三つ」

 僕たちはビールとポップコーンを両手に持ち、映画館に入った。チケットも、映見さんが買ってくれた。

「・・・」

 中は、無駄に広く、どこかすえたかび臭い匂いがし、かなり怪しげな雰囲気だった。男一人でもかなり危険な雰囲気がした。しかし、映見さんはまったくビビる様子すらがない。

「なかなかいい雰囲気ね」

 むしろ楽しんでいる。やっぱり、神経の太さが常人とはちょっと違うらしい。

 ガラガラの場内のど真ん中に、僕たちは三人並んで座った。

 そして、映画が始まった。

「・・・」

 滅茶苦茶つまらなかった。始まって五分と経たずに帰りたくなった。

「あっははははっ」

 しかし、映見さんは、スクリーンを指さし、一人隣りで大爆笑している。

「これって、コメディ映画・・?」

 確かホラー映画だった気がするが・・。

「・・・」

 僕には何がおもしろいのかまったく分からなかった。滅茶苦茶B級だった。というかC級以下だった。

 滅茶苦茶つまらない。しかも、それが二本立てだった。気が狂いそうだった。

「あはははっ」

 映見さんはもはや涙目になって笑っている。

 映見さんはどうやら、この映画のB級感を楽しんでいるらしい。なるほど、そういう楽しみ方か。マジメに見たらそりゃつまらないのは、当然だった。

「きゃあ」

 その時、ももちゃんが僕の腕にしがみついて来た。ももちゃんはマジメにホラー映画として見ているらしい。

「・・・汗」

 映画の見方は人それぞれだった。


「いやぁ、おもしろかったわ。やっぱ、鬱にはこれね」

 映画館を出た映見さんは生まれ変わったように、晴れ晴れとしたすっきりした表情をしていた。一方僕の方はといえば、もう一気に三年は老け込んでしまったようにげんなりしていた。あんなクソみたいに下らない映画を四時間も見させられたのだ。しかも、二本目の男はつらいよねは、もう本当に言葉にできないくらいクソだった。

「映見さんほんとに鬱なんですか」

 僕が訊く。

「そうよ」

 にこやかに映見さんは答える。

「・・・」

 そこに鬱の影はまったくなかった。

「時々さ」

「はい?」

「無性に女でいることに疲れるのよね」

「はあ」

 僕は映見さんの横顔を見る。

「化粧するとかさ、女らしく振舞うとかさ、そういうのがもうたまらなく嫌になるのよ」

「はあ」

「もう化粧なんかやめて股なんかおっぴろげてさ、鼻なんか思いっきり指突っ込んでほじったりして、そういう日が欲しいわけよ。女はさ」

「そういうもんなんですか」

「そういうもんなのよ」

「はあ・・」

 僕にはまったく分からなかった。

「ねえ」

 映見さんはももちゃんを見る。

「はい」

「えっ、ももちゃんも鼻をほじるの」

「はい、ほじりますよ」

「ほじるの」

「女はほじるのよ」

「ほじるんだ」

 僕は、考えてしまう。

「ていうかなんの話してんですか」

「この町来るとさ。なんか解放されるのよ。色んな自分に。そういう町なのよ。ここは」

 映見さんが、祝い町の遠くの景色を見つめながら言った。

「はあ・・」

 やっぱり、僕にはまったく分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