第五話:故人を偲ぶのに涙は要らない
タイトルはシリアスっぽいですが、そんなにシリアスではありません。むしろ笑って読んでくれたら嬉しいです。
舞が実家へと旅立った翌日の朝。いつもより少し静かな食卓は、しかしながらあるもののせいで俺にとってはいつもより落ち着かない朝食になっていた。
「あのー、サトリちゃん?ちょっといつも以上に近すぎない?」
俺は、その落ち着かない原因である彼女にそっと声をかけた。昨日、皆の未来を悟った後はずっと部屋に籠り出てこなかったので、もしや体長でも崩したのかと心配になっていたが、今朝になるとどこか吹っ切れた顔でいつものように俺の布団に潜り込んでいた。朝起きたらサトリの顔があり思わずほっとしてしまったのは少し情けない。やはり、俺はどこかでサトリが俺に好意を向けてくれるのを当たり前のように感じていたのだろうか・・。
しかし、そんな俺の内心の葛藤も露知らず、サトリはそれこそいつも以上に俺に引っ付いてきた。着替えの時も俺から離れようとしなかったのでなかなかに困った。いくらサトリちゃんの見た目が幼いとは言え、流石に女の子の前で脱ぐわけにもいかず、その時は無理矢理引き剥がして部屋の外に放り投げた。
そして今、いつもなら膝の上に座っているサトリだが、今日は横からゼロ距離で俺の肩に抱きついている。さっきから花の刺すような視線が怖いです。あと、晴明も面白いモノを見るような目でこっちを見るの止めてください。
『「・・これが私の出した答えだ。たとえ響也が拒否しても私はお前の傍を離れるつもりはない。・・"ご隠居"が余計なことを言ってくれたからな。少し、運命というものに抗いたくなったのだ。」サトリは響也に胸を押し付けながらそう言った。』
いや、押し付ける程サトリちゃん胸大きくないじゃん・・とか考えたら、ジト目で睨まれましたすいません。
それにしても、今日のサトリの言葉は何時にもまして意味深だ。運命に抗うとはどういうことなんだ?あと、それと俺に引っ付くのに何の関係があるんだ?
"ご隠居"が、何処か気まずそうな顔をしているのが少し気になった。
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全員が朝食を食べ終わり、片付けに移ろうとした時、ピンポーンとドアベルが鳴った。そして、こちらの返事も待たずに、バン!とドアが勢いよく開かれる。
そこから現れたのは・・何故か無駄に似合うミニスカポリスのコスプレをした、水色のショートヘアーの可愛らしい女の子。その子は、晴明の姿を確認するなり、「晴明せんぱ~い!」と叫びながら晴明にハグを求めてきた。
しかし、そんな彼女の頭を非情にも叩いてハグを拒否する晴明。俺はそんな晴明に思わず声をあげてしまった。
「晴明さん!?どうしたんですか?この方は女性ですよ!?」
「響也にまでもう女好き認定されているのか俺は・・。まあ事実だが。言っておくがこいつは男だぞ?あと、こう見えて河童だ。」
「どーも!貴方とは一応初めましてっスね!オイラ、晴明先輩と"ご隠居"先輩の大学時代の後輩で河童の河村童児っス!気軽にカワちゃんって呼んでくれたら嬉しいっス!今は警視庁で巡査として働いています!今後とも宜しくっス!」
そう言うと、ビシッと敬礼を決めてみせるカワちゃん。一方、俺の方は多すぎる情報量に若干混乱していた。え、晴明と"ご隠居"の大学時代の後輩?ていうか"ご隠居"って大学生だったのか!?そして見た目は女の子だけど実は男でしかも河童で・・最後の巡査って肩書きにも驚くべきなのかもしれないけれど、前半部分で驚き過ぎた俺にはそこまで反応する余裕は残っていなかった。
途中、サトリちゃんに『「カムバーック!」』と頬をぴしっと優しく叩かれ、ようやく混乱から覚めた俺は、カワちゃんの言葉のある部分を聞き返す余裕が出てきていた。
「一応とはいったい・・?」
「ああ、やっぱそこ聞いちゃうっスか?まあ、実はオイラ響ちゃんの事件の協力してたんスよ。その時に響也さんのことも少し調べてたんで色々知ってるってワケっス。直接会うのは初めてっスけどね。」
なるほど。確かに、あの事件を調べていたなら、俺のことを知っていても可笑しくないだろう。俺はあの事件の当事者の一人だしな。
それにしても・・改めて、響はこの店で様々な人と関わりを持っていたんだなと思った。俺は、まだこの店で働いて少ししかたっていない。当然、カワちゃんのように俺がまだ知らない人も多い。噂はよく聞く魔女さんにもまだ会っていないくらいだ。
この店で働くのを決めたのは、響の代わりをしようと思ったからではない。ただ・・
「あの・・カワちゃんさん。よろしければ、響と何を話したとか、そういったことを、俺に教えてくれませんか?」
ただ、彼女がどんな人とどんな関わりを持っていたのか、それは切に知りたいと思う。晴明や"ご隠居"には、既に話は聞いてある。サトリちゃんに聞いた時は、『「お前は本当に変わった奴だな。」サトリは若干呆れながらそう言った。』と言われたが、快く話してくれた。舞さんと話した時は、俺の部屋にある仏壇、そこに立てられた響の遺影を囲んで一晩中思い出を語り明かした。
そして、カワちゃんは、俺のその要望に一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐに笑みを浮かべて明るくこう答えてくれた。
「もちろんっス!じゃあ、オイラは響ちゃんと一緒にディベートした時の思い出を語ってあげるっスよ!」
未成年の舞がいないので酒も交えながら語られた話は、時折晴明のヤジや"ご隠居"の修正も加わり、終わる頃には昼時になっていた。終わればあっという間だったが、そんな時間は俺にとってもとても心地いいものであり、サトリちゃんが首に抱きついてきているのも気にならないくらいであった。
次回、カワちゃんは何をしに店に来たのか?本人もすっかり忘れてしまっている件について。