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じいさんの戦争体験

「えっ、せ、戦争・・、ですよね?」

 僕は困惑しながらじいさんに確認するように訊く。

「もう、ほんとやりたい放題じゃった」

 しかし、じいさんは戸惑う僕の質問には答えず、勝手にどんどん話し始める。

「中国女をさんざ、犯した。もう数えきれねぇくれぇ犯した」

 濁った目が僕を見る。その口元は、いやらしくどこか自慢げににやついていた。

「もう手当たりしだいだ。もう、やりまくった。あいつもこいつも誰でもだ。子どもからばあさんまで手当たりしだいだ」

「ちゅ、中国に行ったんですか」

「ああ」

「中国のどこですか」

「ああ?そら、おめぇ・・」

 しかし、考え考えしてもじいさんの口からまったく名前が出てこない。

「もしかしてそれ南京じゃ」

「ああ、そんなような名前じゃったな。というか、そこへ行く先々で、もう散々やっとったがな。ぐはっぐはっぐはっ」

「・・・」

 じいさんはどこの出身の人なのか、独特の方言訛りで話す。

「もう、年寄りから子どもまで女はみんな犯した。よりどりみどりだ。女学校があってな、そこなんか行くと、もうあれ、これってな感じで選び放題だ。ぐはっぐはっぐはっ」

「・・・」

 自責の念など、というか悪いことをしたという認識すらもなく、逆にどうだというようなドヤ顔で、積もった歯石と黄色くヤニのついたボロボロの汚い半分なくなった前歯をむき出してじいさんは本当にうれしそうに笑う。それは、幼い頃、動物園で見た、歯をむき出すチンパンジーのそれだった。

「町に女を探しに行くのが楽しみでなぁ」

 子どもの頃の遠足でも思い出しているような気楽さでじいさんは言う。

「家の中に入って探すと、よく、ベッドの下とかな、物入れの中なんかに女は隠れてた。天井にいたこともあったな。畑とか物置にもいたな。それを見つけてひっぱり出してな。ぐひっ、ぐひっ」

 本当にうれしそうにじいさんは笑う。

「みんな震えてたな。泣いているのもいた。じゃが、そのうち観念して大人しくなるんだ。女はみんな顔を炭かなんかで真っ黒くしててな、それをきれいに拭いてから犯すんだ」

「・・・」

 じいさんの話は生々しくリアルだった。嘘を言っている感じではない。

「中国女はよかった。アソコは臭かったがな。げへっ、げへっ、げへっ」

 じいさんは訊いただけで虫唾が走るような最高に下品な笑い声を上げて笑う。

「・・・」

 僕はあまりの下品さに言葉もない。

「中国女は最高だぞ。おめぇ、中国女はアイゴー、アイゴーって泣くんだ。それが、堪んねぇんだ」

 当時を思い出しているのだろう。口元から涎をたらしながら本当にうれしそうにじいさんは語る。

「わしゃ、嫌がる女を無理やり犯すのが好きなんだ。だからおめぇ、アイゴーアイゴーって泣き叫ぶ女を犯す時のあの、おめぇ、興奮たらなかったぞ。ぐへっ、ぐへっ、ぐへっ」

 目を剥き出し、僕に顔を近づけ語るその口から吐き出される息は、魚の内臓が腐ったような堪らない匂いがして、最高に臭かった。その下からは腋臭の匂いと、風呂に入っていないホームレス特有のすっぱい、目に染みるようなにおいが湧き上がって来て、さらに僕を襲う。

「犯した後は、みんな殺すんだ」

 じいさんは、ドン引きした僕の反応などおかまいなしに話を続ける。

「何で殺すんですか」

「知らねぇ。みんな殺してたからわしも殺した」

 なぜか知らないが、ちょっとキレ気味にじいさんは勢いよく言い返してくる。

「・・・」

 なんなんだこのじいさんは・・。キレたいのはこっちの方だった。

「銃は弾が持ったいねぇから、銃剣で刺すんだ。刺しそこなうとな、なかなか死なんでなぁ。ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、ってカエルのでっけえのみてぇに変な声出して騒いでなぁ。うるせぇんだ」

