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仕事二日目

「なんだよ機嫌がいいな」

 気味悪そうにママが目の前のカウンターに座る僕を見る。

「ふふふっ」

「なんだよ」

「もうママに、僕をバカにさせませんからね」

「何?」

「もう僕は、労働者ですからね」

「は?」

「じゃじゃ~ん」

 僕は今日もらった給料袋をママに見せた。

「おっ」

 ママが驚く。

「おっ、ついに仕事始めたんだ」 

 源さんもそれをいつもの僕の右三席隣りの席から驚いた顔で覗き見る。隣りのやっさんも少し驚いた表情で見る。

「今日は僕がおごりますよ」

 店の常連さんたちを見回しながら言った。

「おいおい、大丈夫か」

 ママが困惑気味に言う。

「強気だなぁ」

 源さんが感心したように言う。

「大丈夫ですよ。ふふふっ」

 あんなおいしい仕事を辞めるわけがない。それに毎日、取っ払いで毎日七千五百円が入ってくるのだ。

「ツケだって、すぐに全部払いますからね」

「強気だな」

 ママも言う。

「ふふふふっ」

 僕は不敵な笑みを浮かべる。これでこの町を脱出する計画も現実味を帯びてきた。

「ふっふっふっ」

 僕には輝く未来が見えていた。

「よしっ」

 そこで、急にママが気合を入れるように大きな声を出す。

「なんですか?」

 僕は驚いてママを見る。

「明日も仕事行くんだろ」

「はい」

「じゃあ、弁当作ってやるよ」

「えっ」

「お前ががんばってんだ。あたしも応援しなくちゃな」

「ママ・・」

 僕は感動した。

「明日の朝、仕事行く前に店に寄れ」

「はい」


「ふふふ~ん♪」

 次の日、僕は鼻歌交じりでまたあの事務所に向かっていた。あのハーレムのような職場。想像するだけでうきうきしてくる。そして、背負ったバックの中にママの作ってくれたお弁当が入っている。あれでやさしい人なのだ。散々バカにされ、時には頭をお玉で殴られもしたが、それも僕を思ってのことだ。今はそう思えた。

「ふふふ」

 世の中は甘かった。人生何とかなるものだ。ルンルン気分で、僕は歩いていく。

「ふふふ~ふ~ん♪」

 今日も女子たちに囲まれ、ちょろちょろっと働いて、はい、七千五百円。取っ払いだ。これを続けていけば、十万二十万などすぐだ。この町を脱出する日も近い。

 それに・・。

「ラララランド」

 ラララランドだって行けてしまう。

「朋花さん」

 あの堪らなく魅惑的で艶やかな姿態が浮かぶ。僕の興奮と高揚はマックスに達した。

「あれっ?」

 しかし、事務所に辿り着くと、なんだか雰囲気が昨日と違う。何かがおかしい。昨日と大分様子が違う。

「・・・」

 なんか男がいる。というか男ばかりだ。しかも・・、なんかみんな目つきが鋭く――、悪い感じがする。そして、ただならぬ――、なんだか殺伐とした空気が漂う。というか殺気を感じる。

「・・・」

 なんだ?どうしたことだ・・。僕は戸惑う。

 その時、ふと視線を感じ右横を見る。

「うっ」

 見ると浅黒い痩せた男が、僕に鋭い目を向け、ガンを飛ばしていた。

「な、なぜ・・?」

 なぜ、いきなり見ず知らずの僕にガンを飛ばしてくるのかまったく分からなかった。僕は戸惑う。

「なんかおかしいぞ・・」

 絶対に何かがおかしい。昨日と違い過ぎる。それに、周囲を見回しても、今日は女子が一人もいない。

「・・・」

 全員男だった。しかも、なんか怖い感じの・・。

「君、ここで働くのか?」

「えっ」

 その時、突然、横から声をかけられ、僕は横を見る。ちょっと太ったおじいさんが僕の横に立って僕を見ていた。おじいさんは、僕の顔を見て、酷く驚いた顔をしている。

「は、はい・・」

 一応返事はするが、僕は訳が分からない。なぜいきなりそんなことを訊かれるのかまったく、意味が分からなかった。

「君、マジメそうだな。大丈夫か?」

 そのおじいさんは心配そうに僕を見ている。

「はい?」

 やはり、訳が分からなかった。

 そして、そこに今日もハイエースがやって来た。それに、待っていた男たちがぞろぞろと乗り込んでいく。

「君もこれに乗るんだ」

 僕が、まごまごしていると梶原さんが後ろから声をかけてきた。

「えっ、あ、あの・・」

 見ると、さっきのじいさんがハイエースの運転席に乗り込んでいる。

「あの人はここの社長だよ」

 梶原さんが僕の目線を見て言った。

「えっ」

 あの人が社長・・。

「あの・・、昨日とは仕事が違うんですか」

 僕は梶原さんに訊いた。

「ああ、昨日の仕事は、たまたま男の方の仕事が空いてなかったからな。それで女の方の仕事が丁度人が足りなかったから、そっちに行ってもらっただけで、あんなことはめったにない」

「・・・」

 ということは・・。ものすごく嫌な予感がした。最悪な予感が、僕の全身から、この先へ行ってはいけないと警報を鳴らしていた。

 しかし、ここまで来てしまった以上、乗らずにはいられなかった。昨日ママたちに啖呵を切ってしまった手前もある。僕は、嫌な予感に怯えながらハイエースに乗り込んだ。

「・・・」

 車中の空気感だけで、なんか滅茶苦茶怖かった。絶対によい子は近寄っちゃいけない世界だった。それが乗った瞬間分かった。

「えっ?」

 その時、いきなり隣りの明らかに僕よりも年下の若い男が、僕の肩に腕を置いて寄りかかって来た。それは明らかにわざとだった。

「な、なぜ?」

 挑発するような態度だった。

「な、なぜそれが出来る。というか、なぜそれをしてくる・・」

 なぜ、あえて見知らぬ相手に対して、そんな失礼で挑発的な態度をとるのかまったく分からない。

「な、何だこいつ・・」

 さっきのガンを飛ばしてきた男といい、僕はマジで怯えた。

「・・・」

 今日はどこへ向かうのか、車は走り続ける。僕はそんな車中で身を縮めていた。肉食動物の群に草食動物が一頭紛れ込んでしまったような状態だった。本気でやばいと思った。ちょっと、不良っぽいとか、悪ぶっているとかそんなレベルではない。本気で基本的な社会常識や道徳、倫理、礼儀が通じない人たちだった。

「・・・」

 僕は愕然とする。やはり、祝い町だった。甘い世界であるはずがなかった。だが、気づいた時には、時すでに遅かった。

 そして、僕は不穏な男たちに囲まれ、どこかへと運ばれて行った。

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