雨
「どうしたんですか」
インテリさんが急に空を気にしだした。
「なんか嫌な空気だな」
「えっ?」
僕も空を見上げるが、空は平和に晴れ渡っている。
「大雨になるかもしれないな」
「えっ」
僕はインテリさんを見た。
「なんかこういう生活しているとなんか妙に勘が鋭くなるんだ」
「はあ」
しかし、やはり空はきれいに晴れ渡っている。
「気を付けた方がいいぞ」
「はあ」
気を付けろと言われても・・、空はきれいに晴れ渡っているし、それに、今のこの僕の状況で、何をどう気をつけていいのかが分からない。
「あっ」
その日の夕方、突然ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
「まさかね」
それが、あれよあれよという間に、どんどん雨脚は強くなっていく。
「・・・」
辺りは完全に暗くなり、裸電球の頼りない明かりだけが狭い部屋の中で揺れていた。僕はそんな薄暗い狭い段ボールハウスの中で、次第に激しくなる雨音を一人聞いていた。
夜になると、さらに雨脚は激しくなり、段ボールハウスに当たる雨音が上からではなく横からになった。なんだか段ボールハウス自体がきしいでいるようだった。横殴りの強雨になっているらしい。僕は一抹の不安を感じた。
「あっ」
その時、僕はお尻に妙な冷たさを感じ、飛び上がった。見ると床に何十にも敷いた段ボールに水が滲みてきていた。
「ああ」
僕は更に飛び上がった。浸水はみるみる広がって来る。
「ああ、ああああ」
僕は、言葉にならない奇妙な叫びを連発しながら、浸水から狭い部屋の中を後ずさり逃げいていく。
「雨~、雨~、雨~」
僕は訳の分からない言葉を叫び、半ばパニック状態になった。
雨で壁の段ボールも無惨に溶けだし、ぐにゃぐにゃになってきた。そして当たり前に、床は水浸しになってきて、最早、部屋の中に逃げ場所はなくなった。
「うわぁ~」
僕はその逃げゆく先の流れで、外へ飛び出していた。
「・・・」
外は暴風雨だった。猛烈な雨と風が吹き荒れ、巨大な雨粒が僕の全身をあっという間に冷たく濡らしていく。
「・・・」
ふと周囲を見回すと、テント広場に生えている木々が、ありえないくらいの角度で横向きにしなっている。
「ま、マジか・・」
僕はただ茫然とするしかなかった。どうしていいのかすらが分からなかった。自分が自然災害で家を失うなど、考えてもいなかったことだった。テレビでよく見るどこか他人事だったそういうことが、いざ自分の身にふりかかってみると、それはまったく現実感のない、やはり他人事だった。
「・・・」
僕はただその場に突っ立ち、雨に濡れ、暴風に吹きすさぶられた。
僕の苦心の作の段ボールハウスは雨でぐにゃぐにゃになって、溶けたカステラのように変形していた。それを情けの欠片もなく、強風が更に追い打ちをかけ、破壊してゆく。
「・・・」
そして、段ボールハウスは押しつぶれ、強風で引きちぎられ、次々とどこか彼方へと飛ばされていった。
そして、最後に残っていた段ボールの残骸も全て強風によって、どこかへ吹っ飛んでいった。
「・・・」
僕はやはりその場に立ち尽くすしかなかった。
「ど、どうしたんだ!」
その日の朝、インテリさんが青白い顔で茫然と立ち尽くす僕を見つけ、その姿に驚いて目を剥いた。
「・・・」
僕はそんなインテリさんを生気のない目で見返した。僕は寒さに震え、ボロボロの体でテント広場の片隅の木の下に立ち尽くしていた。
「ど、どうした?」
「・・・」
僕は言葉を発する気力すら失っていた。




