ラララランド
「なんか元気ねぇな」
「はあ」
僕は今日もママの店にいた。
「お前、神様がどうとか燃えてたじゃねぇか」
「はあ」
さゆちゃんの問題は、ももちゃんへと移行してしまい、僕の出番は完全に無くなっていた。
そして、さらに、僕にとって幸か不幸か、さゆちゃんは夜間中学に行けることになり、昼間教会で会うことが殆どなくなっていた。夜間中学は数が少なく、そのため祝い町から遠く、その名の通り夜に授業が行われるため、勉強と通学が忙しく、さゆちゃんは昼間の教会での活動の時間がとれなくなっていた。だから必然的に教会に来ることも少なく、したがって僕と会う機会も殆どなくなっていた。
「・・・」
さゆちゃんの夢が叶ったことはうれしいのだが、さゆちゃんと会えなくなったことは、僕にとってとても辛いことだった。だから、ここ最近、僕はまた無為で虚しい日々を送っていた。
「・・・」
当然、さゆちゃんに会えない教会など、僕にとってなんの価値もない。だから自然と足は遠のいていた。
「神に目覚めたんなら、牧師目指すとかって道もあるぞ」
「はあ・・」
正直、さゆちゃんの存在が遠のき、僕は神様などどうでもよくなっていた。
「は~い、ママ」
その時、店の開き戸が勢いよく開いた。
「おっ、久しぶりじゃねぇか」
振り返ると、なんとも色っぽい女性が立っている。
「ここいいかしら」
「えっ」
女性は僕を見ている。
「あ、はい」
その女性は僕のすぐ隣りに座った。他の席がいっぱい空いているのに・・。
「久しぶりだわぁ」
女性から何とも言えない良い香りが、僕の方に流れて来た。
「仕事忙しいのか」
「うん」
目鼻立ちのはっきりとした、鼻の高い、女優さんのような顔立ちだった。
「こらこら、見とれるんじゃない」
ママが僕を睨む。僕は慌てて目を反らした。
「ふふふっ」
女性は、そんな僕を見て笑っていた。
「仕事終わったのか」
「うん」
「仕事?」
僕が女性を見る。こんな美人の女性がなんの仕事をしているのだろうか。
「うちの店にもいらしてね」
「えっ」
すると女性は僕に名刺を差し出した。名刺には、ラララランド・朋花と書かれていた。
「ラララランド?」
僕にはこれが何の店か分からなかった。
「コラ、うちの店で営業するじゃないよ。それにこいつは金ねぇよ」
ママが言った。
「金?」
僕は朋花さんを見る。
「これどこですか?」
「新境地」
「新境地!」
「声でかいよ」
ママが言った。
「でも・・」
僕は声が詰まった。新境地とは、健全な男子なら全国津々浦々みんな知っている、祝い町の隣りに隣接している全国的に超有名な風俗街だった。というか歴史的色町だった。
「えっ、ということは」
僕は朋花さんを改めて見た。というか、めっちゃ凝視してしまった。露骨な男の目で。しかし、朋花さんは艶っぽい目で、そんな僕を挑発するように見返してくる。
「こ、こんなきれいな人が!」
僕は驚きと興奮で目と心臓が飛び出しそうになった。
「まあ、嬉しい。ありがとう」
朋花さんは、大仰に喜ぶと、僕の顔をその大きな目で試すように見つめた。
「・・・、ということは・・、あの・・」
「妄想するな妄想を」
ママが顔をしかめて僕を見る。朋花さんは、いたずらっぽい表情をして笑っている。その笑いが何とも言えず、また男の興奮を誘う。
「そういうことですよね」
「何興奮してんだよ」
これが興奮せずにいられようか。僕は思わず明美さんの体を上から下へと、そして、再び下から上へと舐めるように見てしまった。ぴたりと体のラインにそう派手な赤い花柄のシャツにそびえ立つ大きな形のいい胸。その下の何とも言えないくびれのライン。さらにその下の椅子に沈み込むタイトなスカートにくるまれた丸い大きなお尻。
「こら、じろじろ見るんじゃない」
ママが怒って、お玉を僕の頭に振った。
「うをっ」
しかし、僕はそれを寸でのところでよけた。ママの攻撃にも、僕はだんだん慣れてきていた。
「こいつ、だんだん抵抗力を身に着けて来たな」
「でも、こんなきれいな人が・・」
あんなことやこんなことを・・、
「よだれが出てるぞ」
「信じられない」
僕は改めてマジマジと朋花さんを見つめた。しかし、朋花さんは、まったく怯むことなく、何とも言えない魅惑的な目で呆けた顔のバカ面な僕を見返し笑っている。
「気をつけろよ。こいつは惚れっぽいぞ」
「どんどん惚れて」
朋花さんは、なんとも言えない色っぽい目で明るく言う。
「こらこら、青少年をからかうんじゃないよ。お前も気をつけろよ。女に狂って破滅する奴も多いんだからな」
「・・・」
僕は破滅してもいいと心底思った。
「破滅・・、したい・・」
だが、僕は破滅するための基本的なお金すらがなかった。
「まったく、青少年を悪い道に誘惑するんじゃないよ」
「ふふふっ、あらっ、悪い道ってことはないでしょ。ママだって昔はさんざん男を泣かしてきたんじゃない」
「あたしのは全部本気だったからね」
「はははっ、そうなんだ」
「あたしはいつも全力全霊だから。あたしの全てを捧げるから」
「そうなんだ。いいなぁ。ママの彼氏が羨ましいわ。私もママの彼氏みたいに愛されてみたいわ」
そう言って、朋花さんは意味ありげに僕を見た。それだけで、僕の脳天は一瞬で、今までに経験したことのない痺れるような興奮で沸騰し、噴火した。
「絶対行きます。絶対行きます。ラララランド」
僕は座っていた椅子を吹っ飛ばし、立ち上がっていた。
「お前神様はどこ行ったんだよ」
ママが呆れ顔で言った。
「天国はラララランドにこそあります。教会じゃない」
「お前は・・、まったく・・」
ママは腕を組み、もう知らんわといった顔で完全に呆れていた。
「絶対行きます」
僕は絶叫に近い声で朋花さんに叫んでいた。朋花さんは、そんな僕を見てまた意味ありげに笑っていた。




