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リディラ~3ターンキルするエネミーになりました~  作者: 鈴乃
第一章 ストーリー開始前に暴れる模様
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第十四話 鍛冶で遊ぶ5




「大白金貨なんて冗談じゃないわよ!」

「だが、あれにはそれだけの価値が」

「まぁまぁとにかく見てみましょう」

「け、喧嘩はやめてください、ね?」


 賑やかな一行が現れた。

 そこには、先ほど取り置きをお願いしますと言っていた男性が、少々ひょろい男性と二人のタイプの違う女性と共に現れた。

 片方は綺麗系、もう片方は癒し系である。

 多分と言うか確実に冒険者ギルドのパーティーだろう。

 まだもめているようだが、買うのか買わないのか決まったのだろうか……決まってないんだろうなぁ。


「店主待たせたな」

「まだもめてるみたいですけど?」

「此処? まだ子供じゃない? ちゃんと物の価値分かってんの?」

「いきなり喧嘩腰はだめですよ、すみませんねうちの跳ねっ返りがそれで例の剣を見せていただけますか?」

「そうですよ、いきなり失礼ですよー」


 綺麗系な女性が胡散臭そうにこちらを見ているが、それを窘める二人。

 私は取り置きして置いた剣を持ち出し、四人に手渡す。


「これは……!」


 今までニコニコ顔を浮かべていたひょろい男性の顔が驚愕に変わる。

 見ただけでその異常さに気が付くとは、ミーガンと同じような何か鑑定のスキルでも持っているのだろうか。


「どうだ?」


 取り置きをお願いしていた男性が、不安そうに伺う。


「て、店主、この素材は……こんなもの見たことがありません」

「秘密です」

「それはそうでしょうが」

「ちょっと、私たちが誰か分かって言ってるわけ?」

「AランクでSランクにも近い人たちですよね? 名前は知りませんけど、だからどうしました?」

「おい、やめろ」

「うるさいわね、こんなガキに舐められたままじゃ嫌じゃないの」


 わがままお嬢さんか、面倒くさいの連れてきてくれたなこの男。

 恨みを込めて目線で訴えると、頭を下げられた。


「そんなに聞きたいならお城にでも行けばいいんじゃないですかね」

「は? 城? 何言ってんのよ」

「この金額をつけたのは城主のミーガン様ですけど、そして私の一番の取引相手でもありますが」

「はっ、そんなはったりは聞かないわよ」

「いや、はったりじゃないかもしれませんよ、此処は素直に謝っておきましょう」

「そうですよ、もし本当だと私達かなりやばいですよ! ミーガン様って、自分の取引を邪魔されるのを何より嫌がるって聞いたことあります」

「あの、だな、それよりもこれを買ってもいいだろうか」


 おずおずと連れてきた筋肉さんが話題を切りながら伺う。

 なるほど、この人は脳みそ筋肉さんか、剣しか目に入っていないのね。


「はったりだと思うなら、城の門番さんにでも確認したらどうなんですか?」

「えぇいいわよ、行ってやろうじゃない」

「だ、だめです! そんなことしたら私たちが疑ってるって思われて」

「うるさいわね、こんな子供が城主の取引相手なわけないじゃない」

「……ちょっとは、人の話を聞けやごらぁ!」


 その瞬間、癒し系かと思われた女性の口から、その顔に似合わない口調が飛び出した。

 頬を引くつかせながら二人を見ると、既に三歩程遠ざかっていた。


「あーあ、マジ切れモード入りましたね」

「ご愁傷さまだな、それでどうだろうか、この剣はやはり大白金貨の価値があるだろうか」

「えぇ、十二分にありますね、何なら安いといってもいい」


 男性二人はわれ関せずを貫いている。

 なんだが私だけおいて行かれているような気もするが、此処は黙っておこう。


「さっきからうだうだ信じられないわ! じゃねーんだよ! 何いきなり城に突撃かまそうとしてんだあぁ! 先ずは情報屋にでも何でも城にこの子が入ったか聞くところからだろうが、え! もしそれが本当なら少なくとも城に入れるだけの何かがあるだろうが、それすっ飛ばしてどこに行く気だえぇおいいいい!」


 周りの視線が痛い。

 言ってることは正しいのに、そのインパクトがありすぎて皆二度見してる。


 そりゃそうだよね、音さえ聞こえなければまるで綺麗な花でも見つけてほほ笑む優しい女性の顔のまま、おらぁとか罵ってるからね。

 あんまり口開いてないのによく声でるわよね、腹式呼吸? 腹式呼吸なのね?