 じいさんは眉間に深い皺を寄せて本当に嫌そうな顔をする。

「・・・」

「でも、顔のいい女はしばらく生かしとくんだ。わしらで飼うんだ。飼育だな。そんで、何回か飽きるまで犯すんだ。それから殺すんだ」

「だからなんで殺すんですか」

「子どもなんか最高だぞ。犯す時、歯をぐっとくい縛ってな。いへっ、いへっ、いへっ、その表情がまたたまんねぇんだ。いへっ、いへっ、いへっ」

 また最高に下品な笑い声をじいさんは喉の奥から上げ、やはり僕の反応など関係なく話を続ける。

「・・・」

 どこまで最低な奴なんだ。最低過ぎて僕は言葉もない。最低だ。こいつは最低な奴だ。こいつは自分がやったことを悪いことだという認識すらがない。

「まだ処女だったのもいたな。初物だ。それが三人いたかな」

 じいさんはどうだと言わんばかりに、自慢げに僕の顔を覗き込んでくる。僕は吐き気がした。

「そいつにわしの何日も風呂にも入ってねぇ汚ねぇイチモツをぶち込んでやるんだ。ありゃあ、最高だったなぁ」

 じいさんは子どもの頃の楽しい思い出を語るみたいに、本当にうれしそうに語る。

「わしはイチモツだけはでけぇんだ。こればかりは自慢なんだ。俺はバカだけどよ。それだけは自慢なんだ」

「・・・」

 今まで聞いてきた自慢話の中で最も下衆で最低な自慢話だった。

「そして、やっぱり、終わったらぶち殺す。いへっ、いへっ、いへっ」

「・・・」

「まあ、最後にわしのデカチンをぶち込まれて天国にいけたんだ。幸せだったろうよ」

 信じられないといった目で、じいさんの目を見ると、その目はマジだった。その奥の奥の奥までマジで言っていた。

「初めての女は終わった後、血だらけになってたな。ぐはっ、ぐはっ、ぐはっ」

 なぜかじいさんは、うれしそうに言う。その感覚がまったく分からなかった。

「初めての女を五人、六人で輪姦するとな、女は泡拭いてな、白目向いて失神すんだ。それがまたおもしれぇんだ。それに水ぶっかけて、また犯すんだ」

「・・・」

 何がおもしろいのかがまったく分からない・・。

「子どもはしばらく生かしとくんだ。俺たちの身の回りの世話なんかさせんだ。殺されたくねぇからよくいうこと聞くんだ。小せえのによ。ありゃ十歳くらいだったかな」

「十歳・・」

「でも、殺すんだ。まあ、母親も殺しちまったし、かわいそうだべ?あ?はははっ」

 そしてまたじいさんは笑った。

「・・・」

 かわいそうという感性は一応あるらしい。僕はあまりの残酷で汚い話に、吐きそうだった。

「母親と娘がいるわな」

「はあ」

 僕はもう返事をするのにも疲れ始めていた。しかし、酒も巡って来て、いい感じになったじいさんは逆にどんどん調子よく饒舌になっていく。

「どっちから先に犯すか分かるか」

「・・・」

 どっちも犯さないという発想はないらしい。

「母親から犯すんだ。娘を殺すぞって脅すと、何でもいうこと聞く。もう、そりゃあ、必死で色々サービスしてくれるんだ。げへっ、げへっ、げへっ」

 胸がむかむかして本当に反吐が出そうだった。

「まあ、結局、娘も犯して殺しちまうんだがな。 げへっ、げへっ、げへっ。そいつを母親に見せてやるとまたこれが堪らん顔するんだ。その顔が最高なんだ」

「・・・」

 信じられないくらいの鬼畜だった。

「あとよ、妊婦なんてのもいたな。ありゃ珍しくて面白かった。腹ぼての女なんかそうそうできるもんじゃねぇからな。ぐへっ、ぐへっ」

「・・・」

 何度もじいさんの目の奥を確認するが、その目の奥は本気で言っていた。このじいさんは何かが壊れているらしい。

