第十三話 鍛冶で遊ぶ4
「これをお前が作ったと聞いているが?」
何度か来たことのあるミーガンの執務室に私はいた。
お城に着くや否や、早歩きでここに連れて来られてミーガンから発せられた一言がこれである。
「もっとありますよ」
「……それを売ることを禁ずる、こんな壊れた性能の剣、それこそ戦を呼ぶぞ」
「そこまの物なのですか?」
「それが分かるようならばこんなもの造らんだろうから言っておくが、これは素材も魔力もおかしいのだ、このミーガンでさえこんな阿保らしい剣を見たのは初めてだ」
「ものすごくアイテムボックスに眠ってますけど?」
「はぁ、頭が痛いな、取り合えずそれを人前に出すな」
「……鉄の剣でその魔力量の物は?」
「それもだめだ」
「では魔石一つ分引けば?」
「……それならばよいであろうな……大金貨一枚で売れる」
「そんなにですか!」
これには驚いた、高々鉄の剣でそこまでの値になるとは。
この世界では魔剣は全く出回っていないのだろうか。
「魔剣って珍しいのですか?」
素直に聞いてみることにした。
「珍しいな、そもそもどれだけ熟練の者でも、魔力を流し込める隙を作れるものはそうはおらん、出来てもたまにだ、空いても小さな魔石一つが関の山……それをお前」
なるほど、皆運の値がそこまで高くないのか。
「取り合えず、商業ギルドに行ってゴザ借りて色々売ろうと思っていたのですが」
「売る物をこちらに一度見せに来い、このミーガンが値段を決める!」
「……わかりました」
物の価値とか正直ゲームの中でしか知らないし、これは有難い申し出と言える。
だが、ゲームでもゴザを借りて自分の作った魔剣を売ることが出来たのだが、あの時は一番高く売れる物をひたすら作って売りさばいたな。
現実だし、そんな事にはなっていないのだろうけれども、魔剣と言うのはそんなにも珍しかったのか。
「分かりました、それでは作ってきます」
取り合えず、一口に鉄と言っても組み込む材料によって強度や威力がまるで違う。
一度何本か作ってミーガンのもとへ持っていこう。
その後、私は絶対に持ってくるようにと言う念を押されて、城を後にした。
帰り際に、ポットとお皿とカップ、それと鍋とフライパンを買って装備した。
フライパンは装備できる武器だったのだ、右手に包丁左手にフライパン、まな板の防具とよくわからない装備で魔王を倒すプレイ動画も上がっていた。
家に帰ってきてから、直ぐに製作に入る。
魔剣は数が少ないという事で、本当に初歩の初歩鉄とウルフの牙の物に全属性の中魔石と小魔石の二つで強化した魔剣を作り出す。
あとは、裏ダンで落とした色々な牙を混ぜる。
数のある物が三つあったので、それで剣を三本作る。
あとはぴかりと光らせて完成、お終いである。
合計十本打ち終わり、空を見上げるとまだ時間がありそうなので、そのままミーガンのもとへと訪れる。
「……ずいぶんと早いな」
呆れられてしまったが、私はにっこり微笑んで十本の剣を置く。
「鞘は作れないので、抜き身で失礼しますね」
「……なんとか売れるな、この三本は魔剣でないというのに色々とおかしそうだがな」
まぁそれは素材がいいからね。
「普通の剣は無いのか」
普通の普通の……。
私はアイテムボックスを探り、腕輪から一振り取り出す。
「……ふむ、これも売れるな、これも売り物に追加し、魔剣各種とこの四本を売りに出せ」
「それで、値段はどうします?」
「魔剣が一本大金貨一枚、鉄の剣は銀貨五枚でいいだろう、その三本は……迷うが大白金貨一枚と言うところか」
「そ、そんなにですか?」
まさかの鉄が元素材なのに一振り百万とか、マジですか詐欺臭い。
「これが商業ギルドへの書状だ、冒険者であれば登録する必要はない、場所代を払えば売れるぞ」
そうなんだ。
ゲームでは一応登録していたけど、違ったのか。
もしくは、知らずに登録したとかか……現実となると色々と変わって来るのか。
「あと槍とナイフも同じようなものを作ってありますが?」
「槍の値段は同じでいい、ナイフは魔剣を売るな、鉄のナイフなら一本銀貨一枚」
「分かりました……結構高かったのでただの剣と槍をもう少し作ってから売りに出します」
「何かあったらすぐに知らせる様に」
「分かりました」
そうか、さすがにゴザで高過ぎるのをそんなにおいて置いても仕方ないしな。
とりあえずは普通の鉄系装備と、各種一本並べて置くくらいの勢いでいいか。
帰りに大きな空き樽を二つと、小さな空き樽を一つ買って帰った。
此処に入れて売ろうと思う。
家に帰り、取り合えず普通の物をいくつか作る。
魔剣各種は一本作ってあるからいいとしても、ナイフはニ十本作る。
気が付いたら夜も更けてしまったので、作り終えてからベッドにもぐりこんだ。
翌日、私は朝一で商業ギルドへとやって来た。
商業ギルドは、商売に関わる事全般においてのサポートをしてくれる場所である。
私はミーガンの書状を一番近くのカウンターにいるお姉さんに見せる。
お姉さんは飛び上がらんばかりに驚き、少々お待ちくださいと笑みを引きつらせながら奥へと消えていった。
そうして帰ってくると同時に私にゴザを出してくれる。
