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リディラ~3ターンキルするエネミーになりました~  作者: 鈴乃
第一章 ストーリー開始前に暴れる模様
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第三話 街に降りて遊ぶ3

 


 歩いて行くにつれて、その城壁の大きさに驚く。

 ゲームでは見たことがあったが、さすがに感慨無量である。

 その城壁の高さと威圧感が、私にここは現実だと訴えていた。


 私だって思った事はある。

 あー異世界トリップしてみたいなーとか、あーゲームの中に入らないかなぁとか。


 つまり、それが今現実となっている。

 一体誰がこんな事が本当になるなんて思えただろうか、いやわかるわけない。


 私は笑みを堪えきれる自信がなかった。

 勿論堪える気もなかった。


「おい!」


 だからだろう、城門の入り口から守衛さんが走りながらこちらに向かってきたことに、全く気が付かなかった。

 あとちょっとで感動の涙が出る、そんなときに呼び止められたのだ。


「ふぁい?」


 だからおまぬけな返事をしてしまった私は悪くない。

 わるくないぞー!


「……何をしている?」


 え? ちょっとまって、いきなりそんなに怪しそうに見なくてもいいじゃないですか。

 恰好が変だったとしても、一応少女ですよ少女。

 手とか見たらまだ小さいし、朽ち果てた家を背に身長とかも測ってみたけど、やっぱり少女サイズでしたよ。


 ……ちょっとまて。

 私今めっちゃにやけてたよね。


 意味不明な装備をした少女が、めっちゃニヨニヨして城壁を見ている。

 あ、これダメなやつですね。

 この女頭いかれてんのか? とか思われても仕方のないやつですね。


「えっと、街に入ろうと思って、城壁があまりに立派だったので見とれていました」

「ほぉ」


 その探るような視線をやめてください。


 相手は中年の男性。

 鎧を纏ってはいるけれど、顔は出ている。

 腰の剣に手を触れて、いつでも私をばっさりといけるようにしているのを取り合えず止めてほしい。


「どこから来た」

「えっと、あの山から」

「は? 出身は?」

「わかりません」

「は? もう一度聞くぞ、出身は?」

「わかりません! 気が付いたらあの山に居ました、それまでの記憶はありません……あとは周囲に落ちていたこれらを身に着けてきたんです」


 守衛さんは胡散臭そうにこちらを見ながら、一つため息を私に聞かせるように吐く。

 

「取り合えず、城門にある詰め所で待機だ」


 という事で、私は後ろから守衛さんにどこそこだと指示を受けながら歩く。

 まぁ前を歩いて私が反抗してきたら厄介だしね、そんな気はさらさらないけど。


 城門はそこまで大きくなかった。

 たぶんだがこちらから来る人間はあまりいないのだろう。

 出入りという面では、先ほどの農家の方々が精々と言ったところだろうか。


 馬車が通れるように少し広い入り口の右側に、木の扉がある。

 そこに入れという指示をそのまま頷き入る。


 中に入り目に飛び込んできたのは、長テーブルと椅子が置いてある大部屋。

 そこから二階へと繋がる階段が見えることから、此処は食事などをするところだろうとあたりをつける。


「いいか、此処に座って大人しくしていろよ」


 守衛さんはちらほらと座っている同僚に声をかけて、声をかけられた人物はこちらにちらりと視線を送り一つうなずく。

 なんだか嫌な感じではあるが、まぁ致し方あるまい。


 話し終えたのか、話しかけられた守衛さんのお仲間は足早に外へと出ていく。

 だが私はそれを呼び止める。


「なんだ」

「これ、持って行ってくださいませんか? 面白いと思いますので」


 指輪の一つを無造作に放り、今出ていこうとした守衛さんは微妙な顔をしながら指輪を手に出て行った。


「ではもう一度聞くぞ」


 そして私を連れてきた守衛さんは、私の目の前に座ろうと椅子を引きながらため息交じりに言った。


「出身、目的、あとその手とか指とかにじゃらじゃらしてる物の出どころは?」

「出身は不明、目的も街に入ってこれを換金することと色々、これは拾い物……魔物が落とした」

「さっきと言ってることが違うじゃないか! ドロップ品という事か?」

「そう」

「どこで」

「あの山で……これ以上は内緒ですよ」

「なぜだ」

「秘密です」

「……ここで貴様の首をはねることもできる、それは盗品だろう?」

「あなたに私は殺せませんよ」

「……」

「言い返さないのですか?」

「見た目は確かにまだまだ幼さが残る少女だ、年齢も十二やそこらだと考えられる……だがお前の雰囲気は並じゃない、守衛をしてるこんな俺でさえお前は普通じゃないと分かる……何が目的でここに来た」

