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焼きそば

「はい、おまたせ」

 目の前のバカでかい鉄板で焼かれた出来立ての焼きそばが、ジュウジュウとまだ音を立てて、僕の目の前に置かれた。

「・・・」

 それは心なしか輝いているように見えた。僕はそれをゆっくりと口に入れた。

「う、うまい」

 確かにうまかった。ママを見ると、勝ち誇ったように僕を見ている。

「うまいです。ママ」

「当たり前よ」

 ママの焼きそばは本当にうまかった。香り立つ青のりの下のソースの深みのある甘さとうま味とコク、それが絶妙な固さに焼かれた甘くもちもちとした麺に絡まり、たまらない快感を脳天に突き上げる。それは感動的ですらあった。

「うまい」

 僕は夢中で食べた。

「青年うまいか」

 やっさんがにこやかに僕を見る。

「はい、うまいです」

「みんなこの店の焼きそばに感動して、この店に通ってしまうんだ」

 やっさんの言ってることが大げさではないことは、この味で分かった。それほどに、ママの焼きそばは特別にうまかった。

 その時、店の開き戸が、カラカラと軽い音を立てた。

「あらっ、いらっしゃい」

「ひさしぶり~、ママ元気だったぁ~」

「あっ」

 店に入って来たのは、年は二十六、七くらいだろうか。丸顔が特徴の、パッと見て驚くほどの目鼻立ちの整った美しい女性だった。僕は、そのあまりの美しさに、口に入れた焼きそばを咀嚼するのも忘れ、茫然とその女性に見惚れた。

「で、でかい」

 しかも、僕のすぐ隣りで突き出ているみんみさんの胸はとてつもなくでかかった。

「ほんとお久しぶりねぇ。みんみちゃん」

 ママが少し嫌味っぽく言った。

「ごめ~ん、何かと忙しくてさ」

 みんみさんは、両手を合わせ謝るしぐさをしながら、それに明るく答える。どうも二人は相当仲が良いらしい。

「おいっ、口からキャベツがこぼれてるぞ」

 やっさんの声さえも、どこか遠くで聞こえていた。

 ガンッ

「いたっ」

「コラッ、人の胸をじろじろ見るんじゃない」

 また、ママのお玉が飛んできた。

「でも、胸・・・、でかい・・」

 みんみさんの胸は、見れば見るほどとてもつもなく大きかった。

「ふふふっ」

 みんみさんはそんな僕をおかしそうに見つめ笑っていた。その笑顔がまたたまらなくかわいかった。

 みんみさんはその胸の大きさに似合わない幼い丸い顔に合わせるように、下の方でツインテールに結んでいたセミロングの美しい黒髪を僕の方に向け、僕の席から一個空けた隣りの席に座った。

「・・・」

 席に座ったみんみさんを僕はなおも見つめ続けていた。見れば見るほど美しく、そして胸はでかかった。

 その時、再び入り口の開き戸がカラカラと鳴った。

「あらっ、一緒だったの」

 ママが声をかける。

「やあ、久しぶり」

 入って来たのは、少し気品の滲み出る初老と言ってもいい年配の痩せた男性だった。その男性はきれいに整えられたふさふさの口髭の下から、やさしそうな軽い笑みをママに向けると、僕とは反対側のみんみさんの隣りの席に座った。どうも二人は知り合いらしかった。

「どんな関係なんだ・・」

 僕はそこがものすごく気になった。

「うっ」 

 その時、なんだかじめーっとした視線を感じてふとその方を見ると、よっちゃんがじとーっと、みんみさんたちを見つめる僕をなんともいえない恨めしい目で見つめていた。

「気に入ったんだよ」

 やっさんが言った。

「えっ」

「君は気に入られたんだよ」

「そ、そうなんですか・・」

 見るとよっちゃんは、まだ僕をじとーっとそのなんとも言えない目で見つめていた。

「・・・」

 僕は背筋に何か堪らなく薄ら寒いものを感じた。

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