「おめぇ知ってっか?」

「何をですか」

 突然なんの脈略もなく訊かれ、僕はちょっとキレ気味に答える。

「ピーカンカンて言うと中国女はみんな股開いてアソコを見せてくれんだ」

「なんて意味なんですか」

「意味なんて知らん。だが、どんな女でもみんな見せてくれたな。金持ちのすごい上品そうなマダムも見せてくれた。もちろんその後犯したがな。げへっ、げへっ、げへっ」

「・・・」

「みんな殺されたくねぇから、誰でも何でも言うこと聞くんだ。げへっ、げへっ、げへっ」

「・・・」

「八十歳のばあさんともやったな。あれはまあ、またよかったでな。げはっ、げはっ、げはっ」

「八十歳・・」

「なんかよう、あん時はやった後、研ぎ澄まされたというかな、恍惚としたな。何かを突き抜けた感じだ。思わずアソコに手を合わせて拝んじまったでな。げはっ、げはっ、げはっ」

「・・・」

「ばあさんは犯した後、急に気が狂ったみたいになってな。自分で家の壁に頭打ちつけて死んじまった。ありゃぁ、びっくりしたな。何も死ぬこたないべな。ばあさんだから生かしといてやったのに」

「・・・」

「どうせ死ぬべ。ばあさんはほっといても。ぐはっはははっ」

 そう言って、じいさんは一人高笑った。

「死んだで思い出したが、あとな、犯そうと思ったら舌噛んで死んじまった女がいてな。若い、そこそこいい女だったんだぁ。ありゃ、もったいなかったなぁ、何も死ぬこたねぇのに」

 自分たちが犯した女性を殺しまくっていることは棚に置いて、じいさんは顔をしかめる。相当悔しかったらしい。

「まあ、しょうがねぇから、そのまま犯したな。死んでてもアソコはアソコだ。げはっ、げはっ、げはっ」

 そして、また笑う。

「・・・」

 僕は怒りを通り越して、完全にドン引いていた。もうこのじいさんの存在が気持ち悪かった。

「夢のような日々だったなぁ。ほんとやりたい放題じゃった」

 しかし、じいさんは恍惚とした表情で言う。

「もうなぁ、尿道が擦り切れるくらい出したなぁ。ゲハッ、ゲハッ、ゲハッ。あんなに出したのは後にも先にもうねぇな。ゲハッ、ゲハッ、ゲハッ」

 じいさんは笑う。

「医者がよぉ。軍医がよぉ。栄養剤打ってくれるんだ。それを打ってもらうとよ、目がカッと見開いて、もう、全然眠くねぇんだ。もう三十六時間ずっと、やりまくってたな。ゲハッ、ゲハッ、ゲハッ。あそこまでやるともう訳分かんねぇな。ゲハッ、ゲハッ、ゲハッ」

「・・・」

 訳分かんねぇのはお前の頭だ。よっぽど言ってやろうかと思ったが、言ってもこいつには分からないだろう。多分、じいさんの言っている栄養剤は覚せい剤のことだろう。戦争中に、よく兵士などに使われていたというのは有名な話だった。当時は確か、ヒロポンとか言ったと思う。

「上官がやれって言うんだからな。略奪でも強姦でも殺人でも何でも好きにやって来いって、上官がそう言うんだ。ほんとだ」

 じいさんは目をひん剥いて僕を見てくる。

「戦争は辛かったなんていう奴がいるが、わしは楽しかった思い出しかねぇ」

「・・・」

「ありゃぁ、ほんと夢のようだったぁ」

 じいさんはうっとりとした顔で、当時を思い出すように一人呟く。

「・・・」

 そんなじいさんを見つめながら、僕はあのまま水を飲ませず地獄に行ってもらった方が、よっぽどよかったと激しく後悔していた。

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