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やっさん

 トラックは街を抜け、郊外を抜け、田舎道を抜け、遂に山の中に入って行った。そして、そのまま止まることなく奥へ奥へと走り続けて行く。

「・・・」

 どこか山奥の施設に軟禁。奴隷労働。僕の頭の中には、そんな光景が浮かんでは消えた。

 しかし、ここまで来てはどうすることもできない。そして、周囲を取り囲むのは、何とも言えない人生のオーラを滲みだしたおっさんばかりだ。

「おう、兄ちゃんこの仕事始めてか」

 その時、突然真横から話しかけられた。僕が横を向くと、すぐ隣りに座る丸顔短髪のおっさんが人懐っこい笑顔で僕を見ていた。

「は、はい」

 僕はおずおずと答えた。

「この仕事はきついが、金にはなるぞ」

「ど、どんな仕事なんですか」

「なんや、なんも聞いてへんのか」

「はい」

「そうか」

「どんな仕事なんですか」

「まあ、行ったら分かるわ」

 なんだそりゃと、僕はずっこけそうになったが、何となく愛嬌のあるこのおじさんに不思議と親しみを感じた。

「ところで、青年は学生さんか」

「えっ、はあ、まあ、でも違うと言えば違うんですが・・」

 僕は大学を辞めるつもりだったのだが、親が猛反対し、とりあえず休学扱いで今でも籍だけはあった。大学には行かなくなって、もうかれこれ三年が経つのだが、未だにそのままになっていた。

「そうか、ええなぁ。青春真っ盛りやな」

「い、いえ、そんなことは・・」

 僕に世間一般の青春があったのかどうか疑問だった。しかも、僕はその青春真っ盛りであるはずのその大切な時期にホームレスになっている・・。

「わしはやっさん」

 おじさんは独特の愛嬌のある笑顔を僕に向けた。

「あっ、僕は・・」

「ああっ、ええ、ええ、名乗らんでも、ここはそういうとこや。わしはやっさん。君は青年。それでええ」

「はあ」

 その時、唐突にトラックが止まった。

「さあ、着いたで」

 やっさんがやれやれと言った調子で立ち上がった。それと同時に、荷台に乗っていたその他のおっさんたちもおもむろに立ち上がり、荷台からぞろぞろと降り出した。

 僕もそれに倣い、立ち上がり荷台を降りた。


「・・・」

 荷台から降りたそこは、山奥の道路の途中だった。そこには当然道路と山以外何もない。

「・・・」

 僕は隣りに立つやっさんを見た。やっさんは、道路脇の崖を見上げている。僕もそれを見上げた。

「・・・」

 それは今にも崩れ落ちてきそうな断崖絶壁だった。

「なんか崩れてきそうですね・・」

 僕は崖の上を見上げた。

「まあ、崩れそうやから補強するわけやから」

「補強?」

 僕は再びやっさんを見た。

「そうや」

「・・・」

 僕は再び崖を見上げた。その時、なんとなく自分がこれからする仕事の内容が分かった気がした。


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