生い立ち
「私・・」
小百合ちゃんは、言い難そうに口を開いた。
「私は、里子なんです」
「えっ、里子?」
「はい・・」
小百合ちゃんは、そこで伏し目がちに視線を落とした。
「そうだったのか・・」
そんな複雑な事情があったのか。
「でも、里子ってことは・・」
ということは、あの強烈なおばさんとは血は繋がっていないのか・・。良かった。
「良かった」
僕は、ほっとした。
「えっ?」
小百合ちゃんが顔を上げる。
「い、いや、な、なんでもない」
「私・・、孤児なんです」
「孤児・・」
「私はこの教会の前に、捨てられていたんです。新聞紙にくるまれて・・」
「新聞紙・・」
「それを、牧師様がここまで育ててくれたんです」
「そうだったのか・・」
そんな悲しい生い立ちがあったなんて・・。
「だから・・」
そうか、それで全然似ていなかったのか・・。なんだか悪いことを言ってしまった気がして、僕は激しい自己嫌悪に陥った。
「私・・」
小百合ちゃんは、悲しそうに俯いた。
「ごめん・・、なんか・・」
「いいんです」
そう言いながらも、小百合ちゃんは何とも言えない悲しそうな表情で僕を見る。
「・・・」
軽薄な人生を歩んできた僕には、彼女のその苦しみを推し量ることすらが出来なかった。
「お父さんとかお母さんの手がかりとか何もないの」
「はい、手紙も何もなくて・・」
「そうなのか・・、全く分からないんだね」
「はい、どこの誰かも全く分からないんです」
「そうか・・」
しかし、僕にはどうしてやることもできない。自分の無力さに情けなくなった。でも彼女の力になってあげたい。それは強く思った。
「僕に力になれることがあったら、なんでもするよ」
僕は力強く言った。そんな僕を小百合ちゃんが見上げる。
「なんでも言ってよ。僕にできることならなんでもするから」
「はい」
小百合ちゃんは、嬉しそうにそう言った。
「ほんと、なんでも言って、僕にできることならなんでもするよ」
僕は、対して力もなく、自分が助けを必要とするホームレスであることも完全に忘れて言った。
「ありがとうございます。やさしいんですね」
小百合ちゃんは、笑顔になった。それが僕は嬉しくて更に熱くなった。
「何かない?今困っていること。僕は君の力になりたいんだ」
「・・・」
小百合ちゃんは、黙っていたが、何かあるような表情だった。
「なんでもいいんだ。僕は君の力になりたいんだよ」
「私・・」
「うん」
「私・・」
小百合ちゃんは、恥ずかしそうにうつむく。
「なんでもいいんだよ。言って」
「笑わないでくださいね」
「うん」
「ほんとですよ」
「うん、絶対笑わないよ」
「・・・」
それでも、小百合ちゃんはしばらく、言い淀んでいた。
「私・・」
「うん」
「私・・」