「ひぇ、いや、私は、だって」

「だってじゃねぇーんだよ、お前今いくつだよ! だってでアタシら城主に目ぇつけられたらどうすんだタコぉぉぉぉ」


 綺麗系の女性は、その場で正座をさせられて説教を食らっている。

 確かに、だってこいつ信用できなかったんだもん、でパーティーがミーガンに目をつけられてこの街に居ずらくなったら冒険者稼業もさぞやりにくかろう。

 それに、此処は交易都市。

 商人に訴えて何をされるか分かったものでもないのが更に怖い。

 優しげだったこの人が切れるのもわかる。

 だがもっと分かったのは、このパーティーがここまで大きくなれたのは、頑なに彼女が最後の一線の前にガチ切れモードへと変身するからなのだろう。


「ひっく、うぇ、お家帰りたい」

「はぁ何言ってんの? そのお家に追い出されてきたんだろうが」

「追い出されてない!」

「お前の大好きなお父様とお母さまから、この子をどうにかしてほしいって旅に出れば変わるだろうって預けられたこと忘れてんのかぁ? あぁ!」

「わ、私は、貴族、なのにぃ」

「貴族が民の前で泣く分けねーだろうがあぁ? 貴族ってんならほら証明してみろ、どうしたおいぃ!」


 もう先ほどの威勢は見る影もないな。

 それにしても貴族だったのか、あの女。

 

「んなことも分からねぇから、顔しか取り柄がねぇって陰で言われてんだよぉ!」

「そ、そんなことは」

「いい機会だ、このアタシがきぃぃぃぃっちりお前に貴族とはどういう事か教え込んでやる、こぉい!」


 彼女たちは、そのまま貴族娘を引きずるようにして去っていった。

 きっと大通りでも二度身をする者が続出するだろう。

 それにしても、あの優し気な顔がちょっと恍惚としてなかった? もしかしてイジメちゃうの好きな方?


 私は何も気が付かなった、そう、一瞬の表情なんて分からいもの!

 さきほどの表情を綺麗さっぱり忘れる様に努力しながら、男性陣に目を向ける。


「ほっといていいの?」

「あぁ俺達も少し時間をおいて帰るとするか」

「それがいいですね」

「因みに剣は?」

「……買おう」

「まいどー」


 今度はこっちの筋肉が震える手で大白金貨を私に渡したのち、恍惚とした表情で剣を眺めている。

 このパーティー大丈夫なのだろうか?


 もう一人の男性はやれやれと肩をすくめながら、ため息を吐いた。


「お兄さん」

「僕の事ですか?」

「なんか大変そうだからこれを差し上げますよ」


 火の中魔石を入れたナイフを渡す。


「いいのですか? これも中々の値打ち物だと思うのですが」

「いやなんか大変そうだしいいわよ、それに一番高いものが売れたもの」


 いつの間にか素で話しているが、なんというかあれを見せられた後だとぽかんとして気が緩んでしまったのだろう。

 取り繕うほどの精神的な元気がなかったとも言う。


「ではありがたく貰っていきますね、それでは……ほらいつまで見てるですか、行きますよ」

「あぁ早く魔物が斬りたい」


 ダメだこいつ。

 今度はこっちの二人も片方を引きずるようにして去っていった。

 後に残った私には好機の視線が寄せられている。

 そりゃそうか、それだけ騒いだんだし、あの子初めて見る顔よね? とか、何があったんだろう? とかこそこそ噂されてて居づらい。


 今日はもう店じまいにして帰ろう。

 私は目の前にあるすべての剣を仕舞い、最後にゴザを仕舞って商業ギルドに戻るべく歩みだす。

 

 しかし、なるほど考えてみればそうか。


 こんな弱そうな少女が、大白金貨を持っているとなれば、よこしまな事を思ってしまう大人もいるわけだ。

 私は人気のなさそうな路地裏に入り込み、突き当りで奴らが来るのを待つ。


 ひーふーみーよー、全部で四人。

 ガラの悪そうな男が此方の持つ金をぎらついた眼で見つめていた。


「よぉ嬢ちゃん、儲かってるみたいだな?」

「当たり前じゃない」


 しかしこれからどうするか。

 ごろつきと言うのはどこの街にも存在する。

 だがこの交易都市はそれが少ないはずである、ゲーム内でも言及されていたし。

 という事は、こいつらは一斉取り締まりを待っている輩という事になるのではないだろうか。

 もしくは裏の人物が見えないか、証拠があげられずに困っているとか。


「勉強料だと思いな、その金はよこせ」

「お断りね」

「あんだと?」

「あんたらの元締めのとこに案内なさいな、そうすればもっと面白い事が起きると思うわよ」


 私にととって、面白い事だけれどね。


 四人は虚を付かれた様に互いの顔をみつめ、そして大笑いをしだした。


「実力行使ね、連れて行くの? 行かないの?」


 私はホルスターから銃を取り出して問いかける。


「んなもんで脅しても……ッ!」


 仕方がないので右端の奴の股に一発くれてやると、奴らは表情を変えた。


「脅し? 違うわね、交渉よ……連れて行くの? 行かないの? 行かないのであればそれだけの対価を示して」


 一人は蹲り、一人は走って仲間の元へと走ったのだろう。


「後悔しても知らねーぜ、確かに飛び道具相手にぶがわりぃ、いいだろう連れてってやるよ」


 まぁそうよね、建物の中に入れて囲ってしまえば、飛び道具だろうとなんだろうと勝てると思うだろうし。

 最悪殺してしまえば証拠なんて残らないモノね。


「後ろからついて行くわ、案内して」


 一人は蹲っている一人に肩を貸しながら歩かせ、もう一人はこちらをにらみながら歩き始める。


 はてさて、また何か面白い匂いがするわ。

 人生は刺激がいっぱいな方が楽しいわよね!





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