「へー、この格好のせいかな? 目的はさっきも言った、嘘はついてないですよ」


 疲れてきたなと、少々半目になりながら肘をついて顎をのせる。


「得体が知れんな、そもそも記憶がない等と」

「ならそれが嘘だと証明できる?」

「ならそれが本当だと証明できるか?」

「フフフ、無理よね」


 そんな雑談に興じている間に、外が騒がしくなる。

 バン! と扉がかわいそうなくらい勢いよく開かれる。


 入ってくる人人人。

 今度はしっかりと頭までフルアーマーな人と、魔術師らしき人物。


「お前か、盗人というのは」

「えー、変な風に伝えましたね守衛さん」

「……」


 守衛さんはそんな私の言葉を無視、というか驚きに目を見開きそのまま礼をする。

 

 へー、っていうことは、中々の人物がここに来てるってわけか。

 流石交易都市、どこから間者が入るかわからないから、中々素早くていい対応ね。

 疑わしきは確実に暴く、ってところかしら。

 疑わしきは死を、って感じじゃなくてよかった。

 まぁ、そうはならないような街だとは思っていたけれどね。


 カツカツと私に近づいてくる音がする。

 素早く小さくジャンプして椅子に乗り、そこからテーブルに手をついて跳ねる。

 ハンドスプリングのように体を前に飛ばしながら体を捻り、着地は相手と相対するように。

 そしてひねりながら銃を抜く。

 それにしても、飛びながら見えた人物、なるほど中々面白い事になってきたわ。


 相手はこちらを警戒しながら、やんごとなき人物を守るように配置が入れ換わる。


「……大人しくしろ盗人、この人数だ、お前が抵抗しても勝てる見込みはない」


 先ほど声をかけてきた人物が嘲る様に勧告する。

 だから私も、その渋い声に応える。


「いいえ、あなた方程度では、私は倒せないと思うけれど」

「……」

「挑発はするのに、挑発に乗ってくれないなんて、いけずですねぇ~」


 私はニヤリと笑って見せた。


 そして、腕輪を一つ取って投げる。


「あなたなら、その価値はお分かりになりますよね……私が盗人ではないという事も」


 まぁここで記憶喪失が嘘とばれても構わない。

 なにせ、此処までやらかしているのだから。


「なっ! これは」


 喚く音が聞こえた。


「中々お目にかかれる代物ではないと思いますよ、そうですよね城主ミーガン・マートラス様」


 そう、先ほど見えた見た目。

 私と同じくらいの身長、銀の髪が腰までなびき、淡く青いゆったりとした服は彼女が好んで着ているもの。

 耳がとがっているのはエルフの証。

 交易都市の城主ミーガン・マートラス。

 その才は親より高く、高位の魔術をも顔色一つ変えずにうちは放つ危険な人物でもある。

 彼女が継いでから約六十年、更に飛躍しているらしい。

 攻略本では、様々な人物の弱みを握りながらも、最低限自らの命に関わらない程度に脅しながらも飛躍させていると載っていたはずだ。


「先ほどの指輪といい、貴様これをどこで手に入れた」

「……それはドロップ品でございます、ダンジョンの」

「嘘を吐くな! ダンジョンでドロップする品物にここまでの品はなかったはず!」

「商談を致しませんかミーガン様……私はその狩場をお教えしてもよろしいのです」

「……このミーガンに商談? 笑わせる、今の立場が分かっているのか? このミーガンが一つ手を振ればお前の命など容易く刈り取り、身に着けたその品々を奪うこともできるのだぞ」

「それをしないのは、私の言っていることを否定しきれないからではございませんんか? 本当にそれが取れる狩場があるのであれば、他国よりも出来るだけ早く秘密裏に調査をしておきたいはず……最も、その兵力では私を倒すことは不可能ですけどね」

「小娘一人に何ができる」

「やられてみますか? しかしやるとなればそちらの兵の命はないと思っていただきたい、私殺傷しないようにというのは本当に苦手なのです」


 これは本当。

 弾丸の威力をできるだけ低くしても、中々に難しい。

弾丸の威力を低くすれば、鎧を貫けない可能性が出てくる。

 だから私は相応の力を込めて弾丸を放つ。

 

 そうなれば、相手は否応なく体のどこかに風穴があく。

 相手は守衛。

 腕や足に穴が開いても、生活が苦しくなるのは当たり前。

 この世界の治癒魔術がどの程度なのかわからない今、試すのはまずい。


 これでも配慮ができる大人だからね、ふふん。

 え、配慮ができる大人はこんなに煽ったりしないって?

