プロローグ3
また説明ばっかやん。
すいません。
俺は、昨日ローリン先生に言われたとおりに冒険者として登録しようと王都の中を歩いていた。手には、朝起きて、寮を出ようとしたときに寮の先生に渡されたローリン先生の紹介状。
王都は大きかった。美しいとは言えないが雑多な景色から活気と騒々しさが如実に伝わってきた。王都の大通りには出店がずらりと並んでいた。そんな活気の中に包まれていると、自分まで楽しいような気持になるから不思議である。
活気の中、お金もないのでつまみ食いをするわけにもいかずに歩いていくと、ギルドと看板に書かれた大きな建物があった。大柄な男から小柄な女性まで多種多様な人々が出入りする建物は、ドアが開くたびに中の喧騒を少し離れた場所にいる俺へと届けた。
俺は思い切って、出入り口へと歩みを進めた。中に入った俺に目を向ける者もいたが、俺を一瞥するとすぐに興味なさげに手元へと目線を落とす人物が多くいた。俺は、受付の前に立ち、受付嬢へと声をかけた。
「申し訳ないのだが、冒険者として登録したいのですが、それは此方で出来ますか?」
「はい。登録には銀貨1枚が必要ですが大丈夫ですか?」
俺は、思ったよりも安い金額にびっくりしたが、はっきりと伝わるように頷く。
「では、少しシステムについて説明させて頂きます。
まずは、ランクについてです。ランクはGランクから始まりまして最高がSSSランクになります。ただ、SSSランクともなりますと世界に一名しかいません。一般的に冒険者として認められるのがDランクからになります。なので、GランクからEランクまでは見習いと言われることが多いです。また、受けられる仕事も雑用ばかりになります。
ランクアップについてですが、自分のランクの依頼を10回以上受けていただき、依頼達成時に不備などがなければ、こちらからランクアップのお誘いをさせていただきます。ですので、依頼を10回以上受けているのに、声がかからない場合は此方としてランクアップに値しないと判断しているということになります。
次は依頼についてです。依頼は、一般の方から貴族まで幅広い方から依頼を受けています。受けた依頼をこちらでランクをつけさせて頂き、後ろの掲示板に張らせて頂いています。
受けられる依頼は、自分のランク以下のものと、一つ上のランクのものになります。ですので、今回登録されたばかりですと、Fランクまでということになります。
最後に、依頼の途中破棄については、例外がありますが、依頼達成時の提示報酬の半分または、此方の指定回数、指定の依頼を受けていただくことになりますのでよろしくお願いします。
以上、簡単に説明させていただきましたが、何か気になる点などございますか?」
以前、冒険者の方に聞いたのとほぼ変わらない。
「特に質問はありません。ちなみに、紹介状を預かっているのですが確認をお願いします。」
おれは、手に持っていたローリン先生の紹介状を受付嬢に渡した。何が書いてあるのかは知らないが、別不利なことは書いていないと思う。
「こちらは…。申し訳ありませんが、ギルド長の方に確認してまいりますので少々お待ちいただけますか?」
俺が頷くと受付嬢は小走りで裏に下がっていった。ぽつんと残された俺は、手持無沙汰になり、手の中で魔法陣をつくり、遊んでいた。直後、俺は殺気を感じて横に飛びのく、追いすがってきた殺気と共に、剣先が地面に転がった俺の鼻先に突き付けられる。
感じた殺気と剣を向ける人物の実力があまりにも差異があるために、この人物は俺を殺そうとしているわけではないと感じた。
俺は立ち上がりながら、目の前の人物へと目を向けた。美人としか形容できない人物だった。
「何か?」
「貴様、魔法を使おうとしたな?何をしようとした?」
俺は、ハッとしてしまった。魔法陣を作ったためにこの人物は殺気を放ってきたのだということに気づいてしまったからだ。
「すいません。何かを狙っていたわけではなく、魔法の訓練として魔法陣を形成していました。このような場でやるべきではありませんでした。」
俺の言葉を聞いた女性はすぐ後ろに立っていた女性に声をかけた。
「そんな訓練があるのか?」
後ろに立っていた女性は小柄な女性だった。年はわからないが、俺と比べれば俺の年上に見えるだろう。ただ、魔力の量は俺の2倍ほどはあった。
「はぃ。過去にいたある高名な魔術師が書いた本で提案されている魔法陣の練習方法にあります。ただ、一般的に魔法陣を発動せずに維持するのは非常に難易度が高いので実践している人物を私は知りません。」
「この人物が、お前でも難しいという訓練をしていたという事か?この人物の出まかせではないか?」
小柄な方の女性が首を横に振る。否定の意を表しているらしい。
「この人物は、魔法陣を発動してから数秒ですが維持していました。また、貴方が切りかかって来たときも、発動せずに魔法陣を霧散させていました。ですので、この人物は高い魔力コントロール能力を持っていると思います。」
それを聞いた美人な女性は今まで見たこともないような程綺麗に礼をした。
「すまない、勘違いで切りかかってしまった。しかし、このような場でその訓練を行うのは控えた方がいいと思う。人によっては殺されることもあるやもしれん。」
「こちらこそすいませんでした。私もやる前に気づくべきでした。軽率な行動をしてしまい。申し訳ない。」
美人な女性は自分の剣を鞘に仕舞っていた。
そこに受付嬢が現れて、俺に声をかけてきた。
「お待たせしました。シエル様ですね。ってあれ?どうして、フィエル様とご一緒なのですか?」
美人な方のことだろう、フィエルとは。なんだか、美人のほうがリーダーっぽいし。
「申し訳ありません。勘違いした相方が切りかかってしまったのです。もう解決しましたので、私たちは去ります。
フィエル殿、後日お詫びをさせていただきます。私の名前はフィエル・カーリエ。相方の剣士がセリカ・トーラスです。パーティ名が氷火で冒険者をしています。冒険者ギルドで伝言を伝えていただけたら、2.3日中には連絡がつくと思います。
では、失礼します。」
小柄な方のことだったらしい。何やら、お詫びとかいってたが、そもそも勘違いさせることをしたのは俺なのだから、お詫びは必要ないと思うのだが。
「えぇーっと、とりあえず、ローリン様の紹介状がありましたので、例外ではありますが、Fランクからとさせていただきます。本日から、冒険者としてよろしくお願いします。
名前と性別だけ、この紙に記入してください。」
俺は、渡された紙にシエルと記入し、男性の欄に〇をつける。
それを受け取った受付嬢は受付の横にあった物体に紙を入れると何回かボタンを押した。その後、中から出てきた金属の物体を俺に差し出した。
「これで、登録が終了しました。こちらがギルドカードになってまして、再発行する際にはお金と再度試験を受けていただくことになりますので、注意してください。
セナが受付をさせていただきました。」
そして俺は、冒険者ギルドの身分証明書を手に入れたのだった。