「失礼いたしました、基本はこのゴザの上での販売としてください、少しであればはみ出しても構いませんが、人が多くなってきましたらご配慮お願いします、基本時には北側の大通りから一本外れたところがゴザ市となっておりますので、そこをお使いになられてください」
「分かりました」
「ゴザは一応一番大きいものを御用い致しました、お値段も一番高いですが他の物に変えますか?」
「それでいいです、それでは」
私はミーガンに聞いていた料金を支払い、ゴザをアイテムボックスの中へと入れて大通りを一つ中へと入る。
そこも大きな通りではあるが、やはり大通りと比べると小さい。
その一角に手建物が立っていな場所がある。
そこがゴザ市と呼ばれている、私のように自身の作ったものを売る場所である。
そして、そこには掘り出し物を目掛けてやって来る人たちもいるわけだ。
まだ朝早いからか、あまり人がいなかったので、広場の中でも日当たりの様さそうな場所を選らぶ。
ゴザを取り出して敷き、樽を三つ取り出す。
まず一つ目の樽にはただの鉄の槍と剣を無造作に入れる。
そして、もう一つの樽には、各種魔剣、魔槍を無造作に入れる。
次に小さな樽にナイフを入れる。
これでゴザの半分を占めている。
だが他の人たちよりは大きなゴザであるため、私はそこに三種類の剣と槍を置き準備を終える。
言わずもがな一番高いものである。
一本大白金貨一枚と言う、こんなもの買う奴いんのか? と思う逸品である。
特にお客も来ないまま時間が過ぎる。
辺りには次第に人が多くなってゆく。
「すみません、試しに振らせていただけますか?」
初めて声をかけて貰った男性は、中々に良い筋肉の付いた男性で、一目で冒険者だと分かる。
「構いませんよ、剣ですか?」
ちらりと腰に帯剣していることを見て聞くと、一つ頷かれる。
その男性は、樽の中から銀貨五枚の方の剣を取り出し、二、三度振るう。
「ほう、中々良い腕をしているようですね」
「それはどうも」
「お嬢さんがお造りになったので」
「こう見えても鍛冶は得意でして」
「……おいくらですか?」
「その剣は銀貨五枚、こっちの魔剣は大金貨一枚、ゴザに置かれているこれらは大白金貨一枚です」
「……大白金貨? それはまた」
「振ってみます?」
私は無造作に一本手に取り相手に渡す。
戦々恐々としながら剣を握る男性。
その目が真剣そのものになり、剣先を撫でる。
「これは……鉄、なのか? このような光沢が出る素材……聞いたこともない」
男性はぶつぶつと呟いたのち、一度振ると驚いたように剣を見る。
「軽いのにも関わらず切り裂いた音は重い……試し切りがしたいくらいだが」
「流石に試し切りは勘弁してください、売り物なので」
最悪変な使われ方して刃こぼれとか笑えないし。
「他の二つも振ってみても?」
「振るだけでしたら」
男性は一本一本確かめる様に振っていく。
「こ、これは……程よい重さがあるにも関わらず振りぬいた感覚は軽い、だが音は重いものだ……なんだこの剣は……大白金貨……大白……て、店主」
いきなりカッと目を見開いた男性は、剣を置くとその場に座り土下座をする勢いでこちらと目を合わせる。
「俺の一存でそのような大金を払うことはできない! しかし、少しの間取り置いて貰うことは可能だろうか!」
「いいですよ、これですね、今日一日は取り置きしておきますね」
私はそういって、剣をアイテムボックスの中へと戻した。
「助かる、それでは!」
男性は急いでその場を離れた。
その男性とすれ違うようにして、見慣れた顔が姿を現した。
「よぉ」
「あれ騎士さん、私服?」
そう、いつもはしっかりと騎士服か鎧をまとっている騎士さんが、普通の街人のような恰好をしていた。
「休暇を貰った、お前の店に来る為にな」
「マジか」
「大マジだ、あの剣はミーガン様に取り上げられたし、聞けば売ってもいい魔剣を今日売り出すとかで、何とか休暇を貰って買いに来たんだよ」
「へー、そんなに欲しかったんだ」
「騎士にとって剣は命を預ける物だ、いい物に越したことは無い、生存率も上がる」
まぁ確かに、この世界は色々と物騒だからね。
「じゃあ火の魔剣でいいの?」
「あぁ、三本あるか?」
「そんなに? 各種一本ずつだけど……先払いで今度持ってくよ、今日は一本で後二本は後で」
「そりゃ有難い、んじゃこれ金な」
差し出された大金貨三枚と、先ずは一本火の魔剣を渡す。
「明日届けるわ」
「楽しみにしてる、っていうか今走って行ったの、ありゃ確かAランクでSランク目前って奴じゃなかったか? 名前は忘れたが」
「へー、あの人こっちの剣を気に入ってね、取り置きしてあげてるんだよね」
「金持ちはいいねぇ」
「そういう騎士さんも、大金貨三枚とか超高額だと思うんだけど」
「俺は高級取りだからな、これでも」
「……」
「想像つかないとか思っただろ!」
「なんか、いつも走りに使われてるイメージしかないからね」
「少しは悪びれよ! まぁいい、んじゃ明日楽しみにしてるからな、忘れんなよ!」
「分かったわ」
私は騎士さんを見送り、またお客さんがいなくなったのでゆっくりとした時間を楽しんだ。