 やだなー、私もここまでやる気は無かったんですよ。

 でもまさか城主自らが出てきてくださったのですから、それくらいしないと逆に不敬でしょう。


「……」

「……」

「ふっ、くっ、あはははははははは」

「うわぁ、なんというか悪役っぽいですね」

「黙れ! まぁよい、このミーガンが許そう……では我が城に来い商談を受けてやろう」


 これに驚いたのは騎士? の面々。

 何やら耳打ちで本当に良いのか問うているようだが、彼女の機嫌がだんだんと下がり始めたことからしぶしぶと認めているようだ。


 城門に止めてあった馬車に乗り込むミーガンに続き、私も乗り込む。

 そして、護衛騎士一人が私の横に座り、私の一挙手一投足を注視しているのが分かる。


「商談の前に、名を」

「そういえば名乗っておりませんでしたね申し訳ございません、アイリスと申します」

「アイリスか」


 正直私は町の様子とか見たかったのだけれど、カーテンが閉まっていて外の様子は伺えなかった。


「そろそろ本当のところを言え、何者だ」

「何者、そうですね、中々難しい質問です……魔王から解放された哀れな少女とでも言っておきましょうか」

「……魔王だと」


 その大きな耳がピクリと動いた。

 魔王、さてさていったいどこまでストーリーは進んでいるのか、それともまだ進んでいないのか。


「最近やけに魔物が多い、この状況以前の魔王進軍に際した老年のエルフが言うには似ているらしいが」

「あの時とは一つ状況が異なっておりますね」


 私が知っているのは、ゲームの攻略本での話のみ。

 魔物を頻発させて、人々の恐怖を煽ってから魔王を生み出した。

 それは邪神が人々を混沌の渦に入れやすく、そしてその混沌を力をする邪神だからこそ。


「封印か、解けるとでも言うのか」

「はい」


 先ほどとは打って変わって本当に真剣な顔になるミーガン。


「もう一度問おう、貴様何者だ」


 今度は声を潜めて、じっとこちらを見る。


「知っていますかミーガン様」

「……」

「魔王の封印は不完全」

「……」

「それは、魔王が封印されるときに、自身の力を神々の力と共に逃がしたから」

「逃がした、だと? つまり封印の力の一部を魔王が引き離させた、だから不完全だと?」

「そうです、そして私の言うダンジョンは、その魔王の残滓が歪みできた場所……既に残滓は消し飛ばしましたが」

「それだけの力が貴様にはあると?」

「はい」

「本来であれば世迷言と一蹴したが……して貴様は何者だ? 何故そんなことを知っている」

「私が残滓と共に放出された元人間だからです、最もその時の事も前の事も覚えておりませんが」

「……今はそうであると仮定してやろう、この寛大なミーガンに敬意を表するが良い、して魔王の対策は?」

「する必要は無いと思います」

「なに?」

「魔王の対策は神々の加護を受け持つ者たちの役目、しいて言うのであれば魔物に警戒を怠らないことでしょうか」


 実際、主人公たちの様子は見るつもりではいるけれど、手はそこまで出すつもりはないし。

 だって、ゲームの中では行われなかった、移動中の会話とかを生で見られるとか最高か。


 いつも思ってた、絶対に一日じゃ着かないような距離の時とか、どんな会話をしていたのだろうかとか。

 私が入っていってらそれが拝めないし、余計な手出しはぎりぎりになるまでしないつもりではある。

 

「なるほどな」

「それと、お伝えする情報は、できるだけ隠匿してください……無駄な死者を増やすことになります、可能であれば魔王が沈むまでの間、その間のこれら装備品は私が一定量下ろしましょう」

「対価は?」

「後ろ盾と、家でしょうか、鍛冶ができる家がいいですね、あとは冒険者として登録しますので」

「ほぉ、隠匿するのはよいが、無駄な死者か、そこまでの場所なのか?」

「全九十九階層、普通に入り込めばどれだけの日数を要するか、そして下の階層に行けば行くほど魔王の残滓に充てられて魔物が強くなります……簡単に言うと小さなドラゴンがそこら辺を徘徊しているようなものですね」

「なるほど、それは面白い、しかしなぜ魔王を倒す後なのだ?」

「加護持ちが興味本位で覗いたら元も子もありませんから」

「くはは! それでは魔王を倒した後はいいように聞こえるぞ」

「自己責任でしょうね」

「確かにそうだな、さてそろそろこのミーガンの城に着く、城に入ったら先ずは着替えろ臭うぞ」

「これは失礼いたしました」

「それと、アイリスの持っているものをすべて鑑定させたい」

「構いませんよ」

「ほぉ、よいのか? そのままねこばばされるかもしれんぞ」

「この程度ならまだ腐るほどとある場所に隠してありますので、もしそんなことをなさっても、他の国に情報が渡るだけ……ただしこのネックレスと腕輪だけはお渡ししかねますが」


 私はじゃらじゃらとかけているネックレスの中から、くすみのない虹色に輝くといっても良いほどの宝石のついているネックレスを見せつける。

 それから左腕についているシンプルな銀の腕輪も見せつける。


「なぜだ?」

「このネックレスは、毒や洗脳といった物に絶対の耐性を持つものですので、腕輪の方は本当に少量ではありますが、アイテムボックスのような役割でして……この中に入っているものはたとえミーガン様でも」


 なにせ、この腕輪の中にはキーアイテムが入っている。

 もっとこの腕輪があればよかったのだけれど、これは宝箱からのみドロップ……裏ダンでこんなの出たら私はセーブ場所からやり直すけれどね。

 なにせ、今はどうか知らないけれど、前は宝箱は一回開けたらそれで終わりだったのだから。


「なるほどな」


 相手は何かを悟ったように一つ頷いた。


 私がそれに返すようににっこりと笑うと、相手もにっこりとほほ笑んだ。











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