表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/98

インテリさんの家

「これがインテリさんのテントですか・・」

 インテリさんのテントはもはや、テントというよりは小屋、もしくは小さな家といった感じだった。段ボールやビニールシートの姿はなく、全て木造だった。屋根にはしっかりとトタンまでが乗っかっている。

「ああ、もう少し大きくもできたけど、俺は狭い方が好きなんだ。なんか落ち着くというか」

「はあ・・」

 僕は改めてインテリさんの家を見つめた。それはやはり、完全なる家だった。

「二×四だよ」

「ツーバイフォー?」

「そう、柱ではなく、面で建てるってことさ」

「面?」

「それなら、簡単に家ができる。ロフトもあるんだぜ」

「ロ、ロフト・・」

 僕の以前住んでいたボロアパートにすらなかったものだ。

「ほとんど廃材だから金もほとんどかかってない」

「すごいですね」

 僕はもう、ほとんど感動していた。

「あっ、基礎もしっかりと・・」

 地面との湿地面を見ると、しっかりとコンクリートブロックが敷かれていた。

「これは、もう家ですね・・」

 僕は感嘆のため息が出る。

「まあ、そんな立派なものじゃないけどな」

 インテリさんは謙遜する。

「いや、滅茶苦茶立派ですよ」

 自分が住んでいた段ボールハウスが、あまりに情けなく思えた。

「君が建てるっていうなら手伝うよ」

「ほんとですか」

 発する声にめっちゃ力が籠った。

「あ、ああ・・」

 僕のあまりに力の籠った返しに、インテリさんは少し困惑しながら答える。

「でも、脱出・・」

 だが、僕の心は分裂しそうに揺れていた。この町からは出たい。それは変わっていなかった。

「まあ、ゆっくり、この町に腰を据えて考えたらいいんじゃないか」

 頭を抱え悩む僕にインテリさんは気楽に言う。

「いや・・、腰を据えたら・・」

 そもそも、脱出できない。

「ところでインテリさんは働かないんですか?」

 僕は急にふと気になって顔を上げた。

「俺は株やってるからな」

「株?」

「ああ、ほら」

 インテリさんは、小屋の扉を開けた。

「あっ」

 小屋の中にパソコンが二台とモニターが複数並んでいる。

「パソコン・・、ネット出来るんですか」

「ああ」

「どっから線引っ張って来てるんですか」

 インテリさんは上を指さした。

「あっ」

 見上げると、電信柱の上から細い無数の電線が、たこ足配線というよりも、もはや絡まった毛糸のように、そこかしこにのびている。

「電気盗んでるんですか」

「ああ、この辺はみんな電気使いたい放題だぞ。アパートとか家とかも」

「それで、僕のところにも電気代の請求が全く来ないのか・・」

 今更だが、そう言えばそれが不思議だった。

「電気だけじゃないけどね」

「えっ」

 そこでにやりとインテリさんが笑う。

「あっ、それでネットが出来るのか」

「ガスも水道もだけどね」

「えっ」

「この町のアパートや家は殆ど光熱費ただ。ネット回線も使いたい放題」

「す、すごい、でも、大丈夫なんですか」

「ここは色んな前歴の人がいるからな。大工、電気工事士、土木作業員、配管工、ガス管工事なんて朝飯前よ。ああでもこの前、ガス臭くて大騒ぎになった事はあったなぁ」

 インテリさんは呑気にとんでもないことを言って一人笑う。

「いや、そういう問題じゃ・・、電力会社とか、ガス会社とか・・、怒るでしょ」

「この辺は警察もなかなか手が出せない、無法地帯みたいなもんだからな。そこは何とでもなるようになってるんだよ。その辺の詳しいことはは俺もよく知らないけど」

「・・・」

 警察が手が出せない・・。

「ところでインテリさんのパソコンはどうして盗まれないんですか?危なくないですか。こんな高価なもの」

 僕は不思議に思った。僕のパーカーが盗まれるくらいだから、こんな高価なものはひとたまりもないと思った。

「ああ、それはちゃんと話を通してあるからさ」

「話?」

「そう、しかるべきところに、しかるべき話しをね。少しお金はかかるけどな」

「・・・」

 僕の頭に、ここに来たばかりの頃にあの事務所で会ったヤクザと謎の爺さんの顔が浮かんだ。やはりここは、常人が推し量る事の出来る世界ではないようだ・・。

「・・・」

やはり、とてつもないところに僕は来てしまったと思った。

「なっ、中々ここだっていいところだろ」

「え、ええ・・、まあ」

 いいところなのか、とんでもないところなのかはかなり紙一重なところだった。

「俺なんか、最高だと思うけどな。働かなくていいしさ。一日中本読んでいられる。俺はそれだけで最高に幸せだよ」

「はあ・・」

 ももちゃんといい、インテリさんといい、頭の良い人は正直よく分からん。

「でも、僕のテント流されちゃいましたよ」

 僕は自分の置かれている現状を思い出し、途方に暮れた。とりあえずの寝る場所すらが今の僕にはない。

「とりあえず、キャンプ用のテントがあるから、それを使えばいい」

「いいんですか」

「もちろん」

 インテリさんは力強くうなずいた。

「なっ、ここにいれば困っていても何とかなるんだ。やっぱりいいとこだろ」

「はあ・・」

 しかし、この町のこの状況がそもそも僕を苦しめているような気がするのだが・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