ママの店に集まる子どもたち
そして、僕はやはりママの店にいた。居心地がいいというか・・、他に行く当てがないというか・・、結局、気付くと、僕はいつもママの店のカウンター正面のいつもの席に座っている。
「なんか、子どもがよく来ますよね。この店」
今日も、夜の九時近いこの時間帯に、小学生にしてはかなり太った男の子が、カウンターで一人ママの店のチキン南蛮定食をがっついている。ママの店は以前から子どもの姿をちょくちょく見る。しかも、その子たちは大概みんな一人で来ている。
「ああ、この辺の子は、色々事情があって飯食えない子が多いんだよ。だからこの店で飯食わせてんだ」
ママが言った。
「飯が食えない?」
僕は驚く。
「ああ、親がいないとか、親が仕事で忙しいとか、親がどっか行っちまって全然帰って来ないとか、親が育児放棄してとか、親が病気でとか、まあ、この辺じゃそういうのは珍しくないんだ。母子家庭も多いし」
「・・・」
飯が食えない・・。一応ちゃんとした両親がいて普通の家庭に育った僕には、俄かに信じられない世界の話だった。飯など、当たり前に用意され、当たり前に食べるものだった。もちろん飢えたことなど一度もない。
「色んな事情のある奴がいるからなこの町は」
「はあ・・、そうなんですか・・」
飯が食えない子がいるというのは、僕には衝撃的な話だった。
「ママは、お金のない子どもには無料でごはん食べさせてあげてるんですよ」
隣りから、ももちゃんが言った。
「えっ、そうなの」
「子どもが飢えるなんて最悪だろ。だから、飯だけは絶対食わせるんだ」
ママが力を込めて言った。
「ママ、カッコいいな」
僕は思わず言う。
「まあな」
ママはタバコを吸いながらドヤ顔で僕を見下ろす。
「ママってすごい人だったんですね」
僕は尊敬の眼差しでママを見た。
「今頃気付いたのか」
「はい」
「もっと早く気づけよ」
「そうでした・・」
そういえば僕も色々と助けられている。
「ん?」
その時、ふと店の右端の方に目が行った。
「あっ!」
そして、何か違和感を感じて、そこをよく見ると、いつもの席に座るセーラー服おじさんのよっちゃんの隣りに、本物のセーラー服を来た少女が座っている。
「・・・」
この店に来てだいぶ経つが、今の今まで全然気づかなかった。よっちゃんのセーラー服に見慣れていたせいで、自然とスルーしていたらしい。
「なぜ、本物のセーラー服が・・」
太った巨体のよっちゃんとの対比と、この店に全く似つかわしくないその存在に、僕はしばし茫然とその子を見つめてしまった。
「ジロジロ見るんじゃないよ」
ママがそんな僕を怒る。
「誰ですか」
僕はママを見た。
「知らないよ」
「えっ、知らないんですか」
「多分、家出少女だ」
ママは声を小さくして言った。
「家出少女?」
「そう」
ママは静かにうなずく。
「・・・」
僕は改めてその少女を見た。まだ、中学生くらいに見える。小柄で妙に肌の白いというか青白い本当にまだ幼い少女だった。
「いいんですか、こんな時間にこんなとこに一人で」
もうすでに夜の九時を回っている。
「いいんだよ」
「えっ、でも・・、家に帰った方が・・」
「行き場所がないんだよ」
「えっ、でも、親とか・・」
「その親が問題なんだ」
「えっ」
「色々と事情があるんだよ」
「なんですか。事情って」
「だからな、色々あるんだよ」
「何ですか色々って」
しつこい僕に、そこでママは渋い顔をして、タバコの煙を大きく吐き出した。
「虐待だよ」
「虐待?」
「親から虐待を受けてんだよ。だから、家出して、この町に来たんだ」
「えっ、そうなの・・」
「家出する子はそういう家の子が多いんだ」
「・・・」
「世の中には色んな子がるんだ」
「・・・」
「ママの店は深夜までやっているから、そういう子たちもいさせてあげているんですよ」
ももちゃんがまた隣りから言った。
「飯も食えるしな」
ママがつけくわえた。
「そうだったのか・・」
「そういう奴がこの町には集まって来るんだ。だから、そういうことは訊かないの。困っていたら助ける。余計なことは訊かない。それがこの町のルール」
そしてまたママはタバコを吸った。
「・・・」
この町には色んな事情を抱えた人が集まって来る。僕もその一人だった・・。そして、そんな人間たちが、なんか分からないけど、なんとかなる・・。それがこの祝い町・・。




