ボランティア精神
そして午後三時、再び診察が始まり小田医院は動き出した。
僕は診察室の方を覗いた。明らかにお金を持っていなさそうな、一目でこの町の住人であろうと分かる患者たちが、百鬼夜行のように次から次にやって来る。こじんまりとさびれた小田医院は、以外に活況だった。
「これだけ患者が来れば儲かるでしょ」
僕は診察室の方を覗きながら竜二さんに言った。
「儲かるわけないだろ」
「なんでですか」
僕は竜二さんを見る。
「金とってないんだから」
「えっ、診察代とらないんですか」
「貧乏人やホームレスから金取るのか」
「・・・」
僕が逆に訊き返されてしまった。
「この人たちもですか」
僕はベッドに横になる入院患者たちを見た。
「ああ」
竜二さんは当たり前みたいに言う。
「・・・」
どうやって経営が成り立っているのだろうか・・。
「うちは小さいから六人で精一杯だけどな」
「・・・」
まだまだ受け入れたい。そんな口ぶりだった。
「・・・」
そういえば竜二さんもボランティアだった。竜二さんもどうやって生活しているのだろうか・・。
そして、夜の七時過ぎ、午後の心療も終わった。
「ふぅ~」
僕はソファに倒れ込むようにして座り込んだ。長い一日だった。本当に長い一日だった。
「お疲れ」
その時、小田さんが僕の肩をぽんと叩いた。
「ああ、どうも・・」
「よくがんばったな」
「はあ・・」
ちょっとうれしかった。
「あの・・」
「なんだ?」
「小田さんはどうして、こんな・・」
「あっ?」
「お医者さんだったらもっとこう・・」
「お金が稼げるか?」
「・・、はい・・」
昼にも訊いたが、やっぱり、そこが気になった。
「俺も昔はそんな医者だったかな。はははっ」
そこで小田さんは豪快に笑った。そして、やはり、それ以上何も語らなかった。
「どうやって生活してるんですか」
「さあな、どうやって生活してるんだろうな」
小田さんは誤魔化すようにおどけて言う。
「・・・」
「お~い、小田先生」
そこに誰かがやって来た。
「ちょっと診てくれないか」
男の人が誰かを肩に担いで連れて来た。
「どうしたんだ」
小田さんは立ち上がる。診察時間は終わっていた。しかし、そんなこと気にする風もない。
「公園に倒れていたんだ」
「なんだ治療した跡があるぞ」
小田さんが、連れてきた患者のお腹を診る。
「一回病院運ばれたんだけど、無保険だから、応急手当だけして、またここの公園に捨てて行ったんだ」
「ええっ」
僕は驚く。なんだかとんでもない話だ。しかし、小田さんたちは別段驚く風もない。
「またか」
竜二さんが言った。
「また?」
僕は竜二さんを見る。
「どうせまた、あの徳勇会病院だろ」
竜二さんが呆れたように言う。
「だろうな」
それに小田さんが答える。
「徳勇会病院?」
僕が竜二さんを見る。
「この辺じゃ悪名高い病院さ」
竜二さんが眉根を寄せ、渋い顔で言った。
「ベッドないけど、どうする」
竜二さんが小田さんを見る。
「とりあえず診察ベッドに寝かせるか」
「受け入れるんですか」
僕はさらに驚く。みんなのやり取りを聞いていると、受け入れる気満々だ。しかし、ベッドはもう満杯だし、今のままでももうケアの人が足りていない。
「他に行くとこもないだろ」
だが、小田さんは気軽に言う。
「・・・」
そして、小田医院は、もう一人入院患者が増えた・・。
「こんにちはぁ」
そこにまた誰か来た。
「また患者か?」
僕は不安というかもはや恐怖に近いものを感じて、入口を見る。
「あっ、ももちゃん」
だが、それはももちゃんだった。
「あっ、誠さん」
ももちゃんも僕を見て驚く。
「どうしたの?なんでここにももちゃんが?」
「私は、時間がある時は大学が終わった後、ここでボランティアしてるんです」
「そうだったの」
僕は驚く。
「誠さんこそなんでここにいるんですか」
「僕が引っ張って来たんだよ」
小田さんが横から笑いながら言った。
「へぇ~、誠さんもボランティア精神に目覚めたんですか」
「う~ん」
全然目覚めていない。むしろ、ますますボランティアなどしたくないと思っている。
「ももちゃんはこれから、働くの」
「はい、夜間の担当です」
「夜間?」
「はい、患者さんたちは夜だって見守りが必要でしょ」
「そうか・・、じゃあ、これから一晩ここで?」
「はい、明日の朝までです」
ももちゃんは当たり前みたいに答える。
「・・・」
やっぱり、ももちゃんはすごい子だった。なんだか本気でももちゃんのことを尊敬し始めてきた。




