表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/98

職探し

 僕は次の日、朝から勢い込んで、祝い町センターに行った。久々の祝い町センター。前回の原発労働募集以来の祝い町センターだった。そこには、今日も真っ黒に日焼けした日雇いのおっちゃんと、怪しげな手配師たちが怪しく蠢いていた。そして、その向こうの壁に求人広告が並んでいる。

 僕は、粘りつくような手配師たちの熱視線をかいくぐるようにして、その求人広告を端から順番に見ていった。何かあるはずだ。何かいい仕事が、僕にもできる仕事が、きっとあるはずだ。

「・・・」

 だが、やはり、そのほとんどが怪しげな現場仕事だった。しかもそのほとんどが解体現場の仕事だった。以前、やっさんが解体現場の仕事は絶対やめた方がいいと言っていた。滅茶苦茶危険だし、雇元がほぼヤクザ。しかも、死亡事故も多いとか言っていた・・。

「リアルに死ぬで」

 その時、やっさんは真剣な目で僕を見た。

「おっ、かんたん軽作業、現金日払い、日給七千五百円」

 その時、ほぼ、現場仕事、特に解体業の求人の並ぶ中から、それは浮かび上がるように、それは僕の前に現れた。その求人は、すべてが僕の望みに合致していた。 

「おしっ、やるぞぉ」

 僕の中に電撃のような興奮が走った。僕は早速、センターの窓口に行き、職員にその旨を伝える。するとすぐにそのマジメそうな黒縁メガネをかけた七三分けの若い職員は、その会社に電話してくれた。

「今日来れます?」

 相手方と少し話をしてから、すぐに職員の方が、受話器を耳に当てながら僕を見る。

「はい」

 僕はいつになく気合いが入っていた。

「あっ」

 しかし、僕は重要なことを忘れていた。

「あの・・、すみません。履歴書ないんですけど・・」

 僕はおずおずと言った。さすがにそれはないよな・・。自分でも情けなかった。あり得ない話だった。一社会人としてあり得ない常識のなさだった。こんなことが、一般社会で通用するはずがない。

「あの、履歴書がないみたいなんですけど」

 しかし、職員の人は、電話で訊いてくれた。

「大丈夫だそうです」

 すぐに職員が僕を見た。

「えっ」

 さすが、祝い町だった・・。


「ここだ」

 センターの事務所の人に書いてもらった地図を頼りに僕はアルバイト先の事務所に向かうと、意外とかんたんにそれは見つかった。事務所は祝い町の町内にあり、歩いて行くことができた。交通費のない僕には、神の助けだった。

「・・・」

 しかし、あらためて見るその事務所は、なんか怪しげな事務所だった。薄暗い高架下のスペースにバラックみたいにプレハブを建てただけの事務所だった。

 まあ、しかし、ここは泣く子も黙る祝い町。こんなことは当たり前の世界。こんなことにいちいち驚いていたら何もできない。そもそもこの町に住むきっかけとなった最初に訪れたあのビルだって、どう見ても怪しいとんでもないところだった。

「あの・・」

 僕は、そんな事務所の構えに怯むことなく、しかし、恐る恐る会社の扉を開ける。

「あの・・、先ほどアルバイトの件で・・電話した・・」

「ああ」

 すぐに、事務所内に一人いたおばさんが、合点し反応してくれる。そのおばさんはやさしそうな感じだった。僕はとりあえずホッとする。

「梶原さん、面接の」

 事務のおばさんが奥の部屋に声をかける。奥にもう一つ部屋があるらしい。

 事務のおばさんに呼ばれ、もそもそと、奥から出てきたのは、痩せぎすで、角刈りに近い短髪の、やはり、そちらの方っぽい感じのおっさんだった。過去に絶対に何かありそうなオーラをビンビン発している。勝手な想像だが、絶対に一回か二回は刑務所に入っていそうな感じがした。

「じゃあ、まあ、そこに座って」

 だが、話す感じはやさしそうな人だった。しかし、声はやはりそっち系の人特有のだみ声だった。僕は、勧められるまま、事務所中央に並ぶ事務机の片隅の椅子に座った。その梶原と呼ばれたおじさんは机を挟んで向かいに座る。

「うちはね、港にある倉庫とか、船の荷物の積み下ろしなんかの仕事なんだけど」

 梶原さんはいきなり仕事内容の説明に入る。色々と自分のことを訊かれると持って構えていたのにいきなり肩透かしを食らった。素性とかはどうでもいいらしい。

「そういうとこに、人を派遣しているわけ」

「派遣業ですか・・」

「うん」

 梶原さんは僕を覗き込むように見つめる。やはり、なんか目がちょっと怖い。 

「大丈夫そう?」

 そこで、梶原さんは試すように僕の顔を覗き込む。

「はい・・、大丈夫です」

 大丈夫かどうかまったく自信がなかった。だが、今の僕は止まらなかった。

「明日から来れる?」

「えっ、は、はい」

 いきなり?というか、いつの間にか採用になっていた。さすが祝い町だった。話が恐ろしく早い。

「じゃあ、朝、七時にここに来て、待ってるから」

「あ、はい・・」

 あっさりと僕の仕事は決まった。

「・・・」

 しかし、なんだかあまりにあっさりと決まり過ぎて、逆に怖かった。何か裏があるのではないだろうか。帰り道、僕はどことなく恐怖に近い不安を感じた。ここは 泣く子も黙る祝い町。どこか、外国にでも奴隷として売られてしまうのではないか。そんなことまで考えた・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