すべての始まりの終わり
バリバリ、ガキガキ、バキッ、
崩れゆく木造アパートを僕は茫然と見上げた。
「僕の部屋が・・、壊されている・・」
いったい僕の身に何が起こっているのか・・。
そこに大家さんが現れた。白髪頭を短髪にした小柄なじいさんだ。九十歳の母親と二人暮らし、結婚歴はなしという。
「あの・・、僕の部屋・・」
「連絡してたでしょう。取り壊すって。何か月も前から」
「えっ!」
「何回もお知らせの手紙入れたし、貼り紙もしてたでしょ」
全然見ていなかった。
「あの、荷物」
「あああぁ、もうだめだよ。あそこまで壊されちゃったんだから。だから何か月も前から・・」
じいさんは大げさに顔をしかめると大きな声を出して言った。その時、最後まで残っていた、アパートの外枠の柱と外壁がガラガラと大きな音を立て崩れた。
「あの、僕、どこへ行けば・・」
「知らないよ」
「あの、行くとこないんですけど」
「だから、知らないよ」
「あの・・」
「祝い町にでも行けば」
大家さんは冷たくそう言って、僕ん位背を向けると、さっさとどこかへ行ってしまった。
「祝い町・・」
ホームレスがたくさんいるというこの地域では超メジャーな場所だ。そして、よい子は絶対に近寄ってはいけない場所としても超、超有名な場所だった。
僕は歩きながら今日一日に自分に起こったことを回想していた。
「内装部門、儲からないからやめることにしたんだ。誠君、悪いけど辞めてくれる?」
朝、職場に着いたなり、いきなり社長に肩をポンと叩かれ僕は仕事を失った。
「ごめんね」
もらったのは社長のこの一言だけだった。
仕事の予定がなくなったので、彼女の家に寄った。
「はい?」
出てきたのは、見たこともないロン毛の若い男だった。
「ごめんね」
その後ろで彼女が顔だけ覗かせて手を合わせた。そしてドアは閉まった。
「・・・」
僕は、しばらくその場に呆然としたまま立ち尽くしていた。
そして、家に帰ってみると、アパートがなくなっていた。アパートと同時に、全財産も失った。家財道具一式から、思い出のあれやこれもみんな・・。
確か今日はいつもの朝だったはず・・。それが何で僕はすべてを失い、一人あてどもなくふらふらと街を歩いているのだろうか。NHKの受信料は払っていなかったが、今までそんなに悪いことはしていないはず。なぜ、突然自分がこんな目に合わなければならないのか。まったく理解不能で訳が分からなかった。
「こんなことってあるのか・・」
今目の前で実際に起こったことなのに、この現実が信じられなかった。こんな漫画みたいなこと・・、ほんとに、こんなことがあるのか・・。
「いったい、どこへ行ったらいいんだ・・」
僕は今自分が置かれている現状がまだうまく呑み込めないまま、多分、他人から見たら、夢遊病者と思うに違いない朦朧状態で、ふらふらと街をあてどもなく彷徨っていた。そのくらい僕は地に足がつかず、まったく心ここにあらずだった。