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スカウト

「やっぱり仕事だ。仕事を探さなければ」

 僕はインテリさんと別れた後、町を彷徨うように一人歩きながら決意を新たに再び仕事について考えていた。

「でも、仕事以前に仕事を探すためのお金がない。履歴書も買えない。そもそも履歴書を書くためのボールペン一本さえ持っていない・・」

 しかし、考えれば考えるほど、僕は改めて今の自分の現状に暗澹とした。 

「どうすりゃいいんだ。俺ぇ~」

 その時だった。

「兄ちゃん仕事ほしいんか」

 ふいに背後から話しかけられ振り向くと、見るからに怪しげなおっさんが立っていた。身なりは普通なのだが、絶対堅気の世界に生きていないなと感じさせる何かがあった。

「ええ仕事あるで」

 なんで関西弁なんだ?っというかなぜ僕が仕事を探していることが分かったんだ?と不思議に思いつつ、僕はそのおっさんを見つめた。

「稼げるで、兄ちゃん」

 普段なら絶対に関わってはいけないオーラ満載のこんなおっさんなど確実に無視するのだが、稼げるという生々しいキーワードに僕は立ち止ってしまっていた。

「ほんまにええ仕事や」

 おっさんは、その濁った目をむき出して僕を覗き込むように見た。

「い、いえ、結構です」

 しかし、やはりその男の怪しさに怖くなり、僕は再び背を向け歩き出した。

「取っ払いやで」

 素早く立ち去ろうとした僕の背後におっさんが言った。僕はそこで再びぴくっと反応し、立ち止まってしまった。とりあえずの現金は今喉から手が出るほど欲しい。それに金を貯めて一刻も早くここから脱出したい。

「こんな仕事めったにないで。あんちゃん運がいいわ」

 それを見透かしたのかおっさんは畳みかけてくる。

「これを逃したら後悔するで」

「履歴書ありませんから」

 僕は言った。

「そんなもんいらん。その健康な体と若さがあれば十分や」

「!」

 今何と言った?

「履歴書なんかいらん。そんなめんどくさいもん。全然いらんで。わしはあんさんを信用しとる。目を見たら分かるんや。あんたはいい目をしとる」

 口だけだと分かっていながら、そう言われるとやはり嬉しかった。

「ほんまいい仕事や兄ちゃん。裏切らんでわしは」

 誘い慣れている感じのおっさんは、脈ありとみたのだろう、どんどん僕の懐に入ってくる。

「ほんまいい仕事や。なっ、楽で現金取っ払い。なっ、これを見逃したらもう仕事あらへんで。なっ、明日、ここで待っとき、迎えに来るさかい」

 おっさんは渾身のやさしさを滲みだして言う。しかし、そのやさしい表情が、更に怪しさを醸していた。だが、履歴書もいらない、取っ払い、僕はもう完全におっさんの術中にはまっていた。

「朝六時や。待っとるんやで」

 去っていく道すがら、遠くの方でもう一回振り返り、おっさんは僕に向かって手を上げ、念を押した。

 おっさんが去って再び歩き出した僕は、明らかに怪しげなスカウトに、どうしようか真剣に悩んだが、今の自分に選択の余地は無かった。

「まあ、騙されてもともと。今の俺に失うものはない」

 僕はそう開き直った。


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