第四話 街に降りて遊ぶ4
その後、確かに立派な城に案内された私は、メイドさんにじゃらじゃらと色々と預けている。
それにしても、リアルに人が生活しているお城に入れるとは……ワクワク物である。
白く威厳を放つお城を見上げながら、私はミーガンにせかされて中へと入る。
折角のお城なのだから、もうちょっと観察したかったけど……後でお弁当でも持って見に来るかな。
中に入り、エントランスも綺麗に整えられていて、大きなシャンデリアには魔法の力で明かりが灯っている。
フカフカの赤い絨毯を気持ちよく踏みながら、メイドさんについて行くとそこはお風呂場であった。
脱衣所には何人ものメイドさんと女性騎士らしき人物がおり、その女性騎士は小さな手提げ袋を持っていた。
どうやらあれはアイテムボックスのようで、私のじゃらじゃらをここで預かりたいのだろう。
私は必要な二つを残して、じゃらじゃらを全部放った。
勿論銃も含めて。
実際、この銃のドロップもあそこに行けばまだ予備はたんまりあるし、他の装飾品に関しても予備が存在している。
つまり、此処で一切合切盗み取られたとしても、私的にはそこまで問題じゃない。
予備の事で思い出したダンジョンで、ふとそういえば残滓を倒してしまってもダンジョンの魔物に影響はないのだろうかと思う。
ゲームではボスを倒して入れなくなるダンジョンはあれど、他は基本的に魔物は自然発生していた。
たぶんであるが、本当に徐々に少なくはなるが、大丈夫は大丈夫だろう。
全てを脱ぎ捨てた私は、そのままほっかほかに湯気が出ている風呂へと直行した。
その後ろでは、ため息をつきながら女性騎士さんがじゃらじゃらを回収していた模様。
まずは桶で体を流す。
あ~気持ちい。
そして足先からゆっくりと大きな湯船に体を入れ込む。
辺りを見ると、なるほど城主の湯銭として立派なものである。
白く石造りの滑らかな肌触り、品よく揃えられた骨董品、そして大浴場!
アニメの中でしか見たことのないような光景に目を輝かせながら、しかし湯を味わう。
なにせもう何日も風呂などには入っていなかったのだから。
少しすると、メイドさんが一人入ってきた。
「お背中をお流しいたします」
「あ、よろしくお願いします」
私は湯船から出て、指定された場所に行く。
そこはちょうど石が椅子のようになっており、私はそこに座りアワアワの石鹸で体を撫でられる。
体が終わると、今度はメイドさんのポケットに入っていた小さなものを泡立出せて髪を洗ってくれる。
「ごくらく~」
最後にざぱんと泡を洗い落としたらお仕舞である。
「アイリス様、ミーガン様がお待ちです」
更に湯に入ろうとしたところ、洗ってくれたメイドさんに呼び止められて渋々と外に出る。
脱衣所には、丁度ゲームの商人のような恰好の服が置いてあった。
ゆったりの上着とズボンは、どこかアラビアンっぽい物を連想させる。
ただ、全身淡い黒という少しセンスに疑問を感じるものだった。
「お似合いでございますよ」
そうは言っても。
私はいそいそと鏡に近づく。
黒髪のまだまだあどけなさの残るかわいらしい少女がそこにはいた。
若干目つきが鋭いが、そこもまた凛々しさを含んでおり、将来はくーるびゅーてーになりそうである。
最後にメイドさんに髪を上で一つ結わってもらい、ポニーテールにする。
準備が整い、絵画や壺などの骨董品が一定区間毎に並べられた廊下を歩く。
この時代、扉の意匠も機械ではなく人作業だろうか? それとも魔法を使っているのだろうか?
中々に細やかな扉を数多く通り過ぎ、先ほどとは違う女性騎士の立っている扉へと近づく。
メイドさんは一礼してその場から離れていき、それと同時に騎士さんが扉をノックする。
「よいぞ」
声と共に扉が騎士さんによって開けられて、私は中に入る。
中は執務室と言った風体で、大きな執務机が奥に、あたりは書棚に囲まれており、部屋の真ん中にはテーブルとソファーが置かれていた。
「先ほどよりもましな格好になったな」
「ミーガン様のおかげでございます」
「……さて、先ほどの商談の続きと行こうか」
ミーガンが執務机を離れ、私の向かいのソファーに腰を下ろす。
まるでそのタイミングを見計らったかのようにドアがノックされ、ミーガンは招き入れる。
暖かい紅茶をメイドさんが入れ終わると、扉がまた閉められた。
ミーガンはゆっくりと紅茶に口をつける。
勿論私もそれを真似て少し口をつける。
「今調べさせているが、あれほどの品々は逆にすぐに市場に流せるものではない」
「そうでしょうね」
「して、どうする」
「あのじゃらじゃらですか? お売りいたしますよ」
「正気か?」
「まだありますから……あ、銃だけ返してください」
「あの魔導銃か、あれもかなりの品のようだが」
「お気に召したのならまた持ってきますよ」
「……一応場所を聞いておこう」
「東にある山、とある場所の岩の切れ目が入り口になっているのです」
「ほぉ……とりあえず馬車を出してこちらでも確認したい、案内はできるか?」
「探せば、道は覚えていないので、ただ色々と目印はありますから大丈夫だと思います」
「……ふむ、ならば一度見てからどうするかは決めるか……例の品々は売るとなると莫大な金になる、先ずは冒険者ギルドに登録の後、このミーガンがそこに金を入れておこう」
「ありがとうございます」
すぐに一応の帰結を見せて、私達はお茶を飲む。
きっとミーガンの中では既に出ていた答えを、私に言っただけなのだろうけれども。
「悪いが直ぐに取り掛かって欲しい、此方も家など既に取り掛かっている」
「ありがとうございます、これからも良い商談ができることを願っております」
「あぁこちらもだ……だが最初に偶然にでも騎士のやり取りを聞けてよかった、偶然このミーガンがあの指輪を目にしなければ、どうなっていたことか」
「運命ですね」
ニコリと笑うと、しかし今度は苦笑いを返された。
此処まで中々に順調な滑り出しを見せている私は、三人の騎士さんと共に馬車に乗り込み、街を走る。
カーテンを開ける許可を貰い、流れる街並みを興奮気味に眺める。
ゲームで出てきた街並みだ。
中世ヨーロッパ風のあの街並みを自分がこの目で見ている、なんと素敵な事だろうか。
綺麗な噴水広場に通りかかったときに馬車が止まる。
「あそこが冒険者ギルドです」
馬車を降りると、噴水広場の真ん前に周りの住宅よりも一回り大きな建物が目に入る。
何とか興奮を抑えて、木の扉に手をかける。
中は右奥にカウンター、左に酒場、真ん中に上への階段があった。
所謂テンプレ、『お前みたいな小娘が来るところじゃねーんだよ』は一度味わってみたいが、それは無理だろう。
なにせ護衛兼見張りの騎士三人も一緒に入ってきているのだから。
目線を集めていることに関しては、テンプレと言えるが。
「登録カウンターはあっちだ」
騎士さんに誘導されながら、ひそひそと雑音の響く冒険者ギルド内を歩いて一番右端のカウンターに座る。
「……ご登録ですか?」
受付のお姉さんは、茶髪にそばかすの残る少し幼い印象を受ける方だった。
ただとても可愛らしい方なので、ある意味これもテンプレと言えるのだろうか……。
ごめんなさい受付のお姉さん、頬が引きつってますね、私のせいですね、はい。
「そうです」
その引きつった笑みで騎士を見ながらも、何やら紙を差し出してくる。
「此処に名前を書けますか?」
私はペンを持っては見たが……どうやらアイリスと書けるようだ、面白い。
これもまた転生の一環だろうか、取り合えず書けることに安堵しつつ、残りの項目を見てみる。
出身、性別、パーティーの希望、武器種別。
出身はこの街でいい、性別女、希望なし、銃。
それを書いて渡すと、一度お姉さんが確認をして隣に置いてあった水晶に紙をピトリと触れさせる。
すると水晶が光り、紙が底なし沼に落ちているかのようにずぶずぶと取り込まれていく。
「それでは血を一滴この水晶にたらしてください」
私は言われて通り、とりあえず歯で指の腹を噛み血を出す。
その血は先ほどと同じようにゆっくりと水晶の中に取り込まれていき、強く光るとお姉さんは水晶を持ち上げて定位置に戻した。
そして、水晶の下には一枚の手のひらサイズのカードが残されていた。
おぉ、ファンタジー。
「これがカードになります、ギルドの説明は必要ですか?」
「これから騎士の方に説明していただきますので、大丈夫です」
一瞬騎士さんがぎょっとした雰囲気になったのを感じたが、スルー。
「かしこまりました、基本依頼は二階に張り出してありますので、良いものがあったらこちらのカウンターへ持ってきてください」
「わかりました」
またまた冒険者の方々の目線を一身に集めながら、馬車に戻る。
「なぜ俺が説明を」
「山まで暇じゃないですか」
「はぁ」
一応私と会話をすることを許されているであろう騎士さんにほほ笑むと、ため息をつかれた。
話すことが許されているであろうというのは、私のカンではある。
しかし、他の二人は全くと言っていいほどこちらと口を利かない。
であるならば、雇い主に口止めされているとみていいだろう。
それに、一人だけこちらとしっかり話しをしてくれる騎士さんがいることからも、なんとなく私の考えていることが正しいのではないかという気持ちにさせる。
馬車が動き出すと同時に、騎士さんの口も回りだす。
「冒険者は、様々な依頼をこなし稼いでいる奴らだ」
「それは分かります」
「依頼は様々、失せ者探しから子供のお守りに掃除、採集依頼や討伐依頼……最近は魔物が増えてきて討伐依頼が多くなっているな」
「結構色々あるんですね」
「あぁ、ランクは今のお前のなりたてのFからSまで、依頼は自らの二つ上のランクまで受けられる」
なるほど、そのあたりはゲームと同じか。
まぁ強制で受ける依頼はそこまでなかったし、どちらかというとサブイベントといった感じだったけれども。
「冒険者は基本自己責任、しかし犯罪などを犯せば剥奪される、この程度か」
「わかりました、ありがとうございます」
「それから、ギルドには金を預けたり引き出したりする機能がある、預けるのにも引き出すのにも手数料がかかるがな」
「成る程」
「それで、忘れ物は無いか?」
「忘れ物、忘れ物……あっ! すいません、ツケって出来ますか?」
「お前なら問題ないだろ、金もすぐに入るだろうし、なんだよあるなら城を出るときに言ってくれよ」
「すいません、ちょっと忘れてて……できるだけ多くはいるアイテムボックスがほしいです」
「……じゃあちょうどこの通りの……あそこだな、御者止めてくれ」
他の往来の邪魔にならないように止められた馬車から降りる。
目の前にはなんとも怪しげな風貌な店があった。
壁が全部黒である、屋根も黒である、騎士さんはためらうことなく踏み込んで行ったけれども。
私も警戒しつつ後に続く。
中には商品が全くなく、カウンターによぼよぼのお婆さんが一人座っているだけだった。
「よぉ婆さん、一番いいアイテムボックスをくれ」
「ひぇっひぇっひぇっ、運がいいねぇ、いいのが入ってるよ」
腰を曲げながらゆっくりと去ってから少しして、一つの腕輪を持ってきた。
「これじゃあ少ししか入らねぇんじゃねぇのか?」
基本アイテムボックスは、大きければ大きいだけものが入る様に拡張できる、騎士さんの反応も間違ってはない。
「これはねぇ、とある王族の物でねぇ、なんでもちょっとばかりオイタをして、国宝も売らないといけなくなったらしいよぉ、ひぇっひぇっひぇっ」
……その王族馬鹿だろ。
てか国がやばいだろそれ、どう考えても。
「これはねぇ、神々の力が宿ったと言われるほどのもんさね……値段は」
こっそりと騎士さんに顔を近づけるようにして言う。
その答えに騎士さんの顔はひきつってます! という物だった。
「はらえるかぁい?」
「……払えるだろ、こいつなら」
そう呟くと、今度はお婆さんが驚いた。
「ひぇっ! 面白いねぇ、じゃあ売るよ!」
「料金は城主のところにつけてくれ」
「まっいいさね、持ってきな、それは所謂壊れ品でねぇ、元々作ろうと思って作ってわけじゃないらしい、ほとんど一人の魔力を吸い尽くしてできた曰く品さね」
そういって渡された金のブレスレッド。
試しに魔力を流しこんでみて驚く。
確かにこれは膨大な量が入る。
なるほど、私の未知も多分にこの世界に有るという事かな。
クスリと笑ってそれを腕に着ける。
もう一度魔力を流すとシュルシュルと金属がまるで水のようにうごめき、私の腕ぴったりに填まる。
基本的に価値の高い物はこのようにして、主人にくっつくようになる。
初めて見た主人公が慌てていたのを思い出した……ゲームの中だけど。
一般人はあまりお目にかかれないものである。
右腕に付いたそれを一瞥して、私はお婆さんに挨拶をして馬車に戻る。
さて、気を取り直して出発だ。