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ママのいる焼きそば店

「青年、時間あるか」

「はあ」

 もう日は完全に落ち、真っ暗な祝い町にやっと帰りつき、くたくたになってトラックの荷台から降りた時だった。

「ちょっと飲み行かんか」

「はあ」

 やっさんについて行った先にあったのは、小汚い一軒の食堂兼飲み屋といった佇まいの小さな店だった。そこは祝い町と外の街との境界線のような繁華街の中ほどの、商店街の並びの中ほどの角にあった。

 やっさんが入口のガラス戸を開けると、カラカラと軽い音と共に入口にかけられているバカでかい暖簾が揺れた。

「やあっ」

 やっさんが暖簾をくぐると、カウンターの向こうに片手を上げた。この店の常連なのだろう。

「あらぁ、久しぶりじゃな~い」

 カウンターの向こうからはやたらと野太い声の女言葉が聞こえてきた。その後から、僕もやっさんに続き、暖簾をくぐった。ふと見ると、入口のガラス扉は下側が割れてガムテープでとめてあった。

「・・・」

 店に入ると僕は顔を上げ、カウンターの向こうの、さっきの野太い声の主を見た。

「!」

 カウンターにつながるように設置してあるバカでかい鉄板の向こうに立っていたのは、妙に肌のきれいなおっさんだった。それ以外には誰もいない。

「ママ、元気だった?」

 やっさんがその独特の愛嬌の良さで声を掛ける。

「元気じゃないわよ。もう、いろいろ大変よ。まったく。碌な事ありゃしない」

「ママ?」

 僕の頭の上に、でっかいはてなマークが浮かんだ。どこをどう見ても目の前にいるのは紛れもなく見まごう事なきおっさんだった。

「・・・」

 やっさんは、そんなことお構いなしに、おっさんの立つバカでかい鉄板を右側からL字型に囲むように並ぶカウンター席の、ママと呼ばれたおっさんと向き合うように正面の真ん中あたりに座った。僕も、ママと呼ばれたおっさんに戸惑いながらもその隣りに座った。店は十席ほどのカウンターだけの狭い小さな店だった。

 席に座った僕は、ママと呼ばれたおっさんを改めて見つめた。やはりそれはおっさんだった。

「・・・」

 どうなっているんだ。

「ほんと、久しぶりじゃな~い。だめよ。もっと来てくれなくちゃ。寂しいじゃない」

「はははっ、わしでも寂しがってくれるんかい」

「当り前よ」

 混乱する僕をしり目に、やっさんとママと呼ばれたおっさんは、全くなんの問題もないかのように会話に花を咲かせていく。

「・・・」

 その時、僕はふと右のL字に曲がったカウンター席の角の方を何の気なしに見た。

「!」

 その奥に、なぜか紺色のセイラ―服が見えた。

「セイラ―服?」

 なぜ、こんな時間にこんな場所にセーラー服?しかも何か変だ。と思ってよく見るとそれはおっさんだった。セイラ―服を着たおっさんがカウンターの隅で普通にビールを飲んでいた。

「・・・」

 僕はあまりのことに言葉を失い、そのおっさんを呆然と見つめた。

 ガンッ

「痛ぁ」

 その時、カウンターの向こうから、突然お玉で殴られた。

「コラッ、ジロジロ見るんじゃない」

 ママと呼ばれていたおっさんだった。

「で、でも・・、なんかいますよ」

 僕はセーラー服のおっさんを指差して言った。

 ガンッ

「いたぁ」

「指を差すんじゃない」

 また殴られた。

「よっちゃんだよ」

「よっちゃん?」

 僕は隣りのやっさんを見た。

「彼はあの格好でみんなを喜ばせようとしているのよ」

 ママと呼ばれていたおっさんが言った。

「喜ばせようとしているんですか・・」

 僕はよっちゃんをマジマジと見た。よっちゃんは、つまみを食べる手を止め、そんな僕を見てにっこりと笑った。

「・・・」

 その笑顔はあまりに純粋で、それであるがゆえに何とも言えず、不気味だった。

「・・そうだったんですか。僕はてっきりただの変態かと・・」

 ガンッ

「いったぁ」

 また、お玉が飛んで来た。

「彼はとても良い子だよ」

 やっさんが言った。

「そう、とても良い子よ」

 ママと呼ばれていたおっさんも言った。

「はあ・・」

 僕はもう一度、よっちゃんを見た。よっちゃんはまだそのなんとも言えない純粋無垢な笑顔で僕を見つめていた。

「・・・」

 ママと呼ばれているこの目の前に立つおっさんのこともまだ解決していないこの店の状況に、僕はただ混乱し、呆然とした。

「この店はいったい・・」

 僕はとんでもないところに来てしまった気がした。

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