祝い町センター
「ラララランド、ラララランド」
お金を貯めてラララランドへ行く。僕は新しい目標に燃えていた。
「ラララランド、ラララランドだ。そこに天国がある。そこにこそ天国がある」
僕の頭の中には、まだ見ぬ朋花さんの姿態が、痺れる程の熱い興奮と共にぐるぐると回っていた。
「しかし・・」
どうやって、お金を稼げばいいのだろうか。あの以前、山奥に連れていかれた過酷で低賃金で、奴隷労働は絶対嫌だった。
「あれは嫌だ」
あれだけは絶対嫌だった。しかし・・、今の僕にはまともなバイトなど見つかるわけもない。何と言っても住所が無いのだ。僕は再び分厚い鉄壁の壁にぶつかった。
「おっ、どうした。青年。悩み事か」
「あっ、熊さん」
熊さんだった。あのどこか少年のような大きな目が、好奇心に満ちた輝きを持って僕を見つめていた。
「青年がそんな暗い顔しちょったらいかんぞ」
「はあ」
「悩みがあったらわしに言うてみい。聞いちゃるぞ」
「はあ・・」
熊さんは、そのまったく悩みのなさそうな明るい顔で僕の顔を覗き込む。
「・・・」
その屈託ない子どものような顔に、僕の悩みを解決できる可能性をまったく感じなかったが、僕はでも、少しためらいがちだったが、思い切って悩みを相談してみることにした。
「あのぉ・・」
「なんじゃ」
「新境地っていくらくらいなんですかね・・」
「はっ?」
熊さんは、鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。
「あの遊ぶのに・・」
「ああ」
熊さんはそこで僕の言わんとしていることを何とか理解してくれた。
「新境地か、わしも昔はよう通ったな。なつかしいのぉ。あの時のあの子はどうしちょるかのぉ」
「あの・・、いくら・・」
「おお、そうじゃったな。まあ、相場は二、三万かのぉ、しかし、当然人気のある女になると値段は上がる。そうなると五万・・、う~ん、六万くらいかのぉ」
「六万!」
僕にとってかつての六百万くらいの果てしなさがあった。
「・・・」
あれだけの美人だ。朋花さんは絶対人気者に違いない。
「六万・・」
僕のさっきまでの燃えたぎる未来が、一気に真っ暗になった。
「なんやどうしたんじゃ」
「はあ・・」
「全部わしに吐き出してみい」
熊さんは頼もしく言う。
「・・・」
そんな熊さんにあてられ、僕は思い切って言ってみた。
「はあ・・、仕事なんですが・・」
「仕事?」
「はい、仕事ないですかね。ホームレスでも出来る。仕事・・、ないですよね。そんなの」
こんなこと、熊さんに訊いてもしょうがないなとは思ったが、とりあえず訊いてみた。
「それなら、祝い町センターに行ったらええ」
「祝い町センター?」
以外にすぐに答えが返ってきた。
「そうじゃ、この町の中心に、日雇いの仕事を斡旋してる場所があるんや。まあ、いわゆる職安みたいなとこやな。そこ行ったらいくらでも仕事見つかるで」
「えっ、そんなところがあったんですか」
「ああ、この町は日雇い労働者が多いきのぉ。そういうのを斡旋しているのをまとめてるところがあるんや」
僕は、熊さんにお礼を言うのも忘れ、もう、そこへ向かって走っていた。場所も聞かずに・・。
「あ、おいっ」
熊さんの声を背中に聞きながら、僕は何も考えず、全力で町の中心に向かって走って走って走りまくった。
「あれだ」
だだっ広い屋根付きの駐車場みたいな空間が見えた。そこには何やらおっさんたちが蠢いている。多分あそこに間違いない。僕はその中に入って行った。
「あった」
確かに、その敷地内の壁一面に何やら求人広告らしい紙が数えきれないほど貼られている。僕は興奮しながらそれを端から見て行った。
ほとんどが低賃金の肉体労働だった。しかし、それでも仕事があること自体に僕は興奮した。
大体日当は一万円ぐらい。そこから、寮費や食事代を三千円から四千円引かれるといった感じの求人がメインだった。仕事は解体や清掃、土木、建築といったものがほとんどだった。
「あっ、これすごい」
日当二万円。寮、食事代込み。
「これなら・・」
これならすぐに六万円くらい貯まる。いや、六万どころじゃない。数か月働けば、十万、二十万・・、いや、三十万、四十万も夢じゃない。
「ラララランド」
僕は朋花さんのあの、タイトな服の下から溢れ出るエロチックな姿態が浮かんで、下半身が熱くなった。
「それにこの町からも脱出できる」
更に夢は広がった。それだけ稼げばこの町から脱出しても更におつりがくる。 僕は興奮してその求人紙を何度も何度も上から下、下から上へと読んだ。確かに間違いない。日当二万円。寮費も食事代も込みだ。
現場は東北の田舎町だった。
「原発・・?」
何をするのかは書いていなかった。
「一日の実働、二、三時間」
夢のような言葉が並んでいる。
「本当なのか」
しかし、ここまで来ると、さすがに怪しさを感じた。しかし、僕は日当二万に興奮していて、そんな不安はすぐにどこかにかき消えた。僕の頭はただ興奮に渦巻き、自分の明るい未来に、南国の花々が満開に咲き誇っていた。
「お兄さん、仕事探してんの?」
その時、背後から突然声がした。振り向くと、前回、僕に仕事を紹介した男に似た、怪しげなおっさんが怪しげな笑顔を口元に浮かべ立っていた。
「いい仕事あるよ。お兄さん」
言う事も同じだ。
「ま、まあ」
そして、おっさんは僕に近づいてきた。
「お兄さんみたいに若くて元気だったら、いくらでもいいお仕事あるよ」
おっさんは、僕の顔を覗き込む。
「楽に稼げる仕事があるだ。どう、やってみる気ない?」
「は、はあ」
さすがに前回のことがあるので、おっさんの言葉をそのままうのみにすることはなかった。
「あんちゃん、仕事探してるんか」
おっさんにまごついていると、今度は、横からまた別のおっさんが話しかけてきた。若い僕は、モテモテだった。嫌なモテ方だったが・・。
「おっ、これ見てたんか。原発か。原発は稼げるで兄ちゃん」
次に来たおっさんは目ざとく、僕の見ていた求人紙を見つけた。
「は、はあ」
「原発はいいいで。こんないい仕事はあらへん」
「どんな仕事なんですか」
「ああ、かんたんかんたん。誰にでもできる単純労働や。しかもちょっと働いて終わり。後は寮に帰って好きにしたらええ」
「・・・」
そんなおいしい仕事があるのか。僕は訝しんだが、やはり心は魅かれていた。
「一日一時間か二時間や。三十分の時もある。それで日当二万やで。これはやらない手はないで。急がなすぐなくなってまうで」
「やります」
僕は即答していた。
僕の頭の中でラララランドが、ぐるぐるとメリーゴーランドみたいに華やかに回っていた。




