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柿の種

「柿の種って、これ考えた人天才ですよね」

 ももちゃんが柿の種を一つ手に取って、それをしげしげと見つめながら言った。

「・・・」

「どうしたんですか」

 ももちゃんが、僕と映見さんを見る。

「いや、さっきまったくおんなじことを、僕たちが言ったばかりだったんだよ」

「そうだったんですか」

「みんな考えることは、一緒ってことね」

 映見さんが柿の種を口に放り込みながら言った。

「でも、やっぱり、柿の種って癖になりますね。食べだすととまらないです」

「ほんとね」

 僕たち三人はしばし無言で柿の種をポリポリやった。

「結婚しちゃいなよ。いい子じゃん」

 映見さんが突然僕の方を向いて言った。

「えっ」

 僕は驚く。

「いや、結婚て・・」

 考えたこともなかった。

「というか、僕たちは別に・・」

「やだ映見さんたら」

 僕が否定しようとすると、またそんな僕の向こうでももちゃんが照れた大きな声を出す。そして、なぜか 隣りの僕の腕をまたバシバシと激しく叩く。

「いや、あの・・」

 そのことによって、僕の否定がまたかき消されてしまった。

「結婚したら、悩み全部解決じゃん」

「全然解決してませんよ。どうやって、ホームレス同士で結婚生活していくんですか」

「マジメねぇ」

「いや、そういう問題じゃないでしょ」

「あんたそんなじゃこの町で生きていけないわよ」

「だから、この町で生きる気ないですよ。ここを出ていきたいってさっきから言っているじゃないですか」

 映見さんは僕の話を全然聞いていない。もう無茶苦茶だ。

「映見さんていい人ね」

「えっ」

 だが、ももちゃんは映見さんと気が合うらしい。

「ほんといい人だわ」

「・・・」

 まあ、いい人ではあるんだけど・・。人間としてはなんか微妙な人だった。

「なんか暗くなってきわね」

 映見さんが辺りを見回し言った。

「そうですね」

 気づけば辺りは薄暗くなり始めていた。どうやら、僕たちはかなりの時間酒を飲んでいたらしい。飲み始めたのはお昼頃だった。

「さて、せっかく来たし町をぶらつこうかしら」

「えっ、今からですか」

 僕が映見さんを見る。

「そうよ」

「・・・」

 夜は男でも危ないと言われる祝い町。

「どうしたのよ」

 映見さんが、突然立ち上がる僕驚いて見る。

「いや、さすがに夜の女性の一人歩きは危険ではないかと・・」

「大丈夫よ」

「いえ、僕がお供します」

 一応、日本一治安の悪い町と異名を持つ町だ。女性の一人歩きなどほぼ自殺に等しい。自ら犯してくれと言っているようなものだ。

「そう」

 ちょっと驚きながらも、映見さんは軽く同意した。

「私も行きます」

 するとももちゃんが言った。

「えっ」

 僕が驚く。

「私も行きます」

「えっ、明日大学じゃないの」

「私も行きます」

 どこかももちゃんは興奮している。

「そ、そう・・汗」

「じゃあ、三人で行きましょ」

 映見さんが言った。結局、三人で夜の祝い町をぶらつくことになった。

「誠さんやさしいんですね」

 歩きながら、僕の隣りでももちゃんが言う。

「えっ」

 なんだか、ももちゃんは怒っている感じがする。

「私が一人で歩いてても全然そんなこと言ってくれませんでしたよね。今まで」

 やはり、ももちゃんは怒っていた。

「えっ」

 僕はももちゃんを見る。相当酔っているらしい。ちょっと目が座っている。

「何で映見さんはお供するんですか」

「えっ、ええ?」

 いきなりの伏兵に僕は戸惑う。

「いや、だって、ももちゃんはこの町の住人だし、僕よりもこの町に関しては先輩なわけだし・・」

 しかし、ももちゃんのその険しい表情は変わらない。

「おかしいですよね」

「え、ええ」

 僕は戸惑うしかなかった。映見さんはそんな僕の隣りでふふふとおもしろそうに笑っていた。


 僕らがお酒を飲んでいた公園からちょっと行った先の角を曲がると、いつものホームレスのじいさんたちが、今日もいつもの路上でそのまま直に路上に座り込み将棋をさしている。通行人の迷惑など顧みず、彼らは今日もマイペースだ。

 僕たちはその脇を抜け、ドンドン祝い町の中心に入って行く。

「てやんでぇ、バーロー」

 さっそく、暗くなる前に、というか真昼間からすでに、いい感じに出来上がっているおっさんがいた。祝い町は今日もやはり祝い町だった。

 町の中心に近づけば近づくほどに、だんだん、祝い町の濃度が上がっていく。

 酔っ払いが町をうろつき、ホームレスが道端にゴロゴロと死んでいるのか寝ているのか地べたにそのまま転がり、公園や空き地ではところどころで勝手に酒盛りを始めている。そこかしこに軒を連ねるやたらと激安な、怪しげな一杯飲み屋の提灯に明かりが灯り、そこに何をして生きているのか謎な前歯のない日焼けしたおっさんたちが群がる。

「やっぱいいわね」

 そんな光景を見て映見さんが言う。

「どこがですか」

 僕は目を剥き出して映見さんを見る。僕にはまったく、その価値観が分からなかった。

「・・・」

 やっぱり、映見さんは変わっている。僕は思った。

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